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2024年02月04日19:17

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【ブックレビュー】目的への抵抗

目的への抵抗
シリーズ哲学講和
國分功一郎 講和・著
新潮新書


 「暇と退屈の倫理学」
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1982581716&owner_id=29675278
の著者が、コロナ禍において行った2回の講話の書籍化です。1回目は高校生・大学生・大学院生を対象としてオンラインで、2回目は大学生を対象として対面で行われました。どちらでも質疑応答に丁寧に答えて、著者自身が新たな気付きを得る等、とても有意義な講話だったように見受けられます。


 第一回では、哲学とはどんな営みなのか簡単に説明した後、2020年に問題となった、ジョルジョ・アガンベンの寄稿を紹介して話を広げていきます。コロナウイルスの拡大の中で、人々が自由を自発的に手放して権力に従属する状態を批判したという内容で、生存のみに価値がある、(葬儀のような)死者の権利が奪われている、移動の自由が制限されている、といった主張です。複数回に及ぶアガンベンの主張は世界中から非難を浴びました。哲学者は社会の虻としてチクリと刺すのが役割だというソクラテスの言葉を引いて、アガンベンを(発言に同意するしないとは別に)擁護しつつ、なぜそれらの自由が大切なのか、について歴史を追って説明していきます。特に、行政や独裁者による支配に対しての注意が大切という主張は、ナチスドイツを経験したヨーロッパでは必要かもしれません。私は、日本においても、行政権が立法権を超える(P72)ケースが、コロナ禍以外でも起きている印象を持っています。立法権の人達がサボり過ぎという面もありますが。
アガンベンの寄稿は一部が月刊現代思想2020年5月号に掲載されていましたので私も読んだはずですが、あまり印象に残っていませんでした。というか、続くジジェクにイラっとしていたみたいです(笑)。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1975635711&owner_id=29675278

 ヨーロッパ社会においては、戦争や独裁に抗って勝ち取った自由や民主主義が感染症によって脅かされて、アガンベンの警告は社会の虻たる哲学者として正当な物とも言えますが、仮にパンデミックが現在のように収束に向かわず、社会が崩壊するような危機を迎えていたとしたら、アガンベンが人類の敵と見なされる危険な物でした。ある意味、哲学と哲学者の役割を若い人に知ってもらうには良い題材だったかもしれません。その様子は質疑応答にも現れています。


 第二部は東京大学での講義日程の最後に講話という形で行われました。対象が東大生という事もあり(あとたぶん、ほとんどの受講生が「暇と退屈の倫理学」を始め、関連の書物を既読だと思います)、第一部より高度な内容となっています。消費と資本主義、目的と手段、官僚制、といったテーマで、本書のタイトルである、「目的への抵抗」を論じています。


・・・・・
 まず大前提として、アーレントがここで考えようとしているのは、政治における自由であり、そして政治における自由は、意思の自由の問題とは関係がないということです。(中略)人間がこの世界で生きているとは、必ず複数の他者とともに生きているということであり、複数の他者とともに生きているとはそこに広い意味でも政治があるということです。(後略)
・・・・・(P176〜)


・・・・・
 目的のために手段や犠牲を正当化するという論理から離れることができる限りで、人間は自由である。人間の自由は、必要を超え出たり、目的からはみ出たりすることを求める。その意味で、人間の自由は広い意味での贅沢と不可分だと言ってもよいかもしれません。そこに人間が人間らしく生きる喜びと楽しみがあるのだと思います。
・・・・・(P195〜)


 コロナ禍において、人間の大切な数々の権利を放棄する危険性を、アガンベンは指摘しました。私自身は同意できない指摘(生きてるだけで儲けもの、というケースはあります)です。アガンベンの心配に反し、不自由なロックダウンの生活の中でも、ヨーロッパの人々は、ささやかな贅沢を探し(バルコニーでオペラを唄う人達は格好良かったです)、危機を乗り越えたように見えます。そういった強かさもまた人間が勝ち取ってきた力ではないでしょうか。


 しかし、文字になっていて読めばなんとか理解できますが、この内容を口頭で聞いて頭にスラスラと入っていき理解する、というのは大変かもです。東大生はもちろん、第一部の高校生もすごいですね。

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