事業に失敗した自殺願望の男がいた。
しかし自殺など怖くて中々できるものではない。
男は思った。
自分は独身だし身寄りもない。
そうだ、コロナに感染して自宅でひっそりと死のう。
男は普段は外を出歩いたことも無いので、人が集まるところを探すのに苦労したが、やっと大勢が集まっているところを探し出した。
集まった人々は、最初は無口だったが、話しかけると素直に返事をしてくれた。
話をしてみるとみんないろいろと悩みを持っている人間だと分かった。
自分のように事業に失敗した人
会社を首になった人
派遣切りにあった人
会社の上司や人間関係に悩んでいる人
恋人に振られた人
離婚した人
家族関係に問題を抱えた人
株やギャンブルで貯金を失い、借金を抱えた人、等々
そういう人の話をいろいろと聞いている内に、男は何故か気持ちが楽になった。
自分より不幸な人がいる、自分などはまだ軽い方かも知れない。
男は思った。
よし、もしコロナにかからなかったら、死んだつもりでもう一度やり直してみよう。
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男はコロナにはかからなかった。
集まった人々は普段は外には出ない日陰者ばかりだったからだ。
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