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魔境の森の旅人コミュのAct13:長い・・・・・・、長い夜 (2-3(2/2))

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 髪は紫で、肩に付くかどうかという長さ。瞳は大きくて、赤い。白のワンピースを着ていて、髪をワンピースと同じ色のバンダナで留めている。前・・・宿舎の医療室で、『白』って色は清潔感を表す色だと聞いたことがある。このひとも多分、そういう事を意識してこういう格好をしているんだと思う。

「もう一人の『兄ちゃん』はデュークって言うんだ。覚えておいてやってよ」
 『覚えておいてやってよ』って・・・ハリー、それ扱い方が年上の兄さんとは思えないよ。

「まぁ、それじゃあハリー君とデュークさんもすっかりお友達なのね」
 ダリアさんもそれを理解したのか、くすくすと笑いながら返した。俺はそのやりとりを聞きながら、ジュースを飲んでみた。ちょっと甘いけど、疲れた体には栄養補給の意も込めてちょうどいい。

「さっきは・・・ごめんなさい。あの人、普段あんなに怒ったりする人ではないのに・・・弟と甥っ子が無事に帰ってきてくれたっていうのに、素直になれずに怒っちゃうなんて」
 『素直になれずに怒ってしまう』―――――ジーンさんもハリーもそうだ。テラー家の人々って、そういう人が多いみたい。いなくなったシェリさんも、そしてこのダリアさんも、苦労が絶えなさそう。それを考えると・・・・・・ディーノさんもそうだったのかな?

「おれ達もおれ達で、しばらく帰ってこなかったからね。迷惑掛けちゃったんだもん、怒られるのも無理ないよ」
 ハリーは頭を掻くと、溜め息を吐く。

「あの人は・・・・・・いっつも研究に没頭してる。今の私は、ただのお手伝いさんにしか見えないんだわ。昔はそんなんじゃなかったのに、『二人で診療所をやっていこう』って約束して、ここでひっそりとやるようになったのに・・・・・・あの人を慕ってお弟子さんが増えていくうちに、あの人―――ニコラは、お弟子さんにひっきりなし」
 ダリアさんは、寂しそうに呟く。どうやらニコラさんは、ダリアさんを放りっぱなしのようだ。大恋愛の末に結婚したのはいいけど、最近は心がすれ違っているみたい。
「もう、結婚して八年。子供もいないし、私はあの人の妻としていることに、もう理由はないのかしら・・・――――」
 ついにダリアさんは、そんな事を言うようになってしまっていた。

「おばさん、そんなことないよ。忙しいかもしれないけどさ、おじさんはおばさんの事をちゃんと思っているよ!お願いだからさ、そんな事言わないで。いきなりいなくなるなんて事、しないで――――――」

 ハリーは、哀惜の念を込めつつダリアさんを慰めた。確かにこのままだと、ダリアさんが第二のシェリさんになってしまう可能性だって十分ある。もちろん、そんな事はあっちゃいけない事だ。それを止めることが出来る人―――――俺は、ニコラさんだけだと思うけど。
 ダリアさんはそんなハリーを見ると、慌てて笑顔を作った。

「大丈夫よ。あなたのおばさんは絶対、いなくならないから。私・・・どんなことになっても、消えたりしない。『ニコラの妻』としてはいられなくなってしまうかもしれないけれど・・・ハリー君、君のおばさんではあり続けるつもりよ。シェリさんが帰ってくるまでは―――いなくなったりしないから」

 なんだか、深刻な悩み相談になってしまっている。こんなとき、俺はどうしたらいいんだ?いいや、こんな俺に何ができる?何か、できる??
 ダリアさんは立ち上がって部屋の机の上にお盆を置くと、そこにデューク不在の為自分の分になったジュースを乗せた。

「こんな話聞かせちゃって、ごめんね。それでも言っただけ、気分が良くなった。あなた達には悪い思いさせちゃったかもしれないけど・・・話を聞いてくれて、有難う」

 ダリアさんはこっちを向いて、にっこり微笑んだ。しかも、とても弱々しく。
 俺には・・・なんとなく、そう見えたんだ。
 彼女はハリーの顔を覗き込んでから、次に俺の顔を見た。近付き、ゆっくりとその手を俺の顔に近づける。でも・・・その手が俺の頬に触れる事はなかった。
 その瞬間、ダリアさんは・・・気を失って、俺の腕の中に倒れ込んでしまったんだ!

「!?――――――ダリア・・・さん?ダリアさん!しっかり、しっかりして下さいよ!」
 細身に見えるのに、なんだか重く感じる。この体に吸い付いて、離れない。
 俺はただ一人、慌てるばかり。

「ハリー、誰か・・・誰か呼んで来てくれないかな?」
 了解してくれたのか、ハリーは走って部屋を出て行った。俺は一人、今の自分にできる事はなんなのかを必死になって考えた。
 とにもかくにも、今はダリアさんを寝かさなくちゃ。

 思い立ったら即実行、俺は彼女を抱き上げた。失礼・・・だとは思うけど、やっぱりこの女はすごく重く感じる。どうしてだろう?
 ――――『失神した人や死亡した人ってのは、重く感じるものなのかもな。突然、倒れられたからなぁ・・・こっちが慌ててるからってのも、あるかも』
 いきなり、声が聞こえてきた。『あの男』――――――そう、もう一人の俺の声が!
 俺は慌てて(さっきっから慌てっぱなしだなぁ・・・)、辺りを見回す。

 ――――『これこれ、どこを見たって無駄だよ。俺は今、お前の心に話し掛けてるんだから。前にも言っただろう?【お前の夢の中】と【土壇場時】に、俺はお前に会いに行くって。でも【会える】っていうのは、俺がお前の心に話し掛けるってことなんだよね』
 あの男は、相変わらず楽しそうに俺に話を振ってくる。とにかく俺は、彼に話しかけてみることにした。とはいっても、心の中で思ってみるだけなんだけど。
 ・・・・・・・・俺は一体、どうしたらいいんだろう?この人、このまま放っておけないし。
 すると―――――答えが、ちゃんと返ってきた。

 ――――『前に、お前が思い出した奥義。あれを使ってみな』
 ・・・・・・・・え?あれ?この人、目立つ傷は負ってないみたいだけど?

 ――――『いいからいいから。使ってみればちゃんと分かるから』
 あの男は、俺を催促する。とにかく立ちっ放しだった俺は抱いていたダリアさんを寝台の上に寝かせると、両手をかざそうとした。

 ・・・・・・・・手は?どこにかざせばいい?
 ――――『とりあえず、胸の上。それで、唱える呪文を変えるんだ。【この者を悩ませるもの、病魔か否か。その答えを、わが胸に解き明かせ】ってね』

 やっぱりあの男は、この謎の奥義についても良く知っている。・・・名前ぐらい、教えてくれてもいいのにさ。
 でも今はそんな事考えている暇なんか無い、俺は言われた通りにしてみることにした。

「・・・・・・この者を悩ませるもの、病魔か否か。その答えを、わが胸に解き明かせ!」
 光が―――あの緑色の光が、あたり一面に広がる。俺はそれを目の当たりにしたけど、その時背筋に悪寒が走った。なんだか、あんまり気分が良くない。
 ――――『気を集中させろ。目を閉じて、浮かび上がった光景を良く見ておけ。何が・・・・・・何が見える?それを、俺に教えてくれ』
 目を閉じてみる――――何か・・・・・・何かが見えてきた。

 その「何か」ってのは・・・・・・花畑、だ。色んな花、色とりどりで形も違う、そんな花々があちこちに咲いている。
 ふと俺は、大きな桃色の花が一輪だけ、花畑の中央に咲いている事に気が付いた。数々の花々に囲まれて、それはひかえめに、そよそよと風に吹かれていた。

 風に乗って、甘い・・・・・・甘い花粉の香りが漂ってくる。蜜の匂いか?なんだか、眠りを誘う香りだ。匂いのする方を見ると・・・その方向には、もう一つ花畑があった。同じ様な花がたくさん咲いていて、その中心には――――同じ種類かな、青い花が咲いていた。

『青の花』。見たことがない不思議な花だ。
『桃の花畑』と『青の花畑』、それは非常に対称的でそっくりだ・・・とは思っていたけど、実はそうでもないみたい。目を凝らしてみると、周囲で咲いている花の種類も『植えられ方』も違うみたいだ(俺は、その二つの花畑が人の手によって作られたものなんだろうなと、そう思い込んでいた)。
 風に乗って・・・――――――今度は、生き物の羽音が聞こえてきた。どこからともなく現われたその羽音をたてていたもの、これもまた見たことがない不思議な鳥が、青い花に止まり、蜜を吸っている。
 風が強く吹き、青の花から零れた花粉が鳥にかぶる。でもその鳥は、そんな事全然気にしていない様子だった。そしてその鳥は飛び立ち、今度は桃色の花に止まって蜜を吸い始めた。青の花から持ってきた花粉を、桃の花に振り掛けるように体を動かしながら蜜を  吸っているようだ。その行動は、まるで―――花粉を擦り付けるかのよう。
 と、そこで・・・その幻影は終わった。俺は思わず、手をかざすのをやめてしまった。

 ――――『どうやら、終わったみたいだな。何が見えた?』
 説明しなきゃいけないのか。見たままを言えば・・・いいのかな?

 ・・・・・・・・花畑が見えたよ。二つあって、それぞれの中心に桃色の花と青の花が咲いていた。その二つの花に鳥が止まって、蜜を吸ってた―――っていう感じの光景だった。

 ――――『花の順番、青から桃か?』
 ・・・・・・・・そう、その通り。

 ダリアさんに、何が起こったというのだろう?今のところ彼女は気を失ったまま、って感じだけど、なにか悪いことの前触れだったらどうしよう・・・・・・。
 ――――『まさかとは思ったけど、本当にそうだったとはな』
 いきなりあの男は、そんな事を言い出した。

 ・・・・・・・・え?分かったの?
 そのとき俺は、思わず顔を上げていた。
 ――――『ああ、すぐに分かったよ。聞けばすぐに分かる。そのひと、妊娠している』
「へ?妊娠してる?ダリアさんが??」

 あまりにも意外だったために、俺は声に出していた。それがちょうどいい瞬間だったのかどうかは良く分からないけど、ちょうどハリーがニコラさんとジーンさんを連れてこの部屋に戻って来ていた時だった。

「君・・・それは、本当なのかい?」
 ニコラさんは驚きつつ、俺に尋ねてくる。そんなこと、俺が聞きたい。

「・・・た、多分・・・・・・そうだと思いますけど」
「『そうだと思う?』どういう事だね!?いきなり出張って何をしているのかと思えば、おかしな事を言い出して。もしそれが本当だったら、誰の子なんだ!?」
 ――――そんな事、俺が知ってる訳ないだろ!?

 俺は終始慌てふためいてばっかりだった。どうしたらいいのか分からないまま、ニコラさんの鋭い視線を目の前に、戸惑っていた。
 でも・・・・・・その瞬間、何かが俺を包み込んだような感じがした。それから、開いたままだった口が勝手に動きだした。

「――――・・・・・・『落ち着いてください。この女性の夫である貴方が身に覚えがないというのなら困りますが、そうではありますまい。子供というものは、いつの間にかでできるものではありませんから。彼女は貴方のことを一心に思い続けてきました、ですから十中八苦間違い無い、貴方との間にできた子供でしょう。それでも、何か?心の中に、何か疚しいことでも?』」

 なんとなく分かった。あの男が俺に乗り移ったか何かして、俺にこう言わせたんだ。ニコラさんも落ち着いてくれたのか、ゆっくりと返してくれた。

「・・・また取り乱してしまった。最近彼女とはすれ違いが多くて、ろくに話もしていない状態だったから・・・・・・・・・何があったのかと、気が動転してしまった」
「『俺は医者ではありませんのでこれ以上明確なことは言えませんが、ちゃんとした資格を持った医者である貴方なら、すぐに分かる事だと思います。つい出張ってしまいましたが、俺から言う事はもうありません。でもあえてもう一言いうとしたら、【これからは彼女のことを大事にしてあげるといいでしょう】ということですかね・・・』・・・・・・」
 ――――ひえ〜っ、なんだか俺じゃないみたいだ。

「ご忠告、有難うございます。なら、妻は・・・・・・私が部屋に連れて帰ります」
 でもそんな俺をなんとも思わずにニコラさんはダリアさんを抱きかかえ、部屋を出て行った。ハリーとジーンさんが、驚いた様に俺を見ている。

「・・・・・・なんか俺、有名な医学書かなんかを見て、名医の言葉をそのまま言ったような事しちゃったね。とっさにあんな事、言っちゃったけど」
 それを聞いた二人は、なんとなくだけど俺の事を理解してくれた。まああの奥義が使えることは知っているはずだから、言葉ぐらい大した事ないか。

 ――――『まあそうだよな。お前にとって俺のセリフなんか、ただ単なる台本ぐらいにしか思えないよな。こっちは真剣に考えたってのに』
 ・・・・・・・・あ、ごめん。そんなつもりは無かったんだけど。

 ――――『いいけどさ。とりあえず俺、帰るわな』
 ・・・・・・・・え?ち、ちょっと待ってよ!

 本当にあの男は忙しいのか、ゆっくりと俺の側にいてくれない。まるで、俺の事を嫌ってわざと避けているかのように。

 ――――『別に嫌ってる訳じゃないさ。そこまで言うんだったら、さっさと寝ろ。お前の夢の中に、出てきてやるからさ』
 ・・・・・・・・さっさと寝ろ、だって?どうやってそんな事するのさ、人前でそんな失礼極まりない事出来ないだろ?無茶言うな!

 ――――『それじゃ、俺が手伝ってやるよ。ほら』
 あの男がそう言った瞬間、俺は、体の力が抜けたような感覚に見舞われた。当然立ち続けるなんて事はできず、後方に倒れ込む。運悪く後ろにあったテーブルに頭が当たって、ガンッ!と大きな音を立てた。テーブルの軸を背にして、座り込むような感じになった。

「い、痛っ・・・・・・」
 しかもなんだか、すごく眠い。力が抜けたせいか、目も閉じたっきり開きそうに無い。

「ザガル、どうしたの!?しっかりしてよ!」
「・・・・・・・・・ザガル君!・・・・・・・・・・・・君・・・・・・・・・・・・・・・―――――――」

 ハリーだけじゃない、ジーンさんも、俺を呼んでいるみたいだ。でも俺には、もうどうすることもできない。
 俺は・・・今確実に、もう一人の俺に誘われている・・・・・・・・・・・・。
 

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