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チャンの小説コミュのその日その時が来る日までに〜里田 絵里編

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☆ 登場人物

里田 絵里(21)……主人公

金子 修 (21)……主人公彼氏

里田 順子 (52)……主人公母親

コメント(28)

1
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病魔というのは突然襲ってくるものである。
 

それも、自分ではなく自分の愛している人にもそれは言えることだと、金子修が病気におかされ入院すると聞かされた時思い知らされた。
 

私はその知らせを聴くとすぐに、修が入院しているという都の大学病院へ電車で向かった。
 


その大学病院は都内でも一、二を争う大学病院でそこに入院ということは何か生命に関わる重病なのかと心配を隠せなかった。
 

電車を降り、大学病院行きのバスを乗り継いで私は大学病院へ着いた。
 


そして着くとすぐに修が入っている部屋に向かった。

四一一号室。
 


その下にネームプレートで金子修と書かれてあった。
 


私はノックもせずに部屋のドアを開けた。


「修」
 


個室だった。


六畳くらいの部屋にベッドが置かれ、そこに修が仰向けで眠っていた。



「修。修」
 

私は修の身体を何度か揺する。


「んんん?」
 


と、修はゆっくりと目を開けて私を見る。



「あ、絵里か。来てくれたんだ」
 

微笑みながらゆっくと上半身を起こす。



「当たり前でしょ? どうしたのよ。大学病院に急に入院だなんて」



「俺だって知らねえよ。ちょっと気分が悪くなったから病院に行ったら、大学病院で検査入院だって……」



と、修は困ったかのように髪の毛を掻き毟る。

「じゃあ、まだ病名とかわかってないのね」



「そうだよ。なのにさ、お前がそんなこの世の終わりみたいな顔していたらこっちだって暗くなるよ」
 


と、修は私から目を反らしてため息を吐く。



「何よ。私だってねえ。心配なんだから。それをねえ」
 


この時の私は彼の病状がまだわからない不安とある意味安心感と入り混じってわけもわからなくなっていたのかもしれない。
 


私は彼の元気に喋る姿を見て涙が溢れてきた。



「おいおい。泣くなよ」
 


泣きじゃくる私に、修はベッドの横のタンスからハンカチを出して私に渡してくれた。



これじゃあ、どっちが見舞いに来たかわからないくらい、私は数分間泣き続けていた。

修が検査入院で入院してから一週間が過ぎた。
 

今日は担当の医師から検査結果が出るということで彼の家族と一緒に私もその結果を聞くことになった。
 


私が病室に入ると、修の両親はもうすでに来ていて修の寝るベッドの左隣に座っていた。


「どうも」
 

私は彼の両親に軽く会釈をする。二人もそんな私向かってぎこちなく挨拶代わりに会釈をする。
 


そして私は黙ってドアのすぐ横の壁に黙って立つ。



実は彼の両親とはあまり面識がない。



だから、普段人見知りの激しい私のことだ。

どうも。私が修とお付き合いをさせていただいております里田絵里です。よろしくお願いします。



何て口も避けても言えず、こうして少し離れた場所から黙っている立ってことしかできない女なのだ。
「おい、絵里。そんなとこ立ってんなよ。もっとこっち来いよ」
 

と、ベッドのから修が仰向けに寝たままこちらに顔を向けて笑う。


「ええ……でも」
 


そんな、彼の気遣いにも私は答えることができない。



「そうですよ。こっちに来て。さ、お父さん椅子椅子」
 


と、修の呼びかけに彼のお母さんが気を使って彼のお父さんに椅子を持ってこさせる。



「ああ、あのいいですよ……ああ、すみません」
 


私は両親の横に用意してくれた椅子に身を屈めながら座る。
 


そして、私が座ってから一分もしないうちに白衣を着た担当医師が部屋に入ってきた。

「これはどうも。先生」
 


と、修のお母さんが立ち上がって医師に私の時とは打って違って深々と礼をする。



「ああ、どうも。えっとですね。検査結果の結果ですね」
 


早速、医師が手に持っていた資料の紙を見つめ話始める。



「お子さんの病気は……」
 


医師が紙から目を離し、神妙な面持ちで両親と私を交互に見る。



「あ、ちょっと待って下さい。絵里。やっぱお前は外にいろ」
 

と、医師が話そうとすると修が私を見てそう言う。



「え、どうしてよ」
 


私と彼の目が合う。すると、私の目に彼の真剣な眼差しが飛び込んできた。



「わかったよ」
 

私は渋々部屋を出て行く。
 


部屋のドアを閉め、外の廊下の壁に寄りかかる。

きっと、医師のあの表情を見て修は良くない結果だと判断して私がまた泣き出すと思ったのだろう。


でも、それだったらなお更私は聞きたかったけど、いつもおどけている修にあんな真剣な眼差しを向けられたら強いことは言えなかった。
 


私が出て行ってから五分後くらいで部屋のドアが開き、医師が出てきた。
 


私は医師とすれ違いざまに部屋に入った。



「あ、あの結果は」
 


私は部屋に入るとすぐに彼の両親と彼の顔を交互に見た。



「ああ、三ヶ月くらいで退院できるって」
 


言葉を切り出したのは修だった。


その表情は穏やかな彼に戻っている。



彼の両親も穏やかに私に向かって微笑んで頷く。

「え? で、病気は何だったの?」


「えっと。簡単に言うと脳の病気みたいなんだけど、発見が早かったから薬での治療と注射の投与だけで治るってさ」
 


と、彼が言い終えるととたんに私は彼が入院した初日に部屋に来た時と同じく、涙が溢れて止まらなくなった。



「よかった。よかった」



「おい、おい。また泣くのかよ。全くよく泣くよなあ絵里は」



 そう言うと修はベッドから降りて泣きじゃくる私の前までゆっくりと歩いてきて、優しく私を抱きしめた。



「うるさい。うるさい」
 


私は涙声で彼の胸の中でずっとそう連呼した。



2
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私が金子修と出会ったのは、ファーストフード店で勤めていた時だった。
 


大学生に入ってアルバイトで始めたそのファーストフード店のバイトだったが、私がバイト経験のなかったのもあって店での仕事や人間関係などうまくいかなかった。
 


そんな時に、私と同い年でかつその店のバイトの先輩であったのが修だった。



彼は覚えの悪い私に何度も仕事を教え、休憩時間、一人でいる私にも気軽に話しかけてくれた。
 


私は彼と話していくうちに彼が徐々に好きになっていくことに気づいた。



でも、消極的な私は、自分の気持ちを告白することができずに彼がバイト場にいる日にわざとバイトに入ってみたり、しかしそれでいて入ったがいいが彼と目を合わすと恥ずかしさが胸を込み上げてわざと彼を避けてみたりすることしかできなかった。
 



そしてある日、私は思いきって修に自分の気持ちを告白した。
 


その告白に彼は笑顔で頷いた。
 



きっと、その時も私は彼の前でワンワン泣いたような気がする。


もはや、修を病人とは思えなくなってきた。
 


病気の治療が始まってから数日間、毎日のように私は彼を見舞いに来ているが、彼は入院する前と全く変わらない元気な彼のままだった。
 


彼の部屋は病状が安定したということからか、一昨日から四階の個室から三階の大部屋に移された。
 


私は病院に着くとその大部屋に足を運ばせる。
 


部屋の前にはその部屋にいる数人の人の名前と、そして一番右下に彼の名前が書いてあるネームプレートが貼ってあった。
 


部屋に入ると、修は部屋の入り口から見て一番奥の窓がすぐ横にあるベッドに寝ていた。

「修」
 


私が顔を見せると、彼は笑みを見せて上半身をゆっくりと起こす。


「ああ、絵里」



「調子はどう?」
 


私は隣にあった椅子に腰をかけながら彼に訊く。


「どうって言われてもなぁ。ただ暇なだけだよ。何もすることもないし、ただボーとテレビ見たりマンガ読んだりするだけ」



「そりゃ、そうでしょ。病人なんだから」



「え? 病人ね。何か自覚ないな。別にちょっと頭が重いかなとか、気持ち悪くなる時はあるけど、あとは別にいつもと変わらないし」


そう言って彼は、顔を引きつってみせる。



「そう。でもまあ、あと二週間ぐらいでしょ。我慢しなよ」



「はいはい」
 


修は私の言葉に、私から目を離して不貞腐れたように天井に顔を向けた。
 


二人の会話が途切れた。

私は次に彼に振る話題が見当たらず、何となく座ったまま周囲を見渡してみる。


そして、私はあることに気が付く。



「ねえ、何かここの大部屋。大部屋なのに患者さん少なくない?」
 


見渡す限り、この部屋には八つのベッドが置いてあるがそこに寝ている患者は彼を含めてたったの三人しかいない。



「ああ、そうそう。俺も気になってさ、昨日看護師さんに訊いてみたんだ」
 


彼は思い出したと言わんばかりに、天井からサッと私に目を合わせた。



「何か、この頃さテレビでも言っている死亡日確認システムってやつあるだろ」
 


死亡日確認システム。
 


今年の四月から政府が導入した新システム。

「ああ、あれね、私、怖くてまだやってない」
 


専用サイトにアクセスするとすぐに自分の死亡日がわかるというが、私は自分の死亡日なんか知りたくなかったし、知る必要性もないと思い送られてきた手紙も何処に仕舞ったのだかわからなくなっていた。




「あれでさ、患者の人が死亡日を確認して余命いくばくもないと表示された人はどんどん勝手に退院していっちゃうんだってさ」
 


彼はそう言って部屋を見渡す。



「え、そんなあ」



「そうなんだってさ、そりゃあ、人間誰だって、助かる見込みがなくて苦い薬や注射を打たされるような治療をしたくないだろ」



「確かにそうだけど……でも、そのシステムって本当に信用できるの?」




「さあな。俺は確認しないけどな」
 



と、彼は首を傾げ唇をへの字に曲げる。




「そうだよね。私もそうしよっと。ところでさ」
 



その時はそれで確認システムの話は途切れた。



しかし、私の頭の中で話しながらそれがずっと頭の中で引っかかっていた。

3
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ここ一週間くらいは、大学の帰りに修の病院に寄って彼と二時間くらい会話を交わしてから帰ることが多くなったから、自宅に帰るのは夜の二十二時を過ぎることがざらになってきた。
 



私の両親は二年前に離婚し、私は母とマンションで二人暮らしをしている。



門限は特に言われていないが、さすがに夜遅くに帰ってくるのは私は女だし心配をかけているかと内心申し訳なく思いながら家路を歩くこの頃である。



「ただいま」
 



私は自宅に着きドアを開くと、いつもと違いテレビの音も聴こえず静かで、しかも明かりもリビング以外は全ての明かりが消されてあり薄暗かった。


「ごめんね。遅くなって。もう夕食食べた? 私食べてないんだ」
 



靴を脱ぎ、明かりのついているリビングの方へ喋りながら向かう。



「え? どうしたの。何処か気分でも悪いの?」
 


と、リビングに行くと、そこにお母さんが椅子に座ったままリビングのテーブルに頭を伏せて寝ている格好をしていた。



「ああ、絵里。お帰り」
 


お母さんは私の声に気づき頭をテーブルから離し、私の方に顔を向けた。



「どうしたの? 今日はテレビも付いていないし。なんかあったの?」
 



私は持っていたバックを床に置き、お母さんと向かいの椅子に腰をかけた。



「ああ……」
 



浮かない顔をして言葉を詰まらせるお母さん。どうも、お母さんの様子がおかしい。


「何? 仕事で何かあったの? それとも、本当に気分が悪いの? ねえ」
 


私の問いかけにもお母さんは私から目を合わせたまま何も話そうとしない。



「いいや、蒲団敷いてあげるから。ね。今日はきっと疲れているんだよ」
 


と、私が畳部屋に蒲団を敷きに行こうと立ち上がろうとした。その時、お母さんはボソッと話す。



「絵里さ、もう絵里も大人だもんね」
 


そう言うと、お母さんは突然目から涙を零し始めた。



「え、ど、どうしたの。一体」
 


私はお母さんが突然泣き出したことに、あたふたと戸惑い立ったり座ったりを繰り返す。



「わ、私ね。今流行っている死亡日確認システムで自分の死亡日を見てみたの」



「ああ、あれね」
 



私は席に座り直し、ふと病院での会話を思い出す。


「それで、どうだったの?」
 


そう私が訊くと、お母さんは声を上げて泣き出した。



「ええ。どうしたのよ」



「明後日だってたのよ」
 


と、お母さんが涙声ながらもそう言う。




「え? 明後日? 何が?」
 



私は明後日の意味が解らず訊き返す。




「私、明後日死ぬみたいなの。あのシステムによると」 



そう言うと、お母さんはテーブルに頭をつけて泣き喚く。



「だから、絵里を残して死ぬって思ったら、どうしよって」



私も突然の告白に、何が何だか解らず混乱した。



「う、嘘よ。そうよ。嘘よ。あのシステムは信用できないもの。人の死亡日なんて分かりっこない。そうよ。大丈夫。お母さんは死なない。お母さんは……」
 



私はそう言いながらも、悲しみと混乱と様々なものが込み上げ、涙に変わって目から溢れ出す。
 



嘘。



お母さんが死ぬなんて絶対に嘘。


あのインチキシステムなんか信じるものか。
 


私はずっとそう思い続けて、お母さんの死は考えないようにした。



しかし、彼女はその告白の日から二日後、交通事故で突然この世を去った。


4
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人の命は蝋燭の火を息で消し去るように儚い。
 


私はお母さんの急な死に悲しむ間もなくこの一週間以上の時は葬式や何やらで、過ぎていった。



その間、修の病院にも一回も顔を出せなかった。
 


修は元気でいるだろうか。




まだ、これから先のこともわからずそして心も落ち着いていなかったが、そんな時だからこそ、彼の顔を見て落ち着きたかった。




私は久しぶりに彼に会いに行くことにした。
 



電車、バスを乗り継いで大学病院に着き、館内に入る。




館内は患者らしき人が殆ど歩いていなく、受付前に設置してある待合の椅子にもポツンポツンとしか人が座っていない閑散とした光景が飛び込んできた。


私は奇妙な光景を見つめながら、修のいる部屋に向かう。



金子修とネームプレートが掲げられている部屋。私はその前で、一呼吸置く。



修に会いに来たんだ。泣いている顔を絶対に見せないようにしなきゃ。



しかし、私はそう思うほど涙が込み上げてきて堪えるのが大変になっていた。



部屋のドアをゆっくりと開ける。


しかし、部屋には人が眠っていない白いシーツだけが敷いてある空のベッドが並ぶ。




あれ? 患者さんが誰もいない。部屋間違えたかな。

そう思いながらも、私は一応部屋の奥まで空のベッドを見つめながら足を前へ歩ませていく。



「あ、修」
 


と、一番奥のベッドに一人、患者さんがベッドに横たわっていた。修だった。



「修。私よ」
 


修は寝ているらしく、身体を横にして眠っている。彼が眠るのを見たのは久しぶりだった。



なんだか、以前来た時よりも顔が痩せこけたような気がする。



「ん、んん」
 


修は目をゆっくりと開け、私の方を見る。



「ああ、絵里か」
 


寝起きだからか、気の抜けた声でそう言って上半身を起こす。



「うん、随分来れなくてごめんね」




「いいよ。それより、大変だったね」
 



彼は私の方を見つめ、そっと微笑みかける。

私はそんな優しい彼の顔を見ると堪えていた涙が溢れ出しそうになる。



「あのさ、ところでさ、患者さん減ったね」
 


私は必死で涙を堪え、話題を変えた。



「ああ、みんな退院しちゃった」
 

彼の顔から笑顔が消え、寂しそうな顔でそう呟く。



「え、みんな病気が治って? それとも……」
 


死亡日確認システム。
 



あのシステムのことだけは触れたくなかった。言葉にも出したくなかった。




「そう、あれだよ。最近、退院していったのは大半がそれだ。それで俺も退院する」
 



私はその言葉に出てきそうになった涙が一気に引っ込み、パッと笑顔になる。





「え? 予定より早くない? どうしたの。もう治ったの?」
 



しかし、彼は笑うどころか私から目を反らし窓のほうを見つめた
「え? どうしたの?」
 


そんな彼に私は問いかける。



「俺、二週間後に死ぬんだ」
 



彼は淡々とそう言い放った。



そしてその言葉が彼の口から放たれた瞬間、私の周囲の空気は一気に冷え込み、目の前は真っ暗になった。
 



私は凍えそうな空気と真っ暗闇で、涙など出るはずもなくただ、その場に立ち尽くすだけだった。
5
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修は私が病院に来ない間、死亡日確認システムで自分の死亡日をパソコンで見てしまったという。
 


そして、彼は自分が近日中に死亡することを知り、病院を退院したいと願ったということだった。
 


退院してからの彼は別人になってしまった。
 


毎日、家に遊びに行っても、ただボケッとテレビゲームをやり私とは殆ど口を利かず、身体も、あまり食欲がないからと食べないからか、ここ二、三日でみるみるうちにやせ細っていた。
 



それでも私はめげずに彼の家に行く。
 



私は修が死ぬなど絶対に考えたくはなかった。絶対に元の彼に戻ると私は信じていた。



「修」
 




そして今日も私は修の自宅に足を運び、修のいる彼の部屋に入る。


「どう?」
 


相変わらず彼は、私が来ても無反応で手にはコントローラー、視線はテレビに向けてテレビゲームに熱中している。



「そんな、毎日ゲームしていたら目を悪くするよ」
 


私は隣に座り彼に話しかける。しかし、彼は相変わらず無反応だった。




「ねえ、ちゃんと治療受けようよ。絶対、嘘だって。あんなシステムなんか信じちゃダメだよ」



「……」
 


彼は私の話に耳を貸そうとしない。
 


私はいつものようにそんな彼に話しかける言葉を失い、黙り込む。




しかし、このままでいいのか。



お母さんの時はただこのシステムを信じないと思い続けただけで結果的にはシステムのいう通りにお母さんは死んでしまった。
今、頑張らなければ修も同じことになるのではないか。


もし、あのシステムが嘘っぱちだとしても、彼がこのシステムを信じ込む限り、ノイローゼ状態でシステムの告知通りに死んでしまうような気がした。



私は二つも大切なかけがえのないものを失うのか。



私はそう思った瞬間には、修の手からコントローラーを取り上げていた。


「な、なにするんだよ!」
 


彼は力づくで私からコントローラーを取ろうとする。



でも、私も身体を丸めて手に持ったコントローラーを放さない。



「嫌だ。修まで死んだら嫌だ。ちゃんと、治療受けて」




「返せよ。俺はどうせ死ぬっていうのは決まっているんだよ。だから、それまで俺が何しようとほっといてくれ」
 



なおも彼は私からコントローラーを奪おうとする。


「ダメ! 私、絶対に渡さないからね。私は、どうしたらいいのよ。お母さんに死なれて、それで修にも死なれたら……。修はね。修は修だけの命じゃないんだよ。死ぬんだなんて簡単に言わないで」
 


私は頭の中が混乱していて自分でも何を言っているかわからなかった。



そして例のごとく私は顔をグチャグチャニして泣いた。



「で、でもよう。どうすればいいんだよ。俺はもう死ぬんだぜ。それは決まっていることなんだぜ」
 


そんな泣き喚く私を見て、彼はコントローラーを奪うのを辞め、その場に胡坐をかいて俯きかげんに座る。



「大丈夫」
 


私は涙声で修に語りかける。




「大丈夫だから。修は死なないよ。だから、治療受けよう」
 


彼は俯いていた顔を私の方にゆっくりとあげる。
 



彼も私と同じように顔をグシャグシャにして泣いていた。



私は彼が泣くのを初めて見た気がした。

6
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その次の日から修は病院に戻り、治療を受けることとなった。
 


彼は日に日に食欲も増し、顔色も良くなっていった。もちろん、本来の病状も着々と回復しつつある。
 


大学を終え、いつものように私は大学病院へ足を運んだ。
 


病院の中は変わらず患者さんがほとんどいないもの寂しいものになっていた。
 


もしも、死亡日確認システムというものは正確で、百パーセント信用できるものならば人は何時何時に死ぬということは、すでに決まっているのかもしれない。
 


そしてそれを見て、絶望に浸っていて死ぬもの人生。



余生を楽しもうと朝から晩まで遊びほうけて死ぬのも人生。



人生感は様々でいいと思う。


しかし、私は修にはそうなってほしくなかった。



彼がもし近いうち死ぬ宿命だとして、それでも彼にはその日その時が来るまで生きる希望を捨てず頑張って生きていてほしかった。




それが宿命ならば、無意味なことなのかもしれない。




でも、そんな宿命も変えられると信じて生きてもらいたかった。



「修」
 


私は修のいる部屋へと入る。
 



相変わらず、空きベッド並ぶ部屋。




その一番奥に彼が寝ていた。



修は私の姿を見ると、いつもの彼らしい、素直で爽やかな笑顔を私に見せた。


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