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2022年12月16日00:27

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【映画】『あのこと』

『あのこと』
 
 
昨年のヴェネツィア映画祭金獅子賞受賞作品。原作は今年のノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノー。芸術的なクオリティ重視なら見ないわけにいかない看板を背負った作品だが、正直あまり気乗りしなかった。妊娠中絶が犯罪だった1960年代初めのフランスで、思いがけず妊娠してしまった女子大生が何とか中絶しようと苦闘する物語…という内容を聞いて二の足を踏んだのだ。それは「今の自分が見るべき映画」なのか、と。

結論から言えば、確かに力作で、この作品が作られたことには大きな意義がある。今後妊娠中絶という問題について語られる時、さまざまな形でレファレンスとされる映画になるだろう。ここまで真っ向から妊娠中絶をテーマにした作品は他にないのだから当然だ。
 
だがそれを観客として見る私の立場はどこにあるのかと言えば…はっきり言って無い。もちろん重要な社会問題であることは分かっているが、やはりどこまで行っても「他人事」であり、自分自身にとってリアルな問題として受け止めることはできなかった。受け止められたと言ったら、それはそれで嘘になる。
唯一無二の映画であることは確かだし、響く人にとっては響く作品だろう(特に女性には)。新宿ピカデリーの客席は半分ほど埋まる盛況で、大半が女性。数少ない男性はほとんどが私と同じく芸術的な関心で来たのであろう中高年で、若者は2人くらいしかいないというアンバランスな構成。その客席は、終映後、手で触れるのではないかと思うほど重苦しい空気に包まれていた。それが物語的な重さではなく、現実と地続きの重さであることが分かっているだけに、何とも言えない気分になった。それほどのインパクトがある作品だ。本作の存在価値は疑うべくもない。ただそれとは別に、私がこの映画の観客として選ばれた存在でないことは明白だし、今後も「私の映画」とはなりえないだろう。
 
あとこれを見ておかなくてはならないと思った理由の一つは、『サウルの息子』と同じ、スタンダードサイズの主観映像に近い演出だと聞いたから。確かにその説明が間違いだとは言わない。間違いだとは言わないが…『サウルの息子』の常軌を逸したリアリティと同一レベルで語ってくれるなよ…とは思う。優れた作品だが、さすがにあの作品と並ぶほどの強度は無い。

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