鎌倉市さんぽ「鎌倉アルプスハイキング(建長寺半僧坊〜瑞泉寺)」
◎『鎌倉アルプスハイキングコース』
鎌倉は南を海に、三方を山で囲まれています。その北東・横浜市との境にある山々は「鎌倉アルプス」と呼ばれています。アルプスというからにはすごく高い山があるのか思いきや、最高峰は大平山の159.2m(この一帯が天園と呼ばれています)で、アルプスというより丘陵(途中岩稜)歩きになります。建長寺から瑞泉寺までの約3.5kmが、鎌倉最長の「天園ハイキングコース」になります。途中の十王岩の展望は「かながわの景勝50選」で、天園休憩所からは大パノラマを楽しむことができます。
○「建長寺」(山ノ内8)
建長寺は、鎌倉五山の第一位。建長5年（1253）五代執権・北条時頼によって、南宋の蘭渓道隆(らんけいどうりゅう・大覚禅師)を招いて建てられた、日本で最初の禅宗の専門道場です。建長寺の建っている場所はもともと処刑場であり、地獄谷と呼ばれていました。かつては地蔵菩薩を祀る心平寺というお寺があり、建設が始まった頃に地蔵堂が残っていたことから、建長寺の本尊も地蔵菩薩とされました。『吾妻鏡』によれば、建長3年（1251）11月8日に事始が行われ、2年後の建長5年11月25日に供養が行われています。開山の蘭渓道隆は、宋の厳格な禅風をそのまま持ち込み、境内は塵一つなく掃き清められていました。掃除の行き届いている様子を「建長寺の庭を竹箒で掃いたようだ」といいますが、この言葉に建長寺の修業の厳格さをうかがい知ることができます。道隆の書いた指導書「法語規則」は国宝で、道隆はその死後、後宇多天皇より日本で初めてとなる「禅師号」を授けられています。ちなみに鎌倉五山とは、建長寺・円覚寺・寿福寺・浄智寺・浄妙寺の五つ寺のことです。
【川村瑞賢の墓】
半僧坊に向かう途中で左の横道に入ると、江戸時代の豪商で海運や治水に大きな功績を上げた川村瑞賢の墓があります。道の先は広場になっていて、川村瑞賢がその子・川村墨斎とともに眠っています。
【半僧坊大権現】
建長寺の方丈裏を進み長い石段を上ると、建長寺の鎮守「半僧坊大権現」があります。後醍醐天皇の皇子「無文元選禅師」（むもんげんせんぜんじ）が開いた静岡県浜松市にある方広寺が半僧坊の本元です。禅師につき従っていた男が、薪採りや水汲み・食事の仕度をしていたので、「飯僧」と呼ばれ、のちに半僧坊と呼ばれるようになったといいます。この男は、禅師が中国での修行を終え帰国する途中で嵐に遭った際に禅師を助けたといわれています。
【勝上山(献)展望台】
さらに急な石段を上ると、「勝上山(献)展望台」になります。展望台からは、建長寺の伽藍や相模湾・富士の景色を楽しむことができます。この裏手から、鎌倉アルプスの尾根を歩く「天園ハイキングコース」が始まります。
○「十王岩(標高147ｍ)」
しばらく行くと「十王岩」があります。岩の表面には、像が三体並んで十王像が彫り込まれています。夜毎不気味な音をたてていたことから、「喚き十王」とも呼ばれていました。ちなみに、十王とは地獄で亡者の審判をする裁判官役の尊格で、閻魔様のほか9人もいます。建長寺のある場所が地獄谷と呼ばれる刑場だったことから、地獄谷で処刑された者の嘆き声だと恐れられていたといいます。十王岩からの展望は、稲村ヶ崎、光明寺裏山の展望、江ノ島稚児ヶ淵とともに「かながわの景勝50選」に定められています。
【朱垂木やぐら群】
天園ハイキングコースから十王岩下の古道に入ると、約50穴からなる「朱垂木やぐら群」があります。その中央にあるのが「朱垂木（しゅだるき）やぐら」と呼ばれるもので、羨道の天井に紅殻（べんがら）塗りの平行線が描かれていて、儀式を行うためのやぐらだったと考えられています。
○「鷲峰山(標高127ｍ)」
覚園寺分岐を過ぎると、左手の小高い茂みの中に薬師如来像が見えます。注意してないと、通り過ぎてしまいます。ここは、覚園寺の裏山「鷲峰山」(しゅうぶせん)の頂上で、鷲峰山という名は釈迦説法の地として名高いインドの山になぞらえ付けられたといいます。像の下のやぐらには、首が破壊された石像が数体並んでいます。
○「太平山(標高158ｍ)」
なおもコースを東に向かうとゴルフ場に近づき、太平山頂が近くになると鎌倉では岩盤の上を歩くコースは珍しく、鎌倉アルプスと呼ばれる理由も分かる気がします。太平山は標高159.2ｍで、鎌倉市の最高地点になっています。鎌倉の三方を囲み、古都鎌倉を敵の侵入から守ってきた山並みの上です。市街地の中心部を見下ろしながら、鎌倉に都を築いた源頼朝の思い、自然の地形を利用してきた人々の歴史に思いを馳せてみるのに好都合の場所です。
○「天園(六国峠、標高159.4ｍ)」
なおも行くと「天園」の茶店があります。天園とは、鎌倉最高峰の大平山一帯のことをいい、安房・上総・下総・武蔵・相模・伊豆の国々を望むことができることから、「六国峠」と呼ばれてきました。江戸時代には巡礼道として整備されていたものと考えられています。天園の茶店の標高は159.4ｍで、横浜市の最高地点になっています。天園の名は、日露戦争で連合艦隊を率いた東郷平八郎が付けたといわれます。茶店より少し下った天園休憩所では、ゆっくりと食事もできます。また、ここからは金沢自然公園・金沢文庫へのコースも分れています。
【獅子舞の谷】
天園展望台を鎌倉側に下ると、紅葉の名所「獅子舞の谷」があります。獅子舞は、鎌倉でも有数の紅葉・黄葉の名所で、11月下旬頃からイチョウの黄葉が見頃を迎え、カエデの紅葉は12月上旬頃からが見頃になります。
○「天台山(標高141.3ｍ)」
さらに南に瑞泉寺へと向かうと、貝吹地蔵へと下る手前、道標はありませんが右手に入ると「天台山」があります。標高141.3ｍの山頂は、低い木が茂り展望は今一つといったところです。『新編鎌倉志』には、次のように記されています。
《天台山は瑞泉寺の北の高山を名く。此山を天台山と號する事、何の代に名けたると云事不知。記録もなく、古老も知れる人なし。今按ずるに、将軍家の屋敷よりは、東北にて、鬼門に當るゆへに、京都の天台山に似て名たる歟。山頂に登れば、金澤、并に江戸の海上、道中筋まで見るなり。山の北の谷に長者窪と云所あり。古事未考。》
○「貝吹地蔵」
天台山から少し下ると、瑞泉寺裏山辺りに「貝吹地蔵」があります。ほら貝を吹いて、新田勢が攻め寄せてきたことを知らせたという地蔵です。元弘3年（1333）の新田義貞の鎌倉攻めで、東勝寺で自害した北条高時の首を、新田軍に渡してはなるまいと逃げまわっていた家来がいました。しかし、新田軍の追手が迫り逃げ場を失ってしまいます。そこへ地蔵が現れて、貝を吹き鳴らしながら瑞泉寺の裏山に案内してくれたといいます。そのおかげで、高時の首を無事埋葬することができたという伝説が残されています。また、地蔵がほら貝を吹いて、新田勢が攻め寄せてきたことを知らせたとも伝えられています。
【偏界一覧亭】
貝吹地蔵から瑞泉寺方面へ向うと、右側に瑞泉寺の「偏界一覧亭」の裏に出ます。フェンスの中なので入って見ることはできませんが。夢窓疎石が嘉暦3年（1328）に庭園の山上に建立したもので、富士を正面に望む景勝の地だったといいます。ここで、鎌倉五山の僧が集まり詞会を開いたといわれています。�狒阿發泙申鼎覆觧海琉辰砲� 梢に続く庭の白雲�瓩蓮∩太个�この亭で詠んだものと伝えられています。その後、荒れ果てた偏界一覧亭をみた徳川光圀（水戸黄門）が堂を建て、そのそばに東屋を造り「一覧亭集詩板」を掲げたといいますが今はありません。光圀は、ここで『新編鎌倉志』を編纂させたといわれています。
【北条首やぐら】
偏界一覧亭の周辺には、多くの伝説が残されているだけあって、北条高時をはじめとする北条一族を葬ったとされるやぐらが多数存在します。偏界一覧亭の先に、北条高時の首を葬ったとされる「北条御一門御廟所」（北条首やぐら）があります。五輪塔や板碑などが、浮彫りされているものもあります。
【お塔やぐら（お塔の窪やぐら）】
またコースではありませんが、貝吹地蔵の下から番場ヶ谷へと向かう谷に、「お塔やぐら」（お塔の窪やぐら）があって、ここも北条高時の首を葬ったやぐらと伝えられています。中央の五輪塔が高時の供養塔といわれており、周りを囲む宝篋印塔は籾塔と呼ばれ五穀豊穣を祈るためのもので、鎌倉では珍しいものです。
○「瑞泉寺」(二階堂710)
ハイキングコースを下りきって、右に向かうと「瑞泉寺」があります。鎌倉公方（鎌倉府の長）の菩提寺として、鎌倉五山に次ぐ関東十刹に列せられた格式のある寺院です。夢窓疎石（国師）の開山で、嘉暦2年（1327）幕府の御家人二階堂道蘊（引付頭）が国師のために建立した瑞泉院がはじまりといわれ、鎌倉公方となった足利基氏が中興して瑞泉寺としました。足利基氏以降、代々鎌倉公方の菩提寺として栄え、関東十刹第一位の格式を誇り、塔頭も十二院を数えたといいます。江戸時代には、徳川光圀が千手観世音を寄進しています。
【瑞泉寺の庭園】
国師作の禅の思想に基づいた庭園は、書院庭園の起源ともいわれ国の名勝に指定されています。
【瑞泉寺の庚申塔】
瑞泉寺の参道(荏原天神社御旅所)に１基、境内に１基の庚申塔があります。
○「永福寺跡」(二階堂217)
西に向かい二階堂に架かる通幻橋を過ぎると、右側に広がる草原は「永福寺(ようふくじ)跡」です。源頼朝は、鎌倉に3つの大きな寺院を建立しました。一つ目は鶴岡八幡宮、二つ目は勝長寿院、三つ目は永福寺です。かつて源義朝が、戦死した義経ら武将の魂を鎮めるために、ここに平泉の中尊寺を模して荘厳な寺院を建立したといわれますが、応永12年（1405）に火災で消失し今はその面影もありません。昭和41年に国の史跡に指定され、平成14年には鎌倉時代の林の様子を再現するため、周辺の斜面にクロマツやヤマザクラが植えられ、現在、寺院跡の反り橋の架けられた池、中尊寺の大長寿院を模した荘厳な二階堂を中心に、薬師堂、阿弥陀堂など復元が行われています。完成が待ち遠しいです。ちなみに、このあたりの地名「二階堂」は永福寺の二階堂からきています。石碑には次のように記されています。
《永福寺世ニ二階堂ト稱ス 今ニ二階堂ナル地名アルハ是ガタメナリ 文治五年 頼朝奥州ヨリ凱旋スルヤ彼ノ地大長壽院ノ二階堂ニ擬シテ之ヲ建立ス 輪奐壮嚴洵ニ無雙ノ大伽藍タリキト云フ 享徳年間關東管領ノ歿落セル頃ヨリ後 全ク頽廢ス》
○「護良親王の墓」(二階堂754)
永福寺跡から南に向かうと「護良親王の墓」があります。護良親王は、「建武の新政」を行なった後醍醐天皇の第三皇子。11歳で延暦寺の大塔に入室したことから、「大塔宮」（おおとうのみや）とも呼ばれています。そのため、親王を祀る鎌倉宮も大塔宮と呼ばれます。護良親王は、楠木正成らとともに鎌倉幕府打倒を目指して戦い、幕府滅亡後には征夷大将軍に任ぜられましたが、足利尊氏と対立し建武元年（1334）11月15日、東光寺に幽閉されました。幽閉されてから9ヶ月後、建武2年（1335）7月十四代執権北条高時の遺児時行が反乱（中先代の乱）を起こしたため、当時鎌倉にいた足利尊氏の弟の直義は、淵辺義博に命じ護良親王を殺害しました。護良親王は義博の刀を噛み折り、死んでもなお放さなかったことから、恐れをなした義博は首を捨てて逃げ去ったといいます。捨てられた護良親王の首は、理智光寺の住僧によって葬られたと伝えられています。明治天皇によって創建された鎌倉宮には、護良親王が幽閉されていたという土牢が残されています。
○「鎌倉宮(大塔宮)」(二階堂154)
「鎌倉宮」は、後醍醐天皇の第３皇子・大塔宮護良親王（おおとうのみやもりながしんのう）をまつっています。そのため「大塔宮」ともいいます。明治２年、明治天皇によって創建された、比較的新しい神社です。護良親王は、後醍醐天皇を助けて建武の新政のために力を尽くしましたが、足利尊氏の謀反にあい、建武元年(1334)、囚われの身となって東光寺の土牢に幽閉され、翌年７月11日、尊氏の弟の足利直義に暗殺され、28歳でこの世を去りました。 鎌倉宮は、その東光寺の跡地にあたります。後日談があり、護良親王の世話をしていた藤原保藤の娘、南方（みなみのかた）が、護良親王の死後に出産。その子が成長して日蓮宗の僧、日叡となり、日蓮をしのび、父、護良親王をとむらうために妙法寺を興しています。
【護良親王が幽閉された土牢】
鎌倉宮には、護良親王が幽閉されていたという土牢が残されています(拝観料必要)が、実際に幽閉されたのはこのような岩窟ではなく、土蔵造りの牢屋だったとも考えられています。
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