3月21日(火)
バスが終点の紀元杉に到着した。
バス停から少し戻って。紀元杉の見学をする。
縄文杉の次にデカい屋久杉だ。
樹齢は3000年。
縄文杉と違って、道路の際に生えている。
間近まで行くことができて、幹にタッチできる。
ゆっくり見学してから淀川小屋に向けて歩き始める。
時間は15時だけど、今日は1時間ぐらい歩くだけだ。
しばらく舗装道路を登っていく。
30分もしないうちに淀川登山口に着いた。
駐車場があって登山者の車が何台か駐車してある。
登山道に入ろうとしたら男の人に呼び止められた。
男の人「屋久島の環境保全協力金で2000円をお願いします」
わたし「それは強制ですか?」
男の人「いえ、協力をお願いします」
わたし「じゃあ結構です」
2000円は高いぞ。
こんなの払う人いるんかなあ。
森の中の登山道を登っていく。
とくに難しいところもなく15時50分に淀川小屋に到着した。
わりと立派な無人の山小屋だ。
春のシーズンだけあって多くの人がいた。
小屋に泊まった人は20人ぐらいだろうか。
わたしは素早く場所を確保して酒を飲み始めた。
時間はたっぷりある。
同じ小屋泊まりの人たちと情報交換したり、バカ話をしたりして夜が更けていった。
3月22日(水)
午前3時ごろ、一部の登山者は起き出している。
どうも夜明け前に出発するようだ。
わたしは深夜まで酒を飲んで、さっき寝たばかり。
お前らなんでそんなに健全なんだ、聖職者か。
つられて起きて、5時40分に小屋を出発した。
今日が鹿児島遠征でいちばんハイライトの日だ。
天気は高曇りで、雨が降る心配はなさそうだ。
6時ごろ、夜が明けてきた。
それとともに登山道に残雪も出てきた。
整備された道を登っていくと、目の前の景色が開けた。
小花之江河というところに着いた。
日本最南端の高層湿原だ。
高層湿原というのは尾瀬や霧ヶ峰のようなところで、高地の平原にできる。
鹿児島県の離島にこんなものがあるなんて。
写真を撮りながら木道を歩いていると、つるりと滑って転んでしまった。
道が氷で凍っていたのだ。
以後気をつけて歩いたけど、二、三度滑ってしまった。
小花之江河から少し登ると花之江河に着く。
もっと大きな高層湿原だ。
池塘が凍っている。
なんだか寒々とした光景だ。
さらに10分ほど登ると分かれ道があった。
左に行くと黒味岳の(1831m)頂上へ行ける。
せっかくだから登頂してみる。
標高差は200メートルぐらいだ。
ザックを登山道の横に下ろし、空身で登る。
わりと急斜面だ。
何箇所かロープでフィックスしてある。
とくに難しいということはないけど、雪と氷が凍っていて普通に歩けない。
氷を避けて草付きを登ったりする。
8時、なんとか頂上に着いた。
大きな岩の上にプレートがあるだけだ。
誰もいなくて気持ちがいい。
最高峰の宮之浦岳も見える。
下りも慎重に歩いて行く。
8時30分、ザックの残置場所に戻る。
さらに先に進む。
灌木が低くなり草原になってきた。
亜高山帯に入ったのだ。
翁岳、安房岳、栗生岳を横目に見ながら歩いて行く。
奥岳と呼ばれている、屋久島の山塊だ。
どれも1800メートルを越えている。
九州本土でいちばん高い山が久住山の1786メートル。
いかに屋久島が凄いところかよくわかる。
いくつものピークを越えて、やっと宮之浦岳らしき山頂が近づいてきた。
頂上で何人かの人が休んでいる。
間違いなくあそこが最高峰だ。
10時40分、宮之浦岳(1936m)に登頂した。
思えば去年の12月、氷に阻まれ頂上直下で敗退した。
頂きの向こうを見下ろすと、あのときの斜面が見える。
いまでもちょっとぐらい氷が張り付いているんだろうなあ。
頂上はちょっと広い平地のようになっていた。
四方を見渡すと山ばかりが続いている。
その後ろには海が広がっている。
これが離島の高山か。
こんな遠くには、めったに来ることもないだろう。
せっかくだからと40分以上も頂上にいた。
下りは淀川と反対側だ。
まずは焼野三叉路というところまで100メートルほど降りていく。
道が二股になっている。
左の永田岳(1886m)の方へ登っていく。
宮之浦岳についで二番目に高い山だ。
鋭い岩峰のような頂上を目指して、高山植物の登山道を歩いて行く。
最後に10メートルほどの大岩をよじ登る。
ロープが張ってあるけど、今回でいちばん急な斜面だった。
12時40分、永田岳に登頂。
この山は奥岳の中でただ一つ、海岸から眺めることができる。
頂上から見下ろしたら永田の集落が見えた。
去年の12月、わたしはあそこに車を停めて、来年は絶対に登ってやるぞと思っていた。
永田岳の岩を降りていく。
登山道は、さらに先へ続いている。
下りきると永田の集落で行くのだ。
でも今日は海まで降りることはできない。
途中の鹿之沢小屋に泊まることにした。
小屋のあるところは標高1550メートル。
300メートルほどの下りだ。
ここからは、ほとんど人が歩いていない。
急斜面で道も少し荒れている。
しかも柔らかくなった雪が登山道をベッタリと塞いでいる。
歩きにくくて仕方がなかった。
とくに危険なところはないけど、滑って転んだら痛い。
痛いのは嫌だから、ゆっくり歩いて行く。
ロウソク岩という大きな一枚岩が眺められるところに来た。
50メートルぐらいの垂直な岩だ。
クライミングできたら気持ちいいだろう。
さらに降りていく。
樹林帯に入り、雪も少なくなってきた。
急斜面の下に小屋が見えた。
14時少し前、鹿之沢小屋に到着。
石積みの外見が美しい。
でも中に入るとゴミがあったり、湿気った匂いがしたりする。
あまり人が来ないようで、侘しい感じがする。
もちろん今日もわたしのほかに誰もいない。
独りで寝床を作り、酒を飲み始めた。
まだ日暮れまでだいぶ時間がある。
(つづく)
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