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将来は小説家!?コミュの不定期連載 『死神』 第3話

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第3章
『絡み合う鎖』

国民の生活は日に日に、
いや、秒単位で変化していた。

これまで、偉大なる王であり畏敬の対象であった神の加護により
一部分の人々を除いて何一つ不自由の無い生活を送ることができた日々は
すでに遥かな過去の遺物となっていた。

人々はお互いに限りあるものを奪い合い、騙し合い、
そしてほんのわずかながら助け合いながら暮らしていく術を
どうしても身に着けていかなくてはならないことを思い知らされていた。

住まいを平原に持ち、走り回り、探し回ることにより
新たな糧を得られる場所にあったものたちはまだ幸運であった。

己の分をわきまえず、降りる術を持たずに高い木に登り、
そこからの風景に慣れてしまった愚か者たちが選ぶことのできる手段は
恐ろしく限られてしまったのである。


ドンドンドンドン・・・

『グレイス卿はおられるか、グレイス卿は!』

鈍い銀色のよろいを身にまとった『元』近衛兵たちが
赤茶けたレンガの塔の前に群がっている。
そのさまは、どちらかといえば砂糖に群がるアリの一群を思わせる。

『千里眼のグレイス卿!お隠れになっていいことはありませんぞ!』

上からの物言いのようでありながら、彼らの顔はあまりに余裕が無い。
すでに彼らは切羽詰っていたのである。
彼らに残された手段は、『新しい王となる神を招くこと』しかなかった。
彼らは自分の足場を自分で踏み固めたことは無かったのである。
木から下りることができないのなら、新しい木をすぐ横に作ればよい。
これは彼らの『生きる知恵』である。だれぞに咎められるようなことでは無い。

『グレイス卿!』

何十回目の力強すぎるノックの後、岩戸のように閉ざされていた扉がゆっくりと開く。
その瞬間のアリたちの安堵の表情たるや、見るに耐えないほどいやらしいものだ。

『何か?グレイス卿はお休みになられております。』
『女、俺を誰だか知っての物言いか!』
『・・・近衛兵第三連隊、隊長のノヴァ様とお見受けいたします。』

・・・ただし、元、ね。
対応する少女は心の中で小さくつぶやいた。

『知っているのなら、今すぐこちらの要望に応えよ!』
『・・・ですから、グレイス卿はお休みになられています。お応えできません。』
『おのれっ!』

騎士の節度として持つべき冷静さを遠い川岸の向こう側にまで投げつけ、
元隊長は少女の腕を荒々しくつかみ、扉の外に引きずり出す。

『こちらが下手に出れば付け上がりおって!』

ドアの外に引きずり出され、そのままバランスを失い地面に崩れ落ちる。
アリの隊長はその首にこれまた節度無く抜き放ったサーベルを当て、
奥行きの無い怒号を浴びせつける。

『女、これが最後だ。グレイス卿を呼んで参れ!』

首に当たる冷たい鉄の感触を感じながら、少女は考えていた。
・・・この人たち・・・あの低級な天使たちと何も変わらない・・・
自分が生きることしか考えない・・・こんな奴ら・・・

あわててかぶりを振り、頭の中の考えを追い出してから
改めて顔を上げる。

『グレイス卿はお休みになられています。お応えできません。』

サーベルが大きく振り上げられた瞬間、
アリの一群から悲鳴に似た叫びが発された。

『た・・・隊長!!そ、そいつは黒の魔女・・・リューネです!』

男は振り上げたサーベルをおろすこともできず、
そのままの姿で彫像のように動きを止める。

『・・・く・・・黒の魔女・・・あ、あの、東国を消し去ったという・・・』
『そ、そうです!間違いありません!!
本国を含め、あらゆる国での受け入れ拒否の指定神です!』

隊長一人を残し、それこそ蜘蛛の子を散らすように
隊員たちがその場から距離をとる。

その一方で、サーベルを振り上げたままの男は
そのままの姿で身動きすら取れない。

『あ・・・ひ・・・ひぃ・・・どうか・・・命だけは・・・』

先ほどまでその口から怒気を帯びた声が出ていたとは
にわかに信じられない。
男の声は消え入りそうなまでにか細くなり、
その表情は今この瞬間にも消えてしまう自分の命を
何とかして守ろうとしている、あまりに情けないものになっていた。

『し・・・知らなかったんです・・・どうか・・・命だけはぁ・・・』

少女の口からは、既にため息しか出なかった。
自分が御せると思ったらどこまでも尊大に、
自分が御せないと思ったとたんにこの態度。

『私は貴方の命を奪おうなどとは毛頭考えておりません。
ただ、その振り上げた剣を収めていただければ結構です。』

手と膝についた砂を振り払い、あくまで落ち着いた声で諭す。
今は、この有利な状況を利用するほうが得だと踏んだのだ。

『は・・・はい・・・申し訳ございませんでした!』

男はサーベルを納めると、それこそ脱兎のごとく逃げ出す。
彼の後姿を見たときには哀れにも彼の仲間たちの姿は既に消えていた。

はぁ・・・

これだけ遠くに離れた町で、これだけの年月が経過して、
建物の外になるべく出ないようにしていれば、
静かな、小さな幸せの薄布をまとって生活ができると思っていたのに。
まさか、こんな形で今の生活が壊れてしまうなんて・・・

・・・自分を受け入れてくださったグレイス卿に申し訳ない。
そのグレイス卿は、二度と眠りから覚めることは無いのだが。

また、新しい場所を探さなくちゃならないんだな・・・
どれぐらい身を潜めていればいいんだろう。
また、40年ぐらいたてば人の記憶は薄れるのかな・・・。

晴天の霹靂により、突然壊されてしまった生活を思うと
ただただため息しか出てこない。
まずは一度部屋に戻って、考えてみよう。

勢いよく振り向くと、思いもよらない近い距離に男が立っていた。
気配とか、そういったものはまったく感じられなかったが、
実際驚いたのはその距離では無く、その男が一度だけ見た顔だったからだ。

『・・・いつぞやの美しいお嬢さん、お久しぶり。』
『約束の通り、お茶に誘いに誘いに来たんだってサ』

『・・・配達屋さん?・・・』

(つづけ)

コメント(2)

いつの間にか三章が!!!
ようやく本編の開始といった感じですね。
ここからどう展開していくのか気になるところです。

強いて、何か上げるとすれば、
どうしてアリさんの一匹はリューネのことを知っていたか? ですかね。
一応有名人ということで似顔絵つきで指名手配みたいに『この人危険』と張り出されて知れ渡っているというのなら、可能性もある気がしますが、国が荒れている最中にアリさんにそんな情報が入ってくるのか? と疑問に思ったりするわけです。

細かなことなのであまり気にしないで下さい。
> いぎりす屋さん
いつもコメントありがとうございます(^^)

ここから、少しずつ鎖を絡めていきたいな、と
思っております。

ご指摘の内容ですが、まぁ、自分でも
この部分の表現をどのようにしようかと思っていたところで。

みんなが知っていたら、とても暮らしていけないし、
かといって誰も知らないと、少女の危機的状況を死神が救うという
自分のあまり好きではないベタな展開に(^^;;

で、『時間』と『忘却』を利用と使用と思いまして。
でも、この世界には『ポケモン図鑑』みたいなものがあって
『知っている人は知っている』という設定です。

『また40年・・・』の部分で『これまでの40年』を表現しようと。

で、この『40年』が実はこの後の鍵だったりしまして。
頭の中の思いをしっかり文章にしていきます(^^)

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