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2021年04月11日22:48

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朗読台本を作成しました!「ワン・フォー・ワン」

※1  金銭が絡まなければ使用自由。
大幅な改変等はツイッター @annawtbpollylaまで要許可申請。

自作発言は厳禁です。 


※2 こちらの作品は朗読用台本です。朗読される際は、冒頭で「よし、20分。タイマー作動。」という場面がありますので、その部分を読み終えた時点で実際に20分のタイマーをかけてみて、終盤の(タイマー音)の場面でちょうど鳴るように挑戦してみると楽しいと思います。勿論強制ではありません。

想定時間は20〜25分程度です。





※3 この作品は声劇台本「二方美人。」のシリーズ作です。
単独のお話としても楽しんでいただけるよう作っていますが、
もし良ければ「二方美人。」はじめ、シリーズ内の他作品にも目を通してくださるとさいわいです。

※「二方美人。」へのリンク。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1958862956&owner_id=24167653



※「二方美人。」シリーズ及び関連作品のみをまとめたリンク。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1964303733&owner_id=24167653



※特に本作品と関連性の強い作品「閑話久題。」へのリンク。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1967926120&owner_id=24167653









「ワン・フォー・ワン」




 なんだこの風、今日は寒くなるのは分かっていたけど、まさかここまでとは思わなかった。健康のためにと思って歩きに来たのに、こんなんじゃ逆に体調崩すんじゃないか。でも小学生は普通にバドミントンして遊んでるし……体を動かしてるうちに平気になってくるのかな。いやそんな程度の寒さじゃないだろこれ……。

 ったく、ああ、せめて耳当て持ってくるんだった。とりあえず30分…いや無理無理、20分。タイマーかけてそれ以上は歩かない。それ以上は普通に体調崩すだけだ。……よし、20分。タイマー作動。

 こっちはせっかくの休みだってのにさっきまでずっと冷凍保存用の調理にいそしんでて、その時点で既に十分偉いってのに、更に健康のために公園を歩き回るなんて偉すぎて自分でも驚くばかりだよ。ああ、寒い寒い寒い。風冷たい。あの子らよくこんな中で半袖で居られるよな、どう考えてもおかしいだろって。ううう、早く帰ってこたつに入りたい。

 

 とりあえず考え事に没頭しよう。じゃないと20分が長くてしょうがない。えっと、何かあったっけ最近。……考える事なあ。……そうだそうだ。ちょうどこの前良い事あったじゃん。ひな君の件にやっと確定判決が出て、とりあえず決着が着いたんだ。あれほんと良かった。って言うかこれについてはかなり運だよなあ。動かぬ証拠があったとは言え、犯人が大人しく控訴諦めてくれて相当助かった。ずるずる何年もかけて争う事にならずに済んで良かったわ……いや犯人が腐れ野郎な事には変わりないし、あくまで運の良さに感謝してるだけだ。犯人にも相手の弁護士にも欠片も感謝なんかしねえよ、ばぁか。

 そうだそうだ、それで今度お礼に何か奢ってくれるって話だったけど、あれ期待して良いもんかね。俺としては焼肉とか行きたいんだけど。肉寿司食べたいんだよ。でもなんか大体大学生とか社会人とかが言う「今度奢る」だとか「今度飲もう」だとかってのは挨拶みたいなもんで、実際実現させる気は無い事が多いらしいんだよな。大学時代、それに気付くまでは色々と大変だったなぁ。ああ、この人達って俺とは違う文化圏の人間で、この人達の言う、行く気なんてさらさらないのに今度奢るだの飲もうだの、あとあれだ。今度別の大学の教授を紹介するっていうのも。ああいうのは俺の、全然早くなくてもおはようって言ったり全然疲れてなくてない相手にもお疲れ様って言うのと同じなんだって。ったく、あまりにも俺の中の常識とあの人らの常識が違いすぎて、あの人らみんなエイリアンに見えた……いや、今でもエイリアンに見える。

 考えてみると、大学やテレビ局で知り合った人達って普段偉そうな事言いながらつい数年前まで万引きしてたり、所帯持ちの癖して性的なお店に行ったり所帯持ちの部下をそういう店に付き合わせたり、全く何の悪気もなく自然と差別的な発言を繰り返してたり、まるで尊敬できない人間も多かったから。ああいう人間ってのは俺の母校とか勤め先のテレビ局とか、そういうところに集中して居た特別な事例なのか、それともどこの世界でもああいうのは一定割合で居るものなのか。結局のところよく分からん。分かり合える気がしないし分かり合いたくなど全くない。

 話が逸れた。でもまあ多分ひな君はそのあたりちゃんとしてる方だし、大丈夫大丈夫。焼肉かはともかくとして、何か奢ってくれるのは期待していて良い筈だ。ひな君は守れない約束はしないし、自分の言動に責任を持つ人間だ。ひな君は今までだって何度も……待てよ。いや、待て。えっと……そういやひな君って本名なんだっけ。

 いや待て。待て待て。ひな……そう、ひなから始まるんだ。だからひな君。えっと、ひ…あ、そうだ。日次(ひなみ)君だ。よしよし、大丈夫。覚えてる。一条 日次(いちじょう ひなみ)君。危ない危ない。大体、日曜日の日(にち)に次(つぎ)って書いてひなみってのが覚えづらいんだよ。せめて普通に日曜日の日(にち)に波風の波でひなみならもっと覚えやすかっただろうに。いやまあそれも俺が言える事じゃないけど。俺の緋鳥(ひとり)って名前も、今まで何度聞き返えされてきた事か。全く、正直その聞き返される一連の流れの度に申し訳ないやらうんざりするやら。





 それで何の話だっけ……ああそうだ!肉寿司!やっぱあれは定期的に食べたくなるんだよな。卒業前に教授に連れられて食べに行ったあれがもう忘れられない。あんなんずるだって。病みつきにならないわけがない。あの日、あの後姉さんと再会して、なんやかんやで昔のあれこれについてちゃんと胸割って話せて……そういうのもあったからか、やっぱり肉寿司は俺にとって特別だな。縁起が良いって言うかさ。

 ああ、なんか考えてたら良いもの食べに行きたくなってきた。肉寿司じゃなくてもなんかこう、散歩終わったらどっか行こうかな。そもそも、姉さんに薦めてもらって始めた、二週間に一回、しばらくのおかずを調理して冷凍保存しておくっていうの。平日に楽できるって意味では理に適ってるけど、なんかこうなあ、人体実験の被験者になった気分って言うか、どうにも冷凍保存した物を取り出して温めて食べるという行為が無性に無機質に感じて、気持ちに彩りが生まれないんだよ。

 あれだ。たまには見ただけで心が跳ねるようなもんを食べたくなる。姉さんはどうなんだ。毎日容器に入った冷凍おかずを取り出して温めて食べるのに、別になんか空しいみたいな事思ったりしないのかな。分からない。普通、と言うか俺の手持ちの知識や感性で考えたらちょっとくらいなんだかなって気持ちになる人の方が多いんじゃないかって思いもするけど、そんなもん私的統計よりも更に信ぴょう性のない話だ。

 いやしかしほんと寒いな、なんだこれ。吹くな、なんだこの風。雪が降ってないだけマシだけど、さっきの子供もいつの間にか帰ってるっぽいし、向こう歩いてる高校生も寒そうに……すっご。アイス食べてる。この12月によく食べられんな……懐かしい。昔なあ、カードのパックをさあ、駐車場で開けて騒いでる高校生見かけた時、なんか良いなあって思ったんだぁ。

 あの家に帰るまで待ってられないのが、これこそ学生って感じで絵になるっていうかさ。俺もこの前初めてゼリーを駐車場で食べてみたけど、やっぱ良いんだよ。学生の頃やってたらもっと良かっただろうなって話だけど、あれはほんと良いもんだ。

 なんだかな、アナウンサーとしての内定もらった時教授に言われたっけ。お前それで喜ばなかったら周りに失礼だろって。でもあの時はそんな気持ちになれなくってさあ。自慢の弟になりたい、この程度じゃまだ自慢の弟になれてない。まだだめだ、まだだめだって。俺が頑張ってる姿見せて自慢に思ってもらわないとって。

 でも卒業前に姉さんと会って、まあ昔色々あったけど意外と……驚くほど普通に話せて、俺って自分で自分をすげー窮屈にしてたんだなって実感したよ。なんかこう、色々と、もう良いのかなあって思えたから、今はほんと単純に、なんかこういうの良いじゃん、みたいな。なんか分からないけどなんだか楽しい、みたいな。素直に思えてる気がするし、普通に……高校時代や大学時代みたいに病的な感じじゃなくて、普通に健全に毎日を頑張れてる気もする。

 お陰か、なんか卒業してもずっと実家に居ないといけない気がしてたのも、別にそんな訳ないなって気づけて、今ではこうして一人暮らしできる訳で。冷静に考えてみたら親が可哀想だからって俺が縛られる理由にはならないって、なんで気づかなかったんだろうなあ。ただそれだけの事に。まして家庭環境ひどかったし、親の事なんか嫌いなのにさ。

 今にして思えば、俺ってずっと自分で自分の事呪ってたのかもな。





 ……いかんいかん、考えがひと段落つくとまた寒さを実感してしまう。なんか考えろ、なんか。なんかあったっけ……まあ、冬なんだしな。冬の寒さってやつは実は嫌いじゃないんだ。色々不都合ではあるが、それもまた風流ってやつで。寒くないと、いつもちょっかいかけてくる悪ガキが風邪ひいてしおらしくなってしまったみたいって言うか、どうしたお前、今年寒くないじゃん、大丈夫か?みたいな気分になる。

 あ、そうだ。悪ガキ。うちの悪ガキが結婚式の招待状なんてもん送ってきてたんだった。まさか俺でも姉さんでもなく飛鹿(ひろく)の奴が最初に結婚するとはなあ。

 世の中おかしなもんだ。いや正直、俺まだ23だし、良いんだけど。でも俺より先にあいつが?あいつがかあ……それは納得いかないんだよ……いやあいつは高校卒業してすぐ家出てってそれ以来知らないから、えっと、3年半か。3年半の間に立派になってんのかもって話だけど、今でも俺の中ではあいつって結構どうしようもない奴のままだから。

 正直俺も兄だから見捨てなかったけど、あいつ本当に弟じゃなくて近所の子供だったら普通に見捨ててたっての。そんな飛鹿が結婚かぁ……なんか無性に焦る気持ちが湧いてくる。だめだだめだ、やめろ焦るな。

 で、結局結婚式……どうすっかな、正直俺はあいつの事割と嫌いだけど、それこそ冬の寒さみたいなもんで。嫌いだけど心底嫌いってわけでもなくて、まあ愛着がない訳でもないってくらいの気持ちはあるわけで。それにお相手の佳魚子(かなこ)さんって人にも、一応はちゃんと挨拶しておいた方が良いだろうし。

 姉さんも参加しない可能性が高いだろうと考えたら、せめて俺くらいは……いや、まあそこは別にどうでも良いか。そこに変な使命感持つ必要は無い筈だ。んー……ただ、迷う。俺の中の面倒くさい、普通にあいつ嫌いだしそこまでの義理もないだろって気持ちと、道理観念、義理人情みたいな気持ちとで揺れてる。





 それこそ姉さんにも訊いてみるか。昔話でもしてるうちに、飛鹿の奴にも良いとこあったなって思って、願わくば一生に一回の機会だし祝いに行こうって気持ちになれるかもしれない。あとひな君と例の何か奢ってくれるって話について詳細を決めておく必要もあったし、その話のついでに飛鹿の件について色々と聞いてもらうかな。

 そういや結局ひな君って示談金いくら貰ったんだろ。さっきの奢ってもらうって話も、ぶっちゃけその額次第なんだよなあ。……でもそれは流石に訊けないよなあ。神経質な部分って言うか、つつかれたくないところだろうし。満足の行く額貰ってたら嬉々として自分から言うだろうから、言わなければそれはつまり不服があって、まあ恐らく少なからず屈辱を抱えているだろうって話だし。

 いやでもほんと、痴漢で示談金貰うと犯人が不起訴になりやすいって話を弁護士から聞いてもなお「嫌な思いしたんだから何が何でも金も取るし、それはそれとして前科持ちにならないなんてのも『不起訴を勝ち取ります』とかほざいてる相手の弁護士に負けたみたいな気がして腹が立つ」って言って聞かなかった、彼の我(が)の強さには変な笑いがこみあげてくる。

 何が凄いってひな君は一度たりとも「今後同じ被害に遭う人のためにも」とか「社会を変えないといけない」とかって事は一言たりとも言わないで、最初から最後まで「不愉快だから」なんて、自分本位でしかない理由で争い続けたところなんだ。逆に清々しかったよ。あのどこまでも我を通そうとする気の強さはちょっと羨ましいし、なんかもう素直に凄い奴だって思える。

 でも待てよ。そりゃ確かに良いんだけど、考えてみたら俺って何度休日つぶされてきた?証人として結構な回数呼び出しくらってきたし、そもそも事件当日入社式さぼる破目になったし。まあ何度か1000円行くか行かないかの昼食くらいは奢ってもらってたけど、正直釣り合ってないよな普通に。よし、やっぱり焼肉だな。とりあえず言うだけ言おう。肉寿司のあるとこ。だめと言われたらまあ諦めるとして、とりあえず一回言おう。そのくらいは許されるはずだ。その上で飛鹿の件も相談にも乗ってもらう。

 それで手打ちだ。そうしよう。まあぶっちゃけ解決した今だから言える事だけど、実際二人して入社式さぼって事情聴取受けたの、実はちょっとだけわくわくして楽しかったって気持ちもあったし。





 うう、鼻水出てきた。ティッシュティッシュ……っん。まじか。雪降り始めてきた。……雪、ね。まあ、風は強くても雪の量がこのくらいなら、良い雰囲気を演出してくれて、綺麗なもんだ。吹雪って呼ばれるくらいにまでなったらそんな余裕もなくなるけど、今は良いんだよそんな仮の話は。能天気に構えてよ。

 でもやっぱ耳当て持って来なかったのは完全に判断を誤ったろ。うう、なんでこんな目に。あと何分だよ。そろそろ時間じゃ……あ、しまった。よく考えたらクリスマスケーキ予約してないわ。なんでこんなタイミングで思い出すんだよ。まだ間に合うよな……一人で食べるなら何号かな。確か号数に3をかけた数値だったから3号で直径9cm。いやいやそれは流石に小さすぎだな。やっぱ5号、最低15cmはないとケーキって感じしない。ケーキは大きさがあってこそケーキ。ザ・ケーキって感じ。それが大事。

 余ったらまあ翌日か翌々日にでも食べれば良いから大丈夫大丈夫、平気平気。……いやそれは良いんだ、それはともかくそろそろ鳴れよタイマー……。今何分だよ。もういい加減……

(タイマー音)

 っととと。ちょうど鳴ったか……よし、ケーキの予約はまた後でって事でぇ、もう帰ってシャワーでも浴びよう。ったく、雪も段々量が増えてきたし、外に居るのはもう色々ぎりぎりだっての。

 じゃあまたな、氾愁公園(はんしゅうこうえん)。風邪ひいてなかったら明日また散歩に来るから、その時はよろしくな。雪景色、楽しみにしてる。

 
 
 完

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