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2017年12月20日20:36

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朗読台本を作成しました!「少しだけ特別な水曜日。」

「少しだけ特別な水曜日。」




※  金銭が絡まなければ使用自由。
大幅な改変等はツイッター @annawtbpollylaまで要許可申請。

自作発言は厳禁です。 ※





2018/12/8 追記
当作品を意識した
「嘘偽りの無い大丈夫。」
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1969483240&owner_id=24167653
という作品が作られました。





【想定時間】

5〜10分



【本編】


 いつからだろう。目の前に居る幸せそうな人を見て、苛つきを覚えるようになったのは。

 いつからだろう。人を好きになるか否かの基準が『自分にとって利用価値があるか否か』一辺倒になり始めたのは。

 いつからだろう。好かれている人間を見ると、粗を探そうとしたりその言動を悪意的に解釈しようとしたりするようになったのは。

 いつからだろう。全く思ってもいない事を『こいつはこう言えば喜ぶし、こう言えば私の事をより好きになるだろう』なんて打算で言い連ねる事に何も感じなくなったのは。

 自覚はしている。自分の人生につらい事が増えるにつれて自分が自分の嫌いな人間になって行っている事を。私は家の鍵を探していた。

 私はそんな私が大嫌いだ。最低だと思うし、死んでしまえば良いとも思っている。…そんな風に思っているのは、そんな風に思う事が少しでも自分に対する罰になって、そんな風に思う事で少しでも自分が許される事を期待しているのだろう。都合よく、必要最小限自分を傷つけ、程よく許されようとしている。

 そんな利己的で打算的な自己嫌悪が余計と自分を嫌いにさせる。両肩にある多くの傷跡も、その一環だ。痛くはあるが酷い後遺症が出ないように注意を払いながら、取り返しのつかない事にならない程度に自分に傷を与えている。

肩というのも、露出する機会が少なく隠し易いところをあえて選んだ結果だ。どこまで行っても私はそんな奴だ。私は家の鍵を見つけたので近所のコンビニを目指し、家を出た。

 そんな行為も反吐が出る程嫌いだ。嫌いだ。嫌いだと思いながらそれを改める事ができないでいる自分が大嫌いだ。大嫌いだと嫌悪する事によって少しでも自分を許そうとするずる賢さも大嫌いだ。
 


 


 願わくば死にたい。死ぬ以外でこの苦しみから解放される道があるのなら勿論それを選びたい。でも、その道を探したつもりでも結局だめだったじゃないか。自分が知らないだけで、その道は別のどこかにあるのかも知れないが、それを探す気力は使い果たした。私はエレベータを降りる途中で家の鍵をきちんと閉めたか心配になった。


 話は変わるが、私にはとても大切に思っている人が居る。『彼』は昔、私にスポーツ飲料をくれた人だ。



 生き続ける事が自ら死ぬ事よりも良い事である前提で話をするのなら、こんな時『彼』の存在はとても大きい。『彼』は私が死にたいと思った時、それを思った後しばらくして『でも、本当に死んでしまったら彼が悲しむから生きよう』という思いが沸いて出てくる。そんな人だ。…それは周りから『君が死んだら周りに悲しむ人が居るんだ』と言われる事とは全然違う事だと感じている。自分から自然と、『この人を悲しませるくらいなら生き続けたい』そう思う。私はコンビニの前の大通りで信号待ちをしていた。



 だから私は生きている。依存。依存かも知れない。それでも私はとにかく生きるのに精いっぱいなんだ。私は生きるよ。生きたいよ。死にたいけど生きたいよ。…死んだら悲しむのなら、生きてる事を褒めてくれ。あなた達を悲しませないために頑張ってるわけじゃないけど、結果として私のお陰であなた達が悲しまなくて済んでいるのなら、褒めてくれ。嘘だよ。そんな事思ってない。


 死にたい気持ちはたまらなくあるけど、でも生きたい気持ちの方が上回ってるから今ここに私は生きてるんだ。だから大丈夫。寒空の下、車の行きかう大通りを見て飛び出してみたいと思う事くらい誰にでも何度でもよくあった筈の事だし、結局はそんな事しないんだから大丈夫。



 私は考えていた。私の感じている苦しさの根源は言ってしまえば『私はひょっとしたら必要とされていないかも知れない』という気持ちに帰結するものが殆どであり、反対に考えれば『別に必要とされていなくても良い』と思えるようになれさえすれば沢山のものが解決するのではないかと。私は赤信号の中、車道に飛び出していた。




 でもそんな風に思う事などできないと分かっていた。私は今まで何度も何度も、自分が積み重ねてきた沢山のものを他ならぬ自分で台無しにしてきたのだから。これからいくら何を積み重ねて行っても、結局それは未来の自分が台無しにする。





 今の自分なら信じられるかも知れない。それでも未来の自分を信じる事はできやしない。それまで積み重ね直したかけがえの無いもの達を、結局最後は自分で壊してしまう。未来の自分とはきっとそんな奴だ。大きなクラクションが聞こえた。




 大丈夫だと思っていた。もう克服したと思っていたし、これからは頑張れると思っていた。なのにだめだった。私は沢山変わった筈だったのに、そこだけは変わっていなかった。またしても台無しにしてしまった。何度目だ。私は何度私を裏切ったら気が済む。そんな奴を信じる事なんて。私はすぐに歩道に戻っていた。




謝罪をするべき相手はもうとっくに去ってしまっていたが、幸い事故は起きなかった。




良かった。


―完―
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