男は怖い夢をよくみることに悩んでいた。
出張中にホテルに大事なバッグを置き忘れたことに始まり、移動中に物取りに出会った夢。
果てはビルの屋上やら崖から落ちた夢などをみた。
夢かどうか確かめるには頬を抓ったり叩いてみるのが良いというが、夢の中でやっても本当に痛いのかどうか良く分からなかった。
そんなことを悩んでいるうちに男は夢かどうかをはっきりと確かめる方法を見つけた。
それは計算機で複雑な計算をしてみることだった。
実際、男は夢の中で計算機で複雑な計算をした夢を見た。
計算機は何度やってもはっきりした答えを出さなかった。
男は考えた。
夢というものは自分の頭の内で観るものだ。
頬を抓って痛いと感じるのは自分の頭、すなわち顕在・潜在意識が抓ると痛いという事を知っている為で、夢中でも痛いと感じてしまうのだろう。
しかし、計算機による複雑な計算結果は、数学の天才でもない限り顕在・潜在意識ではわからない、頭の中に無い外来要因だ。
従って、夢の中では計算機で複雑な計算をして正しい答えを出すことが出来ないのだ。と結論付けた。
それからというもの、怖い目にあったり、事有る毎に男はポケットから計算機を取り出して、複雑な計算をやってみた。
百発百中、計算機が上手く作動しなかったら夢であり、上手く作動したら現実だった。
お陰で男は現実と夢をはっきりと識別でき、怖い夢も夢として楽しむことが出来るようになった。
ある日、飛行機の中で寝ていたら、体にガンと激しい衝撃受けて男は目覚めた。
窓の外を見るとエンジンが火を噴いていた。
機内はパニックになり大騒ぎになっていた。
男はポケットから計算機を取り出して複雑な計算をやってみた。
計算機は上手く作動しなかった。
「そうか、これは夢か、よかった。」男は安心した。
男は阿鼻叫喚の機内を横目に、にやにやしながら、窓の外の急激に迫り来る地上の景色をみていた。
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実は、ポケットの中の計算機は衝撃のショックでシートの肘掛に強く当たり、壊れていたのだった。
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