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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第99回 文芸部A ガラス窓作「朝の鈴の音」(テーマ選択『鈴』)

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 同じ職場、同じ通勤ルートが長くなると、同じ通勤時間、同じ通勤路ですれ違う人も限られてくる。道でも改札でも駅のホームでも、毎朝似たような顔触れとすれ違う。かといって、言葉は交わすこともない。ただのいつもの光景。
 彼も勿論そんな1人。ただ違うのは、彼を認識しているのは、一方通行に私だけだろうということ。

 彼は白杖を持った視覚障害者で、特に何かの助けを必要とする風でも無く、決まったルートを結構早い足取りで歩いて行く。彼の白杖には鈴が付けられているので、規則正しい、シャン、シャン、という音が聞こえてくると、あの彼が近付いてきたのだなと認識する。
 駅に向かう私とは逆行してゆく彼の鈴の音に、何とはなくいつも耳を澄ませてしまう。近付いてきたからといって、ただ、邪魔にならないように端に寄るだけのことなのだけれど。いくら障害のある人が、その他の感覚が研ぎ澄まされる的なことがあるとはいえ、絶対に邪魔にならないように気を付けてる私は、恐らくは相手からは、全く認識されてはいないだろう。そう考えると、不思議なような寂しいような気持ちになる。かといって、もしも感覚で認知されていたとしたら、それはそれで謎に負けたようにも感じそうだ。

 ある時から暫くの間、彼の姿を見掛けなくなった。引越しでもしたのだろうと思っていたら、ある日少し早めの時間に駅に向かったら、介助の人の押す車椅子に乗っている彼とすれ違った。左の手足にギプスが巻かれている。何か事故にでもあったのだろう。赤の他人ではあるけれど、いつも見掛けて、勝手に親近感を覚えている人の負傷した姿には、切なくなる。
 意味もなく、そこから暫くは、少し早めの時間に出て、変わらず車椅子ではあるけれどギプスが取れた姿、付き添いの人付きで歩行するようになった姿、付き添いの人無しで歩けるようになった姿を見守った。

 今はもう、昔と同じ時間に戻っている。あの、シャン、シャン、っという音が聞こえてくると、今日もご無事にお元気でいらっしゃることに安堵する。話しかけるつもりも知り合うつもりもない人ではあるけれど、勝手に平和で穏やかな一日の始まりを感じている。
 今日も一日お気を付けて。
 

コメント(2)

実話でしょうか。ぼくにも、眼の見えない知り合いがいますが、ビックリするほど、こちらの動きがわかっていたりします。この人も道の端に寄って譲ってくれているのは気づいていると思います。
>>[1]
断片的な実話(実体験以外のどっかで聞いた話とかどっかで読んだコラムとかも含む)から残った印象をを継ぎ接ぎして創作したフィクションです〜。
視覚障害者の弱視でなく全然見えない人の中にも、光も全く感じない人と、光と陰は分かる人がいるようで、後者の人は割と動きが分かるようですが、前者の人はかなり難しいようです。それでも、気配とか、気みたいなものは研ぎ澄まされるんでしょうね。
健常者とは違う感覚世界を生きている人達の感じている世界というのを知ってみたい気がします。興味があると書くと、語弊がありますが。

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