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小説置き場(レイラの巣)コミュの【神話夜行シリーズスピンアウト】神話夜行(千葉編)第2話〔前編〕

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 お久しぶりの登場です。どうもリバーストーンです。
 この作品は【神話夜行シリーズスピンアウト】GODHUNTERの続編です。
 原作、前回の予備知識がなくても楽しめるように出来ておりますが、今までの設定や話が気になった方は原作と第1話をお読み頂けると更に楽しめます!^^

原作、神話夜行はこちらから↓
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=40698768&comm_id=3656165

本編の第1話はこちらから↓
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=44278760&comm_id=3656165

今作は少し長めなので、前編、後編と分けさせて頂きました。
ちなみに上のイラストは主人公のファイと雪人のイメージイラストです。
想像力の支えになって頂けると幸いです。

《注意》
 この作品はレイラ・アズナブルさんの『神話夜行シリーズ』の設定をお借りして書いた、二次創作物となっております。

 この作品の投稿に際して、原作者のレイラ・アズナブルさんの許可を頂いておりますが、二次創作物が駄目な方や、原作のイメージを損ないたくない方が閲覧すると気分を害する恐れがあります。

*************************************************************************

 ―――何かおかしい。
 夕方の高校の校舎の中にある二階の渡り廊下に足を踏み入れた途端、ここの生徒である藍沢琴乃は妙な感覚に襲われた。

 なぜだろう、やけに静か過ぎる。
 手元の腕時計をちらりと見た。現在六時四十分。大抵ほとんどの生徒は部活動に行ったか、あるいは下校している時間帯だ。教師を含めて校内にはまだ何人か残っていてもおかしくはないはずなのだが、その気配すらまるっきり感じ取れない。

(この感じ、違和感? いや、これは違和感というより、むしろ)
 ――――異質。
 そう、まさに異質だった。何かがこの場所にいる自分を疎外しようとしているような異空間。

 古い建物が増築されて新しい建物とくっついたその境目みたいに、そこだけの地点を切り取られて別物にすげ替えられた不可思議に感じる拒絶反応。
 見慣れた校舎なのに、まるで樹海に迷いこんだ気分だ。
 あまりの不気味さに手がじっとりと汗をかく。

(でも、渡さなきゃ。年に一度の公に告白できるチャンスなんだもの)
 手さげのバックを抱え、琴乃は渡り廊下を突き進む。
 本日は二月十四日。公に告白できる絶好の機会なのだ。この中に入っているチョコを渡すまでは絶対に帰れない。

 琴乃の憧れの先輩、三年の風花(かざはな)先輩は女子にとても人気が高い。もちろんチョコ渡しも戦争で机の中にチョコの先置きは当たり前、廊下で待ち伏せている子もたくさんいる。スタンダードに下駄箱の中に入れておく子もいたけど、次にチョコを入れようとした子が前に入っていたチョコを捨ててしまう可能性が非常に高い。
 散々悩み、次の手を思案しているうちに、気がついたらいつの間にか夕方の時間になってしまっていた。

『下校時に校門で待っていれば、きっと顔を合わせられる』
 最終手段で待ち伏せの覚悟を決めた琴乃は、下校時間から一時間程粘ったが、目当ての張本人がなかなか姿を現さない。不安にかられ、ついに待ちきれなくなった琴乃は再び校舎に入り、今こうして先輩を探しているというわけだ。
 探し始めてもう十分。未だに先輩は見つからない。

(おかしいなぁ)
 もしかして、すでに帰ってしまったのだろうか? 最悪のすれ違いを想像して琴乃は首を左右に振って、妄想を払いのけた。ふと視線が天井や壁に移る。

(ううっ)
 それにしても、夕方の校舎はどうしてこんなにも薄気味悪いのだろう。廊下の染みのある壁やひび割れたタイルが仄暗いせいか、いつもより古びて朽ち果てて見え、建物全体を廃墟に変貌させている気がした。
 早くここから抜け出したい。
 そう琴乃が思っていた時、

「藍沢さん? こんな時間に何をしているの?」
 落ち着いた女性の声が自分の背後から聞こえてきた。後ろを振り向くと、そこには清楚な空気が漂う髪の長い女子生徒が立っていた。

「こ、紅月(こうづき)先輩」
 三年生で生徒会長をしている紅月沙夜先輩だった。
 思わぬ登場人物に、琴乃はどぎまぎする。
 腰まで伸びている黒髪の艶やかなロングヘアに、長いまつ毛を持つ二重目蓋の瞳、それに人形のようにきれいな白い柔肌。加えて高校生とは思えない成熟したプロポーションと大人びた雰囲気が、彼女を少女というより淑女と言った方がピッタリな感じに仕立て上げている。
 時々女性の自分でさえ、うっとりしてしまうほど、その美貌はとてもなまめかしい。

 容姿、性格、成績、運動神経、どれを取っても引け目のない完璧な人柄は、同じ生徒会で仕事をしている琴乃はもちろんのこと、学校の生徒全員の憧れの存在で、色んな意味で彼女は有名だった。ある噂に関しても。

「もう下校時間は過ぎているから、早く帰りなさい。それとも何か忘れ物?」
 ゆっくりと話しながら歩み寄る沙夜に、琴乃は戸惑う。正直なことを言うべきなのか、少々迷ったあげく、しどろもどろで琴乃は答えた。
「あの、・・その風花先輩を探していて」
「風花君を?」
「はい、紅月先輩は確か同じクラスですよね? ご存知ありませんか?」
「そうね、多分もう帰る準備をして玄関に向かったと思うけど、一緒に行く? 私も見回りの最中だったから」
「はい」
 少し彼女の台詞に引っかかるものを覚えたが、琴乃は素直に頷いた。やや緊張気味に沙夜の横に並んで歩く。

(優しい先輩だなぁ)
 琴乃は彼女の横顔を眺めて尊敬をしつつも、同時に沙夜が手に届かない遙か遠い目標に感じた。こんな人と釣り合う人間になんてとてもなれない、と思ってしまう程に。

(やっぱりあの噂は本当なのかな?)
かすかに覚えた疑問の芽に、琴乃は息が詰まりそうになる。
もし、事実だとしたら自分にはまるっきり勝ち目がない。むしろ、完璧である彼女こそが相応しいと思ってしまう。だから本人にこんな事を直接聞くのは無礼を承知だったが、どうしても確認しておきたかった。

「先輩」
 足を止めて、琴乃は沙夜に向き直る。
「ん? 何?」
「えと、ちょっと訊きたいことがあるんですけど、気分悪くしないで下さいね」
「なに、改まってどうしたの?」
 琴乃の大げさな必要以上の真剣な面持ちに、沙夜は少し可笑しそうに笑う。なるべく彼女に悟られないように、琴乃は大きく息を吸って呼吸を整えた。意を決して口を開く。

「あの、・・・紅月先輩と風花先輩が付き合っているって話、本当なんですか?」
 学校では二人でよく話しているのを見かけるし、結構一緒に行動しているのも知っている。両方とも文句のつけ様のないほど、綺麗な顔立ちをしているし、何より互いに並んでいる姿はとても絵になっていた。自分じゃ紅月先輩には適わないのは、わかっている。だからこそ、はっきりと今ここで二人の関係を知っておかなければならない。自分の気持ちがすべて無意味に散ってしまうその前に。

 琴乃は返ってくる答えを待ちつつ、震える手で袋を握る。
 沙夜は突然尋ねられた質問に、少々あっけにとられていたが、彼女の両手にぶら下がっている袋の中から、ラッピングされたハート型の形の品物を見て、納得したように頷くと、口元に右手を当てて上品に微笑んだ。

「安心して。私と彼はそんな関係じゃないから、恋敵にはならないわよ。そのチョコ受け取ってもらえると良いわね」
 沙夜の優しい笑顔に琴乃は、噂の誤解が解けた安堵と、自分の心情を察してくれた先輩の心遣いに感動し、泣き笑いの表情を浮かべた。琴乃の頭にそっと沙夜の手が添えられ、彼女の頭を優しく撫でる。まるで妹のように自分の頭を撫でてくれた沙夜に、琴乃は指で涙を拭いつつ「ハイ」と小さく答えた。勇気付けられた嬉しい気持ちが心一杯に広がる。

(これで風花先輩に伝えられる。ちゃんとした私の想いを)
 琴乃はようやく涙を止めて、エールを送ってくれた沙夜に笑顔を返した。落ち着きを取り戻した琴乃にほっとしたのか、沙夜は彼女の頭から自分の手を離すと、思い出したように琴乃に語りかける。

「そういえば、藍沢さんは知ってるかしら?」
「え、何をですか?」
「恋ってね。男女問わず人間が持つ生命エネルギーで最大限の力を発揮する感情なのよ」
 いきなり沙夜の口から出てきた哲学的な言葉には、胸を動かされるような不思議な神秘さが秘められていた。確認するように琴乃は聞いた単語を復唱する。

「生命エネルギー・・・ですか?」
「ええ、想いが強ければ強いほど、とんでもない力を持つ呪いにもなるの。時には神の力をも破る呪いにね」
 彼女が言い終えた時、突然、強烈な高音と共に琴乃の視界が波打って歪んだ。

(え? 何これ?)
 今まで体験した事のない不快感に琴乃は平衡感覚を失い、崩れるように倒れこむ。全身の力が抜けていき、倦怠感と睡魔が琴乃の体を覆った。誰かに口を塞がれているみたいに声を出す事も出来ない。
いきなり倒れた琴乃を目の前にして、沙夜は動揺するどころか平静に彼女に近づき、様子を眺めるような目付きでじっとこちらを見下ろしていた。

「ごめんなさい、藍沢さん。本当はこんな事したくないの」
 どこか悲しげな声が琴乃の耳に届く。
(・・・紅・・・月先輩?)
 重い目蓋をこらえて、琴乃は沙夜の姿を見続ける。しかし、瞳孔に映る映像はもう彼女の表情をまともに捉えきれない。命令を聞かない体はあっさりと沙夜に上半身を起こすように抱き上げられ、肩に手を回された。
そして、ゆっくりとしっとり濡れた唇が自分の顔元に吸い寄せられていく。

(いやだ、・・・・怖い)
 なぜそう思ったのか、自分でもわからない。ただ、思考からではなく、本能からくる恐怖が全身に駆け巡りって琴乃に警笛を鳴らし続ける。

(・・・・助けて、風花先輩! 風花先輩っ!)
 最後に力を振り絞って見た琴乃の景色。
 それは、沙夜が大きく口を開けて牙のような大きな犬歯を自分に覗かせている光景だった。
 そして瞳を閉じる刹那、沙夜の鋭い歯が琴乃の首筋に目掛けて突き立てられた。

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