横須賀市さんぽ「田浦町・田浦梅林からがらめき(浦賀道の切通し)」
○「JR田浦駅周辺」(田浦町1-6)
明治22年、横須賀線がこの海岸近くの谷間をとおり横須賀へと通じ、JR田浦駅ができたのは日露戦争が激しさを加えてきた明治37年のことで、駅舎は海側だけでした。大正7年に海軍の水道トンネル、昭和2年に国道が開通してから、この谷戸も急激に家屋が建てられるようになりました。JR田浦駅はホームが約200ｍしかないため、11両編成の場合は先頭車がトンネル内に停車し、全国的にもめずらしい駅として鉄道マニアにも知られています。
【JR七釜トンネル】
JR田浦駅の久里浜側の「七釜トンネル」は、横須賀線の人気のトンネルの一つです。この付近は失鎌（しっかま）といいますが、蒸気機関車の「釜を失う」をきらい、当て字の「七釜」に変えたと伝えられています。明治、大正、昭和と3代のトンネルがあります。一番古いのは中央のトンネル（下り線）で、横須賀線開通の明治22年に完成。次は大正13年の複線化により増設されたレンガ造り（上り線）。一番新しいトンネルは、昭和18年の戦時中に造られた軍需輸送専用の引込み線で、いまは廃線となっています。
【JR田浦駅前の桜】
JR田浦駅(南口)前には、八重咲きの里ざくらの一種の「御衣黄」（ぎょいこう）の桜が見られます。樹齢約50年。4月下旬が見ごろで、あたりの桜が葉桜となるころ咲くので見すごしやすいです。
○「海軍通信教育発祥記念碑」(田浦港町)
JR田浦駅の北西にある海上自衛隊第2術科学校内に、「海軍通信教育発祥記念碑」があります。明治34年無線電信術の教育を、日本ではじめて行った記念の地として建立されました。
【海軍上等兵曹・上崎辰次郎之碑】
海上自衛隊第2術科学校内に、「海軍上等兵曹・上崎辰次郎之碑」があります。明治28年日清戦争のときに、清国の北洋艦隊を攻撃するため、上崎上等兵曹は水雷艇に乗り威海衛の港に突入しましたが、不幸にも敵艦の目前で発射管が寒さのため凍りつき、魚雷を発射することができませんでした。この責任を感じた上崎上等兵曹は、一度は班長の鈴木貫太郎（後の大将、首相）にとめられながらも、艇内で自決。この忠勇義烈な死をとげた故人の碑は明治29年市内の竜本寺に建てられましたが、昭和3年国道沿いの現在の横須賀基督教社会館近くの田浦派出所わきに移され、昭和43年現在地に再移転しました。
○「田浦神明社」(田浦町2-79)
海上自衛隊第2術科学校の正門の南、横須賀線の田浦踏切に隣接して、旧村社の「田浦神明社」があります。祭神は御食津神（みけつのかみ）ほかで、正長元年（1428）に祀られたと伝えられています。神明社はもと田浦町5丁目にあり、大正8年もと御霊社の境内であった現在地にうつり、このとき社殿を改築し境内も広くしました。境内にある3本のイチョウの木は、鳥居の代わりに植えられたといいます。
○「静円寺」(田浦町3-96)
横須賀線の田浦ガードに近い山腹に「静円寺」があります。本尊は三宝祖師。開山は永禄10年（1567）に亡くなった法泉院日保で、寺の創建については天文年間（1532〜55年）といいます。開基は、石川清右衛門と伝えられています。
【馬頭観音堂】
静円寺の下に、安政5年から明治に建てられた「馬頭観音堂」が残っています。
【轢死者・溺死者追弔塔】
静円寺踏切のわきにあります。列車にひかれて亡くなった人や水の事故で亡くなった人の霊をなぐさめるため、大正13年9月に石碑が建てられました。
○「御嶽稲荷神社」(田浦町3-16)
国道16号線を少し戻り田浦小学校方面への道を行くと、右手に古い庚申塔があり、そのすぐ先に赤い鳥居が見えます。これが「御嶽稲荷神社」で、もともと静円寺の鎮守として境内にあったものを、明治のはじめの神仏分離令により現在地に移されました。
【御嶽稲荷神社脇の庚申塔】
御嶽稲荷神社脇に、4基の庚申塔があります。一番古いものは、三猿が刻まれている延宝4年（1676）に建てられたもので、田浦泉町と田浦小のそばにあったものを現在地に移しました。
○「長善寺」(田浦町2-42)
京浜急行のガード近く、旧浦賀道ぞいに「長善寺」があります。寺が開かれたのは永禄元年（1558）といわれ、開山は天正4年（1576）に亡くなった嘆蓮社讃誉長善（たんれんしゃさんよちょうぜん）といわれます。本尊は阿弥陀如来像。寺には、室町時代前期の地蔵菩薩像や古文書など貴重な文化財があります。また境内にある不動明王像は、三浦道寸の守り本尊で、落ち武者の菩提を弔うために安置したといわれています。ここは、太田坂から旧浦賀道の難所・十三峠の山越えに備えるところでした。
【鈴木明仙句碑】
長善寺境内に、俳人鈴木明仙の次の句碑があります。
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○「田浦梅林」(田浦泉町92)
さらに南に向かうと「田浦梅林」があります。昭和9年皇太子殿下（現在の天皇陛下）のご生誕を記念して、700本の梅を植樹したことにはじまります。面積は約6000�屬△蝓∋葦哉湘腓任燭世劼箸弔稜瀘咾箸靴特里蕕譴討い泙后８什澆任浪�須賀市の管理になっていますが、昭和57年ごろからこの梅林に隣接して、田浦緑地（現在は田浦梅の里）に市が梅の植樹を行い、いまでは青軸・白加賀の白梅・養老の紅梅など約2700本の梅の花を楽しむことができる三浦半島随一の梅の名所となっています。2月中旬から3月中旬のころは大変みごとで、例年約4万人もの梅見の客で終日にぎわいます。
【田浦梅の里の広場】
京急線ガードわきから山道をのぼりつめると、田浦梅林をとおって頂上近くの広場に出ます。長浦湾から東京湾まで一望することができる眺めのよいところです。横須賀市では、昭和57年4月に「田浦緑地」（現在は田浦梅の里）として開園しました。その後、昭和61年には「青少年自然の家」も完成しました。
【田浦青少年自然の家】(田浦大作町33−1)
田浦梅の里の山頂付近にあり、キャンプ場があります。近くには展望台や芝生広場もあり、市内のアウトドア派や家族づれに好評です。
【田浦緑地記念碑】
梅の里の広場にある「田浦緑地記念碑」は、昭和61年に建てられました。
�狹擇慮撞曚鯣�で感じる丘の広場に 私は翳りなき魂の故里をみる��
こう書かれた碑のある田浦梅の里は、昭和51年、碑の表に刻まれた詩の作者・石川宏さんが横須賀市に寄付された、山林約36万�屬鮹羶瓦紡だ�・整備されました。石川さんは先祖代々、地元の田浦町に住む大学教授、詩人です。
○「旧海軍の標柱(水道みち)」(田浦町5丁目)
国道16号線まで戻り、横須賀線の田浦ガードの先で左折して、横須賀線が通る田浦町5丁目の谷戸の奥にある盛福寺に向かうと、国道16号線から「水道みち」となり、盛福寺の前を通り逗子市に向かっています。明治に軍艦の製造が盛んになると、横須賀では走水からの水道だけでは不足し、相模川の支流の中津川からも補給することになり、逸見浄水場が造られました。そして、水源地の愛川町半原から逗子市沼間を経て、田浦、長浦、逸見までの水道管を明治45年から10年間かけて敷設しました。現在、京急ガード下までの道路沿いに数ヶ所、海軍水道の敷地の境界を示す「海」を刻む石柱が残されています。
○「盛福寺」(田浦町5-51)
旧浦賀道ぞいの水道みちを行くと、田浦山トンネル手前の右手に「盛福寺」があります。江戸時代初期に円覚寺管長の隠居寺として建てられ、元禄3年（1680）ごろに七堂伽藍が建立されましたが、二度の火災で面影を残すのは山門だけとなりました。開山は、延宝元年（1673）に亡くなった玉峰法葩（ぎょくほうほうは）和尚と伝えられています。本尊は釈迦如来座像。山門わきには六地蔵と石仏が46体も並んでいます。
【松竹庵酔月句碑】
石仏の後ろに、俳人・松竹庵酔月句碑があります。昭和17年、船越の松竹庵梅月の死後、梅月に師事していた酔月（本多隆）が2代松竹庵を受け継ぎ、太平洋戦争中にもかかわらず俳道の再興に努めました。昭和27年、盛福寺前の自分の庵で亡くなりました。
【盛福寺の庚申塔】
松竹庵酔月句碑の右に、貞享4年（1687）の庚申供養塔があります。
【田浦稲荷】
盛福寺境内右手に田浦稲荷があります。古老によると、地元では「石宮」と呼んでいたといいます。この稲荷は昔、城の台にあり、この地に屋敷をかまえ住んでいたとされる鎌倉時代の武将・秋田城之介義景の守り神だったといいます。慶長年間（1596〜1614）に、盛福寺の守り神（鎮守）として境内右側の小高い場所に移されました。
○「田浦山トンネルと盛福寺管路トンネル」(田浦町5丁目)
盛福寺の前の水道みちを逗子市に向かうと、「田浦山トンネル」があります。かつて、旧海軍の軍事的な役割として欠かせないトンネルは、水道専用のトンネルとして建設し、大正11年に完成後、海軍から民間の通行が許されました。後ろの山側にある盛福寺管路トンネルと、同時の完成と伝えられています。
盛福寺管路トンネル（田浦〜沼間）は、田浦山トンネルの逗子（沼間）寄りのところにあります。掘さくは大正の初期で、中津川から横須賀軍港へ水を引く海軍専用の水道トンネルとして掘られ、素ぼりのせまいものでした。住民が通行できるようにと海軍に要請し、大正11年許可され昭和3年まで通行できました。現在は横須賀市に移管され、中には入れませんが手前まで行くことはできます。
【田浦観音堂】
盛福寺前の水道トンネルを出て、右側の階段を登ると駐車場に出ます。さらに階段を上ったところに、杉林に囲まれひっそりと観音像を祀った「田浦観音堂」があります。昔、このあたりには守り神として馬頭観音が祀られていましたが、戦前、軍がトンネルを作るとき埋めてしまいました。戦後になって、田浦在住の婦人がある夜、観音様が夢まくらに立ち、埋められたところがわかりました。その人が成田山の住職に相談し、田浦観音と名づけた像を彫ってもらいました。昭和36年にお堂が完成し、稚児行列をくりだして観音様を奉納しました。
【JR沼間トンネル】
田浦町4丁目にあるのが、JR横須賀線の沼間トンネル（逗子市沼間〜田浦）です。横須賀線は明治22年横須賀−大船間が開通し、このトンネルも同時に完成しました（現在下り線）。大正13年の複線化に向けて、大正9年に完成したトンネル（現在上り線）と並んでいます。レンガ積みのレトロ感あふれるトンネルです。
○「互楽館跡」（田浦町4-6付近）
国道16号線まで戻ると、現在の関東自動車工業本社前に互楽館跡があります。互楽館は田浦の演芸常設館で、定員は437人。活動写真や芝居・浪花節などの演芸を見せました。昭和20年6月、旧海軍水雷学校正門前周辺が建物疎開の地域に指定され、このとき互楽館も取り壊されました。
○「海軍水雷学校跡碑」(田浦港町)
国道16号を北に向かうと、船越トンネルの手前、右手長浦湾沿いには現在関東自動車工業（株）があります。この関東自動車と隣の海上自衛隊第2術科学校をふくめて、「旧海軍水雷学校」の敷地でした。水雷学校は、明治12年横須賀に水雷術練習所を設置したことにはじまり、その後、明治19年水雷術練習艦の「迅鯨」を長浦湾の鯛ケ崎（現在の関東自動車工業の岸壁近く）の近くにおき、陸上にも講堂をつくって練習をひろげました。明治37年、庁舎や兵舎などを現在の関東自動車工業（株）構内に新築移転し、明治40年名称も海軍水雷学校となりました。明治37、8年の日露戦争で活躍した広瀬中佐も、練習所時代のこの学校に入り、練習艦迅鯨で水雷術を学んでいたといいます。昭和20年8月15日、終戦により海軍水雷学校は廃校となります。昭和58年、関東自動車工業本社前に、この「海軍水雷学校跡碑」が卒業生や関係者によって建てられました。
【田浦船着き場跡】
昔、現在の関東自動車工業の海岸の角に、吉倉や榎戸・深浦に行く渡し船の船着き場がありました。吉倉・逸見方面に行くには、陸路を浦賀道で十三峠を越えるしかありませんでした。このため、明治20年ごろ吉倉運輸によって、吉倉−榎戸間（40分）の渡船ができました。当時、渡船は、浦郷はもちろん六浦や金沢から横須賀への往復のただ一つの交通機関でした。明治の終わりごろ、5、6隻の船でかなりの利用者があったといいます。しかし、明治37年にJR田浦駅ができ、また大正7年には海軍水道トンネルが一般の人たちの通行が許可されたため、しだいに田浦の渡船発着場の利用者が少なくなり、大正8年に廃止になりました。
○「旧船越トンネル」(港が丘6丁目)
田浦側からみて国道16号の下り線の船越トンネル入口の右手には、明治26年に掘られた素掘りの小さな「旧船越トンネル」（当時は田浦トンネルという）があります。入り口はレンガ積みで、「船越隧道」と書かれた古い銘板が残っています。このトンネルにより、田浦と船越は一本の道路で結ばれ山越えをする必要もなくなり、田浦方面から船越へ買物に来る人や造兵部へ通う人たちは大変楽になったといいます。この素掘りのトンネルは、現在の船越トンネルができるまで大事な交通路として使用されていました。大正12年に現在の船越トンネルが開通しました。
【大震災殃死者群霊宝塔】
素掘りの旧船越トンネル入口わきに、「大震災殃死者群霊宝塔」があります。大正12年の関東大震災で、トンネル内の落盤のため亡くなった人の霊をなぐさめるため、大正13年9月に石碑（供養塔）が建てられました。
○「景徳寺」(船越町1-61)
船越トンネルを出た右に「景徳寺」があります。開山は、応安2年（1369）に亡くなった鎌倉建長寺の仏観禅師清山とされています。現在の北部共済病院の山腹にあった「宝珠庵」（ほうじゅあん）の十一面観音像を本尊として迎えました。この観音には次のような言い伝えがあります。昔、この観音が朱漆（しゅうるし）の船にのられて船越の入り江に着いたのを、土地の人がひろい上げておまつりしたのが宝珠庵で、観音様が舟でお越しになったので、地名を「船越」と呼んだといわれています。
【景徳寺の庚申塔】
本堂裏に地蔵堂と馬頭観音塔群がありますが、その地蔵堂の中の右端の地蔵塔が寛文6年（1666）銘の庚申塔です。
○「船越神社」(船越町1-11)
景徳寺門前の国道16号線の道路をへだてた丘の上に、「船越神社」があります。祭神は速玉之男命(はやたまのおのみこと）と大山咋命（おおやまくいのみこと）。景徳寺境内にかってあった宝珠庵の守護神社で、地主神としてまつられていた旧熊野社が、明治3年神仏分離によって現在地に移され独立しました。昭和9年に熊野社を船越神社と改めました。船越神社の社殿の左側にあった樹齢160年といわれた大銀杏は、御神木として氏子によって長年守られてきましたが、大木となり根が張って社殿などの建物に差し障ることとなり、残念ながら平成14年伐採されました。この大銀杏に代わる御神木として、本社である熊野大社の地方でも御神木とされる常緑樹の梛（なぎ）が植えられました。
【船越神社の庚申塔】
境内の北側に建屋で覆われて5 基の庚申塔がありますが、庚申塔は風化が激しくて一番左の１基しか年代が見えません。
○「旧海軍工廠造兵部跡(東芝ライテック)」(船越1丁目)
船越神社の北東にある東芝ライテックの工場は、旧海軍工廠造兵部の機銃工場跡でした。外からしか見えませんが、当時の面影があります。数少ない本格的な洋風工場建築として貴重なものです。
○「梅田トンネル」(浦郷町〜船越町)
日向トンネルの北に「梅田トンネル」があります。浦郷(北)側に「梅田隧道之碑」（大正4年建立）があります。明治19年、船越新田から田浦村および浦郷村にかけて、海軍水雷営と水雷修理工場ができ、田浦、船越、浦郷の海岸はほとんど海軍用地となって立入禁止となり、船を使うことができなくなったため、けわしい山坂をさけて梅田坂に新道をつくることになりました。明治20年に監獄の服役囚延べ4千人を使い、素掘りで開通しました。全長204m 幅5m。また、トンネルの掘削で出た残土は、榎戸の渡船場周辺から日向にかけての埋立てに利用されました。
○「浦郷トンネル上のがらめき(浦賀道の切通し)」(船越町5丁目)
国道16号線の「浦郷トンネル」下り線の手前、右手(合気道の看板あり)に上がる石段がありこれを上ります。急な石段を上って行き、最奥の民家の左側を上ると尾根上に出て、左側に切通しがあります。これが「がらめき」(からめきとも)といわれる、旧浦賀道の切通しになります。切通しを出ると、鷹取から浜見台までの水道管が敷設されています。追浜側の下に民家がありますが、道は荒れています。がらめきというおもしろい名は、からからと鳴り響く意味とか。崖の崩れる音か、ほとばしる水の流れが語源かもしれません。浦賀道の難所で当時の面影が残っており、標高60ｍ、横須賀市内の浦賀道で最初の難所だったに違いありません。
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