彼に私の病気のことを話したのは、二週間前。
それまでも、発作や通院や薬、隠すことのできない色々で、彼は勘づいていただろうけれど、自分の口からきちんと説明しなくちゃ、とずっと思っていた。
発作が起こるたび「ごめんなさい」と謝る私を、彼はいつも困ったように見ていたから。
いざ話そうとすると言葉が出ず、つっかえながらぽつぽつと話した。
彼は一通り黙って聞いたあと、そっと手を伸ばし、
「頑張った。よく言えたな」
と、私の頭を撫でた。
本当は、怖くて仕方がなかった。
面倒くさいと思われたら？
理解出来ないと離れられたら？
治療法もなく、子どもも出来ないかもしれないと、知ってしまったら？
しばらく、二人とも何気ない風に過ごした。
あの日以来、病気の話はしていない。聞くのが怖かった。
泊まりがけで彼の家に行った朝。
彼は、布団で眠っている。
迷っていた。
さよならの手紙を、書こうかと。
ふと、
机の上、プリント類に隠れるように置かれている本を見つけた。
手にとるとそれは、私の病気についての本だった。
私の病気に関する部分にカバーが挟みこまれ、薬物治療、症状、対処法など、主要な部分にいくつもアンダーラインが引いてある。
彼の字で、小さな書き込みもあった。人混みで発作が起こったらどうすればいいか、周りと協力すべきセルフケアは何か・・・
開いたページが、濡れていた。
自分の涙だと気づくまで、しばらくかかった。
涙で文字が見えなくなる。私は声を上げて泣き出した。
しゃくり上げる声に気付いた彼が、びっくりしたように寝ぼけ眼をこすり起き上がる。
「なに？どうしたの？」
何も言えず泣き続ける私の膝に置かれている本を見て、彼は状況を把握したようだった。
そっと傍にきて、少し強く私を抱きしめる。
「・・・あのさ」
泣き止まない私に、彼は言う。
「俺、お前に謝られるたびに寂しかったんだよ。俺に出来ること何にもねぇんだなって。情けなくてさ」
涙は止まっていた。頬を濡らしたまま、彼を見上げる。彼は照れたように続けた。
「謝んなよ。俺にも一緒に頑張らせてくれよ」
止まった涙がまた、零れた。私はバカだ。そう、謝る代わりにこう言えば良かったんだ。
「ありがとう」
彼が照れて頭をかく。差し込んできた朝日の中、赤い目を見合わせて、二人で笑った。
それまでも、発作や通院や薬、隠すことのできない色々で、彼は勘づいていただろうけれど、自分の口からきちんと説明しなくちゃ、とずっと思っていた。
発作が起こるたび「ごめんなさい」と謝る私を、彼はいつも困ったように見ていたから。
いざ話そうとすると言葉が出ず、つっかえながらぽつぽつと話した。
彼は一通り黙って聞いたあと、そっと手を伸ばし、
「頑張った。よく言えたな」
と、私の頭を撫でた。
本当は、怖くて仕方がなかった。
面倒くさいと思われたら？
理解出来ないと離れられたら？
治療法もなく、子どもも出来ないかもしれないと、知ってしまったら？
しばらく、二人とも何気ない風に過ごした。
あの日以来、病気の話はしていない。聞くのが怖かった。
泊まりがけで彼の家に行った朝。
彼は、布団で眠っている。
迷っていた。
さよならの手紙を、書こうかと。
ふと、
机の上、プリント類に隠れるように置かれている本を見つけた。
手にとるとそれは、私の病気についての本だった。
私の病気に関する部分にカバーが挟みこまれ、薬物治療、症状、対処法など、主要な部分にいくつもアンダーラインが引いてある。
彼の字で、小さな書き込みもあった。人混みで発作が起こったらどうすればいいか、周りと協力すべきセルフケアは何か・・・
開いたページが、濡れていた。
自分の涙だと気づくまで、しばらくかかった。
涙で文字が見えなくなる。私は声を上げて泣き出した。
しゃくり上げる声に気付いた彼が、びっくりしたように寝ぼけ眼をこすり起き上がる。
「なに？どうしたの？」
何も言えず泣き続ける私の膝に置かれている本を見て、彼は状況を把握したようだった。
そっと傍にきて、少し強く私を抱きしめる。
「・・・あのさ」
泣き止まない私に、彼は言う。
「俺、お前に謝られるたびに寂しかったんだよ。俺に出来ること何にもねぇんだなって。情けなくてさ」
涙は止まっていた。頬を濡らしたまま、彼を見上げる。彼は照れたように続けた。
「謝んなよ。俺にも一緒に頑張らせてくれよ」
止まった涙がまた、零れた。私はバカだ。そう、謝る代わりにこう言えば良かったんだ。
「ありがとう」
彼が照れて頭をかく。差し込んできた朝日の中、赤い目を見合わせて、二人で笑った。
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