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最近、TVのバラエティに、
カエルアンコウ
がよく出てきます。民放、NHK どちらも盛んに出してくる。でね、この 「カエルアンコウ・ブーム」 が始まったときに、
「あれっ?」
と思ったんですよ。
これ 「イザリウオ」 じゃなかったっけ?
ってね。
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そうしたらビンゴ。イヤな予感はしてたんですが。いわゆる 「コトバ狩り」 ですね。
2007年2月1日
をもって、日本魚類学界は、イザリウオの和名をカエルアンコウに変えたんだそうです。
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「和名」 ってナンなの?ですよ。いいっすか。ラテン語による学名は、分類が変更される場合でなければ、いっさいの変更はできません。たとえ、発表者が綴りをまちがえたとしても、それは、まちがえたままで未来永劫使われるんですね。というのも、
学名を変えてしまうと、過去の資料との
種の同定ができなくなってしまう
からです。
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たぶん、「イザリウオ」 なんて名前ではTVで紹介できない、ってことなんでしょう。和名っていうのは、ただでも、信頼性が低いし、厳格な取り決めがありません。その地位を、なおさら、低めたわけです。
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今後、カエルアンコウを説明する資料では、旧名は 「イザリウオ」 である、ということを、必ず、付け加えなければなりません。おそらく、これから生まれてくる学者たちは、「いざり」 とか 「いざる」 というコトバを、まったく知らずに育つでしょうから。
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「いざる」 というのは、もともと、差別語ではないし、アッシが子どものころでも、大人たちは、
座ったまま移動することを 「いざる」 と表現していた
んですね。別に 「差別する意味合い」 で使っていたんではありません。
ゐ (←ゐる) = 座って
さる = 移動する
という単純な合成動詞です。古い日本語では、「去る」 というのは、単に “移動する” という意味で、近づく場合にも 「さる」 と言いました。
風まじり 雪は降りつつ しかすがに 霞たなびき 春去(さり)にけり
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「しかす」 というのは、「然」=“そのように”、「す」=“動詞語尾” ですね。
しかして (而して、然して)
→ しこうして (而して)
というのは、「しかす」 に 「て」 がついたもの。意味は、「そのようにして」、「そして」 です。
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「がに」 は古い用法で、「〜するのに」。よって、
しかすがに = そのようにするのに
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つまり、「風まじり 雪は降るのに」 ってことです。
それなのに、ああ、それなのに、それなのに
「霞がたなびいて 春が “去った” のだなあ」
です。
雪が降るのに、霞がたなびいて、春が “去った” のだなあ
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ね、この “去る” は “来る” ということです。
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「いざる」 という動詞は、差別の意味合いではなく、ごく最近まで使われていたんですよ。このコトバを “差別語” と決めつける連中が葬り去ったんですね。
『土左日記』 935頃 承平五年二月九日
「こころもとなさに、あけぬから、ふねをひきつつのぼれども、
かはのみづなければ、ゐざりにのみぞゐざる」
=船が、浅瀬に船腹をこすりながら、のろのろと進む
『宇津保物語』 970〜999頃
「そちの君三尺の几帳ひきそへていざりいでたり」
=座ったまま、前へ出て来た
『即興詩人』 1901年 森鴎外訳 隧道・ちご
「我が縛られたる手はいざり落ちて地に達したり」
=じりじりとずれ動いて
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つまり、「座ったまま動く」 から、「何かが、のろのろとズリ動く」 という意味まで持っていたコトバなんです。また、方言には、「いざる」 という動詞がたくさん残っていて、
座る、船が動く、雪の中を歩く、泥の上を歩く、ずれる、移動する、
転勤する、松が横に這う
など、いろいろな意味に使われています。
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“差別用語狩り” にはウンザリです。“差別狩り” ではなく “差別用語狩り” ですね。要は、エラい人たちが 「立場があやうくならないようにするため」 の保身です。
それが、コトバによる表現に、カッテに手を入れる
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落語には 「乞食」 がいっぱい出てきます。実際に、たくさんの乞食がいたんだからしょうがないでしょう。
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民放は、もともと、今では落語なんかやらないので、知ったこっちゃないでしょうが、NHK は、古い落語の音源をラジオで流すときは 「乞食」 をそのまま放送しますが、
現在の噺家の落語の収録では、極力、「乞食」 を使わせません
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あるいは、乞食の出てくるハナシはやらせない。
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落語に 『啞の釣り』 (おしのつり) というのがあります。もとのTBSの有名な演芸プロデューサーだった、川戸貞吉さん、というヒトが、一度だけ、TBSラジオで、『啞の釣り』 を掛けたことがあります。このままじゃ、重要なハナシがひとつ埋もれてしまう、と考えたんでしょう。
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その後、川戸さんが、上層部から叱責されたか、始末書を書かされたか、説明を求められたか、そのあたりのことは伝わってきません。
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「イザリウオ」 って名前ですね。そういう名前に子どもが接して、「イザリ」 って、どういうこと? って疑問を持つのは悪いことなんでしょうか?
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そうだ、思い出したけど、きのうの 「ふしぎ発見」 で、
「コビトペンギン」 を 「フェアリーペンギン」
と呼んでいた。英語の標準名 common name は little penguin である。 fairy penguin はオーストラリアの地域名だ。
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日本の動物園では、「コビトペンギン」 を 「コガタペンギン」 と表示しているところが多いらしい。日本語版 Wikipedia も 「コガタペンギン」 という名を見出しにしている。
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こういうふうに、動物園だのTVだのの一存で、
カッテに名前を変えるのはどうか
と思うわけだ。いったい、標準和名というのは、そんなにテキトーなものなんだろうか。
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アッシじしんは、いっこうに 「こびと」 が差別語だと実感したことがない。いったい、「こびと」 というコトバで、誰が差別されるんだろう、と思うわけだ。
「白雪姫と “七人のちっちゃいおじさん”」
と言えばいいのかいな。
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イザリウオもそうだけど、コビトペンギンとか、
わざわざ、差別を掘り起こして、
それをリニューアルしている
ようにしか思えない。
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コビトカバはそのままだけど、ドッカのオセッカイが 「コガタカバ」 とでも言い出すんじゃないかいな……
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