和田裕実「神社のおかげさま」より。
東京でセールスの仕事に就いたばかりの頃、お客さまへ持っていく手みやげについて上司に尋ねました。
「それなら虎屋の羊羹(ようかん)だろう。なんだって室町時代から続く老舗(しにせ)だからな」と言われました。
そこで私は「虎屋の羊羹」を買いに、生まれてはじめて自由が丘まで行きました。大切に持ち帰り、翌日お客さまに差し上げると、とても喜んでくださいました。
その後何度も、さまざまなお客様に虎屋の羊羹をお持ちしましたが、そのたびに「おお、虎屋ですね!」という反応が返ってきました。
(時代を超えて好む人がいるから、伝統を受け継ぐ人や会社があるんだな)
日本人が「歴史や伝統のあるもの」を好むということが、実感としてわかった気がしました。
日本の老舗を考えると、「虎屋」以外にもいろいろな名前が思い浮かびます。江戸時代から続く三越(現三越伊勢丹)、醤油のキッコーマン(旧亀甲萬)、「上から読んでも下から読んでも」でお馴染み、海苔の山本山、花札の製造販売から世界へ羽ばたいた任天など、挙げればきりがありません。
ノンフィクションライターの野村進さんが書かれた『千年、働いてきました――老舗企業大国ニッポン」(角川書店)という本があります。この本によると、百年どころか二百年も三百年も続く老舗が、日本にはたくさんあるということです。
二百年以上続いている企業は世界に7千社ほどありますが、そのうち約3千社は日本のものなんだそうです。(ちなみに中国は9社、インドは3社、韓国はゼロ)。創業百年で見ると、現在日本には約10万社も存在しているというから驚きです。
日本は世界ナンバー1の老舗大国といっても過言ではないのです。
世界最古の企業も日本で生まれたって、みなさん知っていましたか? 大阪にある
金剛組」という建築会社で、創業は西暦578年。 「文化の改新」もまだ起きていない飛鳥時代(いまから1400年以上も前)です。聖徳太子が活躍していた頃できた会社ということになります。海の向こうではイスラム教を興したムハンマドがようやく誕生し、随(ずい)が中国を統一した頃です。
老舗というと、イタリアやフランスなどヨーロッパに多い印象も受けますが、ヨーロッパ最古といわれている企業でも,設立は1369年。金剛組より約800年も後のことなんですね。
飢饉があっても、大災害があっても、戦争が起きても、変わらず継承され続けるってどれほどすごことなのか、ちょっと想像もつきません。
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