3月31日(土)
長久保〜和田〜下諏訪〜塩尻
午前5時、民宿みやを出発する。
前夜に用意してくれた、おにぎり弁当を持って。
ずいぶん寒い。
霜が降りている。
旧国道142号に沿って歩いていく。
和田宿に着いた。
峠の手前だけあって寂しいところだった。
集落の中学校も去年廃校になっている。
和田宿を過ぎると国道に出る。
5キロほど歩いた和田峠口から未舗装の登りが始まる。
8時、よく整備された山道を歩きだす。
雪はないけど落ち葉が積もって歩きにくい。
1時間ほどで残雪が出てきた。
雪にはしっかりと足跡がついている。
このルートはスノーハイキングの人気コースだ。
中山道歩きの人は登らなくても、山登りの人はたくさん入っているようだ。
国道に出て500メートルほど歩く。
東餅屋立場跡だ。
廃屋になったドライブインがあり情緒を誘う。
そこからはビーナスラインを突き抜けるように、まっすぐ登山道が続いている。
ビーナスラインはつづら折りに走っている。
だから道路を四回横断する。
いまは冬季閉鎖だから車が走っていない。
夏のシーズンだと交通量が多いから危険だろうな。
右手に雪の斜面が見えてきた。
閉鎖になった和田峠スキー場だ。
気持ち良さそうな雪面だ。
来年の冬に来ようかな。
東餅屋に車を置いて、山スキーをして、ビーナスラインの路上にテントを張ればいい。
だんだん空が広くなってきた。
峠が近づく。
10時、和田峠に到着。
標高は1531メートル。
中山道だけでなく、五街道の最高地点だ。
峠の反対側を見渡した。
はるか西に雪の中央アルプスが見えた。
ついに見えた。
あの山稜を辿っていくと岐阜、愛知につながっているのだ。
おーい、と山が出迎えてくれたような気分だ。
峠で座り込み、おにぎり弁当を食べる。
民宿みやに報告の電話をする。
ぶじに着きました、雪は木陰に残雪が少しあるだけです、雪山経験のない人でも大丈夫です。
下りの下諏訪側は南斜面だ。
雪は溶けてなくなっている。
ちょっと急坂だけど、それだけに早く降りて行くことができる。
「賽の河原七曲り」という難所だそうだけど、普通の登山道だ。
これが難所だったら穂高や剱岳の岩場なんかどうなるのだ。
国道142号に合流した。
また平坦な街道歩きになる。
国道を離れた中山道沿いに「浪人塚」があった。
幕末に水戸藩の尊王攘夷派が水戸天狗党を結成した。
桜田門外の変で井伊直弼を暗殺した人たちだ。
1864年、幕府と戦い破れた天狗党は京都を目指して中山道を上った。
和田峠を過ぎたこの地点で、松本藩諏訪藩の連合軍と対戦した。
このとき死亡した天狗党の10名の死体を埋めたところだ。
木陰に慰霊碑がある。
戦いの直後に建てられたものだ。
さらに国道を歩くと木落し坂に着いた。
諏訪大社下社の御柱祭のときに、人が乗った大木を滑り落とすところだ。
35度の急斜面が100メートルも続く。
中山道は木落し坂の左側のコンクリート道を降りていく。
13時過ぎ、下諏訪宿に到着。
中山道沿いには幾多の寺社仏閣がある。
そのなかで抜きん出て格式の高いのが諏訪大社だろう。
下社春宮、秋宮を参拝する。
ついでに万治の大仏にも会ってきた。
下諏訪の道祖神はもれなく御柱が四本立っている。
他の街では放ったらかしにされていたりするのに、待遇の良いことだ。
下諏訪は温泉街でもある。
道端に蛇口があって、ひねると温泉が出てくる。
そんなわけでここは観光地でもあり、のんびりした雰囲気もある。
だから中山道歩きの人は和田峠を越えたら下諏訪の温泉宿に泊まるのが普通だ。
でも、まだ昼過ぎだ。
元気いっぱいだし、塩尻宿まで行くことにした。
温泉街の外れに「魁塚」があった。
赤報隊の慰霊墓だ。
幕末に薩摩、長州の浪士を中心に結成された。
1868年、官軍本隊の先遣部隊として京都から中山道を下っていった。
信州で小諸藩と交戦して敗れ、下諏訪のこの場所で処刑された。
しかしまあ、中山道というのは歴史的史跡の多いところだ。
それだけ江戸時代には基幹道路だったんだろう。
下諏訪の住宅街では、めちゃくちゃ細い道が旧中仙道だった。
民家の敷地の間の路地を抜けていく。
岡谷市の郊外に入る。
次の難所が塩尻峠だ。
中央高速、岡谷インターの上から峠道が始まる。
アスファルトの狭い急坂を歩く。
30分ほどで塩尻峠に着いた。
展望台があったから上がってみた。
諏訪湖と南アルプスがきれいに見渡せた。
展望台の前に富士浅間社の祠がある。
峠の広場は岡谷市になるけど、この祠の周りだけは塩尻市の飛び地だ。
住所は塩尻市塩尻町になっている。
峠の反対側は広い道路だ。
のんびりと田舎道を歩いていく。
だんだん建物が密集してきて街になり、塩尻宿に着いた。
ここが本当の塩尻市塩尻町だ。
本陣跡から2キロほどで塩尻駅がある。
今夜は駅の近くのホテル中村屋で泊まる。
18時、投宿。
夕食のため散策した。
ホテルのすぐ近くに居酒屋「山賊」があった。
塩尻のご当地グルメ、山賊焼きを最初に売り出した店らしい。
店の横には「元祖山賊焼」の石碑があった。
山賊焼きは鶏のもも肉の唐揚げだ。
普通の唐揚げに比べると特大で食べごたえがある。
地元J2の松本山雅FCのチームカラーであるグリーンのビールと一緒にいただく。
今日も調子に乗って40キロを歩いてしまった。
明日は最終日、木曽路に入ることができそうだ。
つづく
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