ナーガールジュナ(龍樹)『中論』コミュの「中論」第六章　貪りに汚れることと貪りに汚れた人との考察

一　もしも＜貪りに汚れること＞よりも以前に＜貪りに汚れた人＞が、貪りに汚れることを離れて別に存在しうるのであるならば、【貪りに汚れた人】その人に縁って＜貪りに汚れること＞が存在しうるだろう。

二　しかし＜貪りに汚れた人＞が存在しないのに、どうして＜貪りに汚れること＞が存在しうるだろうか。＜貪りに汚れること＞【という実体】が存在するのであろうとも、あるいは存在しないのであろうとも、＜貪りに汚れた人＞についても、この同様の次第が成立する。

三　ところで＜貪りに汚れること＞と＜貪りに汚れた人＞とが同一時に生起することはありえない。何となれば【もしそうだとすると】＜貪りに汚れること＞と＜貪りに汚れた人＞とは、相互に無関係なものとなるであろう。

四　＜貪りに汚れること＞と＜貪りに汚れた人＞とがもしも同一であるならば、両者の共在することはありえない。何となれば、ものはそのものとは共在しないからである。また【その両者が】全然別異のものであるならば、【その両者が】共在することがどうして起こりうるだろうか。

五　もしも【両者が】同一であるから共在が成立するのであるならば、助伴者がいなくても共在が成立するであろう。またもしも【両者が】別異であるからこそ共在が成立するのであるならば、助伴者がいたとしても共在が成立するであろう。

六　あるいはまた、【両者が】別異であるからこそ共在が成立するのであるならば、＜貪りに汚れること＞と＜貪りに汚れている人＞とが互いに異なったものであるということがどうしてすでに成立しているのであろうか。　何となれば、その二つのものはすでに共在して【合している】のであるから。

七　あるいは、もしも＜貪りに汚れること＞と＜貪りに汚れている人＞とが別の異なったものであるということがすでに別々に成立しているのであるならば、他方において両者の共在することを、汝は何のために想定するのであろうか。

八　「別々には存在しない」と、そのように考えて、汝は【両者の】共在を願う。ところが【両者の】共在を成立させるために、汝はさらに【両者が】別の異なったものであると考えている。

九　しかるに【両者の】別異であることは成立しないから、【両者の】共在は成立しない。【両者が】別の異なったものであるのに、汝はそのいずれにおいて共在を考えるのであるか。

一〇　こういうわけであるから、＜貪りに汚れること＞が＜貪りに汚れている人＞と倶（とも）に成立することはないし、また両者が倶にならないで【別々に】成立することもない。＜貪りに汚れること＞と同様に、一切のことがらが倶に成立することもないし、また倶にならないで【別々に】成立することもない。

コメント(5)

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[1] mixiユーザー 08月16日 11:10

かなり難解です・・・　＜貪り～＞を執着する主体と、その対象としての客体と読み替えることが許されるならば、多少読み説けるような気がします。要は両者とも、縁起において生じる表裏一体の実体なき『関係』でしかないと云うことでしょうか？

「龍樹」の?‐8章で中村　元氏は、こう解説してます。
相互に相依って起こっている諸事象が生滅変遷するのを凡夫の立場から見た場合に、生死往来する状態または輪廻と名付けるのであり、その本来のすがたの方をみればニルヴァーナである。人が迷っている状態が生死輪廻であり、それを超越した立場にたつときがニルヴァーナである、と。

[2] mixiユーザー 08月07日 06:07

Last Longingさん

＞要は両者とも、縁起において生じる表裏一体の実体なき『関係』でしかないと云うことでしょうか？

関係しか存在しないというよりも、それぞれが他に依存せず自ら実体として存立しているわけではないのだから、依存関係によって仮に、あたかも幻のごとく存在しているだけだということだと思います。

[3] mixiユーザー 08月07日 10:56

〉78910さん表現はことなりますが、同じ文意で書き込んだつもりでした。

[4] mixiユーザー 08月07日 11:57

そうでしたか(^o^)

Last Longingさんがミクシィ内に『中論』をアップされたご苦労とその先見性は僕たちみんながその恩恵にあずかっており、あらためてお礼を申し上げずにはいられません。

Last Longingさん、どうもありがとうございます。
m(_ _)m

[5] mixiユーザー 08月10日 01:04

>78910さん
そんな、照れてしまいます