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2022年12月12日17:03

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【映画】『恋におちたシェイクスピア』

『恋におちたシェイクスピア』
 
 
1999年の初公開時にもちろん見ている。ただ私が演劇を本格的に見るようになったのは、この少し後から。演劇やシェイクスピアについて遥かにくわしくなった今の方が楽しめるだろうとは思っていたが、予想をはるかに超えた感動で、しまいには涙してしまった。
 
ウィリアム・シェイクスピアを主人公としたラヴストーリーであり、『ロミオとジュリエット』および『十二夜』の誕生秘話にもなっている。本筋にあたるウィルとヴァイオレットのラヴストーリーもロミジュリをはじめとするシェイクスピア作品の見事な換骨奪胎で、現実と虚構(芝居)が入り交じる絶妙な面白さ。『ロミオとジュリエット』を別々のアレンジで演奏したものを1つにまとめた作品と言ってもいいだろう。その奇策が、この悲恋物語をよりリアルで立体的なものにする。トム・ストッパードとマーク・ノーマンの脚本が見事と言うほか無い。
 
シェイクスピアの他にも実在の人物が多数登場するのが面白い。初公開時には、クリストファー・マーロウのことなど何も知らなかったはず。今見ると、マーロウの存在があれだけ大きく扱われていたり、あんな役回りで(笑)ジョン・ウェブスターが出ていたりといった人物配置がたまらない。エリザベス女王(1世)が終盤に漏らす「男の仕事をする女もいる。私にも身に覚えのあること」的な台詞は、先日のエリザベス2世の死去に伴い「女王という仕事の孤独」について学んだ後だけに一層心に染みた。

『ロミオとジュリエット』が出来上がっていく過程は、ロミジュリだけでなく他のシェイクスピア作品を知っていると一層笑えるし、「今も昔も変わらぬ劇団あるある」の連発で、たまらなく面白い。今回特にツボにはまったのは、ベン・アフレック演じるネッド・アレン(この人も実在の人物)の扱い。スター俳優である彼は「タイトルロールであるマキューシオ」として起用されたのに、出番が少ないのに苛立つ。だが出来上がっていく物語に感心し、「タイトルは『ロミオとジュリエット』にすべきだ」と言う。そんなベン・アフレックのナイスガイぶりも素敵だが、実はシェイクスピアには『シンベリン』や『ジュリアス・シーザー』のように、主役とは言えない人物がタイトルロールになっている作品が存在する。それを思うと、「『ロミオとジュリエット』が『マキューシオ』というタイトルだったら、どうなっていたのだろう。逆に『シンベリン』は一体どういう事情で『シンベリン』というタイトルになったのだろう」と想像が膨らんでいく楽しさ。
その手のシェイクスピアネタは山ほど。さらに、台本が稽古の最中に出来上がっていき、どの役者も結末がどうなるか分かっていない光景や、冷静に考えるとこれも一種の劇団内恋愛であり、それが原因で劇団が解散寸前の危機に陥るとか、400年前から変わらぬ劇団あるある話に笑う。
 
演劇やシェイクスピアにくわしくなると、そういった笑える要素が格段に増える。しかし本筋はあくまでもウィルとヴァイオラの悲恋物語。これをストレートにやったらベタ過ぎて感動はしないだろうが、そこにロミジュリの創作過程と『十二夜』の誕生を重ねることで、抗しがたいほどの説得力を持つ。
大団円そのものの上演成功。水戸黄門のように登場するエリザベス女王。普通なら見事なハッピーエンドだ。しかし女王も神前での誓いを覆すことはできず、ウィルとヴァイオラは別れることに。そしてウィルの中で永遠のヒロインとなったヴァイオラは『十二夜』の主人公として描かれることになる…虚実が入り混ざる笑いと涙のストーリー、祭りの熱狂の後に訪れる寂しさ…これこそが演劇だ。映画の形をしているが、古典的な演劇の魅力と特質を余すことなく描いた大傑作。初公開から23年経って、その真価をようやく理解することができた。
 
最後に2つだけネガティヴな話をしよう。監督のジョン・マッデンは元々舞台の演出家なので、舞台とほぼ同じシネスコ画面の使い方はお手の物。横方向のカメラワークは流麗で、観客の視点をどのように導けばいいか熟知している。しかし横方向の動きの巧みさに比べると、舞台ではあまり利用しない縦方向の動きが極端に落ちる。時々縦のカメラワークもあるのだが、画面の勢いが急に失速したようになる。アカデミー賞で作品賞や脚本賞などを獲りながら監督賞を逃したのは、この辺が原因だろうか。

もう一つは、本作が、かのハーヴェイ・ワインスタインの代表作だということ。本作で素晴らしい魅力を発揮しているグウィネス・パルトロウも、ワインスタインからセクハラを受けていたことを告白している。それを知ってしまうと、やはり複雑な思いは拭えない。
 
 
そのような闇を抱えていてもなお、本作が大傑作であることは疑いようがない。ワインスタインはともかく、このような作品を残してくれた他のスタッフと出演者に対し、今はただ感謝の思いでいっぱいだ。

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