TVを見ていて、フシギなものを耳にした。
…………………………
「提供の読み上げ」 である。
アナウンサーの地味な仕事だが、フジテレビの某番組で、
「ライオンの提供でお送りしました」
という 「提供の読み上げ」 を耳にした。
…………………………
それがナンだ? と思われるかもしれないが、そのアナウンサー (特定はできなかった) は、こんなアクセントで読み上げたのである。
ライオンの テイキョウで オオクリしました
○●●●● ○●●●● ○●●●●●○○
低高高高高 低高高高高 低高高高高高低低
ここでは、おおいに不思議なことが起こっているのだけれど、わかりにくいと思うので、ゆっくりと説明するべし。
…………………………
まず、個々の単語のアクセントを検討しやう。
ライオン-の
○●●●-●
東京方言のアクセントというのは、
(a) 語頭の1拍が高くて、2拍目から全て低い。
(b) 語頭の1拍が低くて、2拍目から任意の拍までが高い。
(c) 語頭の1拍が低くて、2拍目以降、全て高い。
のいずれかの型しかない。
(a) 埼玉 サイタマ-の
●○○○-○ 高低低低
(b) 高橋 タカハシ-の
○●○○-○ 低高低低
関取 セキトリ-の
○●●○-○ 低高高低
一月 イチガツ-の
○●●●-○ 低高高高
(c) 鉄道 テツドウ-の
○●●●-● 低高高高-高
「ライオン」 というのは、いわゆる 「平板アクセント」 であり、(c) の型に当たる。だから、
ライオンの
○●●●-●
である。
「提供」 も (c) の型なので、
テイキョウで
○●●●-●
となる。
「お送りする」 のように 「お〜する」 という接頭辞の付いた動詞は平板型で、やはり (c) である。「〜しました」 の場合は、
オオクリ-しました
○●●●-●●○○
のごとく、「〜しま」 のあとで下がる。
…………………………
これをまとめると、
ライオンの テイキョウで オオクリしました
○●●●● ○●●●● ○●●●●●○○
低高高高高 低高高高高 低高高高高高低低
となる。しかし、これを “楽譜どおり” に読んでみるとナニかがオカシイ。音声合成システムがしゃべっているみたいになるのだ。
というのも、東京方言では、
「平板アクセント文節」 + 「1拍目が低い文節」
というぐあいに文節が続いた場合、後続の文節の 「低い1拍目」 も高くなる、という法則がある。
すなわち、
ライオンの テイキョウで
○●●●● ○●●●●
は、まさに、この例に当てはまるので、
ライオンの テイキョウで
○●●●● ●●●●●
というぐあいに、アクセントが 「上がりっぱなし」 になるのだ。
実は、そのあとも同じ例に当たる。すなわち、
テイキョウで オオクリしました
●●●●● ○●●●●●○○
だから、これは、
テイキョウで オオクリしました
●●●●● ●●●●●●○○
となる。
つまり、「ライオンの提供でお送りしました」 を東京方言のアクセントで読むと、
ライオンの テイキョウで オオクリしました
○●●●● ●●●●● ●●●●●●○○
という、巨大な1つの単語のようになってしまうのだ。
実際、アナウンサーになったつもりで、よく聞く 「ライオンの提供でお送りしました」 を発音してみるとよい。まさに上の通りなのであるよ。
…………………………
まったくフシギなのだが、アタシが、先日、フジテレビで聞いた 「クレジットの読み上げ」 は、
正しい標準語アクセントのつもり
が、実は、
高度な付則をスッポラカシにしたヘンな発音
なのである。
東京ネイティヴだと、こんな規則をまったく知らなくても、普通に発音できる。
ギターの フレーズが すげえ
○●●● ●●●●● ●●○
きのうの カレーを 食べよう
○●●● ●●●● ●●●○
クダンのフジテレビの 「提供の読み上げ」 は、いったい、どんなアナウンサーが、どんな状況で、読んだものなのか、それがとてもフシギなのである。
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