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2017年10月07日09:22

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マスターができるまで 久々 1404

父は
『だめじゃいうたらだめじゃ』
と言いつつ奥へ歩いて行った。
あまり、大きな声だったものだから台所で洗い物をしていたツラ婆さんが
『どしたんです?』
と聞くほどの剣幕だった。
ヒトミ達の姿はなかったので、就寝しているか自室で遊んでいるかのどちらかだったのだろう。
俺はつら婆さんに父の大声の訳を説明するのが面倒だったので
『なんでもねぃ』
と言ったが、父は
『まぁお母さん、きいて下さい』
と言うと台所の椅子に腰掛けた。
俺は
『お父ちゃん!』
と父の軽口を止めようとしたが父はさらりと身をかわすマネをすると
『このバカ、』
と俺の方を指差し
『今度の日曜、カワタカ言う友達と遊びに行きてぃから美保子の見舞い、行かんでもええか言うんですで。
見舞いそのものは行かにゃあ行かんでもええですけんど、カワタカいう友達と遊びてぃから行かんいう動機が気にいらんですが。
しかもそのためにアパートのカギまでかしてくれぃ言うんですで
どうせロクな遊びやこせんのんじゃから』
と言った。
俺は父の気性を熟知しており、なまじな小細工よりも正面から正々堂々と行った方が有利だと判断し、カワタカとの事を話したのだが、どうやら、それは裏目に出たようだった。
俺は
『言うんじゃねかった』
と言った。
父はそんな俺をチラっとみると 
『辛抱せ
人間にはの、欲望の赴くままに行動してええ時と、我慢せんとおえん時がある。
それは大差ねぇ事じゃけんど、その見極めがつかんと、それが仇になって、結局、先々禍根を残す事になるんじゃ。
ええの。
ま、今はワシの言う事がわからんかもしれんけんど、もうちいと大人になったらわかるわ』
と言った。
俺は
『お父ちゃんがそがな石頭な事、いうと,思わなんだ
がっかりじゃ』
と大げさに落胆してみせた。
つら婆さんが
『これ、』
と俺をたしなめ、
『お父ちゃんにむかってなんちゅう口を聞くんです。
石の頭じゃなんて。
お父ちゃんは石の頭やこうじゃねえですで。
そりゃあ多少は薄くはなっておいでじゃけんど、まだまだ、生えとりんさる。
つるつるの石になるにはは程遠い!』
と言った。
俺が
『あ!
お婆ちゃん、勘違いしとる!』
と言うとつら婆さんは
『勘違いって?
石いうてつるつるの御影石の事でしょうが
違うんですか』
と言った。
父が苦笑し俺が
『あのな』
と言いかけた時、表から母が
『カサハラさん、お帰りになりましたよ。
くれぐれもよろしくいうて、、
シゲ君、たいした事なかったらええですね』
と言いながら戻って来た。
俺が
『お母ちゃん
あんな、つら婆さんいうたらな』
と言いかけるとつら婆さんは自分の勘違いに気がついたのかにわかに赤面し
『ひゃ!』
と言うと
『堪えてつかぁせぃ』
と低頭し、俺がなおも言募るものだから
『止めて止めて』
とその頃はやっていた歌の出だしのような声を出し、体を捩った。


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