とにかく怖い話。コミュの童話：ふしぎの泉の女神さま

あるはれた日のこと。できる夫は森にお散歩にでかけました。

しばらく森の中を歩いていると、泉のそばにふたりの人かげが見えました。

ふたりは泉の中をのぞきこんで、なにやらおしゃべりをしています。

できる夫が声をかけると、ふたりはこちらをふりむき、にっこり笑って手まねきをしました。

できる夫はふたりに、泉のそばで何をしているのか、とたずねました。

それを聞いて小太りのやる夫が、泉を指さしてこたえました。

この泉はふしぎの泉なんだ、と。

そう言われても、できる夫には普通の泉にしか見えません。

できる夫が首をかしげていると、やる夫が自分のかぶっていた麦わら帽子を手にとって、

ぽーい、と泉に投げこみました。

すると、ぶくぶくぶく、と水が泡立って、ざばーっと泉の中から女神さまがあらわれました。

女神さまは、頭にやる夫の帽子をかぶり、右手には銀の帽子を、左手には金の帽子を持っていました。

女神さまはやさしい声でやる夫に聞きました。

あなたが落とした帽子は、金の帽子ですか、銀の帽子ですか、それともこの麦わら帽子ですか。

やる夫はにっこり笑って、麦わら帽子です、とこたえました。

女神さまはやさしく微笑むと、正直者にはぜんぶあげましょう、と言って、やる夫の頭にみっつの帽子をかぶせてくれました。

帽子をもらったやる夫は大喜び。それを見ていたできる夫は、とてもびっくりしましたが、すこしうらやましくなりました。

すると、となりで見ていたのっぽのやらない夫が、自分のつけていた首飾りをはずすと、
ぽーい、と泉に投げこみました。

また、ぶくぶくぶくと水が泡立って、ざぱーっと女神さまがあらわれました。

女神様は、首にやらない夫の首飾りをつけ、右手には銀の首飾りを、左手には金の首飾りを持っていました。

女神さまはやさしい声でやらない夫に聞きました。

あなたが落とした首飾りは、金の首飾りですか、銀の首飾りですか、それともこの銅の首飾りですか。

やらない夫はにっこり笑って、銅の首飾りです、とこたえました。

女神さまはやさしく微笑むと、正直者にはぜんぶあげましょう、と言って、やらない夫の首にみっつの首飾りをかけてくれました。

首飾りをもらったやらない夫は大喜び。それを見ていたできる夫は、ますますうらやましくなりました。

でも、できる夫は帽子も首飾りも持っていません。なにか投げこむものはないかなぁ、と考えていると。

やる夫とやらない夫が、にっこり笑って、泉のそばを指さしました。

見るとそこには、大きな岩がありました。

岩は、下の方が黒く、できる夫と同じくらいの大きさがありました。

なるほど、と思ったできる夫は、よいしょよいしょ、と岩を押して、どぼーんと泉の中に落としました。

すると、ぶくぶくぶくと水が泡立って、ざぱーっと女神さまがあらわれました。

女神様は、頭に大きな岩をのせ、右手には大きな銀のかたまりを、左手には大きな金のかたまりを持っていました。

女神さまはやさしい声でできる夫に聞きました。

あなたが落としたものは、金のかたまりですか、銀のかたまりですか、それともこの岩ですか。

できる夫はにっこり笑って、その大きな岩です、とこたえました。

女神さまはやさしく微笑むと、正直者にはぜんぶあげましょう、と言って。

できる夫の頭の上から、大きなみっつのかたまりを落としました。

ずん、ごきごきごき、ばきっ、
めきゃめきゃごりごりごり、
ばりっ、しゅーぶしゅーぶしゅー、
ぶちぶちぶち、ぐちゅぐちゅ、
どろどろどろ、ぶちゅ、ずしん。

できる夫は、大きな岩に潰されて、頭蓋骨は割れ、背骨が砕け、肉は裂け、赤黒い血が噴き出し、髄液と脂肪は飛び散り、もはや原型をとどめることなく、岩の下敷きになってしまいました。

それを見ていた、やる夫とやらない夫は、にっこり笑って、底が血で黒くそまった岩を、泉のそばに押し戻すと。

大きな金のかたまりと、大きな銀のかたまりをかついで、笑いながら大喜びで村に帰りました。

ふたりは、ケタケタケタと嗤いながら、大喜びで村に帰りました。