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2018年03月17日23:17

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「動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか」読了

書名:動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか
著者:フランス・ドゥ・ヴァール
翻訳:柴田裕之
解説:松沢哲郎
出版社:紀伊國屋書店
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784314011495

動物行動学と比較心理学との融合・発展から産まれた進化認知学の研究者である著者が、その歴史や他の研究との批判合戦を各種観察結果や実験結果を交えて紹介しながら現状や展望を語っている本。

昨日、とある翻訳本を読んでいたら「原著にない小見出しを著者の了解を得て追加した」とか書いてあって、「ああ、こちらの本にもそういう配慮が欲しかった」と痛切に思いました。実は、この本は最初の3分の1を読み終えたあたりで数ヶ月間「休眠」させてあったのです。

というのも、ひとかたまりの文章が長くて、小見出しから次の小見出しまでがだいたい10ページ前後。私の読み方だと30分はかかり、しかもひとつのエピソードなので中断すると再開するとき思い出しにくい。内容は興味深くておもしろいのに、すごく疲れるわけです。

さらに、書いてある内容の半分ぐらいは動物行動学への批判・愚痴・反論。動物にも意識や認知、知恵、予測を伴った行動があるとは認めない行動学者に対する怨念みたいなものが行間から立ちのぼっているんですね。こういう文章はほんとに疲れる。過去の実験方法の不備とか現在の実験の周到さとかいろいろみごとなものばかりなんですけどね。

それでも中身はすばらしくて、チンパンジーの政治戦略的行動やらカケスの未来予測やらタコの知恵やら、その動物の環世界(ウンヴェルト)を知悉した上での検証は、動物にもまちがいなく人間同様の意識があることを予想させます(現段階では動物が人語で語っているわけでもないので断定はできない)。

特に興味深かったひとつは、複数の女王蜂が生活するアシナガバチの巣では、各グループが他個体の顔を識別し、一番多く卵を産む女王のグループが優越権を得るというヒエラルキーが発生すること。単独のグループの巣だと顔がほとんど同じ個体しか生まれないらしいので、昆虫のような神経系の構造が単純な動物でも、複数グループだと何らかのスイッチが働いて区別した方が有利な進化圧があったんでしょうね。

もうひとつは、チンパンジーの中にはわざとアルファオスにはならずに、アルファオスを支援してナンバーツーになることでメスと自由に交尾する権利を得る戦略をとるものがいること。こうなってくると、単純にその環境に適しているから生き残った・環境に適応するように進化したとかが通用しなくなります。頭脳と行動で戦略的に子孫を残すものの存在を考慮していたのでは従来の「適者生存」が単純には当てはまらない。

大型類人猿が、エネルギーをバカ食いする「大きな脳」を持っているのもこういった「政治的」生き残り戦略という複雑な行動をするためなのかもしれません。

この先、コンピュータソフトを含めた実験方法の進歩で彼ら動物たちと直接会話する時代が到来することがあれば、そこも解明されるのでしょうか。それとも、そこまで技術を会得した動物は、わざと人間に嘘の回答をするようになるのでしょうか。

興味は尽きません。
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