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魔境の森の旅人コミュのAct12:園の診療所 (2-2(1/2))

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 それからまた数時間。俺達四人は、ただひたすら歩き続けた。
 俺も・・・ぐちゃぐちゃになった(デュークに体を引っ張られて、ますます収集のつかない事になった)髪を結い直して心機一転、気を引き締めて歩いていた。
 道中、当たり前のように半端じゃない数のエヴァーランが、目の前に現れた。
 それらは・・・茂みの中から突然だったり森の奥深くからひょっこりだったり、ラン(これは、エヴァーランの砕けた呼び方らしい。そう言われてみれば、パークガーデンを襲撃しに来たエヴァーラン・ギバータも死ぬ間際、そんな事を言っていたっけ・・・)ごとに様々だった。好戦的、臆病、面倒臭がり屋など、ランにもそれなりに性格があるみたい。

「はーっ、さすがにこんなに多くのエヴァーランを相手にすんのも、楽じゃねぇな」

 数十匹の[紅蛇](レッドスネーク)を相手にした後、デュークが何度も深呼吸をした。
 エヴァーランには不思議な習慣(?)があって、息絶えた後、時間が経つと消えて無くなってしまうんだ。砂の様に粉々になって、散ってしまう事もある。その時間は・・・それほど長くない。あっという間と言うことだって、不可能じゃない。
 最初俺は弔った方がいいのかな?とか思ったりしたんだけど、『その必要はないんだよ』とジーンさんが教えてくれた。
 おかげさまで、大量発生したエヴァーランの死骸の上を歩かなければならない、という状況に見舞われることはない。でもそれはそれで、なんだか寂しい気がする・・・・・・。
 ―――・・・戦い終わって疲れきったデュークの隣に立って、消えていく紅蛇の死骸をじっと見守っているのはジーンさんだ。

「仕方がないね。ここは森の中だし、おまけに夜だ・・・―――――それにしても君達、本当に見事な剣さばきだ。さすがは園の番兵という肩書きを持つだけの事はある」
 今度ジーンさんは、俺達を誉めはじめた。そんな事言われても、困るんだけど・・・。

「え、そうですか?いやあそれほどでもないですよ!」
 デュークは誉められたのがよっぽど嬉しかったのか、照れ笑いを浮かべる。奴は感情を隠す事が出来ないから、にんまりと満面の笑みを浮かべていた。

 ・・・ほんっと、自分に正直な奴だよ。

 俺はそんなデュークに呆れながらも、森の番人が消え去って寂しくなった森の道を、ただただ見続けていた。それに疲れてちょっと上を向くと、月の姿が見えた。

 ・・・うん。今日も昨日までと同じで、ちゃんと三日月だ。

 月は二ヶ月ごとに形を変える。だから満月の二ヶ月間もあれば、新月・・・つまり全く見えない二ヶ月間もある。
 でも―――ちょっと、気にかかる事があるんだよなぁ。
 昔に覚えた謎の知識の中に、ちゃんと月の満ち欠けの事もあった。でも・・・それと、実際の月の周期はまったく違うんだ。確か、満月を最初とするとそれから次の満月までの周期は、一ヶ月もかからなかったはずなんだけど・・・。
 どうも、この辺でも間違ったところが点々としている。どうせ、俺の叩き込んだ知識が間違っているんだとは思うんだけどさ・・・・・・。

 ――――でも・・・もし、そうじゃなかったら。
 ――――知識は本当で、間違ってるのはエヴァリブルの月だったとしたら・・・。

「・・・なーんて、まさかな!そんな事、あるわけないっかぁ!」
 あはははは、なんて可笑しく愉快な話なんだ?

「――――おい、ザガル?お前、何いきなり独りごと言いだしたり笑いだしたりなんかしてんだよ?」

 そのとき・・・俺は、はっと我にかえった。
 目の前にいるのは、不審な目つきで俺のことをじろじろと見るデューク。俺は・・・いつの間にか、一人の世界に浸ってしまっていたようだ。

「あぁ・・・?ゴメン!なんか俺、考え事しててさぁ・・・いつの間にか、自己陶酔してたかな」
「あんのさぁ・・・さっさと行かねぇか?自己陶酔したり考えにふけったりすんのは、目的地に着いてからならいくらでもやっていいからさ」

 デュークは、なんだか嫌なものを見るような感じで俺を見ながら言った。

 ――――確かに、今の俺はなんだか変だ。

 それは、自分もはっきりと認めることができる。否定は、全くしない。
 それと・・・・・・もうひとつ。これは、肯定できること。

 ――――今だけじゃない。最近の俺は、本当におかしすぎる・・・。

「よし。考え事はやめにして、先に行こう!」
 ジーンさんは、俺達の背中を押す。こうしてまた、森の中を突き進む。

「・・・お前さあ、いつから考えにふけってたんだ?ちゃんと、俺達の話聞いてたか?」
 歩きながら、デュークは不満そうに俺に聞いてくる。

「ごめんな。確か・・・・・・ジーンさんが俺達のこと誉めてくれて、それにデュークが・・・照れてたところまでは、聞いてたよ?」
 いけないいけない。今俺は、思わず『デュークが舞い上がっていた』と言いそうになっていた。本当の事言ったら、絶対ヤツに怒られる。

「当然の事さ!お前はともかく、オレはこの道 長いんだ。ただただなんとなくで、園の見張り番をやってた訳じゃないしな」

 俺の事はどうでもいい・・・そういった感じの言葉だけど、俺も別にそんな事は気にしない。デュークはいつもこんな感じで俺のことをはぐらかしたり馬鹿にしたりロクでもない扱いをするけど、ここぞという所では力になってくれる。いつもは悪ふざけばっかりしている俺達だけど、数日前の園での戦いがそうだったように、いざというときは助け合ったり力を合わせて道を開いたりということができるはずなんだ。
 だから・・・俺は、いつもデュークの事を信じてる。
 俺は俺なんだ、アイツが何と言おうと、俺も自分の考えは変えない。
 そうしてると・・・やっぱり自分らしい、自分にしかできない生き方というものをしているんじゃない?と、そう言い聞かす事ができるような気がするんだ。
 なんだか・・・俺、考え方がデュークに似てきたなぁ・・・。

「ふふん、まあその後は・・・オレの自慢話で盛り上がったわけさ。この話はまた、後でゆっくりとしてあげようじゃないか!いい話だったからな、オレとしても何度話しても飽きないくらいさ。これでお前も、『見直した』とか言って敬服してくれんじゃないかな?」
「俺はいつでもお前には頭が上がらない思いでいるよ、デューク」

 俺はデュークの肩をトンとたたく。

「そうかそうか。そいじゃこの話は、お前がオレに対するその大事な思いを見失った時に、耳にたこが出来るくらいしっかりと話してあげよう」

 こうして俺は、なんとかデュークの長話から逃げる事ができた。・・・あれ?待てよ。って事は、デュークがそれなりに自慢話ができるくらいの長い間、月のことで悶々と考え事をしてたって事か・・・?な、情け無ぇよ・・・・・・!

「―――・・・ザガル、ザガル!」
 今度は・・・・・・・・・ハリーが、俺の服の裾を引っ張っている。しかも、なんだか小声っぽい。

「ん?どうしたの?」
 デュークは、ジーンさんとまた話し込んでいる。どうやらハリーは、退屈みたいだ。俺はデューク達の後ろに下がって、それなりに小さな声で返した。

「あそこ見て」
 ハリーは暗闇の中、俺の左手を取って人差し指を伸ばし、腕を動かした。森の中の道を歩いている俺達にとって見てみれば、直角に左の方向だ(方角的には北なんだけど)。

 ――――何が見えるのかな?

 俺はそう思い、目を凝らす。・・・と、木々の茂みを通り越して、ほのかに灯りが見える!それもひとつじゃない、いくつも!

「見えた?あそこが、ストリートガーデンだよ」
 ハリーは俺の手を下ろし、離れると、ニコッと笑った。月明かりでも、十分見える。

「あと・・・もうちょっと?」
 彼はこくんと頷くと、もう一度俺の手を握って、続けた。

「もうちょっと真っ直ぐ進んで、曲がり角で左を行く。そこからちょっと歩いていけば、もうすぐだよ」

 俺の左手は今、ひとりの少年の手としっかり繋がっている。少年は・・・・・・今、何を思ってこの手を握って離さないのだろう?
 やっぱり・・・・・・・・・母親の事だよな。
 そうじゃなかったら・・・・・・・・・何を思っているの?
 でも・・・・・・・・・そんな事、聞けるはずがない。
 俺は少年に、彼自身の思いとこの腕を託したまま、ずんずんと歩き続けた。
 デューク達は話を振ってこない。また、エヴァーランも出てこない。
 それぞれに何者にも邪魔されないまま、俺達は歩いていく・・・・・・。

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