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将来は小説家!?コミュの最後の自由

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あの日から1日目。

友人が死んだらしい。

もっとも、友人という表現は正しくないかもしれない。
どこで分けるのかは明確に分からないが、正しくは『知人』だ。
なんでも、増水した川で溺れた子供を助けるために飛び込み、
子供は助かったものの彼は流れに飲まれ、息絶えたそうだ。

地方面ではあったものの、彼の偉業は新聞に取り上げられ
知人の間を渡ってついに、世間に疎い自分の耳にも入ったというわけだ。

彼についての記憶は、と問われると正直言葉に詰まってしまう。
特にコレといった印象はないのだ。
大学にいたとき、何か一言二言交わしたかもしれない。
共通した趣味もなにかあったような気がする。
しかし、彼の死を知ったときの一番最初の感想は
『へぇ、そうなんだ』だった。

ニュースで見ず知らずの人の死を知らされたのとほとんど変わらない。
その程度の感情しか浮かばなかった。
まだ経験していなから分からないが、多分、親が死んだとしても
俺は同じ感想を持つに違いない。

実は誰にも言うことができない感情なのだが、
もうひとつ、知人の死を知ったときに自分の中に浮かんだ想いがあった。

『良い死に場所を見つけたな、あいつ』

理解されないかもしれないが、俺は彼の死に様がうらやましかった。
生まれてこのかた、何度自殺を決意したか分からない。
しかし、自分は死を選ぶことができなかった。
自分の死を選ぶことすらできないのに、
『こんな世の中なんて消えてしまえばいいのに』などと
誰にも聞こえないようにつぶやいたりしていた。

満足いく死に場所を見つけるのは簡単なことではない。
ふらりと自分の死に場所に向かうことができる猫さえもがうらやましかった。

毎日の仕事、時折の休日。コレといってやり遂げようと思うこともない。
このまま、自分は自殺もせず、そんな自分に幻滅をしながら
人生を終えるのだろうか。
そう思うたびに、また自分のことがイヤになっていく。

そんな毎日が一生続くと思った今日。
家路にある、短いトンネルの壁に張られたチラシが目についた。

『死に場所を求めているあなたへ。
人が嫌がる仕事をしまくって、働いて、そして死ね!
死に場所を選ぶのはあなたの最後の自由だ。
詳細希望者は・・・・』

きれいに飾らない言葉が心に突き刺さった。
なぜだか分からないが、勝手に涙があふれてきた。

『キミにはキミにしかできない大切なことが・・・』
なんてきれいごとは、もういらないのだ。
自分に無限の可能性が無いことなんて、
イヤというほど思い知らされている。
俺は凡人でしかなく、凡人以上の死に方などできないのだ。

だから、自分のチカラのなさを素直に認めてくれる
このチラシの表現が、なぜだかとても嬉しかった。

『俺は、ここを死に場所にしよう。』

会社の名前は『株式会社 最後の自由』。
早速、チラシに書いてある電話番号に連絡し、後日面接となった。

---------------
あの日から7日目。

面接会場は考えていたよりも大盛況だった。
みな、どこかの会社員と思われるようなものたちから、
未成年とも思えるような若い女性、子連れの家族までいるという始末。
目が合うと、知らない同士でも思わず会釈をしてしまうあたりが
自分に刻み込まれた会社員としての癖だと気づかされる。

この人たちすべてが、本当に死に場所を求めているのだろうか。
皆、平凡な人生を過ごしている普通の人にしか見えない。
人生に絶望しているようにも見えなかった。

・・・そっか、俺もその中の一人なんだなぁ。

平凡な人の中に埋もれてしまう凡人だということを棚に上げて
周囲を観察していた自分が気恥ずかしかった。

会場について15分ほど。

ついに自分の番が回ってきた。
口の中がカラカラに乾いて、上唇が歯にくっついてしまう。
唇に湿り気を与えるはずの下は、ぺろりと唇の上をなでるだけで
まったく湿り気を与えなかった。
こんな緊張はひさしぶりだ。

中学校の教室ぐらいの大きさの部屋に
長机が二つ、自分が座るためと思われるイスが一つ。
奥の長机には2人の男が座っていた。
どちらも中年の様相が感じられる。

『まぁ、まずは座りなさい』

低く落ち着いた右側の男性の声に勧められ、
あいまいな返事をしながら席に着く。
背後の窓から入る西日のためか、面接官の顔ははっきりとは見えない。

『まずは、キミの希望を聞こうか。』

左側の男性が問いかける。
右側の男性の声とは違い、やや甲高い声が乾いた部屋に響く。

『・・・死に場所を、探しに。』

就職活動時代を思い出して、
いろいろと脚色した動機も考えていたのだが
正直な気持ちを吐露してみた。
もう、自分を覆い隠すような生き方をしたくないのだ。

『・・・ほう。では、キミの理想の死に場所とは?』

低い声。右側の男性の声だ。

『・・・何も考えず、・・・誰の邪魔にもならず、・・・誰の悲しみも受けず。
ただ、死ねる場所を。』

綺麗事とウソで長年覆い隠した心から
一枚一枚皮をはぐように言葉を綴る。

『・・・では、ひとり静かに自殺するということ選択肢は?』

突き刺すような甲高い声が心を包む皮を一気にむしりとる。
瞬時に、自分は言葉を返していた。

『・・・自殺という選択肢を選ぶ勇気は、自分にはありません。
死ぬ場所さえ、人に与えて欲しいという気持ちでいます。』

その返答を受け、面接官がなにやら口元を隠して話し合う。
ところどころ聞き取れる言葉と聞き取れない音が入り混じりっていたので
結局のところ自分は聞き取ろうとする無駄な努力をやめた。

『よろしい。では、当社がアナタに死に場所をあげましょう。』
『弊社の説明を簡単にいたします。詳しくは帰りに渡すパンフレットをご覧ください』

・・・説明の時間は10分ほど。
帰りに渡された会社パンフレットは、なるほど要点がしっかりとまとまったものだった。
他の人が敬遠する、命に関わる仕事をただただ続ける。
給料もあるし、食事もある。つまりは、餓死は選べない。
社会に貢献できる反面、普通の人より死ぬ確率を上げる仕事環境を
長期間維持し続けるという仕組みだ。
コレならば、前向きに自殺しているようなものだ。

死んだ後は臓器提供元となり、死体になっても貢献できる。
死後の保険金の一部は会社と福祉施設が受け取り人となり、
いわば、『捨てるところのない死』、『棺おけ要らずの死』が選べるというわけだ。

パンフレットと同時に渡されたバッチを手のひらに置き、もう一度眺めてみる。

今までの32年間、生まれてからずっと自分とともにあった自分の名前。
言い換えてみれば、この名前が自分の人生を縛り付けていたのだ。
この会社への転職を決めた今、自分はこの鎖を剥ぎ取る。
今日から自分の名称は、『D-8754531』。
もう、名前とともに過去を引きずるようなこともない。

---------------
あの日から49日目

この会社と出会ってから、明日で50日目だ。
とにかく、毎日毎日、文字通り死ぬほど働いている。
正直、よく死なないものだと我ながら少し驚いている。

今まで自分が知らなかっただけでこの世にはそれこそ地獄のような
職場環境があるのだと思い知った。

あるときは、現場一面に釘のような鋭利な金属が散乱しており、
その上を仕事道具を持ったまま往復したりしなくてはならぬときもあった。
躓いて転ぶだけであっという間に血だらけだ。
だが、人間なかなか死なないものなのだ。

あるときは、積み上げられた死体の中で依頼人の探し者をするようなことも。
あるときは、煮えたぎるような熱泉が噴出すすぐそばで
延々と岩を運び続けるような拷問のような仕事もあった。

これだけ劣悪な仕事環境を続けていれば、必ず不慮の事故に出会えるはずだ。
これだけ人が嫌がる仕事をこなし、死んだ後にはさらに臓器提供で
困っている人たちの役に立つことができる。
そうだ、50日目の明日こそは、きっと死ねるに違いない。
自分がずっと思い描いていた、理想の死に場所がそこにはあるはずなのだ。

いつもより仕事に熱が入るのは明日が50日目の節目ということもあるが、
入社のときの面接官2人が自分の仕事ぶりを見に来ていることもある。
充実した自殺への日々をすごすことができるのは彼らのおかげなのだ。
感謝の意味をこめて、今日はいつもよりも気合を入れていくつもりだ。


体中に切り傷、擦り傷を作り、ふらふらになりながらも働く男の姿を見つめながら
元面接官の2人は口元を隠しながらぼそぼそとなにやら言葉を交わしている。

『・・・あの男、なにも、死んでからもわざわざ地獄を選ばなくてもいいだろうにねぇ』
『・・・今日が行き先を決める最終日の49日目だというのに。』
『この状況になっても気づかないとは・・・』
『よほど、現世は地獄よりひどい場所とみえるな。』
『・・・まったく、ひどい現世になったものですねぇ、閻魔社長。』
『まぁ、彼は理想の「死に場所」にこうしているわけであるし、良いのではないかな・・・』

・・・明日こそは、明日こそは。
いつしか理想の死に場所に出会える、そのときまで。

明日こそは、明日こそは・・・・

コメント(5)

自分に素直に生きていないと死んでから損するよ、
ということを伝えたかったのですが、
結構、伝わっていないような気がします(^^;;

なんかこう、もっと上手く表現できるような気もしますが、
上手く表現できないからこうなったのです(T^T)
どちらかというと最後のどんでん返し。既に亡くなっていたという方に目がいって春夏さんのいうような伝えたかったことは伝わってこなかったですね。
これだけ頑張れる人なら、生きてる間も十分に幸せになれたんじゃないかっていう気もしますが。

冒頭のあの日というのがどの日を指しているのかが
はっきりしなくなっているのではないかと思いました。
主人公本人が亡くなった日という事でいいですか?
> いぎりす屋さん
ご意見、ありがとうございますo(^-^)o。

『あの日』はわざとぼかすようにしています。
はじめの部分に知人の死をいれているのは『あの日』を混同してもらうためです。

一応、葬儀の流れにそって、『初七日』『49日』をいれ、『初七日』の魂の断罪も、自然に幅広い世代が入れるように言葉を選んでみました(^^;)

『死ぬ気で頑張ってみたら、既に死んでいた』という部分に滑稽さを感じてもらえれば…嬉しいですo(^-^)o。
うまいことは、いえませんが。これを読み終わってから、俺このままでいいのかな?って 感じを強く受けました。
>卜部 山猫さん
コメントありがとうございますo(^-^)o
自分の稚拙な文章を最後まで読んで下さったこと、
感想をもって下さったこと、
もうそれだけで感謝感謝です(>_<)

『もくもくと目的も目標もない作業を続け、
その状況から逃げられない』
というのが自分の『地獄観』なので、こんな感じになっちゃいました。
この世には逃げ場所がたくさんありますし、一部の人々が思うほど地獄じゃないと思うんですよね、自分は(^_^;)

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