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2022年12月12日17:01

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【映画】『アフター・ヤン』

『アフター・ヤン』

1つ1つの要素はともかく、それらが総合された1本の映画としては、類を見ないほどユニークな映画。設定は紛れもないSFだが、描写は静謐そのもので、宣伝文句の通り確かに小津安二郎っぽいところもある。そして物語は、一風変わった設定をフル活用して、生と死について深く問いかけるもの。
 
「テクノ」と呼ばれるアンドロイドが普及した未来。ジェイク(コリン・ファレル)の家にいるヤンというテクノが動かなくなり、再起動は不可能と診断される。その過程で、ヤンの中に毎日数秒だけ映像を録画できる装置が組み込まれていることが分かり、そのメモリーの内容をめぐる物語が本筋。
人間で言えば、家族の一人が死に、その死者が自分たちやその他の世界をどんな目で見ていたかを探っていく物語だ。似たような物語は多数存在するが、回想や周りの人の証言ではなく、死者の記憶そのものをダイレクトに描くには、このようなSF的設定が必要だったということだ。
 
テクノやクローンがいる世界観がうまく描かれているとは言えず、ブラックボックスを開くのは違法云々という設定もよく理解できないため、最初はなかなか入り込めなかった。だがメモリーの内容が明らかになっていく過程で、世界に対するヤンの優しいまなざしや、生と死を巡る思索に思い切り心を掴まれることになる。「無があるから有がある」(=死があるから生がある)。当たり前と言えば当たり前なフレーズだが、その手垢の付いたフレーズにもう一度真摯に向き合い、その意味するものをリアリティを持って実感させてくれる「映像詩のような体験」がこの作品の本質だ。
しかもその表現手法はユニークそのもの。小津安二郎に強い影響を受けたという話は事前に耳に入っていたが、それ以上に心底驚いたのは、テーマ曲としてリリイ・シュシュの「グライド」が使われていたことだ(歌はリリイ・シュシュのオリジナルではなくMitskiという日系アーティスト)。それどころかUAの名曲「水色」まで延々と流れるのだから恐ろしい(こちらはインスト)。日本を舞台にしているわけでもないアメリカ映画で「グライド」と「水色」が流れるとは… このコゴナダという監督、韓国系アメリカ人らしいが、どれだけ日本の文化が好きなんだ。物語も映像表現も極めて私好みの作品である上に、アメリカ映画なのにリリイ・シュシュとUAの音楽が流れるのだから、まるで私のためにあるような映画だ。ここまで好みの作品だと分かっていたら、もっと早く見るべきだった。
 
『グリーン・ナイト』に『アフター・ヤン』と、この1週間に出会った最高レベルの偏愛映画が、共にA24の製作だということにも驚かされる。『ムーンライト』や『エクス・マキナ』など以前から傑作を連発していた製作会社だが、この2作の登場で、私の中でも揺るぎない地位を確立した感じだ。

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