鎌倉市さんぽ「長谷・極楽寺から高徳院(鎌倉大仏)」
○「極楽寺」(極楽寺3-6)
江ノ電極楽寺駅の北に「極楽寺」があります。正嘉年間（1257〜59年）、正永和尚が深沢に建てた念仏堂を起源としています。極楽寺を建立したのは北条義時の三男・重時で、執権を補佐する連署まで務めた人ですが、政冶に執着することなく、出家してその邸に極楽浄土の姿を現そうとして大寺建立を思い立ち、正元元年(1259)に造営を始めました。ところが工事半ばの弘長元年(1261)に重時は亡くなりました。その子・長時と業時が父の志を継いで完成させました。本尊は釈迦如来。七堂伽藍と49の支院を持つ壮大な寺院でしたが、新田義貞の鎌倉攻めによって焼失し、以後再建を繰り返しましたが、その度に焼失。現在は吉祥院を残すのみとなりました。
【導地蔵堂】
極楽寺入口手前にある地蔵堂は「極楽寺地蔵」とも呼ばれ、文永4年（1267）、極楽寺の忍性が運慶作の地蔵像を安置したのがそのはじまりといわれています。兵火によって当時の地蔵像は存在しませんが、現在の地蔵像は室町時代の作と伝えられています。子育てに霊験あらたかなことから「導き地蔵」と呼ばれてきました。
【極楽寺の庚申塔】
正面の本堂の右手にある宝物館（転宝輪殿）の入口右側に、庚申塔が1基あります。横に「八重一重咲分け桜」があります。
【忍性の墓】
本堂裏から奥之院に続く小道を入って行くと、山の中腹に「忍性の墓」(大きな五輪塔)があります。忍性は弘長2年（1262）、北条業時に招きによって鎌倉に入り、多宝寺に住持した後、文永4年（1267）に極楽寺の開山に迎えられました。以後、37年間にわたって極楽寺にあって、律の布教と慈善救済事業に力をそそぎます。嘉元元年（1303）7月12日に極楽寺で示寂。嘉暦3年（1328）には、後醍醐天皇より菩薩号が許されています。忍性の墓の傍らには、北条重時（北条義時の三男）の墓と伝わる宝篋印塔もあります。4月8日の「花まつり」の日に特別公開されています。
○「熊野新宮」(極楽寺2-3)
極楽寺の東に「熊野新宮」があります。極楽寺の鎮守で、熊野神社、新宮社とも呼ばれます。文永6年（1269）、極楽寺の忍性が熊野本宮を勧請して創建したのが始まりとされます。かつては、極楽寺の境内の中にありましたが、建武2年（1335）に足利直義によって土地が寄進されました。
【熊野新宮の庚申塔】
境内の左手に一群の石塔があり、そのなかに庚申塔が1基あります。
○「極楽寺坂切通(鎌倉七口)」(極楽寺2-1)
鎌倉七口の一つ。鎌倉七口の中では最も西南に位置し、鎌倉市の極楽寺方面から由比ヶ浜方面に抜ける道です。『吾妻鏡』には極楽寺坂切通しの名は見られず、京都と鎌倉を結ぶ重要な連絡路としては、鎌倉時代初期には海岸沿いの稲村路が使われていたと考えられます。しかし、鎌倉時代後半に極楽寺坂が開かれ、以後、主要な交通路となりました。極楽寺の寺伝によれば、同寺の実質的な開祖である真言律宗の僧・忍性が最初に切り開いたとされます。
歴史上、極楽寺坂を有名なものとしたのは、元弘3年（1333）の新田義貞鎌倉討入りです。極楽寺坂切通しは険しい上に、幕府軍がすでに陣を整えて待ちかまえていたために、新田軍はこれを破ることができず、左将軍・大館宗氏はここで戦死します。結局、新田義貞は極楽寺坂切通しの突破は困難と判断し、剣を投じて干潮を祈願したとの伝説を生んだ稲村ヶ崎を通って鎌倉に攻め入り、鎌倉幕府は終わりを告げます。
【上杉憲方の墓】
極楽寺坂上の右(南方)の民家の裏、西方寺址に「上杉憲方の墓」があります。入口の石標が目印です。石塔群のうち、七層塔が三代鎌倉公方の足利氏満の下で関東管領を務めた上杉憲方の墓です。隣の五層塔は憲方の妻のものと伝えられています。極楽寺切通を挟んで反対側の崖には、妻が建てたとされる憲方の逆修塔が残されています（逆修塔とは、生前に建てる供養塔）。
【成就院の庚申塔】
成就院から道路(極楽寺切通)の反対側、山に入る急な階段を少し上ると左手に庚申塔が3基あります。
○「成就院(アジサイ寺)」(極楽寺1-1)
極楽寺切通の南側に「成就院」があります。縁起によると、弘法大師空海が江ノ島に行く途中にこの地で護摩法を修したといいます。承久元年（1219）、北条泰時が辰斎を開山として建立しました。本尊は不動明王で、文覚上人荒行像を有し、縁結び不動明王として親しまれています。参道の石段の両側には、「般若心経」の文字数と同じ262株の「アジサイ」が植えられ、「鎌倉のアジサイの名所」として知られています。山門前からは、由比ヶ浜、材木座海岸が一望できます。
○「星月夜の井(鎌倉十井)」(坂ノ下18)
成就院を過ぎると左手に、鎌倉十井の１つ「星月夜の井」があります。昔、この井の中に昼間も星の影が見えたことから、この名がついたといいます。奈良時代の名僧・行基は、井戸から出てきた光り輝く石を虚空蔵菩薩の化身と思い、お堂を建ててまつったという言い伝えもあります。『北国紀行』に、「われひとり鎌倉山をこえゆけば星月夜こそうれしかりけり」という古歌にも詠まれ、鎌倉の枕詞となっています。法印堯慧という僧は、「極楽寺にいたるほどにいとくらき山間に星月夜というところあり」とあります。『新編相模国風土記稿』には、慶長5年（1600）6月、京からの帰りに徳川家康が星月夜ノ井に立ち寄ったという記録も残されています。星月夜の井の横にある石段の上が虚空蔵堂です。
【星月夜の井の庚申塔】
虚空蔵堂の石段下の右側に、元禄10年(1697)銘の庚申塔があり、正面には梵字で「タータラ」（虚空蔵菩薩をあらわす）、その下に「本尊 虚空蔵菩薩 井」、右側に「あけもやすらん」、左側に「星月井」、また右側面には「ほし月夜の井」とあります。
○「御霊神社(鎌倉江の島七福神)」(坂ノ下4)
鎌倉江の島七福神の一つ。鎌倉付近の平氏5家（大庭、梶原、長尾、村岡、鎌倉）の祖を祀る神社の五霊神社が御霊神社になり、やがて鎌倉権五郎景政だけを祀るようになったと伝えられています。鎌倉権五郎景政は、後三年の役で源義家に従い武勇をあげた武将です。鎌倉権五郎景政の命日が9月18日とされていて、この例祭日には面掛け行列という珍しい行事がおこなわれます。
【御霊神社の庚申塔】
本殿右側に、12基の庚申塔があります。
【御霊神社入口(力餅店前)の庚申塔】
御霊神社の入口(力餅店前)に1基の庚申塔があり、正面に「五霊社鎌倉権五郎景政」、道標のように左側には「はせくわんのんへの道」、右側には「寛政三年(1791)辛亥六月吉祥日 庚申講中」とあります。
○「新宿御嶽神社(大太刀稲荷神社)」(長谷2-20)
御霊神社入口(力餅店前)からさらに東に向かうと、由比ガ浜に出る手前左手に「新宿御嶽神社」があります。元弘3年（1333）の新田義貞の鎌倉攻めに関係した場所らしいのですが、由来は不明。鬱蒼とした境内には3つの鳥居があり、小さな社殿の前には明神鳥居、他の2つは神明鳥居です。また境内には、御嶽大神、三笠山大神、八海山大神などの多くの石碑、庚申塔、石仏などがあります。
【新宿御嶽神社の庚申塔】
鳥居の後ろのすぐ右手に4基の庚申塔があります。
○「収玄寺」(長谷3-15)
少し戻って右折し長谷寺へと向かうと、江ノ電長谷駅の先左手に「収玄寺」があります。二代執権北条義時の孫で、江間光時（北条光時）に仕えた四条金吾（四条頼基）の屋敷跡に建てられた「収玄庵」をはじまりとします。収玄は金吾の法名に由来。文政年間（1818〜29年）、荒れ果てていた庵を安国論寺の日勇が中興したと伝えられています。金吾は熱心な日蓮信者で、日蓮の龍ノ口法難の際には切腹覚悟で刑場に向ったとされます。境内に建てられている「四条金吾邸址」の石碑は、東郷平八郎が揮毫したものです。
○「長谷寺」(長谷3-11)
長谷寺は、天平8年（736）の開創と伝えられ、「長谷観音」の名で親しまれています。奈良の長谷寺に対し「新長谷寺」と呼ばれていました。開山の徳道によって一本のクスノキから彫られたという本尊の「木造十一面観音像」は、高さ9.18ｍで日本最大級。経蔵裏のアジサイは見事で、見晴台からは由比ヶ浜の海が一望できます。
【長谷寺の庚申塔】
境内の鐘楼の右手に、庚申塔が1基あります。
○「光則寺(カイドウ寺)」(長谷3-9)
長谷寺の北側に「光則寺」があります。五代執権北条時頼の家臣・宿谷光則の自邸を寺としました。文永8年（1271）、極楽寺の忍性らに訴えられ逮捕された日蓮が佐渡に流される折（龍ノ口法難）、ともに捕らえられた弟子の日朗が幽閉された地です。その日朗を監視する任に就いたのが、宿谷光則でした。光則は弟子の身を案ずる日蓮に心を打たれ、のちに帰依したと伝えられます。光則寺は、「花の寺」として人気のある寺で、特に本堂前のカイドウは知られています。また、詩人宮沢賢治の活動を支えたのが日蓮宗で、境内には「雨ニモマケズ」の詩碑があります。
【日朗が幽閉された土牢】
裏山には、日朗が幽閉された土牢があって、その傍らには日蓮が日朗に送ったといわれる手紙「土牢御書」（土籠御書）の石碑が建てられています。
○「高徳院(鎌倉大仏)」(長谷4-2)
北に向かうと「鎌倉大仏」のある「高徳院」があります。鎌倉大仏は、高徳院の本尊で青銅製の阿弥陀如来坐像です。伝えられている話では、鎌倉大仏は源頼朝の侍女だった稲多野局が発起し、僧浄光が勧進して造立しました。大仏を造ろうと思い立ったのは源頼朝だったのだといいます。しかし、頼朝はそれを果たすことなくこの世を去ってしまい、頼朝の志を受け継いだのが侍女の稲多野局（いなだのつぼね）でした。北条政子が助力したともいわれています。建立当時には金箔が施されていました。最初の大仏は木造で寛元元年（1243）に完成しましたが、台風により崩壊したため、建長4年（1252）新たに青銅製の大仏の鋳造が始められ大仏殿に安置されました（完成した時期は不明）。大仏殿は高さ40ｍにもなる巨大な建物だったといいますが、明応4年（1495）の「明応の大地震」による津波で流されました（明応7年=1498ともいわれます）。以後、鎌倉大仏は露坐(ろざ)となりました。大仏建立の理由は不明ですが、死者の怨霊を鎮めるためとする説が有力です。高さ13ｍ（台座共）、総重量122トン。
【与謝野晶子の歌碑】
�爐�まくらやみほとけなれど釈迦牟尼は 美男におわす夏木立かな��
鎌倉大仏裏側の観月堂の右横には、与謝野晶子の歌碑があります。鎌倉大仏は釈迦牟尼ではなく「阿弥陀如来」なのですが、歌にするには具合が悪かったのでしょうか。実は、『吾妻鏡』にも「深沢の里に金銅八丈の釈迦如来の像を鋳はじめ奉る」という記載があります。
【高徳院の庚申塔】
大仏さまの境内に入ってすぐ、仁王門より手前の左手に3基の庚申塔があります。
○「甘縄神明宮」(長谷1-12)
長谷寺入口まで戻り東に向かうと、左手に「甘縄神明神社」の入口があります。この神社は和銅3年（710）僧行基の草創によって、由比の長者と呼ばれた染屋時忠が、神明宮と神輿山円徳寺を建立したのがその始まりと伝えられ、鎌倉最古の神社といわれています。源頼義が祈願して、子の八幡太郎義家を授かったと伝えられる源氏と縁の深い神社です。頼義や義家は、社殿を修復したと伝えられ、源頼朝も社殿を修理し荒垣や鳥居を建てたと伝わります。宝物に源義家坐像があり、八代執権北条時宗の「産湯ノ井」が残されています。また、『万葉集』にある「鎌倉の見越の崎の岩崩の君が悔ゆべき心は持たじ」の「見越の崎（みこしのさき）」は、神社裏山の神輿山ともいわれています。鳥居の左側は川端康成邸で、小説『山の音』は長谷を舞台に描かれています。
【安達盛長邸跡】
甘縄神明神社の辺りに安達盛長の屋敷があったとされ、神社境内に石碑があります。『吾妻鏡』には、頼朝が数ある御家人の中でも最も頻繁に訪れています。頼朝にとって、苦労時代を共に過ごした最も親しみのある御家人であったことが想像できます。
【甘縄神明宮の庚申塔】
山腹の社殿にいたる石段のふもとの平場、左奥に1基の庚申塔があります。
○「鎌倉文学館」(長谷1-5)
東に向かうと「鎌倉文学館」があります。鎌倉ゆかりの文学、特に鎌倉文士をテーマにした鎌倉市立の資料館です。建物の洋館は、加賀百万石で有名な旧前田侯爵家の鎌倉別邸として建てられ、戦後はデンマーク公使が別荘として借用し、昭和39年からは佐藤栄作元首相が借りて、亡くなる前まで週末別邸として使用しました。
○「庚申塚と盛久頸座の碑」(長谷1-7)
なおも東に向かうと、「庚申塚」と「長谷盛久頸座の碑」があります。中央部分に3基の庚申塔が並び、左右は盛久頸座の碑があります。主馬盛久は、京都清水寺の観世音信仰の功徳で首を斬られる寸前に源頼朝から赦免された平家の武者です。
○「吉屋信子記念館」(長谷1-3)
庚申塚の北方に「吉屋信子記念館」があります。吉屋信子の旧居で、赤壁の築地塀をめぐらし門前に石標が立っており、生前愛用されたものなど市に寄贈したものを展示しています。4・5月、10・11月に公開。
○「和田塚」(由比ガ浜3-5)
江ノ電和田塚駅の南に「和田塚」があります。鎌倉時代の有力御家人である和田一族の戦没地だといわれており、ここで鎌倉に残る唯一の高塚式古墳で土器や埴輪も出土しています。明治の中ごろまでは「無常堂塚」と呼ばれており、明治25年、道路建設のために塚の一部を掘り返したところ、おびただしい数の人骨が出土しました。その人骨は「和田合戦」のものだろうと推測され、この地に「和田一族戦没地」の石碑が建てられました。石碑の背後には、多くの石塔がやや乱雑に並んでいます。和田合戦は、健保元年（1213）5月に、和田義盛（わだよしもり）が幕府の実権を握っていた北条義時（ほうじょうよしとき）を討つため起こした戦いです。同族の三浦義村（みうらよしむら）の裏切りにより、和田軍が敗北し和田一族は滅亡しました。
○「海浜公園」(由比ガ浜4-9)
和田塚から南に「鎌倉海浜公園」があります。由比ヶ浜、稲村ヶ崎の海岸線に面しています。
【由比ガ浜海水浴場】(由比ガ浜4丁目)
約900m続くビーチは、鎌倉エリア屈指の広さを誇り、例年幅広い利用者で賑わいを見せます。砂浜には、個性豊かなサービスを展開する海の家が並びます。
○「若宮大路」(由比ヶ浜2.4丁目)
若宮大路（わかみやおおじ）は、神奈川県鎌倉市の由比ヶ浜（滑川交差点）から鶴岡八幡宮に通じる参道です。下馬交差点に説明板があります。
【鎌倉簡易裁判所の首塚】
由比ヶ浜から一の鳥居に向かうと、右手の鎌倉簡易裁判所の敷地内に供養塚「首塚」があります。簡易裁判所を建築する際に千体を超える人骨が発見され、新田義貞の鎌倉攻めの犠牲者のものではないかと考えられています。
【畠山重保の墓(宝篋印塔)】
一の鳥居の西側傍らに建つ宝篋印塔は、畠山六郎重保(畠山重忠の嫡男)の墓と伝えられ、明徳6年（1393）の銘の石塔があります。
【浜の大鳥居跡】
一の鳥居北側の由比ガ浜歩道橋の下に「浜の大鳥居跡」があります。平成2年の発掘調査によって発見された柱痕は、戦国時代に北条氏康によって造立された鳥居のものである可能性が高いといいます。そして、この柱痕の発見によって当初鳥居が建てられた場所は、現在の一の鳥居より鶴岡八幡宮よりにあったと考えられています。
【琵琶橋(鎌倉十橋)】
さらに北へ下馬交差点へと進むと、鎌倉十橋の一つ「琵琶橋」があります。滑川へと注ぐ手前の佐助川に架けられています。その昔、一の鳥居から二の鳥居の間が「琵琶小路」と呼ばれていたことから、この名が付いたと伝えられています。琵琶小路という名称は、この道が外に彎曲していたため、それが琵琶の胴の曲線に似ていたことから付けられたのだといいます。
【下馬交差点】
鎌倉時代、現在の下馬四ツ角から鶴岡八幡宮までは馬の乗り入れが許されず、参拝するときはここで馬を下りました。かつては、佐助川に架かる橋があって「下の下馬橋」と呼ばれており、現在、下馬四ツ角付近にその橋が復元されています。下馬橋は３つあって、源平池にかかる橋を「上の下馬橋」、二の鳥居付近の扇川に架けられていた橋を「中の下馬橋」、そして下馬四ツ角の橋が「下の下馬橋」と呼ばれていました。
【鎌倉事件】
元治元年（1864）11月20日、下馬で江ノ島・鎌倉見物にきていた英国人軍人ボールドウィン少佐とバード中尉の二人が、下馬橋で殺傷されるという事件が起きました（鎌倉事件）。事件を起こしたのは攘夷浪士の間宮一と清水清次ですが、二人はすぐに逮捕され処刑されています。
ログインしてコメントを確認・投稿する