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2016年04月29日09:48

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マスターができるまで ナツコの恋 34

シノハラさんはナツコの隣に座っている俺の姿を見ると、にわかにハッとした顔になり
『坊ちゃんも来とったんですか、、』
と言った。
俺は
『ウン』
と言おうと思ったが、それより早くナツコが
『そうなんです。』
と頷き、
『と言うのがね、このヨシヒロちゃんがね、よんべの山火事でね、、』
と、昨夜の一件の事を早口に話し出した。
出鼻を挫かれたようになった俺は、残り少なくなったバナナジュースを力まかせにすすった。
すると、
『ズズ』
というこの場に似つかわしくない音が出た。
ナツコは少し睨んだが、シノハラさんは
『ほう』
と驚き、
『そりゃ、災難じゃったなぁ』
と言ってくれた。
それはホントに衷心から驚いてくれている顔だった。
シノハラさんはそう言いつつ、悪い足を庇うようにしてナツコの正面にすわり
『コーヒね』
と奥で出番を待っているおばさんに注文を通した。
おばさんはヤレヤレと言った顔で
『コーヒーワン』
と奥に言った。
それまでシノハラさんはたったままでナツコのはなしを聞いていたのだった。
ナツコはその間も、もどかしそうに
『襟巻きが』
とか
『お宮でヒソヒソばなしが』
とかあたかも自分が見て来たように語り抜いた。
俺はシノハラさんに語りかけているナツコの様子を見ているうちに、昨夜、電話でシノハラさんの事を異様に擁護していたナツコの物言いを思い出していた。
母も言っていたが、そうとう、ナツコはシノハラさんに入れあげているようだった。
シノハラさんはそんなナツコの気持ちを知っているのか知らぬのか、苦々しい顔をして、熱いだけで香りも何もないコーヒーを流し込むようにすすっていた。
一段落語り終えたナツコは
『ところで、私、こんなモノを書いてみたんじゃけんど、、』
と言うと白い紙をシノハラさんの方に押し進めた。
シノハラさんは
『なんですね』
と言うと持っていたコーヒーカップをテーブルの上に置き、紙を手にとった。
それは、俺が来るまでナツコが読んでいたノートの切れ端を破いたメモのようなモノだった。
シノハラさんは
『どらどら』
と言うと
『なんじゃ、こりゃ、
日付の羅列じゃなぁ、
十一月九、十一月十六、十一月二十日、十二月十四、十二月十九、二十、二十一』
と言った。
俺も
『見せて、見せて』
とせがんだ。
すると、そこには日付の羅列以外にも
『カモメ進学塾』
とか
『小林、山本、守屋、ヤマナカ』
と言った文字が書かれていた。
それは、どこかで見た事のある字体だった。
俺は
『なんでぃ、これ、
ダレが書いたん』
と言った。
すると、ナツコは
『これは商店街の中にある「カモメ進学塾」言うところの講師の予定表の抜粋。』
と言った。
シノハラさんはよくわからないような顔で
『ああ、国安医院の前に最近できたヤツですな。
ワシんとこには子供もおらんから詳しゅうは知らんけど、よう、流行っとるみたいじゃなぁ、、』
と言い、
『それがどうかしたんですか』
と言った。
その時、俺はくわえていたストローを口からはなし
『あ』
と言った。
どこかで見た事があると思ったそれは、俺の宿題をまま、見てくれているマナブの書体だったからであった。
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