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2022年11月24日01:36

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【映画】『すずめの戸締まり』

この作品については語り出すと切りが無いので出来るだけ簡潔に。また入場者特典でもらった豪華な読本も読まずに、あくまでも映画だけを見た感想として書く。
 
一言で言えば「すごく面白い」。しかしその面白さがヤバい。これほど「居心地の悪い面白さ」は滅多に無いからだ。
エンタテインメントとしての出来は、『君の名は。』には及ばぬまでも、『天気の子』をはるかに凌ぐ。この出来の良さは予想外ですらあった。しかし面白くなればなるほど居心地の悪さが募る。と言うより、これを面白いと感じてしまう自分への居心地の悪さが募る。
 
その理由は主に2つある。1つは、この作品、宣伝コピーで「新海誠の集大成」と謳われているが、それをはるかに超えて「日本アニメの集大成」にすらなっている。新海誠自身の過去作が骨格になっているのはもちろん、『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』をはじめとする宮崎アニメのリメイクのようですらある。さらには『海のトリトン』から『魔法少女まどか☆マギカ』に至るまで、言ってしまえば、あらゆる日本アニメのリミックス作品だ。
ところがそれが実に微妙な案配でオリジナル作品として消化/昇華しきれておらず、素材が明確に分かる形で並べられているのだ。だから「集大成」と書いたが、正確に言えば違う。これは日本アニメの「総集編」だ。
演出や作画、編集などの技術は極めて高度。それで過去の名作の総集編をやるのだから、面白いのも当然だ。しかしそれが、どこまで行ってもオリジナル作品ではなく過去作の総集編としての面白さなのだ。それでもなお面白いことは事実…その引き裂かれるような居心地の悪さを何としよう。
 
理由の2つ目。これは見ている途中ですぐに思い浮かんだ言葉「災害エンタテインメント」としての性質だ。もちろん広い意味での災害エンタテインメントは、ハリウッド製スパニックスペクタクルから日本の戦争映画や『シン・ゴジラ』に至るまで山ほどある。しかし本作は、そのアプローチが非常に微妙だ。誰が見ても一目瞭然の、現実の災害を次から次へと題材として引っ張り出してくる。そして被災者の心の傷を重要なモチーフとして物語を綴っていくのだが、その語り口に何とも言えないモヤモヤした違和感が残る。しかもそれが明確に怒りや反感を引き起こすようなものではなく、本当に何とも言えないモヤモヤしたもので、表面的には明白な問題は無いように思える。ところが「本当にこのアプローチでいいの?」という言葉にならないモヤモヤが拭えない。この居心地の悪さを何としよう。
この作品に涙し、心を癒される被災者も確実にいると思う。同時に、これに対して怒りを覚える被災者も少なからずいるのではないかという思いが募る。これはもはや当事者にしか分からぬ事なので、私は口をつぐみたいが、おそらくこの点で一部から批判が出ることは避けられないだろう。
その災害の犠牲者に対する鎮魂というテーマが、すでに書いた「日本アニメの総集編」としての面白さと、嫌な摩擦を起こしている。それでもなお見ている分には非常に面白い…しかし面白いと感じれば感じるほど、これを面白いと感じていいのか?という居心地の悪さがどんどん募ってくる。この得も言われぬ気持ち悪さ。
 
そのような理由で、本作はその面白さ自体が居心地の悪さを募らせていくという、実に困った作品なのである。私としては、もうあまり語ることなく、出来るだけ心の中に封印したいと思っている。かしこみかしこみ謹んでお返し申す。
 
最後に2つだけ小ネタ。「日本アニメの総集編」と書いたとおり、良くも悪くも「アニメ・オブ・アニメ」な作品なのだが、もう1つ重要な元ネタになったと思われる作品がある。それが天童荒太の小説『悼む人』だ。これはおそらく間違い無い。
もう1つ。映画の公式アカウントが出しているこの注意書き。わざわざこんなものを出す理由がよ〜く分かった。本作に関しては、これは絶対にヤバい。「超危険」と「不謹慎」…この2つの理由で、本作の聖地巡礼は最大限の配慮を持って行うべきである。

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