青年は三日に一度決まったように八百屋にこんにゃくを買いに来た。
恥ずかしそうに顔を伏せて「こんにゃくを一つ下さい」という青年に八百屋の女将は何時しか好意を持ち始めた。
「あの青年は決まってこんにゃくを買いに来るが、こんにゃくをどうするのだろうか?」
「見たところ痩せた大人しそうな好青年だし、きっと苦学生に違いない」
「そうか、うちのこんにゃくは新鮮で美味しいから、きっと3日に一度こんにゃくを刺身にして、ふぐ刺しを真似て食べているに違いない」
女将はいつの間にかそう信じて疑わなくなった。
ある時女将はいいことを思いついた。
「うちのこんにゃくはそのまましょうゆをかけて食べても美味いけど、飛び切り辛い辛子をつけて食べたら味が引き立って格別に美味くなる。そうだ、今度来た時には外からは分からないように飛び切りの辛子をこんにゃくの中に入れてあげよう。きっと喜ぶに違いない。」
次の日また青年が買いに来て、目をそらして「こんにゃくを下さい」と言った。
女将は「はいはい、今日のこんにゃくは格別に新鮮ですよ!」
といって、昨晩辛子をたっぷり隠込んたこんにゃくを手渡した。
「きっとあの青年は辛子の入ったこんにゃくのおいしさに驚き、舌鼓を打って喜んだに違いない」
その夜の女将は、よいことをした満足感と青年の喜ぶ顔が目に浮かんで、うれしくて満足に寝られなかった。
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翌朝早くその青年が店にやってきた。
女将は「おっ、来た来た、早いな!」と嬉しそうな顔で青年を出迎えると、青年は、
「このくそババアめ、いったい何てことををしてくれたんだ!」
としかめっ面で苦しそうな顔をして股間を抑えながら怒鳴った。
女将は「えっ!」と驚き、何が何だか分からなくて唖然とした。
付き添いのもう一人の青年が静かに話した。
「彼は美術科の学生で卒業作品にこんにゃくアートといってこんにゃくをキャンバス貼り付ける作品を作っていたんです。
あなたが入れた辛子のせいで完成寸前だった彼の作品が台無しになったのです」
そして一言付け加えた。
「彼が股間を抑えているのは、作品が台無しになった怒りで椅子から転げ落ちて、その時椅子で股間を打ったのです。」
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