天下唯双(てんかゆいそう)。
所要時間:22分くらい。
想定人数:2人。(男:女=1:1)
※ 金銭が絡まなければ使用自由。
大幅な改変等はツイッター @annawtbpollylaまで要許可申請。
自作発言は厳禁です。 ※
月夜:女性。
浦風:男性。
予備知識:声劇台本「二方美人。」(
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1958862956&owner_id=24167653)に出てくる月夜(つくよ)と浦風(うらかぜ)のスピンオフ。先に「二方美人。」を見てからの方が話が分かり易いかと思われます。二人は中学に入った頃からの付き合いで、現在社会人。仲は良いが恋人とかではない。
※「二方美人。」シリーズ及び関連作品のみをまとめたリンク。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1964303733&owner_id=24167653
本編。
月夜「では、年越し会を始めようではないか!いつもなら寂しく一人で過ごすだけのこの部屋だが、今日は私のおかげでその孤独を忘れることができるのだ。感謝するが良い。」
浦風「そうか。」
月夜「…まあなんだ。お互いなんだかんだあったが、なんとか無事社会人一年目の年を越せるのはめでたいことだ。」
浦風「特にお前はな。」
月夜「全くだ。まさか教育係が私の入社後2週間で夜逃げするだなんて思ってもみなかったぞ。」
浦風「難儀だったな。」
月夜「うむ。さあ、飲みながら年を越そうではないか。かんぱい!!」
浦風「乾杯。」
月夜「……ふぅ。」
浦風「……ん。」
月夜「…。」
浦風「…。」
月夜「なあ、浦風よ。」
浦風「どうした。」
月夜「…。」
浦風「…。」
月夜「ここが今のお前の家なんだな。」
浦風「そうだな。」
月夜「私の知らない家だ。」
浦風「だろうな。」
月夜「私の家は、お前が知っているあの家だけだ。」
浦風「そうか。」
月夜「私の家よりも、ここの方が私の職場から近いな。」
浦風「まあ、俺達の職場は近いからな。」
月夜「…なあ浦風。最初にお前の実家に行ったのはいつだったか。」
浦風「確か、中学一年の二学期かそこらだ。」
月夜「中学一年の二学期か…。その時期ということは、生徒会関連か何かか?」
浦風「その筈だ。」
月夜「たしか文化祭における部活ごとの予算格差を是正すべきだという話をするために来たことがあったはずだが、それが最初か?」
浦風「確かな。」
月夜「あの時はその件でお前が先生や先輩達と対立していて…誰もまともにお前の話を聞いていなくて、話し合いになっていなかったから、とりあえず詳しく言い分を聞こうと思って、家について行ったんだ。」
浦風「よく覚えているな。」
月夜「あの時は大変だったからな…。先生や先輩達からすればさぞ鬱陶しかったことだろう。一年のくせに生徒会長と副会長になった挙句、学校の決まりごとにやったら文句つけまくってくるのだから。」
浦風「仕方ないだろ。」
月夜「たしかにおかしな決まりだらけだった以上、仕方ないな。」
浦風「今ではあまり覚えていないがな。」
月夜「二人で色々やったが、それで変わったこともあれば変えられなかったこともあった。」
浦風「そうだな。」
月夜「生徒会長、か。それ自体は思ったより楽しくなかったが、あれをやったおかげでお前と仲良くなれたと考えれば、やって良かった。」
浦風「それは良かった。」
月夜「だと言うのに、お前と来たら…。」
浦風「どうした。」
月夜「…いや、なんだ。生徒会の任期が終わってからもよく一緒に帰ったり話したりしていただろう?なのにどうしてあの時の私達は、どこの高校を目指しているとかそういう話を一切しなかったのかだな。」
浦風「…なるほど。」
月夜「お前がなぜその話をしなかったのかは知らないが、私がその話をしなかったのは…。……恥ずかしかったんだ。」
浦風「…。」
月夜「お前がそこに行くなら私も一緒に行きたいとか、そんなこと言えるわけがないだろう。」
浦風「…。」
月夜「…私はこれでも色々あったんだぞ。………お前の知らない高校の頃にだな、女子生徒達からわーきゃー言われたりしたこともあったし、いっそう勉強するようにもなったし…。」
浦風「そうか。」
月夜「…。」
浦風「…。」
月夜「あのだな!」
浦風「俺が」
月夜「あ、悪い。特になんでもない。」
浦風「俺が中学時代、受験校の話をしなかったのは別にその話をする必要性が感じられなかったからだ。」
月夜「…そうか。」
浦風「今の時代、連絡手段ならいくらでもある。高校が違っていても縁が切れるわけではない。別に重要な事ではない。そう思っていた。そして実際に、当時もよく互いに連絡は取り合っていた。」
月夜「…なあ。高校の頃、私は男からもモテたんだぞ。」
浦風「それは初耳だ。」
月夜「言わなかったからな。高校の頃に取っていた連絡なんて事務的なことばかりで、深い話はほとんどなかった。」
浦風「確かにな。」
月夜「挙句の果てに、彼氏でもない男同士が私のことで喧嘩したりとかなんてこともあってな。傍迷惑なものだった。そいつらがプレゼント渡そうとしてきたりもして。もらってしまったらまずいと思って、全部付き返したんだ。」
浦風「そうか。…そうだな。俺の高校時代は…特に何か語りたいような記憶も無いが、一つだけ良い意味で印象に残っているのは一年と三年の時担任だった、無気力な先生の事だ。」
月夜「友達のこととかの話はないのか?」
浦風「何かに所属することはあっても、そこに仲良くしたい相手など居なかったからな。」
月夜「だろうな。中学の頃も私しか仲の良い相手が居なかったお前だ。私は高校の頃、中学の頃とは打って変わって沢山の人に囲まれていたぞ。…満たされなかったがな。」
浦風「…満たされなかった、か。俺にとってもその表現が一番的確かもな。」
月夜「それで?先ほど言っていた先生というのはどんな先生だったんだ?」
浦風「…あの人は無気力で、生気が感じられない先生だった。それこそ出会った当初のお前以上に。だから生徒からは人気が無かった。」
月夜「…覚えていたのか。」
浦風「出会った当初のお前は、全てがつまらないとでも言いたそうな顔をしていたな。」
月夜「それはお前も同じだろう。」
浦風「…そうだな。その先生の事だが、一年の時に担任となった際には特に何も思わなかったが、二年の時に色々あって、それで三年で再び担任となった際、考えが変わった。」
月夜「ほう?」
浦風「何があったのかは知らないが、きっとあの先生も大きな悲しみを抱えていたのだろう。…それでも、それだからこそ。無理に笑うことも、無理に前を向くこともせず、どうにか這いずるように生きて仕事を全うしていたあの先生が、俺にとっては救いだった。」
月夜「そっか…。お前らしいな。」
浦風「今眠いな?」
月夜「流石だ。」
浦風「寝るか?」
月夜「いや。」
浦風「そうか。」
月夜「…次は浦風のことを聞きたい。」
浦風「そうだな。俺自身の話か。」
月夜「うん。」
浦風「まず、先ほど言った通り、良い関係を築いた相手は居なかった。築きたいとも思わなかったからな。」
月夜「ああ。」
浦風「それと、二年の時あった事というのは単純化してしまえば、四人の人間を助けようと色々した結果俺自身に無理が来た挙句その四人は全員不幸になったというだけの話だ。」
月夜「…うん。」
浦風「それら以外で高校時代での俺自身の話か…。…一年と二年の時は、生徒会に部活に、色々やってみたが、特に楽しくは無かったな。」
月夜「…そっか。」
浦風「その反動で三年の時は勉強以外特に何も…。」
月夜「…。」(寝息。)
浦風「…。」(ため息。)
月夜「…。」(寝息。)
浦風「…。」(伸び。)
月夜「…。」(寝息。)
浦風「早いペースで飲みすぎだ。」
月夜「…。」(寝息。)
浦風「ったく。」
月夜「……ん…。ん。っ!!…頭が…。」
浦風「起きたか。」
月夜「寝ていたのか…。すまない。今は何時だ?」
浦風「2時前だな。」
月夜「…あけましておめでとう。私はいつから寝ていた?」
浦風「今年もよろしく。確か11時半だったか。」
月夜「そうか…。いびきとかしてなかったか?」
浦風「いびきも寝言も無かった。」
月夜「よかった。」
浦風「お茶、飲むか?」
月夜「ありがとう。」
浦風「…月夜。」
月夜「ん?」
浦風「俺が中学時代、最初にお前に話しかけた時の事を覚えているか?」
月夜「…たしか、私が生徒会長に立候補することを先生が発表した時に、お前が私の席に来て…何だったか忘れたが、何かを言ってきたんだ。」
浦風「何故生徒会長なんてものになりたいのかと聞いた。…そうしたらお前は、いつも通りつまらなさそうな顔をして“少しでも私の学校生活を楽しくしたいからです。”と言った。」
月夜「…そうか。なら浦風。私からお前に初めて話しかけた時のことは覚えているか?」
浦風「いや。」
月夜「お前は頭が良さそうだと思って、生徒会の仕事が終わった後、帰りに数学の問題を聞いたんだ。…そしたら答えと多少の途中式を教えてくれはしたが、どうしてそういう途中式に繋がるのかが理解できなかった。」
浦風「お前は二年の途中までは勉強ができなかったからな。」
月夜「でも、分かるように教えてくれようとして、それでも理解できなくて、悪いと思ったから、もう良いって言ったら…浦風は“本当にもう良いのなら帰る。”って。だから“本当はちゃんと解けるようになりたいです。”と言ったら、分かるまで付き合ってくれたんだ。」
浦風「…思い出してきた。確か、“お礼に日本史なら何でも聞いてください。”と言ってきたくせに、その前の中間試験の結果を聞いたら俺より2点、下だったんだっけな。」
月夜「なぜそこを思い出すんだ。私の唯一の取り柄だったのに…あれは本気でへこんだ。」
浦風「そうか。」
月夜「…一年生の頃は、ただ、何をしても勝てないのが悔しかったってだけだった。だけど二年生になって、このままじゃ行きたくても同じ高校に行けないって思って…勉強がんばったんだ。」
浦風「勉強、確かに頑張っていたな。」
月夜「なのに恥ずかしいなんて、そんな下らない理由で…志望校聞けなくて。離れ離れになって。だから大学は同じ所に行けるように、毎日毎日勉強して…それでも中々聞けなくて。」
浦風「同じ大学に入って、そこでは後悔しなくて済んだか?」
月夜「ああ。」
浦風「近くの職場に就職できて良かったか?」
月夜「あたりまえだ。無茶を聞いてくれてうれしかった。」
浦風「そうか。」
月夜「…お前は離れ離れになるのを重要じゃないって思ってるらしいけど、私はそんな風には思えないんだ。」
浦風「悪かった。きっと俺は夢見がちな奴だったんだ。高校時代に事務的な話ばかりしていたのも、恐らくは、ベタベタする必要なんて無い。そんな事していなくとも、確かに繋がっているのだから。などと考えていたのだろう。…それで、陰でお前が傷付いていたというのに。」
月夜「いや、私も私なんだ。もっといろんな話がしたいと思っていたのに、自分から近づくのが恐くて。大学に入ってからも、ずっと気になっていたのに全然高校の頃の話を、することも聞くこともできなくて。だから今日は、ようやくその話ができてうれしかった。」
浦風「…そうか。二年までは色々な事をしていたが、大して楽しくも無かったから、その反動で三年の時は勉強しかしなかったな。それで、別段仲の良い相手も居なかったから、一番よく話していた相手は恐らく一年と三年の時の担任の先生だ。」
月夜「そっか。まあお前は中学の頃も私しか仲の良い相手がいなかったものな!」
浦風「…。」(微笑み。)
月夜「どうした。何を笑っている。」
浦風「いや。…恐いのに何度も近付いてきてくれて、ありがとうな。」
月夜「…もっと。」
浦風「どうした。」
月夜「もっと近づいても、良いか?」
浦風「もっと近くに居た方が、楽しめそうか?」
月夜「…うん。」
浦風「そうか。……だが、今回くらいは俺から近付くべきだろう。」
月夜「え?」
浦風「月夜。俺と付き合ってくれ。」
月夜「…ばか。」
浦風「傍に居るから、離れないでくれ。」
月夜「…傍にいなくても、ベタベタしなくても…というのがお前の考えじゃなかったのか?私に合わせてくれているのだとしたら、嬉しいけどそれはおかしなことなんだ。」
浦風「お前が、もっと近付いた方が喜ぶのだろうという事は大学時代から分かっていた。だが今までずっと言わなかったのは、それが俺の本意とは違ったからだ。」
月夜「…わかっていたのか。恥ずかしいな。」
浦風「就職して、仕事が始まって…半年以上経って。ようやく、俺自身の気持ちが変わった。傍に居られなくても、ベタベタできなくても、それでも確かに繋がっているのだろう。…でも、傍に居られて、ベタベタできる状況であるのなら、そうして居たい。今ではそう思っている。」
月夜「そっか。…甘えっ子め。」
浦風「お前程では無い。」
月夜「そっかそっか。」
浦風「それで、俺はお前の彼氏を名乗って良いのか?」
月夜「くくく。名乗りたければ名乗るがよいぞ。甘えっ子の、私の彼氏の浦風。」
浦風「…そうか。」
月夜「むぅ。私はお前の何だ。」
浦風「そうだな…。元親友の、俺の彼女の月夜。…これで良いか?」
月夜「ふふ。ありがとう。」
浦風「ったく。」
浦風「ふぁ…。」
月夜「もうお昼か…。」
浦風「結局あの後何時に寝たんだ俺達は。」
月夜「少なくとも、朝日はもう出ていたな…。」
浦風「近所で弁当でも買って来るか。」
月夜「よし、頼んだ。私は250円かっこぜいべつの海苔弁当でよいぞ。」
浦風「…そうだな。お前と言い合っていても時間の無駄だ。帰ってくるまでには目を覚ましておけ。」
月夜「流石だ。」
浦風「行ってくる。」
月夜「ああ。行ってらっしゃい。」
月夜「…。」(微笑み。)
以上。
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