6月8日(土)
23時に船はニューヨークを出港した。
多くの人がデッキの船尾に立って景色を見ていた。
ハドソン川を下っていく。
マンハッタンの摩天楼が、自由の女神が遠ざかっていく。
大きな光の帯がだんだん小さくなる。
若い女子が叫んだ。
「ありがとう、ニューヨーク!愛してるよー!」
無生物に感情移入する人というのは知能が平均より低い場合が多い。
しかし、このときは女子の気持ちがよくわかった。
6月13日(木)〜14日(金)
ジャマイカに着いた。
本当はキューバのハバナに行く予定だった。
それが寸前になってトランプ大統領のやつが禁止措置を出した。
客船はアメリカから直接キューバへ行っちゃダメという。
それで急遽、代わりにジャマイカへ行くことになった。
残念だったけど、あとで考えるとジャマイカがいちばん楽しかった。
トランプさん、ありがとうございました。
2日目は沢登りをした。
オーチョリオスという街にある、ダンズリバーの滝登りだ。
わりと水量の多い沢で、ナメ滝が連続する。
意外と本格的なシャワークライミングだった。
みんなで水の中に飛び込み、全身ずぶ濡れになって楽しんだ。
詳しく書いておきたいのは1日目のことだ。
船が停泊している港から乗り合いバスに乗りモンテゴベイの街に行く。
ジャマイカの観光地だ。
適当にビーチを探し海水浴をする。
そのあとランチを食べて街の中を散歩していた。
歩くうちに街外れに来た。
路地裏にバーがあった。
地元民が集まって酒を飲んでいて雰囲気が良さそうだ。
店に入って酒を飲んでいた。
店のねーちゃんとレゲエを踊って気持ちよく過ごした。
しばらくするとテーブルにねーちゃんが来た。
「おひとつどうぞ」
と言って、マリファナを置いていった。
「なんだこれ、こんなの頼んでないぞ」
どうもジャマイカの酒場では酒を注文するとマリファナがついてくるらしい。
コメダ珈琲店でコーヒーを頼むとトーストとゆで卵がサービスでついてくるのと同じだ。
ジャマイカではマリファナが解禁されていて、道を歩けばどこでもマリファナ売りがいる。
だからどうということもない。
店の中で吸ってやろうとも思ったが、もったいないからポケットにしまった。
そのまま船に帰る。
ベッドの横の棚に置いた。
そのうちに深夜にオープンデッキに出て吸うつもりだった。
ところが日が経つうちに、棚の上はお土産や飲食物などでいっぱいになり、マリファナはどこかへ入り込んでしまった。
よく探したけどみつからない。
まあいいや、マリファナならまたネパールやオランダへ行ったときにたっぷり吸おう。
月日は過ぎて日本に帰ってきた。
大阪港で下船する。
わたしは二つの段ボール箱に荷物を詰め込んだ。
段ボール箱はベルトコンベアで船の外に出された。
下船許可のアナウンスが出てた。
船を降りて、大阪港のターミナルビルへ行く。
入り口を入るとベルトコンベアで運ばれた荷物が積み上げてある。
自分のダンボールを探して、台車に乗せる。
そのまま税関検査まで行く。
係の人にパスポートを見せて通過しようとしたときだった。
「ちょっとこっちに来てください。麻薬探知犬があなたの荷物に反応したので調べさせてください」
この税関職員はわたしが段ボール箱をとって運んでくるのを、じっと尾行してきたのだ。
荷物といっしょに部屋の隅に連れて行かれる。
「段ボール箱のうち一つに麻薬探知犬が反応しました。これを開けていいですか?」
税関職員はカッターナイフでガムテープを切り、中の荷物を調べだした。
もう心臓が高鳴り緊張してくる。
「いやあ、たしかにジャマイカでマリファナを触りました。でも荷物に入れた覚えはないんですよ」
と言うと
「探知犬が間違って反応することもたくさんあります。だから念のために調べさせていただいているのです。どうもすみません」
なんだか低姿勢だ。
たしかに現物が出てくるまでは無罪の人だから威張るわけにいかないのだろう。
それに実際に調べてもマリファナが出てこないほうが多いそうだ。
犬だって適当に荷物に抱きつくことだってあるのだろう。
汚れた靴下とか、お土産袋の中とか、綿密に調べられた。
最後までマリファナは出てこなかった。
「どうもすみませんでした。お時間取らせました」
と、税関職員は頭を下げる。
自分も冷や汗をかきっぱなしだったので、
「まあまあ、いいですよ、じゃあこれで」
と言って、早々に出口へ向かった。
あーよかった!
もしもポロリと出てきたら大変なことになっていた。
犬の嗅覚というのは凄いなあ。
現物がなくても、ちょっと触れただけの残り香まで嗅ぎつけるのだから。
なんかジャマイカのマリファナ話で適当な長さになってしまった。
次回はフィジーのお化け屋敷のお話を書く予定。
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