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日曜日の 「鉄腕DASH」 を見て、キツネにつままれたようだった。
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あの番組は、ナンダカンダ言って、「へぇ」 と思うようなものを、日本のはしばしや、海外から見つけてくる。
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中国と韓国の麺料理対決、みたいな企画だった。
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長瀬くんが西安 (セイアン) の
ビャンビャン麺
なるものを見つけたのである。
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麺じたいはビツクラするようなものではなかった。驚いたのは、その字ヅラなのであるよ。
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TV画面に映った字は、まるで、偽書で見られるような子どもの細工みたいな、浮世ばなれしたものだった。
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サソクのことに調べてみると、これがウソ字でもなんでもないのである。
実在する
んであるナ。信じられないが。
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日本人の根本的な思い違いのひとつに、こういうのがある。
中国語は、漢字があって、コトバがある
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こういう思い違いが生まれる背景には、明治維新以来、
日本語は、漢字を組み合わせて、ドンドコと新語をつくった
という事実がある。
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本来は逆なのね。熟語というのは、中国人にとって、それじたい意味のある音節を組み合わせて、別の意味のコトバをつくり出す作業。
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「自」 の意味も漠然として、「然」 の意味もよくわからない日本人が 「自然」 というコトバをつくって、ああ、これが Nature なんだ、と思うのは、最初の段階がスッポリ抜けてるの。つまり、
1文字1文字が独立したコトバだ、という意識
ネ。日本人は、「然」 1文字だけでコトバになっている、とは思わない。
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中国語は、ラテン語、ギリシャ語、英語、フランス語、日本語、韓国語などと同様に、
音声言語
であるわけ。だいたい、言語が、そもそも、「音声言語ではない」 ということは、まず、ないのね。
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つまり、
“ウマ” を表す mă 「マー」
というコトバがあって、やがて、これを記録しなければならなくなったときに、
ウマの形をかたどった 「馬」 という字をつくった
わけ。
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日本人は、みずからつくったのではない 「馬」 という字をポンと与えられたので、まるで、
まず、「馬」 という字があって、これを 「ウマ」 と読むんだ
と認識してしまうの。
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中国語にも、日本語などと同様に方言語彙がある。
日本語にはカナがあるから、方言はカナで書けば済む
のね。ところが、中国語はそうはいかない。
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そういう場合、対処法が3つある。
(1) 中国標準語の漢字を、別のコトバに使ってしまう。
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たとえば、「鮭」 という字は、古代には 「フグ」 を指した。中国では、「フグ」 を食べる習慣が中央の文化から消えてしまったのね。いわば廃字だった。近代以降、日本語の影響で 「サケ」 の義になった。
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「ケチャップ」 ってコトバ。これは、福建省の方言、閩南語 (びんなんご) の 「鮭汁」 (コエチップ) と思われる。この 「鮭」 ってのは、“雑魚” (ざこ) って意味。魚ヘンで、「コエ」 って音の字を探したら、「鮭」 って字が空き家になってた。
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あるいは、四川では、古来、ジャイアントパンダを 「獏」 (モー) と言ってたのね。そりゃ、地元の人は昔から知ってたわけで、アヤツらを 「獏」 と呼んでた。もちろん、「獏」 という字はバクを指すんだけれども、四川の人の会話にバクなんか出て来なかった。ケモノヘンで 「モー」 っていう字を選んだわけ。
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「黙」 (モー) と同音なので、おそらく、「鳴き声を立てないケモノ」 という意味だろう。四川では、レッサーパンダのことも “山のダンマリ屋” (山悶得儿) と言う。
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(2) 漢字を宛てないままにしてしまう。
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中国各地の方言辞書を見ると、アルファベットの見出しのあとに、対応する漢字が “ない” とされているものがケッコウ多い。
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実は、日常会話で使うが、書きコトバでは使わないコトバ、ってのは、意外に多いものだ。しいて必要なければ、文字がないままでもかまわないわけ。
(3) 方言専用の文字をつくってしまう。
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これがケッコウ面白い。有名なところでは、広東語 (香港語) の
冇 mou5 「モウ」
がある。「〜を持っていない、〜がない」 という動詞である。
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中国標準語では、「没有」 méiyŏu 「メイヨウ」 を使う。広東語のそれは、標準語の 「メイヨウ」 が1音節につづまったもの、という。さすれば、対応する漢字があるわけもない。
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そこで、「有」 の棒2本をトッパラッて、「ない」 という漢字をつくったのである。
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この 「冇」 という字は、昔の流行りコトバでいうと、なかなかキャッチィだったようで、中国標準語でも、
冇 măo 「マオ」
で使われることがあるようだ。標準語には mao という発音の第3声の日常語がないので混乱しないのである。
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で、「ビャンビャン麺」 の 「ビャン」 という漢字も、そういう 「方言字」 らしい。いつごろからあるのかハッキリしないようだ。もちろん、『康煕字典』 のような公式の字典には見られない。
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この字は、ビャンビャン麺という食文化とともに、陝西省 (せんせいしょう) に分布するようで、中国語版 Wikipedia によれば、
地域によって、字形に違いがある
らしい。
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Wikipedia に載っているのは 15通りの字形であり、画数は 55〜68画までさまざまである。
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音じたいは、擬音であろう、とされる。「鉄腕DASH」 を見られた方ならば、
麺を伸ばす作業が 「ビャンビャン」 だというのはうなずける
だろう。
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ビャンビャン麺の 「ビャン」 という字はユニコードに採用されていない。つまり、どんなに逆立ちしても、インターネットでは表記できない。
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実際、中国のネットでは、
biangbiang面
※現在の簡体字では、「面」 と 「麺」 は区別せず 「面」 とする。
と書くのが普通である。中国最大の検索サイト 「百度」 では 484,000件ヒットする。
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日本語では 「ビャンビャン麺」 と書かれるが、正しい発音は、むしろ、
ビヤンビヤンミエン
である。中国のネットでも、声調記号を付けて、
biángbiáng面
と書かれることがあるが、2,760件と少ない。ただ、これで 「ビヤン」 を2声に発音すべきことはわかる。
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biáng に何か別の漢字を宛ててもよさそうなものだが、
中国標準語に biáng という音節は存在しない
のだ。だから、そういう音の漢字も存在しない。中国語の「子音+iang」 という音節そのものが、歴史的な変化の都合で、
l n j q x
の5子音にしか付かないのだ。後ろの3音は、日本語の 「チ、シ」 の子音と同じもので、硬口蓋化音である。
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つまり、標準語の型を逸脱した音なので、アルファベットで書かれるわけだ。
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常用字形は、「鉄腕DASH」 の画面に出たもの、まさにそれである。すなわち、
穴 月 幺 言 幺 長 馬 長 刂 心 辶
である。民間で伝えられている字釈はいろいろあるようだが、普通の日本人が聞いてもピンと来ない。中国語のセンスだからだ。
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おそらく間違いがないであろう箇所は、
月 ← 肉
長 ← 面が長い
刂 ← 刀 (包丁)
といったところだろう。
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「幺言幺」 はバラバラに解釈されるようだが、他の地域の異体字では、
䜌
という字形であることが圧倒的に多い。これは、
恋 (戀) レン
欒 ラン ※団欒 (だんらん)
などに現れる 「レン・ラン」 という音符である。しかし、
変 (變) ヘン
という字には 「会意文字」 の部品として使われており、これは、
標準語音 biàn / piɛn / 「ピエヌ」
西安方言 / piæ͂ / 「ピヤん」
であり、これが、
biang / piaŋ / 「ピヤン」
を書き表すのに使われたフシがある。
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音が違うじゃないか、という指摘はもっともだが、
標準語同様に、陝西 (せんせい) 方言でも、
biang という音節は存在しない
のであるよ。つまり、擬音であるがゆえに、意味のある語彙の “形式” の範疇から逸脱しているのである。だから、近似音 「變」 が用いられた可能性が考えられるのだ。
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最後に、なぜ、「辶」 が付くのか、という点だが、これは、
「ビャンビャン麺」 が屋台で売り歩いたもの
である可能性が指摘できる。
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