横浜市磯子区さんぽ「杉田・森浅間神社から杉田梅林妙法寺」
○「朝日不動滝(森浅間神社北参道)」(森2-16)
JR根岸線磯子駅から国道16号に出て南に向かい、森2丁目交差点から右手の潮見台団地への道に入り急な石段を上ると、「森浅間神社」南向坂北参道があり入って行くと「朝日不動滝」があります。かつて、不動堂とともに森浅間神社の境内裏手にあった豊かな滝は、朝日に輝く荘厳さから朝日不動滝と呼ばれていました。周辺の開発で水量は減少しましたが、流れ落ちる美しさは今も変わっていません。龍の口から微量ながら水流が確認できたが、とても滝と呼べるようなものではありませんが、説明板によると「朝日不動滝は汐見台の台地から出る湧き水を水源としているが、近年行われた台地の開発によって湧き出る水の量は激減した」とあります。また、昭和36年6月に見舞われた集中豪雨により滝は崩壊し埋没しましたが、昭和56年5月に神社総代世話人会有志の方々の手により滝壺は修復され、現在の形になったとされています。
○「森浅間神社」(森2-16)
さらに南向坂裏参道の石段を上ると「森浅間神社」があります。鎌倉将軍守邦親王が護寺の薬師像を本地仏として建立されたと伝えられ、古くは親王権現とも称しました。字古浜の山上に在って我砂羅山と称し、古来、航海安全を頼って参詣する者多く、森三ヶ村の総鎮守でした。明治6年、村社に列し、同41年10月村内の10社を合祀し、大正2年神饌幣帛料供進社に指定されました。森一帯の鎮守として今も親しまれている森浅間神社は、鎌倉時代につくられたと伝えられています。江戸時代には「武州小富士」と呼ばれ、崇敬を集めていました。毎年8月のお盆祭りには、神田噺子が鳴り響く中、江戸時代につくられた大神輿が急な石段を下って山車に乗せられ、中神輿や花山車とともに氏子町内を練り歩きます。そのほか、正月の神楽、1月15日のどんど焼き、4月の桜祭りなど、華やかな行事が多く、神社周辺の樹叢とともに歴史を感じる古社です。
【森浅間神社の社叢林】
森浅間神社の周辺には、マテバシイなどのすばらしい社叢林が広がっています。
【汐汲坂】
森浅間神社から南に下る表参道(急な石段)は、「汐汲坂」と呼ばれています。その坂のいわれは、縄文時代、潮見台地に住んでいた縄文人が海まで降りて、海水を汲んで坂道を上がって塩にしていたことからついたそうです。
○「林香寺」(森2-20)
京急屏風浦駅前に「林香寺」があります。もともとの敷地は屏風浦駅の辺りまであり、駅付近を流れていた陣屋川に接していました。本堂には本尊の釈迦如来座像をはさみ、右に延命地蔵、左に十一面千手観音立像が安置されています。創建については、杉田の東漸寺、十九世住職・雲渓竜公大和尚が晩年の応永23年(1416)頃、この地に庵を建てたのが開山と伝えられています。草創の当初、寺号は雨峰山林香庵と伝えられていますが、昭和の初め、林香庵から林香寺に変更にされた際、「雨」が「晴」に変わったようです。雨峰山の頃は寺の行事にはいつも雨降りで、晴峰山に変えてからは晴天に恵まれたそうです。
【まくらがえしの観音】
観音像はもともと延命地蔵とともに、陣屋川河口にあった十王堂に祀られていたもので「まくらがえしの観音」とも呼ばれ、お堂に宿泊した村人がどんな寝方をしても、朝には必ず観音様に頭が向いていたという伝説があります。当時、屏風ヶ浦は夏ともなれば暑気払いに最適な、海浜地でしたから、夜遊びに集まってきた若い衆が、お寺に集まりそのまま堂の中でごろ寝するといったことが頻繁にあったようです。
○「篁修寺」 (森5-9)
京急屏風浦駅から南西に入って行くと、「篁修寺」(こうしゅうじ)があります。開山は永徳元年(1381)、杉田の東漸寺塔頭多福院第三世東漸寺」第十一世光室卯公和尚が開創（当時は篁修庵）しましたが、和尚が同年9月3日に示寂して以来300年は無住のときが多くその間の詳しい経緯は定かではありません。本尊の釈迦如来像は、丈が1尺5寸（約45�僉砲悩郤圓鷲毀世任垢�、永禄7年（1564）に森村の名主・太郎右エ門から寄附されたものだそうです。『磯子の史話』には、次のように記されています。
《永徳の頃といえば室町幕府のはじめで三大将軍・足利義満の時代にあたり、全国的に争乱が続きようやく終わりに近づこうとする時で人々の心は不安定な状態になり、宗教活動が活発化しました。しかし、鎌倉幕府の庇護を受け武士の間で独占の形をとっていた禅宗は保護者を失い沈滞気味となり、寺を開く力はありません。そこで光室和尚は従来のように武士に頼らず、地元の名主たちに援助を求めました。この呼びかけに奔走したのは中原の山口茂左衛門、田中の宇田川氏、雑色の油屋市郎右衛門の三人の名主で、和尚の意向を汲んでこの駐車場代を選定、光室和尚も大変喜んで東漸寺の末寺として開創しました。この時村人たちも協力して立派な寺ができたのです。》
【鐘楼堂】
お寺には、区内最古の鐘楼堂（9尺=約2.7ｍ四面）がありますが、このお堂について「大鐘は延享元年（1744）に檀信徒の寄付により鋳造され、戦時下の昭和19年に供出されましたが、昭和44年、祖山和尚の代に檀信徒の寄付によって再建され、現在は「暮れ六つの鐘」として、午後6時に撞かれています。
【森の道祖神】(森5-9)
篁修寺の前の三角地に数基の石塔があり、左側に判読不明ですが万延元年(1860)銘の「森の道祖神(文字)」があります。また、篁修寺の石段下にも数基の石塔があり、中では延宝年銘の庚申塔が立派です。
○「中原の道祖神」(中原1-12)
京急線沿いの道に出て南に向かうと、願行寺の北に「中原の道祖神(文字)」があります。右手民家入口の塀の手前にありますが、見過ごしてしまいそうです。
○「願行寺」(中原2-13)
森浅間神社から南に向かうと「願行寺」があります。永仁元年（1292）に法燈円明国師覚心が森中原村に、はじめは禅宗の寺として開創しました。かつては本堂前に見事な梅の古木があり、裏山は緑に囲まれた不動山、前方は群青色に輝く根岸湾を望む景勝の地でした。本尊は阿弥陀三尊（中尊阿弥陀如来、脇侍の右は観音菩薩、左は勢至菩薩）で、本堂正面に安置されています（造立年代や作者は不詳）。
【願行寺の庚申塔】
墓地入口すぐには、寛文5年(1665)の三猿碑文庚申塔があり、碑面全面に碑文が彫られています。すぐ隣の三猿庚申も古そうですが、残念ながら年号がありません。近くに元文２年(1737)の青面金剛や珍しい野見宿弥命碑があります。
【願行寺の馬頭観音】
庚申塔の手前に安政３年（1856）銘の馬頭観音塔があり、「右磯子ちか道、左磯子本道」と刻まれています。
○「熊野神社」(中原4-24)
願行寺から京急杉田駅へと向かうと、杉田駅手前に「熊野神社参道」の石碑があります。京急線高架を潜り進むと「熊野神社」があります。創建は建久3年(1192)、源頼朝の命によって鎌倉泉蔵院の僧である智覚法印が、国の平穏を祈願するため、紀州熊野の三所大神のご分霊を受け、船に乗せ海に流したところ、15日程経って着いたのが中原の海岸でした。このことを聞いた頼朝は、船が着いた近くに神殿を建てるように智覚法印に命じ、海を臨む景勝の地に三所権現社を建立したと伝えられています。
【芭蕉句碑】
参道入口に、「梅が香にのっと日の出る山路かな」の芭蕉の有名な句碑があります。江戸時代の杉田梅林が華やかな頃、境内は梅見の場所として知られたところでした。
【榧の木とイチョウ】
境内には名木、古木がたくさん茂り、榧の木、イチョウの大木は横浜市の名木に指定され、特に榧の木は根周り3mの大木で、樹齢数百年といわれています。
○「東漸寺」(杉田1-9)
京急杉田駅の東に「東漸寺」があります。正安3年（1301）北条宗長により建立されました。開山は円覚寺永仁再建で活躍した桃渓徳悟（宏覚禅師）。至徳3年（1386）五山十刹の制度により十刹の第7位に列せられています。仏殿（釈迦堂）（県重要文化財）は創建時に建てられたもので、3間四方の建物に裳階が付いた禅宗様仏殿の典型例であり、日本でも最古に属します。
【永仁の鐘】
永仁6年（1298）に鋳物師物部国光によって造られた梵鐘「永仁の鐘」（国の重要文化財）が仏殿に安置されており、レプリカが鐘楼に吊るされ除夜の鐘として突かれています。
【東漸寺の庚申塔・五輪塔】
境内の琵琶池脇に年不詳の地蔵尊座像付角柱塔の庚申塔があります。また、釈迦堂前には県文化財の鎌倉時代後期の五輪塔数基があります。
○「杉田八幡神社」(杉田5-2)
東漸寺の南に「杉田八幡神社」があります。天喜5年(1053)、源頼義とその子源義家とが勅を奉じて奥州に赴き、安部貞任を討ち、宗任を降伏させました（前九年の役）。康平6年（1063）8月、戦勝を記念して山城国石清水八幡宮を勧請し、永く源氏の武運長久を祈願しようと、頼義は鶴ヶ岡八幡宮を、義家はこの「杉田八幡神社」を勧請しました。その後、建久3年(1192)には源頼朝より当社に社領を授けられて久良岐郡の総社と定められました。隣の杉田幼稚園には、間宮山妙観寺跡の碑があります。
【杉田八幡神社の狛犬】
境内には、力石や元禄の灯篭など石造物に見るべきものが多いですが、ヘンな姿の珍しい「カエルの狛犬」（元禄銘）があります。中国の犬の姿を、そのまま写実的に駒犬にしたもののようです。
○「妙法寺(梅林寺)」(杉田5-3)
杉田八幡神社の南に「妙法寺」があり、別名「梅林寺」といわれています。杉田に古くからあるお寺で、弘仁元年（810）弘法大師が諸国巡礼の際、杉田の地に日本武尊の霊跡があるのを知り、山頂に牛頭天王の社を建立、弘法大師旧跡の寺として受け継がれましたが、文和元年（1352）に杉田郷、六浦郷の領主・荒井因幡守光善が荒廃している社殿を再興し、寺を改め牛頭山・妙法寺としました。門前には古木、境内の梅、立派な梅の歌碑や昭憲高太后の記念碑、牛頭天王などと見所が多いところです。
【神松(日本武尊伝説)】
妙法寺左手の山にあった「神松」に、日本武尊にまつわる伝説があります。『磯子の史話』に「日本武尊が東征の途、走水（横須賀）から上総国（千葉）に渡ろうとしたとき波が高く難破、杉田の浜に近づいたところ、牛が臥したような形の山の頂上に聳え立つ大松が見えました。尊はこの山に登り大松のもとで須佐之男命（牛頭天王）を祀って、軍中の無事を祈願、また弟橘姫（おとたちばなひめ）の入水もあって風波静まり、尊は渡海することができた」と記され、このお寺の始まりと伝えられています。この伝説の神松は今ありませんが、同じところに松が植えられているといいます。
【妙法寺の板碑】
この寺には「板碑」が二個あり、一枚は無欠で正和6年（1317）と記され大変貴重なものとされています。
【間宮林蔵の墓】
妙法寺には、冒険家の間宮林蔵や『解体新書』の杉田玄白の祖先である間宮家の墓があることでも知られています。どうやら、杉田玄白の「杉田」は磯子区杉田に由来するようです。
【杉田梅林】
『磯子の史話』によると、江戸時代、杉田一帯は梅の産地で、村全体のいたるところに梅林があり、雲のように広がる梅の花を小高い所から鑑賞したということで現在とはずいぶん違う雰囲気だったようです。天正年間（1573年〜）に領主・間宮信繁が梅の植樹を奨励、杉田の梅の発祥となりました。杉田梅林は、江戸時代に梅の名所として広く知られ、その中心として観梅客でにぎわった妙法寺は、早春には名木・照水梅（しだれ梅）をはじめとする50本余りの梅の木が咲き、今も訪れる人々を楽しませてくれます。
(買明発句塚) �猝攜呂蕕靴瞭羣２鬚韻椎澆硫岫�
(句碑) �猯�(すだれ)ごしに居る心地して梅のもと��
【杉田への観梅コース】
もともと杉田の梅は、地場では産業に恵まれなかったため、約400年前、江戸時代の初期に村民の副業として梅樹を植えることが奨励されましたが、元禄年間（1688〜1704年）にさらに繁殖されて、梅林は3万6干余株にもなったといわれています。その杉田の梅林と称されるのは、妙法寺境内を中心とした地域でしたが、幕末に近い寛政・享和年間（1789年〜）には、森・森中原・根岸・滝頭・富岡から屏風ケ浦一帯の村々に広がり、2月の花時には、芳香数里に達し江戸からも多くの観梅客が訪れたといわれています。かつては、皇室から皇太后が二度に渡り（明治17、19年）杉田の観梅に行啓されるなど、「杉田の顔」ともいわれ、やがて横浜が開港し外国人が増えてくると、磯子経由で観梅に来るようになりました。その様子を『磯子の史話』で次のように記しています。
《横浜の外国人たちや浜っ子たちは、江戸時代の道ばかりでなく、磯子経由の道も通るようになって、間坂道が賑わいました。明治の初め頃は、屏風ケ浦に断崖があるので、海岸の道は通れず外国人たちは、遊歩道を八幡橋まで来て滝頭の波止場から船で杉田へ行きました。陸路を行くときは、八幡橋から浜・山王谷の旧鎌倉道をプリンスホテル西側を登り、浅間神社わきの汐汲坂か赤穂を経て七曲坂から下って森村に至り、里道を通って杉田へ行ったのでした。》
【妙法寺のビャクシン】
妙法寺の入口に、銘木のビャクシンがあります。
○「梅林小学校の庚申塔」(杉田4-13)
妙法寺山門から20ｍのところが昔の門前で、小墓地の隣に南無妙法蓮華経の石碑があります。このすぐ先の三叉路を右折し、青戸坂を上ります。坂上の突き当たりが梅林小学校で、道を隔てた前の空き地に寛文12年(1672)の観音型庚申があります。金網で厳重に保護されていて写真に撮りにくいですが、優しい童女の表情の観音です。
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