鎌倉市さんぽ「笛田・仏行寺(源太塚)から稲村ガ崎」
○「上町屋池の下の庚申塔」(上町屋)
湘南モノレールの湘南町屋駅から三菱電機側に下り、同工場の角の手前を左手に曲がります。その先を道なりに右にカーブをするように下る途中、左手に木の茂る一角があります。木立の中、藪は茂っていますが庚申塔が２基あります。
○「泉光院(町屋薬師)」(上町屋631)
さらに西に向かうと、柏尾川の近くに「泉光院」があります。薬師堂の薬師如来は、眼病平癒の信仰をあつめ「町屋薬師」とも呼ばれています。
【いぼとり地蔵】
地蔵堂の石地蔵は「いぼとり地蔵」とも呼ばれ、石を奉じてお祈りをすると、いぼが取れるとか子供が元気に育つといわれています。
○「天満宮」(上町屋616)
泉光院の南に「天満宮」があります。天慶年間（938〜947年）、上総介平良文(平将門の叔父)が、霊夢により天神を祀ったのがはじまりです。平良文は藤沢市村岡(村岡城址公園)に居館があり、畠山、千葉、上総などの坂東八平氏の祖になります。平将門と同盟関係にあったともいわれますが、詳細は不明。天満宮は泉光院が管理しており、正月に泉光院から御幣を受けて祀る習慣が今も続けられています。
【天満宮の庚申塔】
境内の奥、社の左手に1基の庚申塔があります。この寛文10年（1670）銘の庚申塔は、鎌倉市の有形民俗文化財に指定されています。庚申塔横の菅原道真の石像は、正徳2年（1712）に造られたもので、もとは山崎天神山の洲崎神社（北野神社）のご神体だったともいわれています。
○「陣出の泣塔」(寺分424)
天満宮の南、JR車両センター跡地に沿って東に向かうと、市営団地の南西、車両センター跡地のフェンスの中に竹藪の小山(塚)が見え、この近くに「陣出の泣塔」があります。ですが、フェンス内は立入禁止で自由に立ち入ってみることはでません。陣出というのはこの辺りの地名で、泣塔（なきとう）というのは、文和5年（1356）の銘がある宝篋印塔のことで、元弘3年（1333）の洲崎の合戦（山崎合戦）での戦死者を供養した塔といわれています。泣塔はかつて、手広の青蓮寺に移されたのですが、毎晩すすり泣くような声が聞こえたので、元の場所に戻されたといいます。そのため泣塔と呼ばれるようになりました。また、泣塔の背後の塚に「やぐら」もあり、中には供養塔もあるといいます。
【須崎古戦場跡】(寺分448付近)
湘南モノレールの通る富士塚小学校入口交差点まで出て、左折して100ｍ大船方面に向かうと、道路沿いモノレールの橋脚4本目の左側に、洲崎古戦場の碑があり「山崎合戦場」とあります。ここが元弘3年（1333）、新田義貞の鎌倉攻めの際の古戦場になります。
義貞は、堀口貞満と大島守之を州崎口に攻め込ませ、これを十六代執権赤橋（北条）守時が迎え撃ちました。鎌倉に進撃しようとする義貞は、軍勢を三方に分け、洲崎（現在の寺分・梶原・山崎一帯）、仮粧坂、極楽寺切通へ向けました。ここ洲崎口では、5月18日の朝方より合戦が始まり、『太平記』によると一日一夜の間に65度の合戦があったといいます。北条軍は敗れ、守時はじめ90人以上が自刃したといいます（山崎合戦）。北条軍を撃破した新田軍は、山ノ内へと雪崩れ込みます。洲崎での戦いは、新田軍が大仏切通を目前にしての激戦だったとも伝えられています。
【鎌倉道上ノ道】
陣出の泣塔の近くを、「鎌倉道上ノ道」が通っています。鎌倉道上ノ道は鎌倉の化粧坂(源氏山公園)を越えて、梶原・深沢・村岡・柄沢を通り、俣野で旧東海道を横切り、下飯田・上飯田・瀬谷駅・上瀬谷・町田駅・本町田・七国山・小野路・永山・霞の関・関戸大橋・府中南・国分寺・恋ヶ窪・津田塾・新小平駅・小川駅・空堀川を渡り、東村山の八国山を越えて所沢駅まで向かっています。
○「等覚寺(出世子育て地蔵)」(梶原1-9)
富士塚小学校入口交差点まで戻り、南に向かうと湘南モノレール深沢駅の東方に、「等覚寺」(とうがくじ)があります。応永年間(1394〜1428）の創建、秀恵僧都の開山。山号の休場山は、梶原景時が休んだ地であるからと伝わりますが、景時は正治2年（1200）に亡くなっているので直接の関連性は見当たりません。茅葺きの山門は薬医門。明治時代には、境内に「訓蒙学舎」という学校が建てられ、これが現在の深沢小学校の前身となっています。
【出世子育て地蔵】
出世子育て地蔵は江戸時代のもので、参詣すれば子のない人は子を授かり、子のある人はその子供が出世するといわれ、非常にご利益がある地蔵として信仰を集めました。
【北条一族供養塔】
本堂右手に、洲崎古戦場跡から出土した戦死者の多くの供養塔(五輪塔)があります。
○「深沢支所裏の庚申塔」(梶原1-10)
なおも南に向かうと、深沢小学校の西側にある校門の少し手前から、左に等覚寺の裏手の山に向かう道があります。道を上り始めるとすぐ左手に、1基の庚申塔とかなり損傷した地蔵があります。
○「御霊神社」(梶原1-12)
深沢小学校を南から回り込むと、小学校の東奥に「御霊神社」があります。建久元年（1190）の創建で、最初に創建されたのは葛原ヶ岡だったともいわれており、坂ノ下の御霊神社はこの神社を移したものともいわれていますが、詳細は不明。「梶原」という地は、祭神鎌倉権五郎景政を祖とする梶原氏に縁が深い地で、江戸時代までは鎌倉権五郎景政夫婦の像をご神体として祀り、梶原景時の像も安置されていたといいます。
【五輪塔】
下拝殿の右側に並ぶ五輪塔は、梶原氏代々の供養塔であるとか、新田義貞の鎌倉攻めの際の戦死者の供養塔とかいわれています。
【御霊神社の庚申塔】
参道の入口に庚申塔が2基、下拝殿の右側に１基、さらに本殿に上る石段の途中の右手に１基の庚申塔があります。
【梶原景時の墓】
深沢小学校裏(御霊神社の西側から入れます)のやぐらには、梶原景時の墓と伝わる4基の五輪塔があって、景時とその一族の墓とされています。
○「土手谷入口の庚申塔」(梶原1-16)
深沢小学校の校庭の前を流れる大塚川に沿った道を東に向かい、ヤクルト集配所横の道を左斜めに入ります。道なりに100ｍ少々進むと、突き当りの手前の左手の民家入口に２基の庚申塔があります。
○「常盤石塔群」(常盤445)
突き当りを右折してすぐ左折、そのまま路地を道なりにバス道路を横切り、東南方向の常盤口交差点に向かうと、常盤口交差点の手前の常盤変電所の向かいのマンション「フォルム常盤」入口横に、「常盤石塔群」があります。近くから集められた五輪塔などが並んでいます。
○「八雲神社」(常盤534)
バス道路を南東に向かうと「八雲神社」があります。常盤の鎮守で、社殿は治承年間（1177〜81年）に梶原景時の領地であったこの地に、除災を祈願して建立されました。また、慶長年間（1596〜1615年）に矢沢与左衛門光広という人物が熊野社を勧請し八雲神社に合祀したといいます。
【八雲神社の起原】
伝説では、「梶原のはずれにあった加護社のご神体が大水で常盤に流され、それをある農民がひしゃくですくって近くの山へ祀った。それが麦の収穫の季節だったので、麦飯を炊いてお供えした」というもので、これが八雲神社の起こりだと伝えられています。そのため、参拝するときに「常盤の天王、麦天王、竹の子びしゃくで水かけろ」と唱えるしきたりが残されています。
○「円久寺(コスモス寺)」(常盤621)
八雲神社の東隣りに「円久寺」があります。北条義政と七代執権北条政村の屋敷の入口に当たることから、円久寺のある場所は「殿入」と呼ばれていました。寺の裏は、北条氏の別邸「北条氏常盤亭跡」として、約11万�屬�国の指定史跡になっています。本堂の日蓮の坐像は、住職が不在の折には、代わって朝夕のお勤めをしたと伝えられます。秋にはコスモスが咲くことから「コスモス寺」と呼ばれており、夏のサルスベリも見事な寺です。
○「笛田中志房の庚申塔」(笛田3-30)
常盤口交差点まで戻りその先の交番手前から、左手の笛田住宅地を上り上関公園の西側の道を少し上って行くと、右手の笛田公園入口の反対側に、削られてかろうじて残った小山のようなところが見えてきます。今はフェンスに遮られていますが、石段の脇の斜面に9基の庚申塔があります。
○「仏行寺(源太塚)」(笛田3-29)
笛田公園の手前の住宅地まで戻り、南に下って行くと「仏行寺」があります。仏行寺は、源頼朝に信頼された梶原景時の子・源太景季の菩提寺です。梶原父子は、頼朝の死後、御家人の弾劾に遭い、鎌倉を追放され駿河で討死しました。景季が死んだ証として送られてきた片腕が、仏行寺裏山に埋葬され、景季の妻信夫（しのぶ）はその死を嘆き悲しみ、この地で自害したと伝えられています。信夫の霊を慰めるため、村人が仏行寺を建てたといわれています。仏行寺の裏山斜面一面にはツツジが植えられ、安養院と並ぶツツジの名所になっています。
【源太塚としのぶ塚】
裏山に上っていくと墓地奥の丘上に、景季の片腕が埋められていると伝わる「源太塚」があります。また、向いの鎌倉山の見晴バス停近く、夫婦池への下り道途中に「しのぶ塚」(石碑あり)があって、源太塚と向き合っています。
○「三嶋神社」(笛田3-31)
仏行寺の南に三嶋神社があります。大庭御厨を治めていた大庭景親が再建したとされていて、もとは宮ヶ崎という場所にありましたが、「水上に祀れ」という神託によって笛田川の上流の萩の郷に移され、さらに現在の地に移されました。昔は仏行寺に属していた神社であったことから、毎年、正月3が日には仏行寺の僧によって経があげられ、1月15日には題目を唱える習わしがあるのだといいます。鎌倉山の鎌倉山神社は、三嶋神社の分霊を祀ったのがはじまりとされています。
○「鎌倉山神社」(鎌倉山2-27)
三嶋神社を出てすぐ左の道を回り込んで行くと、笛田公園があります。さらに公園から南に向かい、若松バス停の先を左折して南東に向かうと「鎌倉山神社」があります。笛田の三嶋神社の分霊（山の神）が祀られたのが起源で、もともと笛田の農民の鎮守であり、津の漁師の海上守護の神だったといわれています。鎌倉山が住宅地として造成されたことに伴って、昭和10年に社殿が改築され、「山の神」と呼ばれていた社名も「鎌倉山神社」とされました。社殿には、釈迦やかめに乗った摩利支天の木像が安置されています。
○「月影地蔵堂」(極楽寺3-6)
鎌倉山神社を左に見て南に直進し、舗装道路が終わり左の細い尾根沿いの山道に入ります。しばらくして、乗り越しの十字路に出ます。ここから左に下って行くと、極楽寺の奥（西ヶ谷）にある「月影地蔵堂」があります。もとは月影ヶ谷の阿仏尼邸にあったお地蔵さまを、この地に移したのでこの名があると伝えられています。月影地蔵は火災のために、現在の位置に移されたと考えられています。月影地蔵堂は、次の悲しい伝説が伝わります。
《鎌倉時代、露（つゆ）という名の親孝行な娘がいました。母親は北条業時（なりとき）に仕えていましたが、心掛けが悪く、あるとき高価な磁器を割ってしまいました。 露がその疑いをかぶったため、業時は露を呼んで「母が割ったのだろう」とたずねました。しかし、露は「自分です」と言って譲らなかったので、業時は仕方なくふたりに暇を出しました。 母親はあわてて罪を白状しましたが追放され、露は人に預けられました。業時は露に高価な梅小紋の小袖をあたえましたが、母親が持って姿を消し、露は母親と別れた悲しみから病に倒れて、幼くして亡くなりました。人々は露を哀れんで、露が生まれた月影ヶ谷にお堂を建てました。 墓には梅の木苔がびっしりとつき、人々は「梅小紋の小袖を着たかったのだろう」とうわさしたといいます。》
この地は、『十六夜日記』の作者・阿仏尼が相続問題を鎌倉幕府に訴えるため、京の都から出てきて住んだ場所としてもその名を留めています。阿仏尼は「あづまにてすむ所は月かげのやつとぞいふなる。浦近き山もとにて風いとあらし。」と記しています。
○「陣鐘山 (聖福寺跡)」(極楽寺5-39)
ここから極楽寺へと下ってもいいのですが、先ほどの乗り越し十字路まで戻り、極楽寺裏の丘陵を南に稲村ヶ崎方面に向かいます。尾根道は刈り払われてしっかりしており、古道跡のような道が続きます。尾根には細かい堀切や土塁状などが確認できますが、どこが山頂かわからずに通り過ぎてしまいそうですが、このあたりを「陣鐘山」(じんがねやま、聖福寺跡)といいます。
聖福寺は建長6年（1254）、五代執権北条時頼によって、関東の武運長久と二人の息子・時宗と宗政の息災延命を祈願して建立されました。時宗の幼名聖寿丸の「聖」と宗政の幼名福寿丸の「福」をとって、聖福寺と名付けられたといいます。廃寺となった時期は不明。元弘3年（1333）、新田義貞の鎌倉攻めの折、義貞が陣を張ったのがここ聖福寺跡だったといわれ、義貞は背後の陣鐘山に陣鐘を吊るし、陣鐘・陣太鼓を馴らしたことからこの名が付いたといわれます。5月22日、義貞は稲村ヶ崎から鎌倉に進撃し鎌倉幕府を滅亡させました。稲村ガ崎５丁目の正福寺公園内に、聖福寺跡碑があります。
○「日蓮袈裟掛松跡」(稲村ガ崎2-4)
尾根道をなおも南に向かうとやがて右に下り、民家の間を直進して下って行きます。石段を下ると道路に出て、すぐ右手に「日蓮袈裟掛松跡」があります。文永8年(1271)9月12日『立正安国論』を唱えていた日蓮は、幕府に捕らえられ龍ノ口刑場へと連行される途中、この地において、袈裟が血に染まるのは恐れ多いと近くにあった松の枝に掛けたといわれています。現在松はありませんが、石碑によってその姿を偲ぶことができます。
○「十一人塚」(稲村ガ崎1-15)
さらに南西に向かうと、江ノ電踏切の先の左側に「十一人塚」があります。元弘3年（1333）、討幕の挙兵をした新田義貞は、次々に幕府軍を破り鎌倉に迫りました。鎌倉は三方を山で囲まれた天然の要害で、攻め込むことのできるのは、鎌倉七口と呼ばれる切通し。戦いは5月18日から始まり、義貞は極楽寺切通からの攻撃を大舘宗氏に命じました。一方、幕府は極楽寺切通に大仏貞直を配置し防備に当たりました。激戦の末、宗氏は極楽寺切通を突破しましたが、稲瀬川付近で北条軍に反撃され、宗氏以下11人が討死にしました。この11人が葬られたとされるのが「十一人塚」で、十一面観音が安置され11人の霊を弔ったといわれています。『太平記』によれば、大舘宗氏が討死したのは5月19日。それから3日後の5月22日、新田軍は稲村ヶ崎を突破して東勝寺を攻め、北条高時を自刃に追い込みました。
○「稲村ガ崎」(稲村ガ崎1-19)
稲村ガ崎は今、美しい公園になっていますが、有名な古戦場です。元弘3年(1333)の新田義貞の鎌倉攻めの際、鎌倉への突破口となったところです。北条軍の強固な守りにより、新田軍は鎌倉へ攻めあぐんでいました。5月21日の深夜、稲村ガ崎に至り、岩頭に立って竜神に祈ったといいます。義貞は潮の引いたのを見て、6万騎を率いて稲村ガ崎の海側の岸壁沿いに鎌倉へ突入し、この戦いで源頼朝以来150年続いた鎌倉幕府は滅亡しました。
【コッホ博士記念碑】
近代細菌学の祖、ノーベル賞のロベルト・コッホ博士の記念碑。鎌倉海浜公園・稲村ガ崎地区の海につき出す岬の頂き広場に、その記念碑があります。解説板もあります。
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