他の地方からお客さんを迎えると必ず言われることがある。
「名古屋めしが食べたい」
そこで味噌カツ、きしめん、味噌煮込みうどん、モーニングサービス、名古屋コーチン料理などに連れて行く。
このあたりは名古屋に住んでいれば普通に食べるものだ。
自信を持って案内する。
でも、じつは内心ヒヤヒヤしていることがある。
「ひつまぶしを食べたい」
と言われたらどうしよう。
わたしは生まれて一度も食べたことがない。
鰻なんて高価なものだし、どうせなら鰻重のほうが美味しいと思うからだ。
けれど、やはりこういうことでは良くない。
なにごとも経験しておかねば。
ということで、初めての「ひつまぶし」を食べに行ってきた。
名古屋市内のうなぎ屋ならどこでも食べられる。
でもやはり元祖の有名店へ行きたい。
熱田区の「あつた蓬莱軒本店」しかありえない。
地下鉄・伝馬町駅で降りる。
出口からすぐに旧東海道が通っている。
あつた蓬莱軒は旧街道沿いにあったのだ。
このあたりは江戸時代に東海道・熱田宿という宿場町だった。
旅人はここから桑名宿まで海路で移動した。
降りた先の桑名は三重県だ。
つまり江戸から歩いてきた人たちは少しのんびりと休憩する。
そして「これから関西へ突入だ!やっとここまで来たぜ!」
とテンションが上り、飲んだくれて女郎屋になだれ込む。
だから熱田宿は大いに繁栄し、その名残りで蓬莱軒が続いているのだ。
あつた蓬莱軒本店は行列ができていた。
外人さんもたくさんいて30分待ちになっている。
わたしたちは団体予約客なので、速やかに店内に入る。
大きな座敷でお庭も立派だった。
おねえさんがお盆に乗せてひつまぶしを運んできた。
食べ方がよくわからないので確認する。
手順がちゃんとあるので、そのとおりに食べる。
おひつを開けると刻んだうなぎがびっしりとご飯の上に乗っている。
これを四分割する。
まずクォーターサイズを茶碗に移し、そのままで食べる。
ご飯とうなぎが混ざって、うなぎ飯のようだ。
焼き方は関西風で香ばしい。
第二クォーターは薬味をかけて食べる。
刻んだ海苔と青ネギとワサビだ。
さっぱりとして上品な味わいだ。
第三クォーターは徳利に入った出し汁をかけ、お茶漬けのようにしていただく。
お出汁とうなぎの風味が意外によく合う。
最後の四分の一はお好みで食べるということになっている。
しかし、残念なことに今までの対戦で薬味も出し汁もすべて使い果たしてしまっていた。
必然的に普通のうなぎ飯として食べる。
おひつにご飯とうなぎが詰め込んであるので、完食すると満腹になる。
食の細い人は残ったのをお持ち帰りにしてもらっていた。
ということで、ひつまぶしはそれなりに美味しかった。
うなぎに薬味をかけたりお茶漬けにしたりするのも、適当にやっているのではなく、ちゃんと考えた末のことだ。
それに蓬莱軒は一つひとつの食材を丁寧に調理しているし。
こんど誰か地方からお客さんが来たらひつまぶしに連れて行こう。
値段が高いものだから、相手に恩を着せて上手にごちそうしてもらうようにしよう。
蓬莱軒から歩いてすぐのところに七里の渡し跡がある。
江戸時代の東海道の船乗場だ。
いまも桟橋があって観光用の船が出ている。
昔の旅人気分を堪能するために乗船する。
堀川を遡る。
堤防沿いの桜が満開近い。
天気も良いし。
白鳥橋の手前でUターンする。
それより上流に行くと橋桁が低くてくぐれないそうだ。
もっと小さな観光船だと名古屋城まで航行している。
こんどは下流へ進む。
堀川は河口に堰があって、川と海の区別がはっきりしている。
堰には船用の信号がある。
青信号の船線に沿って名古屋港へ出る。
ポートタワーや名古屋港水族館の沖を通る。
いつもと違う角度からこれらの建物を見るから新鮮だ。
シートレインの観覧車近くでしばらく停まり引き返してきた。
わずか1時間ほどのクルーズだったけど楽しかった。
七里の渡しに戻り下船する。
帰りに亀屋芳広でお菓子を買った。
ここも旧東海道沿いで歴史ある老舗らしい。
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