ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

聖者の生涯&言葉&聖者についてコミュの聖者の生涯 「ナーグ・マハーシャヤ」

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
☆2007年04月06日の日記から  


 ヴェーダーンタ協会から、「謙虚な心」という新刊が発売になりました。
 これは、ラーマクリシュナの在家の弟子であったナーグ・マハーシャヤの生涯の物語です。
 ナーグ・マハーシャヤは、他のラーマクリシュナの弟子に比べてあまり名前は知られていませんが、あのヴィヴェーカーナンダは彼について、
「私は世界中を旅したが、ナーグ・マハーシャヤほどの偉大な人物には、ついに出会えなかった」
と言っています。

 この知る人ぞ知る大聖者の生涯の物語。

 あまりドラマチックなこともなく、人知れず過ぎていく一生。

 淡々としたエピソードの羅列。

 しかし読んでいると、なぜか自然に何度も涙があふれてきます。

 この本は万人に受ける本ではないかもしれませんが、
 私の日記を読みに来てくださっている人には、合うかもしれませんね。


 --shree Shavari


☆Shavari先生(http://mixi.jp/show_friend.pl?id=535251&from=navi)の書かれたナーグ・マハーシャヤの生涯をご紹介いたします。

コメント(25)

(1)

 ナーグ・マハーシャヤ(偉大なる魂)という呼び名で知られるドゥルガーチャラン・ナーグは、1846年8月21日、東ベンガル州の小村に生まれました。少年時代から彼は非常に宗教的な性向をもっていました。あるとき彼の友人たちはナーグに対して無神論を説き、しばしば口論となりました。ナーグはたとえ口論で負けても、こう言い切るのでした。

「僕は神の実在について、ほんのわずかな疑いさえもってはいない。」



 その当時の伝統にのっとり、ナーグは若くして結婚をしました。そしてその後、医学の勉強に励みました。
 数年間、彼は医学の勉強と研究に没頭しました。そのため、彼が妻と顔を合わせる機会はほとんどなく、また、たまに近くにいることがあったとしても、世俗的な束縛を嫌っていたナーグ・マハーシャヤは、妻に誘惑されないようにと、一晩中、木の上に登ってすごすこともありました。
 そして突然、この若い妻は、赤痢を患って、亡くなってしまったのです。この出来事は、深くナーグの心を動かしましたが、同時に、神が自分を世俗的束縛から救ってくれたと感じ、幸せに思いました。

 彼は近隣の貧しい人々の治療を始め、無償で薬を配りました。ナーグは薬の処方において天才だったので、次第にその名声は広がり始めました。もし彼が望めば大金を稼ぐこともできたでしょうが、ナーグはそのような生き方はとりませんでした。彼の理想は金儲けではなく、ただ病人や貧しい人々に仕えることだったからです。

 あるときナーグは、スレーシュ・バーブと出会いました。初対面以来、二人は生涯の友となり、会うたびに、宗教的な問題についてのみ論じ合うようになったのでした。
 
 ナーグは徐々に医学への興味を失い、宗教書のみを読むようになっていきました。たまたま学者に会う機会があると、経典の真の意味を説き明かしてくれるようにと熱心に懇願しました。彼は毎日沐浴をし、定期的な断食の儀式を遵守しました。毎日、黄昏時になると火葬ガートに赴き、一人でそこに座って、夜遅くまで思索に没頭するのでした。ナーグはいつも何時間もそこに座り、考えました。

「むなしい、むなしい、すべてがむなしい。神だけが真実である。
 神を見出すことができなければ、人生は真に重荷である。いかにして私は彼を実現すべきであろうか。誰が私に、その道を示してくれるのだろう。」

 時々その火葬場に修行者たちがやってきましたが、彼らのほとんどは超能力的なパワーの探求者であり、神への純粋な愛を求めている人はほとんどいませんでした。ただ一人、ある年老いたブラーフミンだけが、ナーグに尊敬の念を抱かせました。彼はタントラ行者として規則的に儀式を行なっていましたが、宗派にとらわれた狭量な見解の持ち主ではなく、進歩的で、優れた洞察力を具えていました。彼は明快かつ丁寧に、ナーグに、タントラ派の修行の意義と、六つのチャクラの秘密を説明しました。

 この年老いたブラーフミンの指示にしたがって、ナーグは規則的に火葬場に行き、夜の静寂の中で、ジャパと瞑想に励みました。
 


つづく
(2)

 ナーグの行動を知った父のディンヤダルは、心を痛めました。彼は義理の息子に、ナーグの新しい花嫁を探すようにと、手紙を送りました。彼は、ナーグが修行者と一緒にさまよっているのは、彼を現世に縛り付けるものが何もないからであり、彼が結婚さえすれば、そのばかげた考えや行動はすぐに消えるだろう、と考えたのです。
 義理の息子はまもなく、ナーグの再婚相手を見つけてきましたが、ナーグはそれを断固として拒否し、父に言いました。

「あなたは一度私を結婚させました。しかし、その少女は亡くなりました。あなたはまた、誰かの娘を死の淵に置くつもりなのですか!」

 父も負けじと答えました。

「もしお前が父親に背いたなら、お前は人生の本分を果たすことができないだろう。私は、お前が宗教的な生活においても進歩が望めないように呪うだろう!」

 ナーグは、困ってしまいました。結婚を拒めば父の呪いにあい、結婚を承諾すれば真理は実現しがたくなる・・・ナーグは父に、こう言いました。

「私たち男性のすべての悲しみと苦しみの原因は、結婚にあります。どうぞ慈悲をたれて、あなたの決意を改めてください。私はあなたに懇願します。どうぞ私を再び奴隷の身分にしないでください。あなたが生きている限り、私はあなたに真心と魂をこめて仕えましょう。私はあなたの義理の娘になる人よりも、いっそう献身的に、何百回となくあなたに仕えましょう。どうぞお救いください。」

 ナーグの痛ましい顔つきと懇願に、父は深く心を動かされました。父は、息子の幸せを願って縁談を申し込んだけれど、実際それが息子の幸せにならないのなら意味はない、と思い直し、縁談を取りやめることにしました。
 しかし、もしナーグが結婚しなければ、家系はとだえてしまうだろう、という事実は、衝撃的な苦しみを父にもたらし、彼は耐え切れずに、ひそかに涙を流しました。
 ナーグはあるとき帰宅すると、父がその件で泣いているのを目にしました。その姿は、今度はナーグの心に大きなショックを与えました。ナーグは父親の手をとり、結婚することを承諾したのでした。
 父親は大喜びし、縁談は進められていきました。すべての人が喜んでいましたが、ナーグ本人は苦しみにあえいでいました。ナーグは、一日中外を歩き回り、一晩中ガンジス河の岸辺に座り、ひどく泣き続けました。誰も彼の心情を理解できる者はいませんでした。

 結婚のためにナーグが父とともに帰郷する日も、ナーグは一人ガンジス河に向かい、聖なるガンガーに頭を下げて言いました。

「おお、母よ! 私は汝がすべての罪を清めるものであるという事を耳にしました。おお、母よ! それならば、もし私が家住者となって世間のごみやホコリに汚されるなら、それらを洗い流したまえ。そして幸福・不幸いずれのときにも、汝の神聖な御足の下に私の避難所を与えたまえ!」


つづく
(3)

 ナーグはこうして父親の希望通りに再婚しました。これによって、ナーグが長年抱いていた、「家庭生活のわずらわしさを離れ、生涯を精神的な修行に捧げたい」という願いは消え、これからは家庭のために稼がなければならないという思いが、彼の心に浮かびました。しかしナーグはどうしても人の下で働くことができない姓格だったので、医者という職業を選んだのでした。結婚式の後、妻はまだ幼かったので故郷に置いたまま、ナーグは父親とともに再びカルカッタに帰り、すぐに開業しました。

 ナーグは患者から治療代を受け取っていはいましたが、自ら要求することはありませんでした。そして貧しい人々には無料で薬を与えるだけではなく、ふさわしい食事をとるようにと、いくばくかのお金も渡すのでした。ときには自分の飢えを顧みず、腹をすかせた乞食に自分の食事を差し出しました。
 これらのナーグの行為は、常識的な人間だった父親の目にはとても奇妙に映り、息子の将来性はないように思えました。

 ナーグの患者は、増え続けました。もしナーグが世間なれしていたなら、多くの富を得たでしょうが、ナーグは自ら治療代を請求することはせず、ただ深い喜びから差し出されたものを受け取るだけでした。
 狡猾な人々は、そんなナーグをだましたり利用したりしました。ある人々はお金があるのに治療費を払わず、またある人々はナーグからお金を借りて、決して返そうとはしませんでした。

 この件に関して、ナーグの親友のスレーシュはこう言いました。
「ナーグが回診から戻るころになると、お金を借りようと家の前で待ち構えている人々の姿をしばしば見かけたものだ。彼は、頼まれたときはいつでも、決して嫌と言わなかった。彼の稼ぎのすべてが、貸付金と慈善に消えたのは、このためである。だから、幾日も自分の食べるものさえないようなことも珍しくなかった。彼は、少量のふくらし米だけを自分の夕食としなければならなかった。」

 またナーグは、自分のためには全くお金を取っておくことはなく、余った分はすべて父親に差し出していました。ナーグは常々こう語っていました。
「真に必要なものはすべて神がお与えくださる、ということは真実です。それについて心配しても何の利益もありません。神への完全な自己放棄が幸福をもたらすのです。利己主義に基づいて私たちが企てることは、どれ一つとして思い通りの結果にはならないものです。これは私の個人的な経験です。」

 1880年、成長したナーグの妻は、夫と暮らすためにカルカッタにやってきました。彼女はナーグの父に献身的に尽くしましたが、ナーグ自身は、膨大な仕事を抱えた上に、わずかな自由時間も瞑想と勉強に費やされていたので、妻の相手をする時間はありませんでした。

 あるときナーグと妻は、一家のグルであるカイラーシュ・チャンドラ・バッターチャーリヤからイニシエーションを受け、マントラを授けられました。その後、ナーグの宗教的情熱はいっそう増大し、一日の大部分を、修行と瞑想に費やすようになっていきました。仕事はおろそかになり、収入も減少していきました。ナーグの父親は、こんな夫に嫁いでしまった若き妻の行く末を心配しましたが、ナーグは妻にこう言いました。 

「肉体レベルでの関係は永続しない。心のすべてを捧げて神を愛することができた者こそが、祝福されるのである。一度肉体に結び付けられたなら、何度生まれ変わっても、それを終わらせることはできない。だから、この骨と肉からできた卑しむべき檻に執着を抱いてはいけないよ。母なる神の御足の下に保護を求め、そして彼女を、ただ彼女だけを思いなさい。そうしてこそ、あなたの生活は、今も、そしてこれからも高められるであろう。」


つづく
(4)

 親友のスレーシュは、しばしばナーグのもとを訪れ、二人は宗教について熱心に語り合いました。しかし次第にそれだけでは満足できなくなってきたナーグは、あるときスレーシュにこう語りました。

「無駄話に時が過ぎていく。何かをじかに悟るのでなければ、意義ある人生とはならない。」


 ちょうどそのころ、スレーシュは、カルカッタ郊外のドッキネッショルに、ラーマクリシュナというすばらしい聖者が住んでいるという話を耳にしていました。しかしもろもろの事情により、その話がナーグとの会話の話題に上ったのは、二ヵ月後でした。ラーマクリシュナの話を聞くと、ナーグは、彼に会いたくてたまらなくなりました。そこで二人は、朝食を終えるとすぐに、ドッキネッショルへと歩いて向かいました。
 それはインドの夏季である四月のことであり、日差しは容赦なく照りつけていました。しかし二人はその暑さをものともせず、不思議な力に導かれるようにして歩き続けました。
 長いこと歩き続けたとき、もうドッキネッショルのカーリー寺院を通り過ぎてしまったことに気づきました。道を引き返し、カーリー寺院についたのは、午後二時になっていました。

 ナーグとスレーシュは、ラーマクリシュナの部屋へと入っていきました。ラーマクリシュナは、小さな簡易ベッドの上に、微笑みながら、足を伸ばして座っていました。
 スレーシュは合掌してお辞儀をし、床に敷かれたマットの上に座りました。ナーグは、インドの習慣どおり、師の前にひれ伏して師の足に触れ、御足の塵をとろうとしましたが、ラーマクリシュナは足を引っ込め、ナーグが自分の足に触れることをお許しになりませんでした。ナーグは、「自分は聖者の足に触れるのにふさわしい人間ではないのだ」と悲しい気持ちになりました。

 ラーマクリシュナは、二人にさまざまな質問をした後、こう言いました。
「あなた方はこの世界にパンカル魚のようにとどまる。在家であろうとも何も悪いことはない。パンカル魚は泥の中で生きる。しかしそれによって汚されない。同様にあなた方は家庭にとどまっても、輪廻のごみがあなた方を汚さないように注意深くありなさい。」

 このラーマクリシュナの言葉は、まさにナーグが長年悩まされてきたことに対する回答に他ならなかったので、ナーグはひどく驚き、ラーマクリシュナをじっと見つめました。
 「なぜそのように見つめるのか?」とラーマクリシュナが尋ねると、ナーグは、
「私はあなたにとてもお目にかかりたかったのですが、今は満たされました。」と答えました。

 その後ラーマクリシュナは、二人を連れて、カーリー寺院の境内を案内しました。ラーマクリシュナは、カーリーの聖堂の中に入るやいなや、別人のようになりました。カーリー女神への強い感情で満たされ、自制心を失ったかのように、震えていました。カーリー女神に着せられた服を手でつかみ、子供のように、女神の像の周りを何度も回りました。
 ナーグは、ラーマクリシュナのすばらしい純粋さ、神聖さ、そして献身の姿に、完全に魅了されました。

 帰りの道すがら、ナーグは、ラーマクリシュナについて考え続けていました。彼は賢者であろうか、聖者であろうか、あるいはそれ以上の存在なのであろうか。
 この忘れがたい一日の経験は、ナーグの心に強い印象を残し、神を認識したいという強い願望が彼に訪れました。そのために彼は、まさに気が狂わんばかりでした。ナーグは睡眠や食事にも無頓着になり、人と話をすることもやめました。スレーシュを相手に、ただラーマクリシュナについてだけ話をしました。



つづく
(5)


 翌週、ナーグは、再びラーマクリシュナのもとを訪ねました。ナーグを見るなり、ラーマクリシュナはバーヴァ・サマーディの状態に入り、そしてナーグにこう言いました。

「喜ばしいことだ、わが子よ! あなたの霊的な進歩については、何一つ恐れることはない。あなたはすでに、非常に高い状態に到達している。」

 
 さらに後日、ナーグがラーマクリシュナのもとを訪ねると、ラーマクリシュナは言いました。
「さて、あなたは医者だ。私の足を診察してもらえないか?」

 ナーグはラーマクリシュナの足に触れてよく調べましたが、特に問題がないのでそう告げると、ラーマクリシュナは、もっとよく調べてみるように言いました。そこでナーグはさらによくラーマクリシュナの足に触れて、よく調べました。
 こうしてラーマクリシュナの足をさすっているうちに、ナーグはラーマクリシュナの愛に気づきました。。ナーグが初めてラーマクリシュナを訪ねたとき、ラーマクリシュナはナーグが自分の足に触れることを許さず、ナーグは「自分は聖者の足に触れるのにふさわしい人間ではないのだ」と、大変悲しい気持ちになっていたのです。しかしこの日、ラーマクリシュナは、足の治療という理由にかこつけて、ナーグが願っていた、師の御足に触れるという恩恵を、さりげなく授けられたのでした。師の恩寵を知り、ナーグの頬を涙が伝わりました。ナーグは長い間待ち望んでいた師の御足を、自分の頭と心臓の上に置いたのでした。グルと弟子の関係を知る魂に幸いあれ! ナーグはその瞬間、ラーマクリシュナが、人間の姿をした至高者そのものであることを確信しました。

 この件について、後にナーグは、こう言いました。
「シュリー・ラーマクリシュナを初めて訪問してから数日後、シュリー・ラーマクリシュナが、至高者の化身であることを知りました。師が、ドッキネッショルにおいて内緒でリーラー(神の遊戯)を行なっていたということを、師の恩寵を通して知ることができたのです。
 誰も、師の祝福なしで、師を理解することはできません。たとえ一千年にわたる厳格な苦行を行なっても、師が慈悲をお示しにならなければ、師を悟ることは不可能でしょう。」


 また他の日、ナーグがラーマクリシュナを訪ねると、ラーマクリシュナは食後の休息をとっているところでした。夏の非常に蒸し暑い日だったので、ラーマクリシュナは、ナーグに団扇であおいでくれるようにと言いました。ナーグがあおぐと、ラーマクリシュナはそのまま眠ってしまいました。
 ナーグは長時間あおぎ続け、すっかり手が疲れてしまいましたが、師の許可なしにやめることはできないと考え、さらにあおぎ続けました。手が非常に重くなり、もはや団扇を持ち続けることができなくなったそのとき、寝ていたと思ったラーマクリシュナがパッとナーグの手をつかみ、団扇を取りました。
 この件について、後にナーグはこう言いました。
「師の睡眠は普通の人々と違っていました。師は常に目覚めたままでいらっしゃることができました。神を除けば、いかなる求道者や成就者であっても、この状態に達することは不可能です。」



 あるときラーマクリシュナはナーグに、自分のことをどう思うかと尋ねました。ナーグはこう答えました。
「あなたの恩寵によって、私はあなたが神であることを知りました。」

 ナーグがこう言うと、ラーマクリシュナは深いサマーディに入り、自分の右足をナーグの胸の上に乗せました。
 するとその瞬間、ナーグは驚くべき光景を目にしました。彼は、生物であれ無生物であれ、そのすべてに浸透し、天地に溢れ出る神の光を見たのでした。



つづく
(6)


 ある日、ラーマークリシュナは信者の一人に、こう言いました。
「医者、弁護士とブローカーが、宗教的な真実を理解することは非常に難しい。」

 たまたまナーグは、この言葉を耳にしました。ナーグは医者でした。
 これはラーマクリシュナが、その信者のための待機説法として言っただけだったのかもしれません。どちらにしろナーグに対して言われた言葉というわけではありませんでした。しかしナーグは、ラーマクリシュナが発された言葉は、どんなことであれ絶対的真実と考えていたため、彼はその場で、神の実現に障害となる職業を続けるべきではないと決断しました。ナーグは家に帰ると、その日のうちに彼の薬箱と医学書をガンジス川に投げ捨てたのでした。


 ナーグが医者を辞めたことを知って心配した父のディヤンダルは、知り合いに頼んで、ナーグを新しい職につかせました。これによってナーグは、以前よりも頻繁にラーマクリシュナを訪ねることができるようになり、また自分の瞑想の時間も取れるようになりました。

 ラーマクリシュナのもとに通ううちに、ナーグの中で現世放棄の精神はますます高まっていきました。ついにナーグは現世を完全に放棄して出家修行者となることを決心し、ラーマクリシュナの許可を得るために、師を訪ねました。
 師の部屋に入ると、ナーグがまだ何も言わないうちに、ラーマクリシュナはバーヴァ・サマーディの状態に入ったままで、こう言いました。

「家住者としてとどまることに何の害があろうか。ただ心を神に固定しておきなさい。家住者の生活は、要塞の中から戦うようなものだ。
 お前の生活は、家住者にとって真の理想となるだろう。」

 ナーグは驚きました。自分に燃えるような現世放棄の心を起こさせたその人が、現世を捨てずに家にとどまれと言っているのです。しかしラーマクリシュナの言葉はすべて絶対的真実として受け入れていたナーグは、それに従うしかありませんでした。

 出家することは諦めたナーグでしたが、このころから、彼の中に現世的な価値観や傾向などは、すべて跡形もなく消え去っていました。
 また彼は、父親に対しても、世俗的なことを考えさせないようにしていました。彼は常に父親にさまざまな宗教書を読み聞かせました。また、くだらない噂話をするために父を訪れる人を非難しました。


 また別の折、出家への願望をまだ心に残しているナーグに対して、ラーマクリシュナは再びこう言いました。

「お前は家住者として家にとどまり続けなさい。家族は何とかして最低限の生活費は得るであろう。お前はその心配をしなくてもよいであろう。」

「どうして人は家庭にとどまることができるのでしょうか。どのようにすれば、揉め事などの中においても心を動かさないでいられるのでしょうか。」

「たとえお前が家住者にとどまるとしても、何一つとしてお前を傷つけることはできないのだよ。人々はお前の生き様を見て驚くだろう。」

「私は家住者としての生活を、日々どのように過ごせばよいのでしょうか。」

「お前は何もしなくてもよい。ただ常に信心深い人と一緒にいなさい。」

「私のような無智な者が、どうすれば信心深い人を見分けることができるのでしょうか。」

「いや、お前は彼らを探さなくてもよい。お前は家にいなさい。信心深い人々のほうから、お前のもとにやってくるであろう。」


 

つづく
(7)


 ラーマクリシュナの指示により、世を捨てて出家修行者となることは諦めたナーグでしたが、それでも彼は、家族を養う仕事が生活の中心となっている限り、霊的な完成に至ることは不可能ではないかと感じ、仕事をやめ、人生のすべてを瞑想と祈りに捧げる決心をしました。
 
 ナーグの雇い人であったパルス氏は、もはやナーグは通常の仕事を続けることは不可能であると理解し、今まで長年貢献してくれた御礼として、その後もナーグに給料を払い続けることにしました。こうしてナーグは、一日のすべてを修行に捧げつつ、家族を養っていくこともできることになったのでした。

 すべてのわずらいから解放されたナーグは、いっそう厳格な修行に打ち込み始めました。また、ラーマクリシュナのもとにも、以前以上に頻繁に訪れるようになりました。

 また、このころからナーグは、シャツを着ることと靴を履くことをやめ、代わりにただ布を身体に巻きつけていました。

 また、美味に対する欲望をコントロールするために、食事は、塩や砂糖などの一切の味付けをしませんでした。
 ナーグはこう言いました。 
「もし私が昼夜食事のことばかり考えなければならないなら、いつ私は神を思うことができようか。いつ礼拝することができようか。常に食事の質を考えることは、人に一種の狂気を作り出すのである。」

 ナーグは、お菓子なども一切とりませんでした。プラサード(神に捧げられたお供物のお下がり)以外は、決して甘いものをとらなかったのです。このように、彼自身は決しておいしい食物をとることはなかったのですが、尋ねて来る客人のために、いつもおいしいものを用意していました。


 ナーグは、家の一部を米商人のキルティヴァス一家に貸していたので、家には米ぬかが大量にありました。あるときナーグは、自分はその米ぬかだけを食べて暮らすべきだと考えました。彼はこう自問しました。
「私の肉体と精神をどうにか保つためには、それで十分である。味の良い料理の必要がどこにあろうか。」
 こうしてナーグは、米ぬかだけを食べて暮らし始めました。しかし数日後、それを知ったキルティヴァスは、米ぬかを全部売り払い、その後も家に米ぬかが残らないように配慮したのでした。

 キルティヴァスは、ナーグのことを深く尊敬していました。ナーグの家は大通りに面していたため、多くの乞食の群れが毎日のようにナーグの家を訪れましたが、誰一人手ぶらで帰る者はありませんでした。貧しいナーグは、乞食に施す一握りの米さえもないときもありましたが、そのような時はキルティヴァスが代わりに乞食に施しをしました。
 ある日、年老いた行者がナーグの家に物乞いに来たとき、ちょうど家にはナーグ自身が食べるための一食分の米しかなく、またキルティヴァスも不在でした。ナーグはその米を持って物乞いのところにいくと、謙虚な態度で、
「家には今、わずかな米しかございません。この米だけでも受け取っていただけるでしょうか」
と哀願しました。年老いた行者はナーグの謙虚で優しい心遣いに驚き、賛嘆の念とともに、米を手にして立ち去りました。



つづく
(8)


 ナーグは、世俗的な会話を徹底的に避けていました。もし誰かが世俗的な話題を持ち出そうものなら、その会話をやめさせて、
「シュリー・ラーマクリシュナに栄光あれ! なぜこのような話にふけるのか! どうか主の御名を思いたまえ!」
と言いました。

 また、彼は自己の中に、他者への怒りが生じたのを感じると、それがいかなる理由であれ、手元にある物で自分自身を殴り続けるのでした。
 また、ナーグは、他者を怒らないだけではなく、もちろん、他者に悪口や批判の言葉を述べることもありませんでした。たった一度だけ、他人の悪口を言ってしまったとき、それに気づいた瞬間、彼は石を手にとって、自分の頭を殴り続けました。見る見るうちに血が滴り落ち、その怪我が治るまでに一ヶ月以上もかかりました。これについて、ナーグはこう言いました。
「これは正当な罰である。意地の悪い人間は罰を受けるべきである!」

 あるときは、法友のスレーシュがナーグの家を訪問したとき、ナーグはちょうど料理をしているところでした。おそらく、スレーシュを見たナーグの心に、何か好ましくない感情がわいてしまったのでしょう。ナーグはいきなり鍋を叩き壊し、苦しみ泣きながら、スレーシュに頭を下げて、
「私はまだ邪悪な心から解放されていない!」
と言いました。

 ラーマクリシュナの在家信者の一人であるギリシュ・バーブが、よくこう語っていました。
「常に打ち続けることで、ナーグ・マハーシャヤは、自我の頭を粉々に砕いた。何をもってしても、もはや彼の自我の仮面をよみがえらせることはできなかった。」


 ナーグは、道を歩くときは、常に人の後ろを歩きました。浮浪者や子供たちにさえ道を譲り、謙虚に彼らの後ろを歩きました。また、彼は人の影を踏まないように気をつけ、また他人のベッドに腰掛けることもしませんでした。
 なぜなら、ナーグ・マハーシャヤは、至高者の献身的な召使だったからです! 偏在者である至高者は、すべての生き物の中に存在しており、その主がどのような容姿で彼の前に現われようとも、謙虚に仕える準備ができていたのです。
 


つづく
(9)


 あるときスレーシュは、仕事でしばらくクエッタ(現在のパキスタンの都市)に行くことになりました。ナーグはスレーシュに、
「カルカッタを立つ前に、師からイニシエーションを受けてほしい。そうでないと、もう手遅れになるかもしれません。」
と懇願しました。しかしスレーシュは、イニシエーションで授けられるマントラの効果に対して疑念を持っていました。スレーシュはラーマクリシュナに強い信仰を抱いていましたが、彼はただ純粋に師や主を愛する形のない信仰を好み、マントラを唱えたり修行をしたりといった形のある信仰は好きではなかったのです。この件で二人は、何度も議論を重ねました。結局スレーシュは、ラーマクリシュナの意見に従うことに決め、二人でドッキネッショルを訪ねました。
 話を聞くと、ラーマクリシュナはスレーシュに言いました。
「ナーグ・マハーシャヤが言っていることは全く正しい。人はイニシエーションを受けてから、信仰の実践を開始すべきである。なぜ、彼の意見に同意しなかったのか。」
 スレーシュは、
「私は、イニシエーションで授けられるマントラに対する信仰を持っておりません。」
と答えました。ラーマクリシュナは、ナーグに言いました。
「お前の言うことは正しいが、今のスレーシュはまだそれを必要としていない。だが、心配しなくともよい。彼はいずれイニシエーションを受けることになるよ。」

 その後、クエッタに滞在したスレーシュは、あれほど拒んでいたイニシエーションへの大きな渇望を感じるようになりました。しかし彼がカルカッタに帰ったときには、ラーマクリシュナの病はひどく進行し、もはやイニシエーションを授けられるような状態ではなかったのでした。
 スレーシュは、ナーグの「手遅れになるぞ」という言葉に耳を傾けなかったことをひどく後悔しました。
 その後、ラーマクリシュナが世を去ったとき、スレーシュの悲しみは深く大きなものでした。彼は自分の運命をのろいました。
 それから毎日、彼はガンジス河の岸辺で、ガンガー女神に対して、己の苦悩をため息混じりに語り続けました。そしてある日彼は、一晩中微動だにせずに座り続けるという誓いを立てて、瞑想し続けました。すると、驚くべきことが起こったのです。
 それは夜明け前のことでした。ラーマクリシュナのヴィジョンがガンジス河から現われ、スレーシュに向かって近づいてきたのです。ラーマクリシュナはスレーシュの傍らに来ると、彼の耳に、神聖なマントラを唱えたのです。
 驚きつつもスレーシュは師に深々とお辞儀をし、師の足元の塵をとって礼を示そうとしました。しかし次の瞬間には、ラーマクリシュナの姿はすでに消え去っていました。




つづく
(10)


 ラーマクリシュナの病は悪化の一途をたどり、寝たきりの状態になっていました。
 そんなある日、訪問に訪れたナーグに対して、ラーマクリシュナは言いました。

「おお、よく来た。医者たちは私の病気を治すのをあきらめたが、おまえは病気を治す呪文を知っているかい? もしおまえに治療できるのなら、診察してみなさい。」

 ナーグは、しばらく頭を垂れて考えた末、その強力な意志の力によって、師の病気を自分の体に引き受けようという決心を固めました。ナーグはこう叫びました。

「そうです、そうすればよいのです。師よ、私は知っています。あなたの恩寵によって、私はすべてを知りました。今この瞬間にも、あなたの病気は治るのです!」

 ナーグがそれを実行しようとすると、ラーマクリシュナは弟子を守るために、それを止めました。そしてこう言いました。

「その通りだ。お前にはそれができる。お前は病気を治すことができる。」



 ラーマクリシュナがついにこの世を去る日の5、6日前、ラーマクリシュナの部屋にナーグが入っていくと、ちょうどラーマクリシュナが、弟子にこう話しているのを耳にしました。

「アマラキーは、今の季節でも手に入るだろうか。私の味覚は駄目になってしまった。でもアマラキーの果実を食べれば、味覚を取り戻すことができると思うのだよ。」

 その場にいた信者の一人は、こう言いました。
「師よ。今はアマラキーの季節ではありません。どこで手に入りましょうか。」

 しかしナーグは、師の神聖な口からアマラキーという言葉が出たのだから、必ずどこかで手に入るに違いない、と考えました。そして誰にも告げずに静かにそこを去り、アマラキーの果実を探しに出かけました。
 しかしどこに行っても、季節はずれのアマラキーは見つかりません。ナーグは三日間、あちこちの果樹園を当てもなくさまよい続けました。
 三日目に、ナーグは、手にアマラキーの果実を一つ持って、ラーマクリシュナの前にあらわれました。ラーマクリシュナの喜びには際限がありませんでした。子供のように大喜びして、こう言いました。
「ああ、何と美しいアマラキーだろう! おまえはどうやってこの果実を見つけてきたのだい。」

 その後、ラーマクリシュナは、ナーグに食事を用意するようにと、弟子のシャシに命じました。シャシは言われたとおりに用意しましたが、ナーグは手をつけようとはしませんでした。皆が勧めても、黙ったままでした。実はこの日は断食の日だったので、ナーグはそれを固く守っていたのです。
 シャシからその報告を受けたラーマクリシュナは、ナーグの食事を持ってくるように言いました。そして食物の一つ一つにほんの少しずつ舌を触れて、その食事をプラサード(神や師にささげられた供物のお下がり)にしました。
「さあ、これを彼に与えなさい。きっと食べるだろう。」

 ナーグの前にそれがならべられると、ナーグは、
「プラサード! プラサード! 神聖なプラサード!」
と叫び、皿の前にひれ伏してから、食べ始めました。
 すべての食事を平らげた後、ナーグは、なんと皿代りにされていた葉っぱまで、すべて食べてしまいました。ナーグは、プラサードとして与えられたものは、何一つ残すことができなかったのです。この出来事以来、ラーマクリシュナの弟子や信者たちは、ナーグには決してプラサードを葉の上に乗せて出すことはありませんでした。たまたま葉に乗せられたプラサードが出されることがあっても、彼らはナーグのことを注意深く監視して、彼が食事を終ると、葉まで食べてしまわないようにすぐに葉をひったくるようにして片付けるのでした。





つづく
(11)


  1886年8月16日、ラーマクリシュナはこの世を去りました。師の死後、ナーグは家に引きこもり、何日も食事もとらずにずっと毛布にくるまったまま横になっていました。

 それを知ったナレーンドラは、兄弟弟子とともに、ナーグの家をたずねました。何度も懇願されて、やっとナーグはベッドから立ち上がりました。ナーグはいつものように、客であるナレーンドラたちに食事を作って差し出しましたが、ナーグ自身は、勧められても何も食べようとはしませんでした。ナーグはこう言いました。
「ああ!未だに主の恩寵は私に与えられていないのです! 私のこの肉体に食べ物を与えるべきだというのですか。そんな必要は全くありません!」
 ナレーンドラたちの繰り返しの懇願の末、最後にやっとナーグは食事を口にしました。


 その後、ナーグは実家の家に戻り、すべてをささげて、老いた父に奉仕する生活を始めました。父のディンダヤルは高齢であり、介護が必要になっていたのです。
 ナーグは、単に日常の介護をするだけではなく、父の心が一瞬たりとも世俗にふけることがないように、いつも父のそばで、経典や神話などを読み聞かせていました。ナーグのたゆまぬ努力によって、世俗的だった父の心は徐々に変化していきました。


 ある時、ナーグがとある用事でダッカに行ったとき、有名な宗教家であり、ラーマクリシュナの信者でもあったビジョイ・クリシュナ・ゴースワミーに偶然会いました。ビジョイはナーグのことを知りませんでしたが、その優れた洞察力によって、ボロをまとった狂人のような風貌のナーグが、只者ではない、素晴らしい人格の持ち主であることを直観しました。会話の中で、ナーグがラーマクリシュナの信者であったことを知ると、ビジョイは大変喜び、ナーグを抱きしめて、敬意と愛を示しました。
 ナーグもまたビジョイに対して愛と尊敬を持っていましたが、ビジョイが様々な修行の師に会いに行っていることについては、よく思いませんでした。
「ビジョイが、師にお目にかかったあとまでも、他の修行者を探し求めるとは、なんと奇妙なことであろう。
 ビジョイのような素晴らしい人でさえ、欺かれて誤った方向に導かれるのならば、他の人々など、もっとたやすく道を誤ってしまうに違いない。」


 
つづく
(12)


  また、ナーグの友人で、ターラカンタという名の弁護士がいました。彼は神への祈りや瞑想を喜びとしていたため、ついには弁護士をやめて、修行に人生を捧げる生活に入りました。
 彼は自分とおなじように祈りと瞑想の日々を送っているナーグのもとをたびたび訪れ、ときには幾日も二人で修行をして過ごしました。
 そのうちターラカンタは、ある有名な修行者に弟子入りしました。そしてある日ターラカンタは、ナーグを訪ねて、言いました。
「私はある修行者の弟子になりました。彼は前世においても、私の師だったのです。
 私は自分の前世を思い出しました。また、私はより高い領域、すなわち月の世界や太陽の世界やブラフマ―の世界などに行くことができました。
 真理も非真理も、すべて偽りです。智だけが真実なのです。」

 ナーグは、ターラカンタの激しい変わりようを見て、こう思いました。
「ターラカンタのような高い階級の修行者でさえも、もし彼らが真のグルや教師を得ないなら、誤り導かれるのだ。」

 ターラカンタは、ナーグにも、自分の師である修行者に会いに行くように勧めました。繰り返し勧められ、ついにナーグは同意して、一緒に行くことになりました。
 ナーグは贈り物として、ターラカンタの師に、甘いお菓子と果物を捧げました。しかしターラカンタの師は、それらに一切手を触れず、それらの供物をすべてそばにいた牛にあげてしまいました。
 それどころかその師は、ナーグのやせ細った姿、洗っていないために見苦しく伸びた毛髪、貧しい服装とガサツな身なりを見て、からかい始めました。しかしナーグは何を言われても反応せずに、頭を垂れてじっと座っていました。
 ナーグが一切の嘲笑に無関心だったので、その師は一層興奮し、今度はナーグの師であるラーマクリシュナについて、ひどい悪口を話し始めました。
 ナーグは、自分が何を言われても心を動かすことはありませんでしたが、師であるラーマクリシュナの悪口には、我慢をすることができませんでした。怒り心頭に達したナーグが顔をあげると、なんと目の前に、バイラヴァ神(シヴァ神の恐怖の面の一つ)が恐ろしい姿で現われていました。ナーグはバイラヴァ神に、ターラカンタの師を投げ飛ばす許可を求めました。しかしその直後にナーグは自分のその激しい感情を抑え込むと、後悔しながら、床に頭を打ち付け始めました。

「ああ! わが主よ! なぜ私はあなたの言いつけを無視して、あなた以外の修行者などに会いに来たのでしょう? なぜ私はこのような弱さに襲われたのでしょう!」

 ナーグはそこを立ち去り、家に帰ると、もう二度と自分の師以外の修行者に会いに行くまいと決心したのでした。

 この事件の後、ターラカンタの師はナーグに、「血を吐いて一年で死ぬように」と呪いをかけました。その師の弟子のある紳士が、そのことをナーグに告げに来ましたが、ナーグはそれを一笑に付しました。実際に一年がたっても何もおきませんでした。
 のちにナーグはこう言いました。

 「ターラカンタの師は、半端な理解に基づくヴェーダーンタの教義を人々に説き聞かせることによって、相当数の人々の智慧を損なったのだ。」





つづく
(13)

 かつてラーマクリシュナは、出家を望んだナーグに対して家にとどまるように指示し、またこのように言いました。
「お前は家にいなさい。信心深い人々のほうから、お前のもとにやってくるであろう。」

 ナーグは非常に謙虚な人間であったにもかかわらず、ナーグの名は広く知れ渡るようになり、ラーマクリシュナの言葉どおり、インド中からナーグのもとに多くの信仰者が訪れるようになりました。ナーグとその妻、そして父のディンダヤルは、喜んで客のために尽くし、余りあるもてなしをしました。
 ナーグはこう言いました。
「これはすべて主のリーラーである。人間の姿に化身されたとき、主は特別な人間としてご出現なさった。そして今、こうして様々な姿で私を祝福するためにやって来るのも、また彼である。」
 本当にナーグは、すべての生き物の中に至高者を見ることができていたのでした。そして家に訪れるすべての客を至高者の化身と見て、全力で奉仕したのでした。


 ある日、10人の程の客が、ナーグの家を訪れました。おりしもその日、ナーグは激しい腹痛に襲われていました。その痛みはとても激しく、ナーグは何度か失神したほどでした。しかしナーグは病をおして、客への奉仕を始めました。家には一粒の米もなかったので、市場に買い物に出かけました。決して自分の荷物を他人に運ばせることのなかったナーグは、米を抱えて歩いている途中で、激しい腹痛に耐えきれずに道端に倒れました。
 ナーグは自分の病気には無頓着でしたが、ただ客への奉仕ができないことを嘆き悲しみました。
「おお、主よ、私は何と呪われた運命にあることでしょう! なぜこのようなことが、今日という日に私に起こったのでしょう! 至高者たちが私の家を訪れてくださったというのに。ああ、彼らに食事を供養するのが遅くなってしまう! この肉と骨の檻は本当にみじめなものだ。この肉体が、私が主に仕える邪魔をする。」

 しばらくして痛みが少し治まると、ナーグは米を担いで家に帰りました。彼は客の前で深々とお辞儀をすると、給仕をすることが遅れたことに対して謙虚に許しを乞いました。


 ある時はひどい雨の日の夜に、二人の客が訪問しました。ナーグの家には部屋が四つありましたが、そのうち三つは、雨露をしのぐこともできないほど崩れかかっていました。ただ一つのまともな部屋が、ナーグと妻の寝室として使われていました。
 ナーグは妻を呼んで言いました。
「いいかい、主の思し召しによって、われわれは素晴らしい幸運にあずかっている!
 さて、われわれは今晩、至高者たちのために多少の不便を耐え忍ぼうではないか。玄関に座って、主の神聖な御名を唱えて夜を過ごそう。」
 こうしてナーグと妻は、客のために寝室を与え、自分たちは玄関で祈りと瞑想に夜を過ごしたのでした。


 買い物をする時、ナーグは決して値切ることをせず、常に店主の言い値で買い物をしていましたが、滅多にだまされることはありませんでした。ナーグはこう言いました。
「人が真実に対して信仰を持っているなら、真実自身がその人を守るのである。神の恩寵あれ。」

 ナーグは訪問者たちに対して食事をふるまうだけではなく、ときには宿泊費や旅費さえも負担してあげていました。もともと貧乏なナーグは、このような奉仕による際限のない出費によって、多くの借金を背負うことになりました。
 それを知ったヴィヴェーカーナンダがナーグの借金の肩代わりを申し出ましたが、ナーグは、
「あなた方出家修行者たちが、私に与えてくださる祝福だけで十分です。」
と言って、穏やかに断りました。

 また、ナーグの借金を心配する友人や信者たちに対して、ナーグはこう言いました。
「決して心配しないでください。確かに何も得るものがなければ餓死するかもしれません。それでも、私はダルマを放棄することはできません。お願いですから、このようなくだらない馬鹿げたことで、あなた自身を悩ませないでください。バガヴァ―ン・シュリー・ラーマクリシュナの思し召すままに!」



つづく
(14)

 ナーグは決して、自分のためにだれかを雇うことはありませんでした。自分の用事のために、他人に働かせるのを見るのに耐えられなかったのです。そこでナーグの妻は、家の修繕などが必要な時は、ナーグの留守を見計らって、業者を家に呼んでいたのでした。
 しかしある時、ナーグがほとんど家を空けず、そのためなかなか家の修理ができずに、家のほとんどの部屋がほぼ使用不能になってしまったときがありました。ついに妻は限界を感じ、屋根の修理のために修理人を家に呼びました。
 修理人が家に入ってきたとき、ナーグは、何かそこで極悪なことが行なわれようとしているかのように、苦しみ、悲鳴をあげました。修理人が屋根に上り、炎天下の中で仕事を始めると、ナーグは、仕事をやめて降りてくるように懇願しました。しかし修理人が構わずに仕事を続けると、ナーグはついに耐えきれなくなり、あたかも苦しみに打ちひしがれた者のように嘆きました。

「おお、主よ、なぜ汝は私に、家にとどまって、このみじめな家住者の生活を送ることを命じたのですか!? ああ、私の快適さのために働いている人――私がこのような光景を見なければならないとは! 何という家住者の生活だろう!」

 そう言ってナーグは、自分の額と胸を打ち始めました。ナーグの苦しむ様子を見て、ついに修理人は仕事をやめて、屋根から降りてきました。ナーグは修理人に日給を与えると、そのまま家に帰らせたのでした。



 ある時ナーグが買出しのために列車に乗っていると、同じコンパートメントに、高級売春婦を伴った男が乗り合わせていました。彼らにふと目をとめたとき、ナーグはあるヴィジョンをそこに見ました。それは、その男の首から血を吸っている恐ろしい悪魔のような幽霊の姿でした。しばらくすると、その男のすべての肉は殺げ落ち、残ったのは骨だけでした。ナーグは驚き、「マー(母なる神)! マー!」と叫びました。
 のちにナーグはこの経験についてこう言いました。
「本当のことなのだよ。私が、この目で、ありのままを、すべてを見たのだ。」



 ナーグは、あたたかい衣類を一切持っていませんでした。そのために、ナーグが冬の寒さに苦しんでいることを知ったギリシュ・バーブ(ラーマクリシュナの有名な信者の一人)は、デヴェーンドラという男に頼んで、ナーグに毛布を届けさせました。ナーグは、毛布をプレゼントしてくれたのが尊敬するギリシュであることを知り、深々と何度もお辞儀をしてから、その毛布を自分の頭の上に乗せました。
 ギリシュは、ナーグが贈り物を受け取らないということを知っていたので、ナーグが毛布を受け取ったという報告を聞くと、とても喜びました。
 しかし数日後、ギリシュが贈った毛布は本来の目的通りには使われずに、ナーグの頭上に乗せられたままである、という噂を聞きました。心配したギリシュは、真相を確かめるために再びデヴェーンドラをナーグの元に送りました。デヴェーンドラの報告によると、確かにナーグはあの毛布をずっと頭の上に乗せ続けていたということでした。


 
 ヴィヴェーカーナンダが最初の欧米布教の旅から帰国したとき、チャクラヴァルティは彼に会いに行きました。チャクラヴァルティがナーグ・マハーシャヤと親しく、定期的にナーグのもとを訪問していると聞くと、ヴィヴェーカーナンダはナーグについて、こう言いました。

「われわれの人生は真理の探究にむなしく費やされる。
 ただ我々の内で彼だけが、正真正銘、師の神聖なる息子である。」

 また、ヴィヴェーカーナンダはこうも言いました。
「私は地球上のさまざまな国を広く旅行したが、ナーグ・マハーシャヤほどの偉大な魂に出会えたことはなかった。」



つづく
(15)

 ラーマクリシュナの信者の一人であった故バララーム・ボース邸は、ラーマクリシュナのお気に入りの場所でした。ラーマクリシュナの出家した弟子たちは、カルカッタに来るとこの家に宿泊し、ナーグもここでしばしば彼らに会いました。
 ある時、何人かの出家者たちがこのバララーム・ボース邸に集まり、様々な話題について語り合っていました。するとそこに、ナーグがやってきました。すると出家者たちは、さまざまな話題をやめ、話のすべてがラーマクリシュナに集中しました。
 ナーグが家に帰ろうとしたとき、ブラフマーナンダが言いました。
「ナーグ・マハーシャヤがここに入ってきた瞬間、師のことが自然に思い出され、他のすべての話題は落ちてしまったのだ。霊性が今なおインドに現存しているのは、彼のような偉大なる魂たちが存在しているからである。ナーグ・マハーシャヤに、真に栄光あれ。」
 
 ナーグの方も、ラーマクリシュナの出家した弟子たちに対して、最も高い尊敬を抱いていました。ナーグは彼らについて、よくこう語っていました。
「彼らは人間ではありません。主との遊戯のために、人間の姿をとった神々なのです。誰が彼らを知ることができましょう。誰が彼らを理解することができましょう。」


 ナーグの父のディンダヤルは、ナーグが世俗的な義務に無関心であると言って、しばしば非難しました。あるときディンダヤルは言いました。
「お前のような生き方をして、どのようにしておまえは食事や衣服を手に入れるのだ?」
 これに対してナーグはこう答えました。
「お父さん、あなたがそのことで心配する必要はありません。木々は数え切れないほどの柔らかい葉につつまれています。私はこの生涯において、いかなる女性をも色欲的な目で見たことはありません。私はまさに、母の子宮から生まれたままです。私は身につける物は何一つ必要ないのです。」

 また別のおり、同様の問題でナーグとディンダヤルは激しい口論となりました。ナーグは興奮して言いました。
「私は生涯一度も女性を知ることはなかった。またいかなる性欲でさえも、私はこの世界にいかなる関係も持ってはいない。」
 それから、「私ではない、私ではない」と言いながら、ナーグは着物を脱ぎ捨て、真っ裸で家を出ていきました。ナーグの妻は泣き出しました。のちにナーグの信者が、彼を家に連れ戻しました。


 デオボーグに住む中年の未亡人が、ナーグのもとをたびたび訪問していました。しかし実は彼女は、信仰心からナーグを訪ねていたのではなく、ナーグに対して強い性欲を抱き、ナーグを何とか自分のものにしようとしていたのでした。それを知ったナーグはこう言いました。
「ああ! 禿鷹や犬でさえも、骨と肉でできた檻である、卑しむべきこの肉体を食うことは望まないであろう。彼女がこれに執着したことは謎だ。おお、いかに多くの方法で、師は私を試されるのだろう。
 全く、人間が性欲と貪欲を克服することは難しい。それらは主の恩寵によってのみ抑制されうるのである。」

 またナーグはよくこうも語っていました。
「性欲を断つことによって、神に近付くことができる。」


 ナーグの父、ディンダヤルの最期の時が近づいてきました。ナーグの努力によって、死の前の数年間のディンダヤルの修行の進歩は目覚ましく、世俗的な執着は消え、心身ともに健やかでした。
 ある日、ディンダヤルは脳卒中により、突然意識を失って倒れました。しばらくして意識を回復したとき、ナーグは父の耳元で、聖なるマントラを繰り返し、父も一緒にそれを唱えました。
 間もなくしてディンダヤルは、主の御名を唱えながら亡くなりました。ナーグは、父が主の御名を唱え、意識を保ったまま亡くなったということに慰められました。



つづく
(16)

  「至高者はあらゆるところに遍在している」という真理を、ナーグは直観していました。もし、「どうして手を合わせているのか」と尋ねられると、彼は、あらゆるところ、そしてすべての存在の中に、神を認めるからです」と答えるのでした。
 実際、ナーグの慈悲と奉仕の心は、人間のみならず、あらゆる生き物、小さな虫にまでも及んでいました。
 あるとき、ナーグの信者がナーグの家にやってくると、家の支柱を白アリが食い荒らしているのを発見しました。その信者がその柱を手でたたくと、シロアリたちは衝撃で地面に落ちました。するとナーグは、
「ああ! あなたは何ということをしたのです!」
と叫びました。
「気の毒な生き物、彼らは長い間、ここに安らぎの住処を見出していたのです。あなたがこのように彼らを苦しめたことは、無慈悲な行為なのです。」
 ナーグの目は、慈悲の涙に溢れていました。信者は、驚きと後悔に打ちひしがれました。 
 それからナーグは白アリに近付くと、
「ここで安らかに暮しなさい。この度のことで、あなた方はおびえる必要はありません。」
と語りかけると、シロアリたちがそこに巣を作るのを手伝いました。
 シロアリたちは再びそこに落ち着き、柱はどんどん食い尽くされていきましたが、ナーグは誰にも、シロアリの邪魔をすることは許しませんでした。そしてついに柱は崩壊しました。


 ナーグ自身はシャクティ女神を特に信奉していましたが、同時に彼は、師であるラーマクリシュナの教え、「すべての道は一つ」ということを確信していました。
 ナーグは言いました。

「すべての道が、同じゴールに導く。教義や通り道はあまり重要ではない。もし人が、さまざまな道のどれか一つに、心から、そして深い信仰をもって従うなら、神の恩寵は彼に降りる。」

 ナーグは、かたくなな教条主義に陥ることなく、すべての宗派の信者に等しく敬意を表しました。さらにナーグは、ヒンドゥー教の各宗派のみならず、他の宗教にも等しく敬意を表しました。たまたまモスクやイスラム教の聖者の墓の前を通った時は、頭を下げて恭しくあいさつしました。また。教会の前を通ったときは、「ジーザスに栄光あれ!」と言いながら、頭を下げるのでした。


 修行の実践に関しては、ナーグはこう言いました。
「サーダナー(成就法)の方法に関して言えば、必要な唯一のことは、果実の木の下で常に用心深く、寝ずの番をしている人のように、いつも精神を完全に目覚めさせておくことです。
 人間は、神が無限の恩寵を通してそれを許す場合に限り、彼のサーダナーの果実を味わうことができるのです。
 さらに付け加えれば、明らかに、われわれの側からの激しい働きかけがなくても、主の圧倒的な恩寵が与えられる事があります。それはたとえば睡眠中に、主が天上から、サーダーの果実を彼らの上に滴り落とすようにあらわれるのです。彼らは目覚めて、自分自身と世界の大いなる驚異が与えられたことを理解するのです。このような場合には、いかなるストレスもサーダナーの苦労も経験しません。このような人々はクリパーシッダとして知られています。
 もし神の恩寵が降ることがなければ、われわれは神ご自身を知ることはできません。人は、神が望んで初めて、悟ることができるのです。神はまさに願いをかなえる木なのです。神は、われわれが望んだものは何であれ、与えます。しかし我々は、生死の輪廻へ再び引きずり込むような願望を、欲するままに求めてはなりません。人は、神の神聖な御足に対する揺るがぬ信仰と、神ご自身の真の完全なる叡智をおあたえください、と主に祈願しなくてはなりません。ただそうすることによってのみ、人は世界のけがらわしいかせを逃れ、神の恩寵を通して自由を獲得するのです。
 世俗的な目的を欲すれば、それに付随する害悪も引き受けなくてはなりません。神の瞑想と、神の信者たちとの霊的な交わりに、時を捧げる者だけが、災難とみじめさに満ちたこの世界を超えることができるのです。」


つづく
(17)

 ある夏、ナーグ・マハーシャヤの北側の隣家が火事になり、激しく燃え始めました。その家とナーグの家は15メートルほど離れているだけで、火が四方八方に飛び散っており、しかもナーグの家は藁ぶきだったので、火が燃え移る危険性は非常に高いと思われました。混乱はどんどん大きくなり、皆は火を消し止めることに一生懸命でした。
 しかしナーグ・マハーシャヤは、迫りくる危険には全く無頓着で、手を組み、静かに巨大な炎の前に立ちました。ナーグの妻は恐れて、気が気でなくなり、差し迫った危険を恐れて、服やその他のものを大急ぎで持ち出し始めました。そのとき、ナーグは叫びました。

「なんと愚かで疑り深いのでしょう。落ち着きなさい! これらの取るに足らないものを、いったいどうしようというのか。ブラフマー神は、今日まさにこの家の近くをおとずれ喜ばれているというのに、礼拝を捧げる代わりに、あなたはこれらのちっぽけなことで右往左往している!」

 そしてナーグは手を打ち鳴らし、忘我の喜びの中で踊り始め、このように唱えました。
「主に栄光あれ! もし人を守護する神がいるなら、何の危険があろう。だがもし彼の機嫌を損ねたなら、その者を救う力はこの世には存在しない。」

 結局この火事は、隣家を全焼しましたが、ナーグ・マハーシャヤの家は全くの無傷でした。



 ナーグ・マハーシャヤは、人生に起きるすべての出来事に、師であるシュリー・ラーマクリシュナの優しい御手を見ていました。
 あるときナーグが寝ていると、大きな猫がいきなり彼の顔に飛び乗ってきて、左目をひっかきました。彼は痛々しいほどの怪我を負いましたが、ほとんど手当をすることもなく、言いました。

「シュリー・ラーマクリシュナご自身が、猫を使って、私の前世の罪を罰したのです。おお、これもまたまぎれもなく彼の恩寵なのです!」

 その後、そのひどい怪我は、大した治療もすることなく治ってしまいました。
 ナーグにとっては、すべてがラーマクリシュナでした。シュリー・ラーマクリシュナの存在は、宇宙のすべてだったのです。

 カルカッタで生活していたあるときは、ナーグは、原因不明の両手の激しい痛みに苦しみました。彼は、その激しい痛みのために、両手を少しも動かすことができなくなり、ずっと両手を組んだ姿勢でいなければならなくなりました。少しでもその手を組んだ姿勢を外そうとすると、激しい痛みに襲われるのでした。そこでナーグは言いました。
「師が、常に手を合わせて合掌し続けることを学ばせようとして、私にこの痛みと苦しみを与えたのです。」

 ナーグが激しい腹痛に苦しんでいたときには、彼が次のように語っているのが聞こえました。
「万歳、ラーマクリシュナ、汝に栄光あれ!
 骨と肉でできたこの劣悪な檻を、あなたの神聖な目的のために心から捧げることができなかったので、このような激しい痛みで私を罰するのはふさわしいことです。私をこの痛みで苦しめることによって、あなたは慈悲をお示しになっておられます。なぜならば、この痛みは私に、あなたのことだけを思わせるからです。祝福はまさにこの痛みです。それは私に、シュリー・ラーマクリシュナのことを思い出させます!
 おお、主よ! 汝に栄光あれ! 汝の恩寵に栄光あれ! それは汝の慈悲です。慈悲そのものです。汝の無限の恩寵以外、人間に救済の手立てはありません!」

 またナーグは、こうも語っていました。
「人の霊的な目は、ふさわしいときに、シュリー・ラーマクリシュナの恩寵を通して自然に開かれるのです。その時に初めて、目にするものすべてがクリシュナのあらわれとなるのです。そうして、人にとって一切が新たな意味を帯びてくるのです。」


 ギリシュ・チャンドラ・ゴーシュは、持ち前のユーモアでよくこう語っていました。

「マハーマーヤー(宇宙を創り出す偉大なる幻影)は、ナレーン(ヴィヴェーカーナンダ)とナーグ・マハーシャヤの二人を罠で捕らえようとして、非常に困ってしまった。
 彼女がナレーンをとらえようとすると、彼はどんどん大きくなり、ついには彼女のすべての枷では間に合わなくなってしまい、この無駄な仕事をあきらめなければならなかった。
 そこで彼女はナーグ・マハーシャヤを引っかけようとしたが、彼はどんどん小さくなり、極微にまでなったので、罠の網の目を容易にすり抜けて逃げてしまったのである。」


つづく
(18)

 あるとき、ナーグ・マハーシャヤの信者である若者が、ナーグに会いたいと強く願い、ナーグの住むデオボーグに向かいました。彼はダッカから列車でナリアングンジに到着しました。季節は雨期であり、この時期のこの地方は洪水で水浸しとなり、移動にはボートを使わなければなりませんでした。
 空は重い雲で覆われ、夜の闇は深さを増していきました。そして激しい雨が休むことなく振り続けていました。しかも困ったことに、ナーグの家に行くためのボートを、どこにも見つけることができませんでした。そこで若者は、泳いで行く決心をしました。ナーグ・マハーシャヤの祝福を祈り、水に飛び込んだのです。
 そうしてナーグの家にたどり着いたときは、夜の九時ごろになっていました。冷たい水と激しい運動によって、若者の肉体は疲弊しきっていました。彼を見るなり、ナーグは叫びました。

「ああ! 君は何ということをしたのです。なんと向こう見ずな子なのだろう! この時期この辺一帯には、毒蛇がうようよしているのだよ。君は、雨が激しく降りしきるこのような嵐の夜に、このような大胆で軽率な行動を取るべきではなかった。」

 ナーグの妻も、彼の軽率な行動を叱りました。若者は涙を流しながら、ナーグ・マハーシャヤに会わずに生きることはつらかったのだ、と語りました。

 ナーグの妻は、若者のために暖かい料理を作ろうとしましたが、火をたけるような乾燥した燃料がないことに気が付きました。それを知るや否やナーグ・マハーシャヤは、若者が止めるのを一切無視して、家の棟木を切り始めました。
 彼は妻に言いました。
「なあに、私に会うために、毒蛇のうようよいる水の中を、大事な命の危険も顧みずに泳いできた人のためなら、こんなわずかな犠牲など何でもない。」



 
 また別の時、その同じ若者は、大学に通うためにカルカッタに住んでいました。彼はそのころ、苦悩の日々を送っていました。彼の心はまだ叡智の輝きによって照らされていず、最愛の師ナーグ・マハーシャヤに会えない日々は、彼の心を日に日に重苦しくしていました。
 ラーマクリシュナの他の弟子たちは、そのころ彼のことを知らなかったので、道を同じくする法友たちと、聖なる交わりをなすこともできていませんでした。
 ナーグ・マハーシャヤは毎年、ドゥルガー・プージャーのための必需品を購入するためにカルカッタを訪れてはいたのですが、若者はそれを待つことができず、思いつめてこう考えました。
「たとえ私がナーグ・マハーシャヤのような偉大なる魂の恩寵を得ることができても、その至福を実感することができないならば、私の一生は何になろう。」
 彼は絶望のあまり、テラスから飛び降りて命を断とうと決心しました。そして飛び降りようとしたその瞬間、
「あなたは明朝、ナーグ・マハーシャヤに会うであろう」
という声がしました。若者は恐怖で震えました。なぜならそこには誰もいなかったからです。彼は部屋に戻り、ベッドに横になりました。
 
 翌朝目覚めると、誰かが自分を呼んでいるのが聞こえました。ドアを開けると、そこにはナーグ・マハーシャヤが立っていました。ナーグは言いました。
「なぜ君は、あのようなぞっとする考えを抱くのですか? 君のことが心配で心配で、私は君のためにここに来なければならなかった。
 シュリー・ラーマクリシュナの世界に入った者が、何を煩う必要がありましょう? 焦ってはいけません。自殺は非常に憎むべき罪なのです。」

 ナーグはさらに続けてこう言いました。
「この間までは、君は浅い小川を漂っていました。しかし今、君は深い海に入ったのです。」

 それからナーグは、ベルル・マートに若者を連れていき、ラーマクリシュナの出家した弟子たちに彼を合わせて、言いました。
「この若者は非常に落ち着きがありません。どうか彼にあなた方の祝福を惜しみなく与え、彼がグルの恩寵を得ることができるように手助けしてください。」



つづく
(19)

 ナーグ・マハーシャヤの妻は、彼の第一の信者でもありました。彼女は毎朝誰よりも早く起き、朝の家事を終えるとすぐに礼拝と瞑想にふけりました。彼女は、夫と客が食事を終えるまでは、自分が食事の席に着くことはありませんでした。そしてだれにも、彼女の妹のハラカミにさえ、自分の仕事を手伝うことを許しませんでした。

 彼女は、夫のナーグ以外に神を知りませんでした。ナーグ・マハーシャヤが彼女の唯一の礼拝の対象であり、彼に対して心からの信仰と崇拝をささげ続けていました。

 マハーシュターミという祝福された日に、彼女はナーグ・マハーシャヤの足もとに花をささげたいと思いました。しかし謙虚なナーグは、それを許しませんでした。すべての衆生を神と見ていた彼は、
「私が礼拝しているその人から、誰が供物を受け取ることなどできましょうか」
と言いました。しかし彼女はあきらめずにチャンスを待ちました。そしてナーグが何気なく隅に立っているときをとらえて、彼の足もとに花を捧げました。そうして彼女は、捧げたその花を金のロケットに入れて首にかけました。

 ナーグ・マハーシャヤの信者たちにとって、彼女は神聖なインスピレーションの尽きざる源泉でした。彼女は信仰と慈愛そのものであり、女性としての美徳をそなえていました。他者への奉仕における彼女の優しさ、辛抱強さ、忍耐力、そして自己犠牲と、一切を超えた彼女の純粋さや苦行は、誰の心をもとらえずにはおきませんでした。


 彼女の母、すなわちナーグ・マハーシャヤの義理の母は、非常に信心深い女性でした。あるとき彼女はカルカッタに上京し、娘と義理の息子(ナーグ)とともに、クマルトゥーリに滞在しました。そこで彼女は毎日ガンガーで沐浴し、川底の泥でシヴァの像を造り、礼拝しました。
 ある日、彼女が礼拝していると、シヴァの像の頭部に、ひび割れがあるのを発見しました。これは良くない前兆であると考え、彼女は身震いしました。ひどく心をかき乱され、ガンガーの岸辺で一日中泣いていました。暗くなっても彼女が帰宅しないので、ナーグは心配して探しに出かけ、ガンガーの岸辺で泣いている彼女を見つけました。事情を聞いたナーグは彼女に、何も悪いことが起きることはないだろうと言って慰めました。
 しかし彼女は家に帰ってからも、食事もせずに、悲しくみじめな気持ちのままベッドに入りました。その夜彼女は、シヴァ神が彼女の前にあらわれ、次のように語る夢を見ました。
「私はあなたに非常に満足している。あなたはもう私を礼拝する必要はない。」
 翌朝、彼女はそれをナーグに話しました。そしてその日を境に、彼女の神像への礼拝は終わりを告げました。誰かが彼女にその理由を尋ねると、彼女は言いました。
「私はシヴァを義理の息子として手に入れました。この上、シヴァの像を礼拝する必要がありましょうか。」



つづく
(20)

 あるとき、カルカッタ在住のナーグ・マハーシャヤの信者であるチャクラヴァルティのもとに、ナーグの妻から一通の電報が届きました。それは、ナーグの病状が非常に悪いという内容でした。チャクラヴァルティはとても困ってしまいました。というのも彼は翌日、ラーマクリシュナ・ミッションの会合において、「ヴェーダの宗教」についての論文を発表することになっていたからです。
 事情を知ったスワーミー・アドブタ−ナンダが、彼に言いました。

「あなたには、これからもヴェーダを論じる機会は多々あるだろう。しかしもしナーグ・マハーシャヤが逝ってしまうなら、あなたはもはや生きたヴェーダにまみえるという機会を今生では失うことになる。」

 その言葉に従い、彼はその日のうちに、ナーグの住むデオボーグに向かって旅立ちました。

 翌日暗くなる前に、チャクラヴァルティはデオボーグに到着しました。家に入るや否や彼は、部屋のベランダの上に横になっているナーグ・マハーシャヤを見ました。それは冬でした。夜には突き刺すような冷たい突風が牧草地から吹くので、割れ目がたくさんある衝立でふさがれただけのベランダで夜を過ごすことは、病人には言うに及ばず、健康なものにも非常につらいことでした。チャクラヴァルティが、なぜそのようなところに寝ているのかと尋ねると、彼の妻が小さい声で答えました。
「わが子よ。彼がベッドから起き上がれないほどに弱ってからというもの、私たちはどんなにお願いしても、彼はこうしてここに横になっているのです。腹痛はしばらく前から激しくなり、赤痢にもかかっています。病状は重くなり、彼の許しを得てあなたに電報を打ったのです。」

 ナーグを部屋の中へ連れ込もうとするあらゆる試みは無駄に終わりました。彼は耐え難いほどの肉体の苦痛の中にありましたが、その苦しみに打ち負かされることはありませんでした。彼の口にのぼる話題といえば、ただ彼の師シュリー・ラーマクリシュナの慈悲の救いだけでした。

 またあるときナーグはこう言いました。
「私の前世からの因がもたらしたカルマはもはや尽きました。あとわずかを残すのみです。」

 それからナーグ・マハーシャヤが死去するまでの13日間、チャクラヴァルティは師に付き添いました。この間彼はナーグの枕もとで、バガバッド・ギーターやバーガヴァタム、ウパニシャッドなどの聖典を読み聞かせました。
 そして時折、母なる神の賛歌を歌いました。それらの歌を聴きながら、ナーグはしばしば感覚意識を失い、何時間も深いサマーディに没入しました。この恍惚状態から戻ると、彼は深い眠りからさめた子供のように、「お母さん! お母さん!」と叫びました。また時折、「サッチダーナンダ(純粋なる実在・意識・至福)!」「アカンダチャイタニヤ(絶対の意識)!」とつぶやくのでした。



つづく
(21)

  ナーグはあるとき、こう言いまいた。
「神は何と慈悲深く、親切なのでしょう! すべてが主の恩寵です!」 

 しかしチャクラヴァルティは、ナーグの苦しみを見て、心の中で、
「神は慈悲深いどころか、残酷である」
と思いました。
 
 すると彼の心を読んだナーグが、こう言いました。
「少年よ。神の無限の慈悲に対して、一瞬たりとも疑ってはなりません。いったいこのような身体の状態で、どのような奉仕ができましょう。ごらんなさい、今は寝たきりです。私はあなたの内なる神にさえ仕えることができません。だからシュリー・ラーマクリシュナが慈悲をもって、この私の卑しむべき肉体を、五つの構成要素に崩壊させるのです。」

 それからつぶやくようにこう言いました。
「肉体の面倒は肉体自身に見させておきなさい。悲惨と苦しみは、それら自身に任せておきなさい。おお心よ! あなたはそれらから離れて、自己の至福の中にあれ。」
 ――これは、ラーマクリシュナが死の病にかかった時に言った言葉でもありました。

 そしてさらにこのように言いました。
「この肉体を思い煩ってはいけません。どうか、この肉と骨でできた檻のことは考えないでください。母なる神の御名を思いなさい。シュリー・ラーマクリシュナのことを語りなさい。これらは世俗という病に対する唯一の薬なのです。」

 その後、チャクラヴァルティは、母なる神の歌を歌い始めました。彼は自分も周囲も忘れるほどの情熱をこめて歌いました。しばらくしてナーグを見た彼は、驚きました。そのころのナーグは、自分一人では寝返りを打つことも困難な状態だったにも関わらず、いつの間にか自分で起き上がり、ベッドの上に座法を組んで瞑想の姿勢を取っていたからです。彼の眼は眉間に固定され、涙が頬を伝わっていました。神の歌を聴きながら、ナーグはサマーディに入っていたのでした。
 チャクラヴァルティとナーグの妻は、そのような姿勢を取ることがナーグの神経に多大な緊張を強いるかもしれないと心配し、ナーグを再びベッドに横にならせました。ナーグは通常意識を取り戻し、聖母の名を呟いていました。


 チャクラヴァルティは、情熱をこめてナーグにお願いしました。
「師よ。どうかわたしにあなたの恩寵を惜しみなくお与えください。あなたのいない世界で、私はどうして暮らしていけましょう。私は誰に頼ればよいのでしょう。」

 ナーグは答えて言いました。
「何を恐れることがありましょう。あなたがシュリー・ラーマクリシュナの御足の下に避難したときに、彼の恩寵が惜しみなく与えられるであろうことはすでに保証されたのです。彼を望む者は、彼を実現するのです。」



つづく
(22)

 あるとき、ナーグ・マハーシャヤの状態が急変しました。彼はたいそう落着きを失って、無我夢中で何かを口走り始めました。そして突然、泣きながら、「おお、私をお救いください! お救いください!」と叫びました。ナーグの妻は、嘆き悲しみながら彼に言いました。
「最期の時に、いかなる迷いもあなたに触れることはできないだろう、とおっしゃったのは、あなたではありませんか。なぜあなたはそんなにも落ち着かなくなっているのですか。」
 その後半時間ほどして、ナーグの発作は治まりました。

 まるで生命に執着する普通の人のような、このときのナーグの発作について、ヴィヴェーカーナンダはこう言いました。
「彼が『おお、私をお救いください!』と声を出して泣いた真の理由は、だれにもわからないのである。」

 またギリシュも、この出来事に関連してこのように語りました。
「シュリー・ラーマクリシュナの身内の弟子たちは、誰も独存解脱は切望しない。たとえ彼らがそれを熱望したとしても、彼らはニルヴァーナ解脱を獲得することができない。なぜなら、主はダルマを保護するために、繰り返し、繰り返し、化身しなければならないからである。そしてまたシッダ・プルシャ、つまり彼の霊的な仲間もまた、人間の姿をとって幾度も彼とともに生まれ変わらなければならないのである。
 ナーグ・マハーシャヤは、世間に対していささかも魅力を感じてはいなかった。それだから、ほんのわずかなマーヤーの痕跡さえ持たず絶対自由であったこの偉大な魂が、彼の人生において、わずかな願望をこの世に留めておくことがなかったならば、主ご自身が再び人としてお生まれになられるときにどうしてご一緒することができよう! これが、ナーグ・マハーシャヤが再び人間の姿をとるために、わずかな願望を肉体に残した理由である。聖者の願望は主のリーラー、神の栄光の表出の増大のためだけなのである。」

 
つづく
(終)

  死の前夜、ベッドに目を閉じて横になっていたナーグは、突然目を開けて、せわしなくあたりを見渡すと、言いました。
「シュリー・ラーマクリシュナがここにやってきました。そして彼は、私に巡礼の地を見せよう、と語りました。」

 そしてナーグはチャクラヴァルティに言いました。
「さあ、聖地の名を唱えてください。私はその地を見るでしょう。」

 チャクラヴァルティは最近までハリドワール(ヒマラヤのふもとにある聖地)にいたので、「ハリドワール」と言いました。するとナーグ・マハーシャヤは興奮して大声で繰り返しました。
「ハリドワール! ハリドワール! ささやきながら、聖母ガンガーがヒマラヤ山脈から落下してくる! 岸辺と木々は、まるでその波とともに踊っているかのようです。それ、反対側にはチャンディ山が見えます。ああ、何と美しい沐浴のガートでしょう! 美しい階段、人々が次々に河床をめざします。少々お待ちください。私はここ20年間、沐浴しませんでした。私に聖なる水で沐浴させてください。そして私の生涯を祝福してください。
 おお、聖母ガンガーよ、堕落した人々の救世主であり、罪人の救済者よ!」
 こう言うと、ナーグ・マハーシャヤは深くサマーディに没入しました。彼がその超意識の状態から降りてくると、まさに今、真の沐浴を終えたかのように思われました。

 次にチャクラヴァルティはプラヤーガ(アラハバードにある、ガンガーとヤムナー河の合流点)の名前をあげました。するとナーグは、
「万歳、ヤムナー河! 万歳、ガンガー!」
と言って、深々とお辞儀をしました。そしてさらにナーグは言いました。
「バーラドヴァージャ仙の庵はどこにあるのですか? 私には見えません! ガンガーとヤムナー河の合流点は見えます。反対側には、山の連なりも見えます。ああ、タクール(ラーマクリシュナ)が、私にバーラドヴァージャの庵を隠しておいでです。」
 それからナーグはまどろみ、数分後、言いました。
「ああ、私は今それが見えます。」
 そして続けて言いました。
「おお、聖母よ、汝は素晴らしい王の中の王の配偶者です! ガンガーよ、汝は聖母ご自身が顕現した素晴らしい力です! どのようにして汝は、こんなに曲がりくねっているのですか。万歳、ラーマ! 万歳、ラーマ!」
 そして再びナーグはサマーディに没入しました。

 再び通常意識に戻ると、チャクラヴァルティは今度はベナレス(シヴァ神の聖地)の名をあげました。するとナーグは言いました。
「万歳、シヴァ! 宇宙の主に栄光あれ! ハラ、ハラ! ヴョーム、ヴョーム! このたびは私は、偉大なる主に溶け去るでしょう。」
 さらに続けて言いました。
「向こうに主の堂々とした寺院が立っている。プラサードがいただける至福の市場がある。」

 このようにして夜は更けていき、朝方の四時ごろになって、ナーグはやっと眠りにつきました。

 翌日の午前八時過ぎ、ナーグは絶えざる恍惚状態にありました。チャクラヴァルティが、ラーマクリシュナの名を唱え始めました。そしてラーマクリシュナの写真をナーグの眼の前に飾り、ナーグに言いました。
「あなたがその御名の下にすべてを放棄した師のお写真です。」

 ナーグはそれを見て、手を合わせると、弱弱しい声で言いました。
「恩寵、恩寵、あなたの無限の慈悲からあふれ出る恩寵……」

 ――これがナーグ・マハーシャヤの最後の言葉でした。


 午前九時ごろには、ナーグの体に、最期の兆候がさまざまにあらわれました。眼は赤みを帯び、唇は震え始めました。30分ほどすると、突然彼の眼は眉間に固定され、毛は逆立ち、眼は神聖な愛の涙で濡れました。
 10時5分過ぎ、ナーグ・マハーシャヤはマハー・サマーディに入り、この世から身を退きました。そのときでさえ彼の顔は光輝に輝き、半分開いた眼にはまだ神聖な愛の涙がありました。
 ナーグの妻の嘆きの声が、天を引き裂きました。ある信者が彼女に言いました。
「どうかお母さん、落ち着いてください。取り乱さないでください。われわれはあなたの息子であり、あなたのお世話をするために生きているのです。」

 彼の死の知らせが村中に広まると、聖者との最後のお別れのために、老若男女がいたるところから押し寄せてきました。村中の家という家から、嘆き悲しむ声が聞こえました。

 夜10時過ぎ、すべての儀式を終えたうえで、ナーグ・マハーシャヤの遺体は火葬されました。ラーマクリシュナの出家した弟子のひとりであるスワーミー・サラーダーナンダは、このたぐいまれな聖者に敬意を表して、燃える薪の前で、地面にひれ伏し続けました。



 終わり
久々に拝読しました。無言になります。合掌
∞ 如意牛 ∞ さん

ナーグ素晴らしいですよねぴかぴか(新しい)
謙虚になりたいですね晴れ

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

聖者の生涯&言葉&聖者について 更新情報

聖者の生涯&言葉&聖者についてのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング