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2016年02月09日20:03

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霊の存在

今回の話題は、冬よりも夏向きかも知れませんが・・・。

私はもともと霊の存在などは信じないほうでした。妻はそうではなく、子供達が小さい頃は、記念写真など見て、何かの光の加減でちょっと色が付いていたり、小さな白い煙のようなものが写っていたりすると、これは霊だと言って、大真面目な顔で神社にお炊き上げに持って行くと言い出したものです。

そんな私でも、あるいはこれは?と思ったことが、10年ばかり前に一度だけありました。

その日、私は一人で新潟県の妙高山に向かいました。最初は会社の山仲間と前日に出発し、別のルートを取って入山し一泊の後妙高に登頂、黒沢池というところで幕営、3日目に下山するという計画でした。ところが私に急用ができてしまい、一日遅れで現地で合流することになったのでした。

それは5月の連休も過ぎた日、私は妙高登頂には至近距離となる燕温泉から入山しました。登頂の後は大倉乗越を越えて黒沢池へ下り、仲間と合流するつもりでした。

ところが見通しが甘かったのでした。5月も中旬近くに、あれほど積雪が多いとは思わなかったのです。軽アイゼンは持っていましたが、雪が真冬のようにさらさらではなく、アイゼンがダンゴになって滑りやすいので、ひどく消耗してしまいました。

どうにか頂上に着いたのですが、大倉乗越への道がどうしても見つかりません。ポピュラーなルートなので、当然踏み跡ははっきり付いているものと思っていたのですが、それも甘い見通しでした。これと思うところを登って行くと、そのうち樹林で進めなくなるのです。

ずっと後になって思えば、この時からちょっと心理的に安定を欠いていたのかも知れません。誰か人に会ったら道を聞こう、そのうち指導票もあるだろう、そう思って歩いていると、ああ嬉しや、前方に二人の人が立っているではありませんか!よしあの人に聞いてみよう、と思って近づいていくと、それは木なのでした。がっかりしながら進むと、指導票が立っている。おお、もう大丈夫!と思うと、それもまた木なのです。何度もそれが繰り返されるのです。当然もう騙されないぞ、と思うのですが、なぜか繰り返されるたびによりリアルに人や指導票に見えてくるのです。その人が着ているウィンドブレーカーの色や帽子の形まではっきり認識されました。しまいには二人の人が話している声まで聞こえてきました。

これはどうやら危なそうだと思った私は、仲間との合流を諦めて出発点の燕温泉に戻ることにしました。今ならまだ明るいうちに戻れる、そこで泊まることができる、という判断です。乗越への道を探すうちに暗くなってしまうより、はるかに賢明な判断であるはずでした。

しかしこの日はどこまでも付いていなかったのでした。来た道を戻ればいいはずなのに、道と雪渓がいくつも入り組んでいる地点で、道でないところに迷い込んでしまったのです。突然断崖の上に出たりしました。戻ってそれと思しき進路を取ると、それもまた道ではなかったり。

この時期の雪渓は、上よりも下から融けていきます。下には水が流れており、雪の橋になっているので「スノーブリッジ」と呼ばれます。スノーブリッジが薄いところは、雪が半透明になっているので、そこは踏まないようにしないと、踏み抜いてしまったら大変です。

雪渓の上をあちこちするうち、まずいことに薄暗くなってきました。そうなるとスノーブリッジが薄いところが見分けにくくなるし、先が断崖になっていることに気付かなかったらもっと危険です。突然背筋が寒くなりました。私は早めに決断しなくては、と思い、雪渓の上でビバークすることにしました。

ビバークの適地を見付けた途端、さっきから圏外の表示になっていた携帯が通じることがわかりました。試しに自宅に電話してみると、妻がほんわかとした声で出ました。これこれしかじかでビバークする、と言うと、あ〜そう、とそれだけでした。続いて仲間にも電話して、合流はできなくなった旨伝えました。

さて、シュラフから顔だけ出して外を眺めていると、5〜6メートル先に電球のように光る物が見えます。それも二つか三つ。一瞬木の間にロープを張って電球を吊るしてあるのかと思いましたが、すぐに、こんなところにそんな物があるはずがないことに思い当たりました。すると何?と思ううちにそれがすっと消えるのです。あれっ?と思うとまたぽーっと光る。また消える。光があちこち動いたりはしません。光ったり、消えたり繰り返すだけです。もしかして、これが人魂?そう思いました。

私はまた自宅に電話して、妻に人魂を見たことを伝えました。すると妻はほんわかとした声のままで、大丈夫、それはあなたを守ろうとしているんだから、と言いました。私は、こいつ何だってこんなに度胸が据わってるんだ?と呆れましたが、それでもすっと気持ちが楽になり、朝までぐっすりと眠ってしまいました。

翌朝がまた大変でした。昨日の続きで、何としても脱出路を見付けなければなりません。いくつも雪渓を下ってみては、やはり断崖の上に出る、また登る、また別の雪渓を下る、の繰り返しです。お腹が減ったので、リュックからコンビ二のおにぎりを出してみたら、凍ってジャリジャリ、まるで砂です。こ、これはっ!映画「八甲田山」の一シーンではないか!でも、幸いにも甘栗も持っていて、これはちゃんと食べられました。

私は自分に言い聞かせました。落ち着け、落ち着け!基本に返れ!そして、地図と地形をしっかりと見比べながら進みました。これが良かったのです。そのうちこちらに向かって登って来る二人連れの男性が見えました。今度こそ、今度こそ本物の人間でした。燕温泉への道を聞くと、我々は今燕温泉から来たので、この我々の足跡をしっかり覚え、これを慎重に辿って行きなさい、迷った人の足跡もあるから、足跡を良く見て!と教えてくれました。

無事燕温泉に着いた時は、腑抜けみたいになりました。車で迎えに来てくれた仲間と合流し、みんなでそば屋に入って主人に昨日からの出来事を話すと、私が迷い込んだ場所を美事に言い当てて、あそこは迷い込んで死んだ人もいる、と言うので、また背筋がゾクッとしました。

今回は薄気味の悪いことばかりだったなあ、と思ったのですが、考えてみれば終始天気が崩れなかったのは幸運でした。どこのどなたかは存じませんが、やはり守ってくれていたのかも知れません。自分のようになってはいけませんよ、と・・・。
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