不完全…だからイイじゃない。

完全って

ぼくはなんだか馴染めない。


記憶に残っているのは

社宅の錆びた音が鳴る
鉄製のドア。


ここを踏むとミシッと音が鳴ると
わかっている木製の床。


コンクリートブロックで高上げをしていた浴槽。

その下に何が潜んでいるのか怖くて座らずに髪と体を洗っていた。

最後まできっちり閉まらない風呂場の窓。

だから風呂の温度はのぼせ上がるほど熱かった。


強風でガタガタ音をたてる
部屋の窓。

新聞紙の間に挟まれている広告で
窓と窓の隙間を埋めていた。

それでもガタガタ鳴る風の強い日は
誰かが窓を叩いているかもしれないとはっと目が覚め
再び眠り入るのに時間がかかった。


固まった油にまみれた換気扇。

油のついたヒモを引くのにも躊躇った。

それでも土曜日のインスタントラーメン。

インスタントラーメンの麺の硬さ見極めるのには自信あるよ。
ガス限定だけど。


電話はベルの音。
目覚ましもベルの音。
起こされるのは鐘の音だった。

もしくは母親の鐘の声だった。


部屋の扉は横に押す襖開きの扉で
ささぐれてすり減った木製の扉が
きりきりきりと不快な音をたててたっけ。


不完全だから匂いが残ってる。

不完全だったから
記憶に残せたんだよ。


ボロっちさが、wっ、


記憶に



残っているから…。