大須の万松寺に父親の遺骨を納めている。
今日はお彼岸合同法要があった。
お寺のビルの2階へ行く。
大きくてきれいなホールがあって祭壇が飾ってある。
参列者が納骨している死者の戒名が大きく映し出されている。
父親のも含めて50ばかりあるだろうか。
法要が始まると退屈だ。
ぼーっと、お経を聞きながら戒名を眺めているしかない。
男は「〜〜信士」あるいは「〜〜居士」という戒名で、女は「〜〜信女」「〜〜大姉」というのがスタンダードだ。
トランスジェンダーはどうするのだろうな。
身体が男で、心が女という人の場合。
死んだら身体がなくなって魂だけになるのだから、そうなるともうこれは純粋な女だから、やはり女の戒名をつけるのだろうな。
などと、くだらないことを考えているうちに法要が終わった。
仁王門通の「ワイン渡辺」でフレンチのランチにしようとしたら満席だったので「磯料理まるけい」で食べた。
午後になって、本町通りと大須通の交差点角へ行く。
包丁専門店、三浦刃物店がある。
研ぎ屋助八さんの包丁研ぎ講習があるのだ。
助八さんは包丁の本場、大阪府堺市の有名な刃物研ぎ師だ。
堺の包丁は日本一で、そこの研ぎ師の第一人者だから、たぶん日本でいちばんの研ぎ師だろう。
そんな人に直接教えていただけるのだから素晴らしい機会だ。
講習参加者は全部で三人。
ほぼマンツーマンの講習だ。
研ぎ台を挟んで研ぎ屋助八さんと向かい合って始まった。
自分が使っている包丁を持参することとなっていた。
家にある安物のステンレス包丁と百均のペティナイフを持っていった。
他の講習者二人は、それぞれダマスカスの割り込みと和鋼の包丁を持ってきていた。
どうもここで大きく差がついてしまい恥ずかしい。
それにどうもわたしの包丁は研ぎ方が素人の我流そのものだそうだ。
悪い見本として他の講習者に触らせている。
でもそのあと、助八さんは研ぎ方の見本としてわたしの包丁を使って実演してくれた。
オブラート一枚分の厚みも感知する繊細な名人の手によって、わたしの安物ステンレス包丁が研がれていく。
助八さんが実演とホワイトボードに描いての解説で教えてくれたことはすごく参考になった。
砥石は高級な人工砥石を二つ用意するべき。
番手は1000番と5000番だ。
ただしわたしの包丁のように刃体がめちゃくちゃになっているものは300番台の荒砥石があるとよい。
今回はダイアモンド砥石で荒研ぎしてくれた。
基本的にステンレス鋼は炭素鋼に比べて精製されているから柔らかい。
カエリを取らずに使うとそこから刃が曲がったり潰れたりして切れ味がなくなる。
1000番で研ぐときは刃付けをしないで刃体の形を作るように、刃幅を揃えるように研ぐ。
次に5000番で1000番でつけた傷を取るように研ぐ。
やはり5000番で刃付けをする。
ほんの先っぽに小刃というのをつける。
このときの角度は60度くらいでも大丈夫だ。
これで格段に刃持ちが良くなる。
ほんの数回、刃物を往復させるだけでカエリができる。
刃の裏側と表側を撫ぜて比べると、なんとなくカエリがわかる。
それくらいでいいのだ。
その後は力を抜いてカエリを取る。
適切に砥石の上で刃物を滑らすと、取れたカエリが砥石の上に浮いているのがわかる。
このときの力の入れ具合は感覚的なもので、「カエリ取れろ」と念じながら刃を滑らせる。
最後は刃の重さだけで砥石の上を往復させる。
さらに、これが難しいけど刃をもっと立てて砥石に斜めに動かすように包丁を撫ぜる。
これを何回か往復する。
でもまだカエリがついている。
仕上げとして牛革のベルトの裏側で包丁をこする。
これでカエリが完全に落ちて、刃持ちの良い切れ味抜群の包丁に仕上がる。
なお、刃物は砥石いっぱいに往復させて研ぐ。
そのとき柄を持つ右手は軽く握り、刃に添える左手の指でコントロールする。
そうすると自然に刃先部分も同じ角度で研ぐことができる。
砥石は頻繁に面直しをすること。
紙一枚分の厚さがすり減っても良い刃付けができない。
とくに荒砥石は一回の研ぎで三回も四回も面直しをしている。
そのほかまあいろいろあった。
助八さんが研いでくれた包丁を眺める。
刃先がピカピカ光り輝いている。
この包丁でタマネギを切っても涙が出ないと言われた。
タマネギの細胞を壊さずに切断することができるからだ。
そのほか鉄鋼の知識や、刃物の歴史も教えてもらった。
大学の面接授業のようなものだ。
助八さんにお礼を言って三浦刃物店をあとにした。
帰りの地下鉄で包丁をカバンから取り出して、もう一度よく眺める。
日本一の研ぎ師に研いでもらった包丁だ。
なんだか使うのがもったいないなあ。
と考えながら、包丁を持ってニヤニヤしていたら、乗客に危ない人だと思われてしまったようだ。
先週は京都の天然砥石館へ行き勉強して、今日は研ぎ方講習だった。
刃物の世界は奥深い。
これからも精進しよう。
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