猪木vsアリ戦、完全収録DVDを観た。
1976年6月26日、日本武道館で行われた。
現役のボクシングヘビー級チャンピオン、モハメド・アリと全盛期のアントニオ猪木が戦った試合だ。
わたしはこれをテレビ中継で観たことがある。
当時は年端も行かない未成年だった。
見終わって「なんてつまらない試合だろう!」と思った。
猪木がグラウンドに寝転がってアリに蹴りを入れる。
アリは猪木の回りをぴょんぴょんと走り回る。
3分15ラウンドが、ただそれだけで終わってしまった。
当時の観客もマスコミも失望して「世紀の凡戦」なんて悪口を言われたものだ。
何十年ぶりでもう一度観た。
感動してしまった。
凄い試合だ。
ふたりとも真剣に闘っている。
なんでも猪木さんが打ち合わせなしに戦った試合は、このアリ戦とパキスタンでのアクラム・ペールワン戦だけだという。
だから他のプロレス映像と、猪木さんの闘い方がぜんぜん違う。
スタンディングでアリと向かい合っているとき、身体を横に曲げ、利き腕を伸ばし、前傾姿勢をとっている。
ケンカ慣れしている人が、自分より強い人に対峙するポーズだ。
猪木さんのプロレスの試合では、こんな姿勢は見たことがない。
猪木さんは仰向けに倒れこむように、何度も回し蹴りをする。
アリの左太腿だけを狙っている。
記録では96発のキックが入った。
最初のうちアリは軽やかなフットワークを使いながらジョークを飛ばしている。
膝に蹴りが入るたびに、アリの太腿が変色していく。
下半身がアップになると痛々しく腫れ上がっている。
アリは黒人だから目立たない。
肌が白い人だったら、どす黒く青紫色になっていただろう。
試合が進むと、アリは顔つきが真剣になり、言葉も発しない。
左足を引きずるようになる。
第6ラウンドで、アリが倒れこみ、猪木がその上に乗っかるような格好になった。
ロープ際だったのでブレイクする。
もっと猪木よりも柔道が上手な人だったら、違う展開になっていたかもしれない。
坂口征二とかウィレム・ルスカだったらどうなっていただろう。
13ラウンドで、猪木はタックルを試みる。
終盤になって決めようと思ったのだろう。
だけど、下手くそなタックルだ。
アマレス出身の長州力やビル・ロビンソンだったら捕まえていたかもしれない。
このあと14,15ラウンドでは、アリはタックルを警戒しだした。
間合いをいっそう大きくとる。
猪木さんの蹴りが届きにくくなる。
アリは倒れることなく試合終了。
でも猪木さんのスタミナと蹴りはとんでもない。
3分15ラウンドを仰向けになって回し蹴りし続けたのだ。
最後までスピードは衰えなかった。
アリは試合のあと倒れこみ、入院した。
太腿には血栓ができていて、引退の原因の一つになったそうだ。
いまこんな試合が行われたら賞賛の嵐だろう。
当時のわたしは、日本人は理解できなかったのだ。
猪木さんにはとても申し訳ない。
お詫びに、選挙ではこれからも猪木さんに投票しよう。
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