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あなたコミュのくずきり

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あれは去年の
或る初夏のひとときのこと
細く長い銀の糸のように
そぼ降る雨の雫が
わたしの胸の奥底の
鬱蒼と翳る澱みに
絡み憑いて離れなかった
あの日ことです


そう
あの紫陽花で有名な
古寺へと続く小径で
初めてあなたを
見かけたときのことでした


わたしは
なぜか名前さえも知らない
あなたの面影に
雨に濡れて噎ぶように匂いたつ
初夏の新緑の香りを感じとったのです


あなたは
同じ歳くらいの女性と一緒で
親しげに笑みを交わしながら
古都の小径の傍らに
ひっそりと佇む東屋のような
鄙びた茶屋へと入りましたね


わたしは
うたかたの夢のつづきを見るように
自然と後を追ってしまい
その古びた茶屋の中へと
惹き込まれて行ったのでした


昼下がりの物憂い午後の店内は
同じように寂れているかのように
ひんやりとした雰囲気を醸し出していました


あなたは
お連れの女性の方とともに
外の見える窓際に席をとり
もの静かに座っていましたね


そして
黒蜜の艶やかな色に彩られた
羽衣のように淡く薄い
くずきりを頼んでいました


わたしは
何かに誘われるように
いつのまにか椅子ひとつ隔てた隣りの席に
背中合わせに座ってしまっていたのです


なぜ
そんな行動に出てしまったのか
わたしには判っていました


それは
一年前の同じ日に同じこの場所で
あなたと同じような馨りの女性と一緒に
この窓辺の席に座っていたからなのです


そう
今はもう逢うことさえ
叶わなくなってしまった
懐かしい大切な人の
俤を辿っていたのですから


あのとき食べた
透けるように淡く薄いくずきりの味を
もう一度だけ想いだしたくて


いいえ
本当は忘れられない
懐かしい想い出と俤に浸りたくて
ただそれだけのために
この場所に来たんです






前略 泰子さま

突然のお便り失礼致します
ご承知のとおりわたしの中で
無くしてしまった物は大きい訳で

でも
どうしても忘れられなかった想い出と俤を
夢ではなくて本当の現実のものとして
蘇らせてくれたのは
あなただったことは間違いありません

あの時
わたしの不注意で割ってしまった
くずきりの涼やかな
ガラスの器から飛び散った
艶やかでも絡み憑くように
黒々とした黒蜜の撥ねた痕を
羽衣のように柔らかい笑みで
静かに許してくれたあの優しい微笑みに
どうしても
もう一度お逢いしたくて
こんな恥ずかしげもなく無骨な手紙を
書き連ねてしまいました

どうかお心に障るようであれば
このまま破り捨てて頂きますよう
お願い致します

ただ
いま一度だけ出逢いの神様がいて
そして想い叶うものであるならば

そう
もう一度だけあの古都での
くずきりの味をあなたとともに
楽しみたいと思ったのです
重ね重ねの失礼を承知でのお願いを
お許しください

草々

コメント(21)

あれは、微かに汗ばむ季節の頃でしたか。
簾越しに夕陽を眺めながら団扇で扇いでいました。
うなじの後れ毛を揺るがせて涼を楽しんでいました。
時折来る風は遠くの草いきれを予感させるかのような
翠色の鼻にくすぐったいものでした。

かちゃかちゃとペダルを漕ぐ自転車の音
キーっという几帳面な音と共にそれは止まり
うちの郵便受けに一通の手紙を残して立ち去っていきました。

あら。
どなたからかしら・・・。
私は封筒の裏の墨字で書かれている文字を眺めていました。
初夏緑色の涼やかさを思いださせる手漉き和紙の封筒。
封を切るとそこから零れ落ちた一枚の紫陽花の花弁。
ふわりと柔らかに折りたたまれていた数葉の便箋。
それは過去への鍵だったのでしょうか。
時空が交差し逆転し・・・。
私は気がつくとあの古寺の小道に佇んでおりました。

そう、今もあの時も私は過去に生きていたのですよ。
現身は蜉蝣のように儚いものだったのかもしれません。
あの頃も目の前の紫陽花を眺めながら心は遠くを見つめていましたから。
紫陽花の花弁の幽遠な鮮やかさに想いを映しておりました。
現実を意識しながら眼だけは過去を見つめていたのです。

そんな私をご覧になられていたのですね。
あの時私と過去の残像を感じておられたのですね。
それは・・
思い出したことは貴方にとってよいことでしたか。
苦しみはしませんでしたか。
私は過去と現在を繋ぐすべを存じ上げておりますから
貴方を巻き込んだ・・
いいえ呼び寄せてしまったことは確かなことなのです。


葛きりの透明さから零れ落ちる光の小片は
甘美で遠い昔を思い起こさせる媚薬いりなのか
心と心が交わり絡み合うその切なげな惑乱を
感じさせ、思い出させてくれたでしょう。
あれは私が過去の募りし想いを降り注いだからなのです。
前略 宗秀さま

お便りありがとうございました。
夢は夢のままで留めておいたほうがいいのかしら・・
そう思って貴方から頂いた連絡先を桐の小箱の中にしまっておいた私でした。

葛きりの件、今でも鮮明に覚えておりますよ。

器が音もなく床へと落ちていき
滑り落ちるかのような曲線を描いた葛きりのことですね。
慌ててお持ちのハンカチで拭いてくださいましたわね。
冷たくか細い私の指に貴方の温かい指が触れた瞬間
お互いに電気が走ったように引っ込めましたよね。
そう。
あの時えもいわれぬ衝撃を受けたのですよ。
貴方の横顔が・・・。

私が過去に戻っては見出していたあの方の横顔にそっくりでしたから。
俤・・・そう、貴方も感じていらしたのですね。
思い出は・・そう現実と繋がった時にそれ以上の想いを引き起こすということを。

長い間躊躇いながら過ごしてまいりました。
あれは夢だったのかしらと想ってみたり
これが現実なんだと感じようとしてみたり
謐もり翳らせ思いを閉じ込めようとしたのですが。

無駄なことでした。
想いは閉じ込められない。

そんな矢先でした。
貴方からの封書が届いたのは。
貴方の名前から眼が離せませんでした。
夢で貴方を呼び寄せてしまったのでしょうか。

貴方は貴方でありながら
貴方ではなく
私は私でありながら
私ではなく
それですら愛しいことだと思って頂けるのでしたら
お会い致しましょうね。

過去の優しい亡霊たちへお別れを告げるために、ね・・・。


草々
桜の蕾も綻び始めるかしらと
春の予感を思い浮かべるほど
暖かい日々が続いていました


それは
そんなある日の昼下がりの
思いもよらない突然のことでした


仄かな木漏れ陽の降り注ぐさなか
急にどこからともなく厚い雲が
あっと云う間に空を蓋い尽してしまい
見るまもなく白く冷たい雫の結晶を
ちらちらと止めどもなく降らせたのです


ゆめ……
そう
それはまるで
夢を見ているかのような
不思議な情景でした


そしてわたしは
その夢のような雪景色を
信じられないと思いながらも
窓辺に置かれた文机の前で
ぼんやりと眺めていました


その時です
玄関の呼び鈴が幽かに鳴ったのは
それはもうひとつの夢のような出来事の
本当の始まりを予感させる
そんな知らせだったのかもしれません
玄関に出てみると一葉の手紙が届いていました
それは紫陽花色を薄めたような淡紅色の便りでした
まさかあなたからのご返事だとは
思っても見なかったものですから
ただ驚いてばかりいるわたしに配達人のかたの
怪訝な顔が妙に可笑しくて
わたしは思わず微笑んでしまったのでした


先日は突然のお便り失礼致しました
どうしてあんな手紙を綴ってしまったのか
いまでも夢の中にさ迷っているようです


そう
本当はあの古都の茶屋での失礼を
お詫びしようと書き連ねていたのに
いつのまにかあなたへの想いを綴っていました


なぜでしょう
今でもあの時のことは霞がかかったように
うまく思い出すことができません
ただひとつだけ憶えていることは
あのとき綴っていた手紙の筆先を
窓辺の文机に射し込んでいた
蒼白い月灯かりが淡く濡らしていたことだけが
証しとしての唯一の情景でした


でもそれはきっと幻だったのでしょう
だって
わたしがわたしであって
わたしでないことと
あなたがあなたであって
あなたでないことを
本当は愛おしく想っていたからなのです


だから……
だからいまはあなたのもとへ
届けたい気持ちがいっぱいあります
わたしの想いの丈を紫陽花の花弁に託し
ふたたびあなたのもとへと
お届けにあがります
「御覧なさいよ、雪が降っているわ」
誰の声だったか、その声のする方を振り向くと
中庭に牡丹雪が華のように舞っていました。
つわぶきの大きな葉に遠慮がちに降りていました。
風花散るように斜めに吹きつけられた雪は、
窓ガラスをまるでノックしているかのようでした。

私は暫く雪の降るさまを眺めておりましたが、
香の切れたことを思い出し、外へ買いに出る支度をしようと奥の間に入りました。
文机の上にある桐の小箱が静かに置いてあるだけの部屋。
人気を感じさせない閑寂な温度のない部屋。
ひんやりとした部屋に入るとぞくっとしました。
そしてなにやらえもいわれぬ思いがしたのです。
どうしたのでしょう。
誰かがすっと横切っていったような気がしたのです。
音もなく。
形もなく。
強いて言えばそれは「影」みたいなものだったのかもしれません。
おかしなことがあるものね。
自分の感覚を訝しみながら苦笑したその時・・・。

ないことに気がついたのです。

桐の小箱が・・・。

ないわ・・・、さっきまであったのに。

慌ててそこいらを見渡しましたが見つかりませんでした。
あの中にはあの人からの手紙が、連絡先が入っているのよ・・・。
胸騒ぎがして文机の裏、戸棚の陰・・・探しましたがどこにもありません。
そう・・。
それは音もなくすーっと消え去ってしまったのです。

これは一体どうしたことなのでしょうか。
買い物に出かけることさえ忘れて私は呆然とそこに佇んでいました。
連絡先・・・。
覚えているのはあの優しく染め上げられていた手漉き和紙の触り心地のみで、あとはどんなに思い出そうとしても記憶に靄がかかったようでどうしても思い出せないのです。
脳裏にまざまざと浮かび上がる墨染めの文字。
しかしその宛名がどこを指し示しているのかがどうしても思い出せないのです。


これは夢の中なのかしら。
半分夢見て半分目覚めているのかしら。

しかし・・・。
夢だと思うには、あの手紙から感じ取れた貴方の命の鼓動が指に焼きつきすぎているのです・・・。
古寺のあの場面での貴方の横顔の残像が心に蘇ってきてしまいすぎているのです・・・。

哀しくなって文机に顔を伏せて暫く目を閉じていました。
貴方の顔を思い出しながら。
去年のことを思い返していました。
柔らかい思い出に包まれながらいつしか微睡んでいたのでしょう。

気がつくと、そこは一軒の茶店の中でした。
誰もいない茶店の中に私は一人っきりで座っておりました。
よく考えてみるとそれは確かに不思議な光景ではあったのですが、私はその場にいることになんの疑問も抱きませんでした。

そこへ店の人らしき女性が私のほうへ歩いてこられました。
「お預かりしているのですが」
そういって私に一枚の紙片を渡そうとするのです。
私は、小さく会釈しながらそれを受け取りました。
見るとそれは乗車券でした。
行き先は掠れてよく読めなかったのですが、ひとつだけ読めた文字がありました。

「月屑色の船」

その下には「夢の流れ初めの場所からお乗りください」
と書かれてありました。

夢の流れ初め。
それは一体どこなのでしょうか。
仮にそこに行ったとして船に乗ってどこへ行くのでしょうか。
ふっと気がつくと
わたしは月灯かりを浴びながら
この窓辺の文机に臥せて
睡っていました

あたりはまだ闇に包まれたままで
ただ青白い月灯かりだけが
降りそそいでいるばかりでした

長い長い夢を見ていたのでしょうか
部屋の中の雰囲気は同じなのですが
何かが違っているように思えました
それが何なのか……
わたしは暫く気づきませんでした

箱……?
文机の片隅に見憶えのない桐の箱が
月灯かりを浴びてぼんやりと見えました
これは一体何の箱なのだろうと
わたしは暫くのあいだ眺めていました

ほどへてそっとその桐の箱に触れると
周りの風景が歪んだように色褪せてしまい
一瞬なにが起こったのか判らぬままに
わたしは一軒の茶屋の中に佇んでいました

「お待ち合わせですか?」
店の人らしき女性の方が
わたしに問いかけてきました
「ええ……」
突然のことにわたしは我を忘れて
そう答えてしまいました

でも咄嗟に思い直して
「いえ…あのこれを……これを今日
最初にこの店を訪れた方に渡して頂けますか」
と言って一枚の紙片を差し出していました
すべてを心得たように店の女性の方は
黙って受け取り店の奥へと消えて行きました




月屑色の船
夢の流れ初めの場所からお乗りください




そう書かれた淡い薄紅色の紙片

それは……

そう
それは先ほどの深い睡りの中で
わたしがあなたに宛てて書き連ねていた
一編の言の葉綴りだったはずです
でもなぜ……

うたかたの夢が
うつつに変わったように
まどろむわたしの意識はいま
いったいどこを
彷徨っているのでしょうか……
どこへゆけばいいのでしょうか
わたしは……


まだ夢の中なのか
現実の中にいるのか
いまこの瞬間も
判らないのです


あなたはいま
どこにいらっしゃるのでしょうか
あの古都の茶屋で逢って以来
かたときもあなたのことを
想い浮かべない日はありませんでした
どこへゆけばあなたに逢えるのでしょう
そんなことを日々想い耽けっているうちに
わたしは夢の道行きで
幾通もの便りを書き溜めていました


そう
あの月屑色の船の乗船券も
わたしの想いの丈が結晶した
そのひとつの証しだったのです
夢の旅路へのいざない切符
忘れられない想いの誘い水


あの夢の中で
ふたたび訪れた古都の茶屋
なぜかあなたが必ず訪れて
きっとあの紙片を受け取って下さると
そんな感じがして止まなかったのです


きっと……
そう
きっと必ずいらして下さいますよね
あの
夢の流れ初めの場所へと
いつまでもお待ち申し上げています
あなたにふたたび逢えるまで……
誰かに呼ばれたような気がして
私はふと顔をあげました。

「あら、いつの間に眠ってしまっていたのかしら」

誰もいない部屋で知らず私は微睡んでいたのでしょう。
誰もいない・・はずなのですが、
何故かしら甘く温かい空気が流れていて
私は誰かに包まれて眠った後のような
そんな和らいだ気持ちになっていました。

カタリ。
障子が微かに動いたような気がしました。
いいえ。
実際音は聞こえなかったのです。
強いて言えば誰かの気配を感じたのかもしれません。
私は白い障子の隙間に何かが差し入れられているのを見つけました。
そっと引き抜くとそれは小さな木の葉でした。
枯葉でした。
玉虫色の光沢のある枯葉でした。
「風に乗ってやってきたのね」
葉の軸を摘みながら枯れた葉脈を眺めました。
昔は脈々とその息吹を葉に伝えていたのに
今は死に絶えてその面影を残すのみとなってしまったのね・・・。

そのとき突然眩暈がして気が遠くなりかけました。
天と地が逆転し
過去と未来が交差する

そう・・
あの時間に体が、いえそれはきっと心が飛んでいったのでしょう。
気がつくと緑葉生い繁る季節になっていました。
眩しいくらいの日差しが葉の隙間から零れていました。
ヒヨドリの声が遠くで聞こえていました。

「ずっと探していたんだ、君を」
少し弾ませた息遣いをさせながら私に囁きかけてくれた貴方の表情は見えず、髪の沈香の香りだけが私には感じ取れました。

「待っていてももう現れないと思っていた。あなたのような人は。いや・・・あなたなんだ、あなたを待っていたんだ。」
溶けゆくような感覚を味わいながら私は夢の中を彷徨っているのかとも思いました。

横を向くと背の低い緑草が規則的に揺れているのが目に飛び込んできました。
いえ揺れているのは私の体だったのでしょうか。

不意に貴方の私を抱きしめた腕に強い力が加わり、それは大きなため息と共に緩んでいきました。
「あなたにあげよう」
渡してくださったのは、月の涙でした。
「呑んでしまうといい」
そう勧められるままに私は一口呑み込みました。
体が火照るのを感じました。
体の中に蟲がいて、
あたかもそれがざわめくかのようでした。
やはり夢を見ているのでしょうか
ここは……

風薫る新緑の木々
鳥のさえずりの調べ
降そそぐ木漏れ陽の煌き

そうここは
夢の流れ初めの場所
わたしが願って止まなかった
逢瀬の標の隠れ里

そこに佇んでいるのは
あなた?
本当にあなたなのですか……

やっとお逢いできたのですね
もう来て頂けないかと思っていました
あのそぼ降る霧雨の
紫陽花の花咲く古都の小径から
ずっとずっとお待ちしておりました

溢れる想いのすべてを
いまこの腕の中で確かめるように
そっとあなたの温もりを感じる
抱きしめながら……

もう待たなくてもいいんだね
もう待たなくていいんだよ
溢れ湧く涙の雫
月の雫のように頬を伝う
そっとくちづけを寄せる
あなた
やっとお逢いできましたね

もう夢でもうつつでも
かまわないのです
こうしてあなたと
ふたたび出逢えたのですかから


あなた
愛しき人
あなた
私が夢から醒めると大きなため息をつくようになったのは、貴方がいらっしゃるようになってからです。

心逸る思いで私は早くに床につくようになりました。
早く貴方にお逢いしたいから。
眠れぬ思いを抱きながら
早く眠ろうと心はもう夢の中でした。

夢はいつだって短いんですもの。
貴方とお逢いして少しの語らいと少しの抱擁。
途切れがちな言葉に思いを込めて
触れる肌の暖かさに思いを秘めて
すぐに夢の終わりの警笛が遠くで聞こえてきてしまいます。

もう少し一緒にいたいの。
そんなワガママが貴方に罪悪感と
悔恨を募らせるのがわかっていながら
呟いてしまうのです。


しかし夢の中でこうしてお逢いできるだけでも
幸せなのでしょうね。

時間が、人の縁が捩れ歪められている間は・・・

現実と過去の交差の間のこの瞬間・・・
夢で・・・
お逢いするしかないのでしょうね。

ねぇ、貴方・・・。
泣いているの?
ねぇ
あなた

夢の中での儚い逢瀬

それは
うつつへの架け橋
過去から現在へ
現在から未来へとつづく
旅の道標

夢で逢えたのなら
きっとその先には
うつつへの道が
つづいているはずですよ

そう願って
わたしは毎夜
夢の中でその道筋を
ひとつひとつの言の葉を紡いで
繋ぎ合わせているのです

だからあなたも
その未来へとつづく
希望の道筋を
ともに紡ぎ合せて
歩んでいってくださいね

いつの日にか
本当にお逢することが
できるものだと
わたしも信じて
歩んでいきます
あなたとともに

だからね
もう涙はふいて
その涙は
いつかお逢いした
そのときまで
あなたのころのうちに
大切にしまっておいて


あなた……
普段は気のままに逢えぬ切なさを想いながら
こうやって言葉の一つ一つを集めているんです

あなたに逢っている時その瞬時の時間に思うこと
それはこの先いつ逢えるのか、もはやこれでお仕舞なのかと
責め揺らぐ気持ちなのです。

永遠はないんだよ。
だから今この時間を大切にしなくちゃね。
あらゆるものはすべて流れていくのだから・・・。
永遠なんてきっとないのでしょう。

君と一緒にいたいんだよ。
心は君の傍にあるんだよ。
そういいながら愛しそうに私を見つめてくれた瞳
その黒い瞳が憂いに満ちて目をふせることのないよう
それを信じているふりをしながらにっこり微笑む。

人の心には永遠がない。
だからせめて永遠が続くような努力を。
だからせめて真実と思いたくなるような言の葉を。
それらを紡いでいく努力が必要なのかもしれません。

私が驕った罪で天はあなたと引き離し考える「場」をお与え下さったのでしょう。
あなたと離れて暮らしている意味。
それを気がつかせて下さるために離させてしまわれたのでしょう。


あなたは私と一緒にくらしたいですか?
あなたは私の傍にいたいですか?


ねぇ??
今こうして離れている意味をあなたはどう捉えていますか?


何か意味があると考えないと辛すぎるから・・・。
カタ……
小さな物音で
わたしはハッと気がつきました

風が舞うように窓を叩くその音で
わたしは目醒めたのでした
また睡ってしまっていたのかしら

先ほどまでこの文机を照らしていた
蒼白い月灯かりも雲に覆われ
今にも零れ落ちそうな雨の香りが
辺り一面にあまねいているばかりで
何も見えない暗闇の中に
わたしはひとり耽っていました

また夢だったのか……
そう呟いて手元の行灯に
灯かりを燈しました
仄かな灯かりを頼りに
辺りを見回すと
先ほどまであったはずの
桐の小箱が見あたりませんでした

帰っていってしまったのか
そうこころのなかで呟いて
先ほどまでのあなたとの会話に
想いを巡らせていました

意味……
そうあなたは囁いていた
今こうして離れている意味

なぜだろう
なぜ離れてしまっているのだろう

わたしはその意味と云う言葉に
強い絆を感じていました

いつもあなたと一緒に
あなたのそばにいたい
その気持ちの高鳴りは
日に日に溢れているのです
なのにどうして……

それは前世からの業
ただ運命の赴くままに
流転を繰り返しながら
夢とうつつの狭間を
彷徨いつづけているのでしょうか

あなたはそれが
あなた自身の罪だと言っていた
ならばわたしもその罪に囚われ
そしてあなたとともに
その業を背負って生きましょう

それですべてが
許されるのであるならば
そのときにこそ本当の答えが
見つかるのかも知しれません




こころの片隅に小さな蟹が棲んでいて
うまく言葉を紡ぐことができません……
夢の流れ初めは一体どこにあるのでしょうか
それさえわかれば・・・。
そんな虚しさを引きずってすごしております。
場所が二転三転する出口の見当たらぬ迷宮のように
時には紫陽花茶屋であったり
時には緑生い繁りし森であったり
夢の流れの成すがまま
彷徨っていますから。

それは私の心の揺らぎだとお考え下さらないでね
これは私の念の強弱故であるともお考えくださるな・・・

澪つくしても逢いたいと願っているのですから。
梅が馨り
杏の花が咲き
薄紅色の桜が舞い散り
綾目の彩が今まさに
萌え始めています


そうして
日々季節はうつろい
めぐりめぐって
またあの
夢の流れ初めの場所へと
行き着くのでしょうか


お元気ですか?
お変りございませんでしょうか…


早いものですね
初めてあなたと出逢った
あの季節が巡ってきました


むらさき色に萌える花は
まだその秘めたる美しさを
露わにしていませんが
わたしの想いはすでに
あの頃の墨絵のような
苔むした一枚の絵の中へと
旅立っているのですよ


あの時の別れ間際に
あなたが手渡してくれた
桐の小箱をわたしはいま
月夜の淡い灯かりに照らして
ひとり閑かに眺めています


そしてその中には
一枚の絵はがきが
入っているのです


そう
あの後しばらくして
あなたが贈ってくれた
古都の参道に満開に咲いた
むらさき色の絵はがきが…
紫陽花
むらさきに萌ゆるころ
細く長い雨の糸を紡いで
あなたと歩いた古都の小径が
ついこの間の事のように
思い浮かびます


小さな蛇の目一本に
二人で肩を寄せ合いながら
萌え盛るむらさきに
ぼんやりと
目を落としていましたね


あなたは肩が濡れるといい
小さな傘を
よりわたしの方へと移しながら
男にしては色白で華奢な
その掌で
肩に絡まる五月雨を
そっと払ってくれましたね


その時の
あなたの優しい温もりが
今でもわたしのこの肩に
幽かに残っています
ふふ……
おかしいでしょ


いまでもあなたに頂いた
桐の小箱に睡る一枚の絵はがきを
想い起してはこうして眺めているの


淋しいからとは
決して云わない
だってこの絵はがきの中には
あなたの想いの丈が
宿っているのですもの


いつかまた
あの
夢の流れ初めの場所で
待ち続けていれば
必ずきっとお逢い出来る
そんな予感がしているのですもの


そしてあなたもまた
つがいでそろえた
あの桐の小箱の中に
今でもわたしの絵はがきを
しまっておいてくれているかしら


月と雨の滲み逢った
あの便りを……
あなたは月 天に煌めく希望
わたしは雨 地にそぼ降る夢


忘れられた前世と
それぞれの過去に生き
つむぎあう来世と
それぞれの未来に願う


銀木犀にそぼ降る雨と
湖面にたゆたう朧の月


いつの日か
すべての時を
優しみにかえて


出逢えることを歓びに
こころの想いを永遠に


遥か彼方に煌めく
蒼紫紺の夜空に
祈りを捧げて
想い叶うものならば


いつまでも
いつまでも
ああ……
もうこんなに夜も
更けてしまった


あなたを想って
ひとり月灯かりのもと
耽っていると
時の経つのも
忘れてしまいます


では
最後にまた
夢で逢えるように
杏の樹の下に宿る
眠り姫へよせて……






明日があるから
信じたいのです
いつか必ず
夜が明けることを

時が流れるから
消えてゆくのです
心の底の哀しみが

想っているから
忘れないのです
大好きだった人のことは

わたしは月に願いを託し
いつかきっとあなたのもとへ
微笑みが戻ってくるようにと

想いの丈を筆に代え
綴りつづけることが
あなたの支えに
なるのなら……





おやすみなさい
時機が来ないと見えるものも見えないのでしょうか


あなたがくれた桐の箱を今懐かしみながら眺めています


感情が枯れ果て、希望が諦念と変わってしまったのでしょうか


ただそれでも静かに、ここにある桐の箱を眺めています


懐かしさの残る箱をそっと膝の上に載せながらその重さを感じています


懐かしさは感謝を呼ぶのでしょうね


感謝は時に自分の情の深さを思い出させてはくれますが、それを全て片付けてくれるのでありがたいです


変わりゆくもののなかで、変わらないものがあるということを教えてくれた・・桐の箱の中の思い出


ありがとう


そう呟きながら私は変わりゆく自分の中に変わらぬ部分を見出し安堵しながら


それを置き去りにする勇気がわいてくる


ありがとう







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