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2020年08月16日14:08

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小説を作成しました!「地に咲く空花(くうげ)。」B

小説ですが、良ければ朗読の台本としてもご使用ください。
その場合の所要時間の目安は15分です。

※  金銭が絡まなければ使用自由。
大幅な改変等はツイッター @annawtbpollylaまで要許可申請。

自作発言は厳禁です。 ※



※ こちらは二方美人シリーズの一つです。単独でも楽しんでいただけるように作っていますが、最初の声劇台本「二方美人。」 http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1958862956&owner_id=24167653 や他のシリーズ作もご欄いただきますと、私は大変喜びます。



※「二方美人。」シリーズ及び関連作品のみをまとめたリンク。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1964303733&owner_id=24167653



※「地に咲く空花(くうげ)。」A
→ https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1976140678&owner_id=24167653









「地に咲く空花(くうげ)。」B





 今日は珍しいお客さんが来てびっくりしてしまった。

 月夜(つくよ)さんの恋人、浦風(うらかぜ)君。彼が近くに住んでいるのは知っていたけど、月夜さんの口からも彼が本を読むという話は聞いた事がなかったし、約一年間、図書館で仕事をしていても浦風君を見た事は一度もなかった。だからまさか今日、彼を図書館で見かけるなんて思いもしなかった。

 お薦めの本を訊かれてとっさに『男たちの後悔』を薦めたのはどうだろう。彼の性格や過去の事を考えるとあの本が一番合ってる気がしたのは確かだけど。ただ、あの本に出てくる良兵衛(りょうべえ)についてちょっと色々と嫌な想像をしてしまう。

 良兵衛は両親から虐待を受けていて、虐待によって傷ついた自尊心を周りへの善行によって癒していた人。考えすぎだとは思うけど、もしかしたらあの本を薦めた事で私が昔両親から虐待されていた事が…ううん。ほんと考えすぎ。そんなの、想像するくらいはしても確信なんて絶対持てない。大丈夫。



 私の小さな頃の話は、今隣で寝ている水限(みぎり)君にも言っていない、私の大きな秘密。そういえば私が実家を出た今、あのおかしな両親はどうしているんだろう。

 お母さんはお母さんで『女は少しでも気を抜くと男の道具にさせられる。男は勿論、男に洗脳された女も全て敵。女の子らしさなんていうのは男に媚を売り気に入られるためにある、忌むべきもの』だなんて言って、少しでも私が女の子っぽい事をしようものならすぐ怒鳴ったり叩いたりしてきた。

 お父さんはお父さんで『女は男に媚を売り取り入る以外のあらゆる能力が男に劣っている。それをいち早く認めて男に媚を売り、より優れた男に取り入り守られるよう努力べき。女の子らしさというものは、幅広い男に媚を売る事のできる武器であり、女の子が何を置いてでも身に着けるべきもの』だなんて言って、私が女の子っぽくない事をすると、やっぱりすぐ怒鳴ったり叩いたり。

 あんな正反対な事を言っていた二人だけど、私は彼らが夫婦喧嘩をしている姿はあまり見なかった。多分、私という生意気で反抗的な娘が共通の敵みたいな感じで、私を怒るのを通じた、妙な絆みたいなものがあの二人の間にはあったんじゃないかな。となると、私が居なくなった今、彼らはどうしているんだろう。私が知らないだけで喧嘩ばかりして、今頃離婚してるのかな。でもさすがに離婚してたら何か連絡は来るよね。じゃあ意外と…というか、よく考えたら私が居なくなった以上、女の子らしさ論みたいなのでわざわざ対立する理由もなくて、別にそこはお互い触れない感じで仲良くやれててもおかしくないのかも。

 だとしたら完全に私が殴られ損だなぁ。せめて、私のお陰で両親が喧嘩せずに済んでいたって事になればまだ私が殴られたのも少しは報われるのに。でも、よく考えたら高校に入ってしばらくしたくらいの時からはあんまりそういった事を言われなくなっていったし、それでも両親は喧嘩してなかったから、やっぱりあの二人が喧嘩をしなかったのは別に私のお陰でも何でもないのかな。やだな。



 いけない。もう昔の事。これからは水限君と一緒に生き直していくんだ。あんな事をずっと引きずってちゃいけない。

 でも…やっぱり、考え出すと色々と溢れてきてしまう。どうしたって、私はあの家庭の中で作られていったというのが事実なのだから。どうしても私の思い出も人格も、あの家庭での出来事は切り離す事ができない。

 たとえば私は結構頑固で、自分が正しいと思った事は誰にどれほど否定されても中々変えようとしないところがある。よく意外って言われる悪いところだけど、それは小さい頃からずっと沢山否定されてきた事が原因だろうし、ずっと人を頼れないで自覚せず無理ばかりしていたところがあったのも、小さい頃何度先生や周りの大人に助けを求めても無視されてその度生真面目に傷ついていた名残だと思う。

 図書館に就職したいって思ったのも、小さい頃は図書館が私にとって唯一の逃げ場所で、本の中にだけは幼少期の楽しい思い出があったから。

 私がずっと恋愛を避けて生きてきたのも、両親の姿を見ていると、結婚とか恋愛とかそういうものに全然良い印象が持てなかったから。大学に入ってすぐ月夜さんとあんなに仲良くなれたのはきっと、彼女が浦風君の事を話す時の嬉しそうな姿に憧れた気持ちが大きかったんだと思う。

 良いなあ。

 私は親子が笑いながら手をつないでいるのを見ても、恋人同士が楽しそうにしているのを見ても『あんなに仲良くしているのに、いつかはお互いを憎み合ってしまうのだろうか』なんて思って勝手に悲しんでしまう人間だったし、足の不自由なお爺さんが私に文化祭はいつやるのと微笑みながら訊いてきた時も『せっかく文化祭に来て楽しみたかったのに、足の事で変な人に意地悪されて嫌な思い出しか残らなくなってしまったらどうしよう』なんて勝手に思って、勝手に落ち込んでしまう人間だった。

 そんな私に、良いなあ。って思わせてくれたのがあの二人だった。いつまでも二人仲良く居て欲しい。悲しい未来なんて想像したくない。あの二人は、私にそう思わせてくれた。私と水限君はどうだろう。そんな二人になれてるのかな。…やっぱり、私の昔の事を言えてないんだから無理なのかな。浦風君も月夜さんに高校時代の事を話したみたいだし、私も…。私の思い出も人格もあの家庭での出来事が切り離して語れないのなら、だからこそ、ちゃんと…。

 水限君…やっぱり、あなたには言った方が良いよね。そう言えば大学四年生の頃の、卒業に必須の課題を私が中々提出できなかった際にあの月夜さんと浦風君、それに鎖鳥(さとり)さんと雪那(せつな)さんの四人が私を助けようとしてくれた話をした時も、水限君はあんまりしっくり来てないような感じだった。水限君にあの時の私がどれだけ嬉しかったのかが伝わらなかったのはすごく寂しかったけど……伝わらなかったのは、きっと私の小さい頃の話をちゃんとしてこなかったせいなんだよね。

 私にとってあれは、なんだろう……こう、私は小さい頃からずっと人助けとか相談に乗ったりだとかを私なりに頑張ってて。それは私なりに、助けを求めて無視されるつらさをその人に味わわせたくなかったからで、私にとって頑張りたい事だった。

 なのにお母さんに『男に媚を売る練習』なんて言われて怒られて、それに反発して「私は自分の意思で、自分の正しいと思ったことをしているんだ」って思って…ずっとずっと意地になってたところがあった。だから、逆にあんな風に、それも助けを求めてもいないのに向こうから助けに来てくれたのが……こう。あの出来事のお陰で私は意地を張って無理してまで人を助けようとはしなくなったし、無理ばかりしないで人に助けを求める事も少しはできるようになった。

 それだけあれは、私のそれまでの人生が救われた。みたいな…。単に助けてくれたのが嬉しかっただけの話じゃなくて、それまでの何年もの間の…。

 上手く言葉にできないけど、この気持ちを共感してもらえないのはやっぱり寂しいな。やっぱり、私の事もっといっぱい知って欲しいし、私の気持ちがもっと伝わって欲しいな。…ごめんね水限君。水限君が自分の昔の話をしてる時って、多分、私にも昔の話をして欲しかったんだよね。私もそのくらいの頃はって。なのに私は全然言えないで、秘密にしてばっかりで。

 なのに私に昔の事、直接訊いてこなかったの知ってるよ。あなたは昔からずっとそうだったよね。私が言わないって事は言いたくないって事なんだって察して気遣ってくれてたのかな。ありがとうね。…もうちょっとだけ、待っててね。

 明日…と言うより今日だね。今日の朝、言えそうだったら…そうだなあ。何でもないただの世間話みたいな雰囲気で、テレビを見て紅茶でも飲みながら「そうそう、言ってなかったけど私、高校の途中くらいまで結構ひどく虐待されてたんだぁ。」みたいに。言えたら良いなあ。あんまり重苦しくならないように、軽く流してくれる事を期待して、そんな風に…言えるかな。流石に軽く流す事を期待するのは都合が良いかな。

 ね。水限君。のんきにかわいい寝顔しちゃって。私は不安だよ。あなたの私を見る目が変わるのが怖いよ。でも、多分…きっと、頑張るね。今日頑張れなかったら明日また頑張るね。

 いつになるかは分からないけど、頑張るよ。今はおやすみなさい。私ももうすぐ眠れそう。

 本当に。みんな、ありがとう。水限君、大好きだよ。




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