mixiユーザー(id:62249729)

2015年12月30日23:14

264 view

あきらめ力

「あきらめる」というのは、本当に良くないことなのかな?と思うことがある。どんなことでも、ひとたび始めたなら、どこまでもやり抜け、あきらめずに挑戦し続ければ、いつか夢はかなう、そう言われることが多い。そうだろうか?もちろんちょっとやってみて駄目だからと、すぐあきらめるのは論外である。それではかなう夢もかなわない。それでも、時にはあきらめることも必要だな、と思わされる局面に遭遇することもある。

ここでは、航空機の開発という分野から、あきらめることができなかったために結果的に貴重な資金や労力が無駄になった例、逆にあきらめたことが良い結果につながった例を二つほど挙げてみる。

第二次世界大戦においては、航空兵力が戦局の帰趨に決定的な役割を果たした。中でも大型の爆撃機は兵器として極めて有効で、アメリカとイギリスのみがエンジンを4台装備した4発の重爆撃機の量産に成功した。

ドイツはどうだったか?ともかく4発重爆を実用化した。しかし、普通の4発ではない。2台のエンジンで1基のプロペラを駆動し、それを2組装備する、一見双発機のような4発機、ハインケルHe177である。通常の4発機は各エンジンがそれぞれ1基のプロペラを駆動し、これを4組主翼の前縁に並べるが、ドイツがこんなことをやったのは、プロペラは推進力を生むと同時に抵抗にもなるからだ。

しかし、容易に推定されることだが、こんなことをすれば構造が複雑になる。それはつまり、製造にもメンテナンスにも手が掛かり、しかも故障の要因も増える。結果は全くそのとおりで、He177は故障がとても多くて、稼働率が著しく低いだけでなく、故障で失われる機体も多かった。国の総力を挙げた戦争中に、こんな航空機を作っていてはいけないのである。こういうところは、明らかにドイツ人の悪いところで、少しでも性能の優れた機体を開発するためにメカニズムに凝ったものを作り上げるのは良いのだが、必ずしも腕利きの技術者だけに製造や運用に当たらせることはできないという、戦時の事情を忘れている。メーカーのハインケル社は、このメカニズムをあきらめて普通の4発に改設計した機体を提案したが、空軍は採用せず、ついに終戦までHe177を作り続けた。

ところが、ドイツの敵国イギリスも同じ発想から、同様のシステムの重爆「アブロ・マンチェスター」を開発していた。しかし、試作の結果He177のところで述べたような弊害があることがわかった。そこでイギリスは、この試みをあきらめてしまったが、エンジンのシステム以外の機体そのものには優れたところが多いと判断して、普通の4発に改設計し「アブロ・ランカスター」と改称して量産した。ランカスターは、イギリスが生んだ傑作機のひとつとなった。

その同じイギリスが、あきらめるべき時にあきらめられなかった事例もある。フランスと共同で開発した超音速ジェット旅客機「コンコルド」のケースである。この機体は、開発着手後かなり早い段階で、商業的に成功しないであろうと言われていた。すなわち、通常のジェット旅客機の2倍の速度で飛ぶことに特化し、それ以外の要素はかなり犠牲にした設計のため、騒音は激しく、滑走距離が長いため限られた空港にしか発着できないことに加えて、胴体が細くて客室が狭いため収容客数が少ないことと、運行経費がかさむため運賃が著しく高くなってしまった。その結果、コンコルドを購入した航空会社は開発当事国のイギリスとフランスの各1社のみで、莫大な機体の開発費を回収するにはほど遠い結果となったのである。

イギリスもフランスも、なぜコンコルドの開発をあきらめることができなかったか?それは国の威信が掛かっていたから、と言うと抽象的に過ぎるが、世界の民間航空機の市場がアメリカに席巻されてしまうのを阻止したかったからだ。終戦後イギリスはいち早くジェット旅客機の開発に着手し、世界最初のジェット旅客機「コメット」を就航させた。ところがこの機体は大事故が続き、その対策が完了した時には、アメリカ製のジェット旅客機「ダグラスDC−8」「ボーイング707」が普及していた。そんなことから、超音速ジェット旅客機の開発では、アメリカの先を行きたかったのであろう。

しかもここには、ここで中止しては今までに掛かったコストが無駄になってしまうとの理由から、今さらやめられないという落とし穴があった。同様の事態はさまざまな局面で散見されることである。そんなことで、こういう事態にはまり込んでしまうことを「コンコルド効果」と呼ぶようになった。

ちなみにアメリカは、超音速ジェット旅客機の開発は計画の段階で中止し、代わりに機体を大型化することで航空旅客輸送の需要を拡大することに方針を転換して、見事に成功させている。ボーイング747に代表される「ワイドボディー」と呼ばれるジェット旅客機がこれである。ここまで見てくると、総合的なパフォーマンスの観点で優れた航空機は、アメリカ製に多いことを認めないわけにはいかない。

あきらめるというのは、気分の良いことではない。誰だってやると決めたことは、最後までやりとげたい。しかし、やっぱりあきらめることも大切なのだ。現在の状況をしっかり見て、あきらめずに挑戦を続けたほうが良いのか、それとも思い切ってあきらめるべきか、それを正しく判断できる能力を備えた人は、貴重なのかも知れない。あきらめるべきところで、きちんとあきらめられる「あきらめ力」を備えた人になりたいものだ。今さらではあるが。
5 7

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する