7月18日(水)
今日からメルー山に登る。
標高4562メートル、アフリカで5番目に高い山でタンザニア国内ではキリマンジャロに次いで第2の高峰だ。
9時、サファリカーに乗ってホテルを出発。
途中で山岳ツアー会社の事務所による。
登山中に使わない荷物を預ける。
10時、登山口に到着。
ンゴンゴンガレゲートというところだ。
標高は1300メートルくらい。
ここで登山届を提出して入山許可をもらう。
メルー山はアリューシャ国立公園の中にあるので勝手に登ることはできない。
今回の登山ガイドさんは二人だ。
マシューさんとエリックさん。
どちらも明るく愛想のいい人たちだ。
とくにエリックさんなどは、わたしがただひとりの男性客だからだろう、登山中も気さくに話しかけてきて、拳骨でやたらとわたしを小突いたりした。
それで入山許可をもらうために山岳ガイドさんたちがオフィスで手続きをしていた。
でも、なかなか終わらない。
事務所のパソコンが壊れて許可証を作れなくなったそうだ。
去年キリマンジャロへ行ったときも登山口事務所でPCがダウンしてだいぶ待たされた。
こういうものはそんなにしょっちゅう壊れるものだろうか。
2時間経っても出発できないので、待合スペースでランチボックスを開けて食事をする。ようやく出発したのが13時30分だった。
登山道は国立公園のサバンナを横切っている。
たくさんの野生動物が生息している。
だから安全のため登山者同士でグループを作り、レンジャーが一人帯同する。
わたしたちはアメリカ人の女性二人と一緒で登ることになった。
付き添ってくれたレンジャーはクレバーさんという名前だ。
気軽な格好でライフル銃を肩にかけ、田舎の猟友会のオヤジのような人だ。
でも、ヒョウやゾウなどが現れて襲ってきたときはレンジャーに退治してもらわなければならない。
わたしは危険を避けるため、クレバーさんのすぐ後ろについて歩き出した。
背負っている荷物はデイバッグだけ。
寝袋やその他のものはポーターさんたちが運んでくれる。
楽ちんな大名登山だ。
30分もサバンナを歩いた。
右手の方にバッファローとキリンの群れがいた。
クレバーさんはトレイルから外れ、キリンたちに近づいていく。
わたしたちも従って、群れに接近する。
キリンから50メートルほどのところまで来た。
10頭以上が草を食んでいる。
去年、タンザニアではサファリで嫌というほどキリンを見た。
だけど、こうやって歩いて遭遇するとまた格別だ。
ヒトもキリンも同じ地球上に生きている動物同士だと実感する。
キリン地帯からすぐに緩斜面の登りになった。
本当に緩やかで良く整備された道だ。
灌木帯、草原、ジャングルなど、風景が少しずつ交代する。
だから飽きることなく歩いていける。
熟女たちは花が咲いているたびに立ち止まって写真を撮っている。
やはり一応は女性だけあって、こういうのに興味を示すのだ。
なかなか列が進まない。
でもまあ今日は短い行程だから急ぐことはない。
見通しの良いところで休憩をした。
レンジャーのクレバーさんとお話をした。
持っているライフル銃に興味があったからだ。
わたしはお花よりこっちのほうが気になる。
クレバーさんは言った。
「これはブンドキだよ」
はあ?分度器?
このレンジャーは頭がおかしいのか?
どうもスワヒリ語ではライフル銃のことをブンドキというらしい。
そんな感じで楽しく歩いていると17時15分、山小屋ロッジに着いた。
今夜の宿泊地、ミリアカンバハット小屋だ。
標高は2500メートル。
ちょっと気温が低いので薄手のセーターを着込む。
ロッジにチェックインする。
きれいな建物だ。
二段ベッドが2つある四人部屋だ。
ガイドさんたちが用意してくれた洗面器のお湯で顔を洗う。
食堂で夕食。
山の上なのに豪華な食事だった。
7月19日(木)
6時30分、部屋にモーニングコーヒーが届けられた。
のんびりとコーヒーを飲んだり顔を洗ったりするうちに朝食になる。
8時30分、さらに上を目指して出発する。
ガスがかかって見通しが悪い。
霧の中を、昨日と同じような緩斜面を登っていく。
2時間ほどで青空になってきた。
ジャングルの中を歩くうちに植相は低灌木帯になってくる。
このあたりは何年か前に大きな山火事があった。
それで樹木が生えてなくて展望が良いのだ。
火事のときの焼けた枯れ木の向こうにリトルメルーが見えてきた。
少し急斜面になり、山はどんどん近づいてくる。
13時、サガルハット小屋に到着。
ここは3500メートルだ。
小屋のすぐ後ろからリトルメルーの登り口がある。
チェックインをする。
やはりきれいな木造小屋で、四人部屋の二段ベッドだ。
ランチを食べ、ちょっと休憩してからリトルメルーを登頂する。
15時30分、はとんど荷物も持たず登り始める。
リトルメルーは標高3820メートル。
よく整備された素直な道を登っていく。
16時30分、頂上に着いた。
もっこりした山容で足元には草が生えている。
日本の低山のような雰囲気だ。
富士山より50メートルも高い山なのに、どうも貫禄がない。
でも展望は素晴らしかった。
眼の前には立ちはだかるようにメルー山がそびえている。
その他はどこまでも続く雲海がアフリカの地上を隠している。
景色に見とれ、記念写真を移し、そそくさと下山した。
ロッジに戻ったのが18時。
早めの夕食を食べる。
なにしろまた暗いうちからの出発だ。
早めに寝て身体の調子を整えなければ。
23時、起床。
いつも夜中から歩き出す理由は、頂上から日の出を見るためだ。
わたしはご来光などどうでもよくて、それより登る途中の景色を楽しみたいと思う。
暗いなかを登っても面白くない。
しかしグループ行動だ。
山岳ガイドさんがこのスケジュールで登れと言っている。
しかたがないから眠い目をこすり、ビスケットと紅茶を飲む。
0時、日付が変わるころ、メルー山頂上に向けて歩きだす。
アフリカ遠征もようやくクライマックスだ。
たぶん次回が最終回。
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