ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

‐HOUND‐コミュのハウンド―10―

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
薄明かりの下で煌々と光を放つのはパソコンの画面。
画像が流れるように入れ替わり、驚くべき速さでキーが撃ち込まれる。

「よし…蛟、喜んでくれるかな」

うれしそうに微笑むのは、メグ。







「たっだいまー!」

ご機嫌な蛟(みずち)が玄関のドアを開けば何やら家の中は騒がしい様子。

「何や?出所祝いのパーティか?」

しかし、駆け回るアキラたちのその表情はとてつもなく険しい。

「…どないしたんや?」

「メグがいないんだ!」

銀牙が蛟に気づき、事態を伝える。

「私、外探してくる!」

事情を説明する間もなく、アキラは玄関から飛び出して行ってしまった。

「何や?メグがおらんってどういうことやねん」

「起きてきたらもう家の中にはいなかった」

「引きこもりのメグが自分で出ていく筈がないよ!」

銀牙の言い方も問題だが、確かにメグは引きこもりがちだった。
データ収集がメグの主たる仕事であるが故、メグが外出することはほとんどない。
趣味のぬいぐるみも、ゴスロリチックな衣服もすべてネットで買っている。
それでも外出が必要な事態には必ず誰かがともにいるのだ。
メグが一人で外出したなど、とても信じられることではなかった。

「とりあえず、俺も外に探しに出る。ヒロはメグが帰ってきた時に備えて家に待機、ついでにメグのパソコンからなんかないか出来る限りでええからチェックしといてや」

「分かった」

「銀はにおいでメグを追うんや」

「うん」

蛟は荷物を放り出して、外へと走っていく。そして、銀牙もそれに続く。




一方、メグは都内にいた。

「…」

小さなバッグを抱きしめるように持ち、おどおどと人の合間を縫っていく。
きょろきょろとあたりを見回しては、不安げな表情のまま歩みを進めていた。

「お店…どこ?」

メグはある店を探していた。
ネットで注文し、口座引き落としで支払いは済ませていたのだが、なぜが配送だけ取り扱っていないという特殊な店。
ある理由で誰にも取りに行って欲しいと頼めなかったメグは勇気を振り絞って家を飛び出したのだった。
しかし、一人での外出はもちろん初めて。
しかも初めての場所とあって、土地勘もなく、メグは明かに迷子であった。
人混みを避けるうちにだんだんと狭い路地へと迷い込んで行く。
確かに人は少なくなるが、すれ違う人の視線に徐々に不快感を覚えるようになる。
メグは不安に泣き出しそうになりながらも足早に歩みを進めた。
角を曲がった瞬間、メグは何か大きなものにぶつかった。

「あっ!」

駆け足だったメグはその勢いで尻もちをついてしまった。

「いた…」

「大丈夫かお嬢さん、怪我はないか?」

低いが優しい声が聞こえた。
メグが声のするほうへと視線を向けるとそこには一人の男が。

「…お侍さん」

黒髪の長髪を一括りに結いあげ、柳煤竹色の着物を着た男。腰には日本刀。

「如何にも。我が名は鐡(くろがね)。お譲さんは?」

「…メグ」

メグは訝しげな視線を送っているが、鐡はまったくもって気にしていないようだった。

「可愛らしいお嬢さんがこのような不逞の輩の多い通りで何をしていたんだ?」

「あの…メグは…」

鐡はずい、とメグの目の前に顔をよせ問いかける。

「そうか、分かったぞ。悪人に追われているのだな」

「え?」

「なに、心配は無用。某が守ってやろう」

メグは何が何だか分からなかった。メグはまだ何も言っていないのに、鐡は勝手に話を進めていく。

「長居は無用だな。一刻も早くここを離れよう。この先に某の相棒がいる。そちらに合流するとしよう」

鐡はメグの腕を掴むと、ぐいぐいと引いて行く。

「え…あの…」

「案ずるな。某も相棒もとてつもなく強いぞ」

メグの話を全く聞こうとしていなかった。
メグの手を引いたまま鐡は路地を抜けて、広いところへと出た。

「Hey!鐡、遅かったじゃん」

公園のベンチに横たわった赤い髪の男が言った。

「起きたか、パイロ」

パイロと呼ばれたその男はゆっくりと起き上がり、真っ赤なベリーショートヘアの上にカウボーイハットを乗せた。
ぱちり、と瞬きをした時、メグとパイロの視線がカチあった。
色白い肌にまっすぐに通った鼻筋、そして光を吸い込むようなグレイの瞳がパイロがこの国の生まれでないことを示していた。
メグは思わず、鐡の影に隠れる。

「このちっせぇ人形は何処から拾ってきたんだよ」

「何者か悪人に追われているらしい。一人で路地をさまよっていた」

「マジかよ、そりゃヒーローが必要だな!」

パイロは嬉しそうに笑い、メグの頭に手を乗せる。

「あの、メグは…」

声の大きなパイロにメグは委縮してしまい、言葉が続かない。

「But…なんでアンタみてぇなチビッ子が一人なんだ?マムかダッドは一緒じゃねぇのか」

「…メグ、プレゼント買いに来たの」

「プレゼント?」

「…内緒で」

ぼそり、ぼそりと言葉を紡ぐメグにパイロも鐡も耳をメグへと近づける。
それに戸惑い、メグの声はさらに小さくなっていった。

「メガネ…屋さん…探して…」

「眼鏡?…ほう、誰ぞに眼鏡を贈ろうと」

「一人で飛び出してきたってか」

「それで何ぞ事件に巻き込まれたか」

鐡の勘違いが続いているが、メグが必死に話してもまったく気づいていないようだった。

「とにかく!そのメガネ屋ってのを探してやらぁいいんだな!」

「第一目的を果たした後にメグ、貴殿の周りの害悪を打ち払ってやろう」

「あの…だから…」

「地図なんぞは持っているか?」

「え?…あ…地図…」

メグは小さなポケットから折りたたんだ地図と言われるままにとりだす。
大きな勘違いを否定することを忘れて。

「ふむ、すぐ近くのようだ」

ひとしきり地図を回転させて、周囲と比べて見た後に鐡はそう言った。

「分かるの?」

ずっと不安げだったメグの顔に期待の色が浮かぶ。

「鐡はこの近くの生まれだからな。ちなみに俺はテキサス」

「てきさす?」

「アメリカだ」

才あるハッカーであっても引きこもりがちのメグの知識はかなり偏っているのだった。

「うむ、案内しよう。共にいれば危険も少ない」

目的地の発見という喜びにもうメグの頭の中には鐡の勘違いを訂正するという思考はすっかりなくなっていた。
パイロから差し出された手に迷いもなく手を伸ばし、しっかりと手を繋いで鐡の後に続いて行く。







一方、メグのにおいを追って都内までやってきたアキラ、蛟、銀牙の3人だったが。
駅前でぴたり、と銀牙の歩みが止まった。

「どないしたん?」

険しい表情であたりを見回している銀牙に苛立つアキラを横目に蛟が問いかける。

「無理」

「は!?」

アキラの声には間違いなく怒気がこもっていた。
思わず、銀牙はびくりと肩を震わせる。

「ひ、人が多すぎてメグのにおいが分かんないんだよ。食べ物とか香水のにおいがごっちゃになってて…」

「もういい!自分で探す!」

「あ、おい待てアキラ!コラ…」

アキラは蛟と銀牙を置いて、一人駈け出してしまった。

「なんでアキラあんなにキレてんだよ…」

眉をハの字にして、しゅんとした銀牙がぼそりとつぶやいた。

「あの二人はホンマに仲ええからなぁ」

誰も理由は分からない。蛟にとっては娘みたいな年だし、ほかの3人にとってもメグは妹みたいな存在だ。
でも、メグはアキラとしか一緒に眠らない。
誰もその理由を尋ねたことはないけれど、必ず二人は同じベッドで眠るのだ。

「とりあえず、銀はそのままにおい探してな」

「…分かった。頑張る」

「見つけたら俺とアキラに電話な」

そう言って、蛟はアキラと逆方向へと駆けて行った。

「メグ…どこに行っちゃったんだろう…?」

銀牙はため息と同時に肩を落とした。






「こりゃみつからねぇよな」

パイロはため息を吐いて、帽子に手を当てる。

「こんな小さな店ならば、分からずとも無理はない」

メグの目的の店はせまい路地の中でさらにせまい階段を下った先の小さな店だった。
メグはとうに店の中へ駆け込んでしまっていた。
あまりに小さなその店に、鐡とパイロは入ることをやめたのだった。
数分もしないうちにメグがうれしそうに小さな紙袋を持って現れた。

「これで、用事は済んだな」

「うん…ありがと…」

メグは小さな声ながらもうれしそうに二人に笑みを見せた。

「よーし!そしたら、俺らが面白いところへ連れてってやるよ」

「面白い…ところ?」

パイロはひょい、とメグを抱き上げ、鐡もただ笑みを浮かべ歩むばかり。
メグが理解する間もなくあっという間に連れて行かれるばかりだった。












続く。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

‐HOUND‐ 更新情報

‐HOUND‐のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング