ＳＯＷさんのアクセプト「Apogee」が、プログレ専門サイトProgarchivesで 2021年に出たアルバム中、イエスやフラジャイルと同格だと評されている。フラジャイルとは、誰でも連想するようにイエスのアルバム名をバンド名に冠したバンドで、私も注目していた。そこで今回は、イエスの曲名やアルバム名をバンド名にしてしまったミュージシャンの曲を特集してみた。たまたまイエスの曲名と同じになったバンドもあろうが、違いを含めて楽しんでみたい。
曲名 バンド名 アルバム
��Anyone / Relayer [ A grander vision 1994 USA ]
アメリカのリレイヤー はイエスと同じ5人編成だが、メンバー5人とも歌えるので、コーラスは5声になる。リード・ヴォーカルのジョン・サハジャンは、張りのあるやや少年がかった声だ。小気味の良いアップテンポのリズムに乗せて歌われるが、しかし決してメタルにはならない。タイトのギターや正確なリズム隊、そして表情豊かなキーボードなどの演奏もとてもうまい。声質はジョン・アンダーソンとは違うが、メロディーは豊かで、この曲は疾走感満点。
��Beyond / Fragile [ Beyond 2021 UK ]
フラジャイルは4人組で、ベース・キーボード・ギター・パーカッション・ヴォーカルを担当するマックス・ハントが現在の中心人物。結成は90年代に遡り、 イエスのトリビュート・バンドを20年やった後、2020年にファースト・アルバムを出した。本作はセカンド。バンド名から連想するように、ゴリゴリのイエス擬態バンドだ。ジャケットもロジャー・ディーン風だし、少年声のハイトーン、曲名から曲の構成・コーラスまで、イエスを研究し尽している。21分におよぶこの曲も、静から動へと次々に変転。今回のバンドの中では一番擬態している。 しかし声質は全く違っていて弱々しい。それもそのはずヴォーカルのクレア・ハミルは、なんとプログレ界ではちょっと名の知れた女性なのだ。むしろイエス擬態だと思わないで聴くと、ハイトーン・ヴォーカルが美しいメロディーを歌う第一級のシンフォだと言える。
��Typhoon decide / Ritual [ Ritual 1996 Sweden ]
スウェーデンのリチュアルは４人組で、４声のコーラス。ヴォーカルのパトリック・ランドストロムは スウェーデンでは有名なミュージカルのアーティスト なのだという。少年声で、みごとな張りや艶がある。専属のヴァイオリン奏者がいて、スピード感満点に弾きまくる。バンド名からも感じられるように、地元のトラッドやフォークも取り入れた祝祭的な雰囲気がある。
��Shout / Madrigal [ On my hands 1995 USA ]
アメリカのマドリガルは5人組。マドリガルというのは無伴声楽合唱のことを言い、通常５声なのだそうだ。このバンドは、ケヴィン・ダドソンがドラムスとヴォーカルを担当し、その他にサックス・フルートの専属奏者がいる。この曲はコーラスから始まり、少しだけもの悲しいヴォーカルとコーラスの掛け合いで進む。キーボードが空間いっぱいに広がる中で、ブラス音が混じる。この曲はイエス似だが、全体としてメロディアスで悲しい雰囲気の曲も多い。
��Seven / Yesterdays [ Holdfenykert 2006 Romania ]
ルーマニアのイエスタデイズは、イエスの最初のベスト・アルバムから名前を付けて、イエス的なサウンドを目指したという。メンバー9人の大所帯で、美貌の女性ヴォーカル２人、美貌のフルート奏者１人、それにイケメンの男性ヴォーカルも２人いるという贅沢な編成だ。最初からキーボードが疾走感満点で、ところどころフルートが入る音造り。ちょっと中性的で低い女性ヴォーカルが魅力的なメロディーを歌い、それをコーラスが膨らませる。12分ある曲で、動から静へと変転していく。後半で、ややハイトーンの男性ヴォーカルが入り、男女掛け合いになって、ルネサンスのような雰囲気も感じる。メロトロンにピアノにフルートが登場し、間奏でひらひらと蝶のように舞うフルートも印象的だ。
��The sea / Holy Lamb [ Salt at the earth 1999 Latvia ]
ホーリー・ラムは、人口 が200万人弱しかいないラトビアのバンド。5人編成で、アイガース・セルバンスキスがギターとヴォーカルを担当。ちょっと暗鬱な感じの少年声がコーラスなしで歌い、音を長く引っ張る泣きのギターがそれにかぶさる。そういう意味でサウンドは、イエスとよりスイスのクレプシドラに近い。キーボードは、ピアノ中心で切れ切れの音。16分の長い曲を静と動に変転しながら引っ張り続けるのは、ヴォーカルの表現力。ハイトーンであるにも関わらず、ピーター・ガブリエルのような演劇的な豊かさがあり、高く低く切り替えるみごとな歌唱力だ。
��A song for a distant land / Tempus Fugit [ Tales from a forgotten world 1993 Brazil ]
ブラジルのテンプス・フジットのバンド名の意味は、ラテン語で「光陰矢のごとし」。アンドレ・メロとベルナルドという２人のヴォーカリストがいて、コーラスは３声の４人組。たまたまイエスの曲名と合致したのだろうが、ヴォーカリストの１人はハイトーンの少年声だ。メロディアスなサウンドはゆったりとしていて、愁いに満ちた悲哀感がいっぱい。泣きのギターも号泣していて、とてもドラマチックだ。ブラジルを代表する名バンドの１つだと思う。
��A start / Drama [ Stigma of change 2005 France ]
中期イエスの異色アルバム名と同じドラマというバンド名は、フランスの４人組。エリック・アザールが、ギター・キーボード・ドラムス・ベースを担当し、バンドの中心人物だと思われる。リード・ヴォーカルは、イヴォン・ルカス。パーカッションに乗せた速いリズム上に、膨らんだコーラスが入る。ギターは少しメタルがかっていて、非常にハード。ゆったりした曲では泣きギターで引っ張るが、この曲のようにテンポが速い曲では激しくリフを刻んだり、爆音にしたり。キーボードとギターの煙幕の中から叙情的なヴォーカルが立ち上ってくる。この曲を聴くと、コーラスと言い、疾走感あるリズムと言い、多少なりともイエスを意識したことは明らかだろう。
��Back on my feet again / Fragile [ Fragile 1976 Holland ]
オランダのフラジャイルは、今回の10選のバンドの中では最も早い時期1976年に登場した5人組。そのうち3人はイエスが好きで、後の２人はピンク・フロイドとウィッシュボーン・アッシュが好きだという。ギター奏者が3人いて、5声のコーラスで膨らませる。ブルースがかった低い声でシャウトするので、疾走感のある曲よりもバラードっぽい曲が得意。ギターはよく泣いていて、間奏のツイン・ギターの響きも刺激的だ。ノリノリでコーラスがあるところはイエスに影響されているだろうが、そもそもキーボードがいなくてポップロック風の音造りである。
��A chance to win / Changes [ The growing number 1994 Swiss ]
スイスのチェンジズは、パオロ・スキャンデラがヴォーカル・ベース・シンセサイザーを担当。3人組なのに結構分厚い音を出しているのは、ツイン・キーボードだからだろう。シャープでスマートなキーボード音で入り、何よりもすっきりとした清涼感のあるサウンドが、他のバンドよりもイエス・サウンドを連想させる。メロディーもなかなか爽やかで印象的。ただしギターは典型的な号泣スタイルで泣きまくりだ。
[次点] Limites de vento / Apocalypse [ Parto do amanhecer 1993 Brazil ]
アポカリプスという曲がイエスのどこにあるのかというと、「危機」の中の１曲なのだ。ブラジルのアポカリプスは４人組で、チコ・カサラがヴォーカルとベースを担当。ゆったりとしたバラードで、開始3分頃から泣きのギターが大炸裂。イエスには全く似ていないが、シンフォニック・ロックの正当派といった感じ。ヴォーカルは 低く囁くように歌うが、サビの部分で張り上げるとちょっと少年声になる。対照的にギターは強烈に号泣して、ドラマチックだ。
☆その他候補にしたバンド
Drama(Uruguay),Edge(UK),Fragil(Peru),Rejoice(Germany),Rejoice(Sweden),Survivor(USA),
(参考）
〇キングクリムゾン編／曲名バンドの曲10選（2017年10月15日）
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1963165054&owner_id=9666295
〇2009年以前のイエス・タイプの明快な曲10選（イエス・タイプその２２）（2020年9月13日）
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1976907029&owner_id=9666295
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