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‐HOUND‐コミュのハウンド―17―

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僕は一人取り残されていた。
現在進行形の犯罪現場の中で、自分より年若い女の子が危険の中に飛び込んでいくのを見送ってしまった。
僕に出来ることはなんだ。
拳銃を持った男と、無機物を引き寄せる力を持ったニューマンの男、僕の手には武器はなにもない。この状況では警察手帳は弱点だ。
僕に何が出来る。



音もなく、待合席の合間を抜けていくアキラちゃん。
不安げな視線が彼女に集まる。
アキラちゃんは小柄の体を上手に使って、待合席の灰色のソファの影に身を隠す。
その動きに無駄はない。まるで映画のスパイみたいだ。
強盗の二人はどうやら拳銃の持ち主を探すのを諦めたみたいだ。銀行員に拳銃を向け、作業を急がせている。
アキラちゃんはもう待合席を抜け、申込用紙記入用の小さなテーブルの前まで迫っていた。
どうするつもりなんだろう。
一人は拳銃を持っていて、もう一人はニューマンだ。
いくらアキラちゃんだってニューマンだと言っても、彼女の能力は目が良いと言うだけのもの。とても実践に役立つ能力だとは思えない。
いくら不意を突いて仕掛けるとはいえ、アキラちゃんのあの自信はなんだ。
傷だらけのあの体で、あんな小さな少女の体で大の男二人相手に挑んでいくあの自信はどこからやってくるんだ。


アキラは強盗の二人の様子を窺っていた。

「さて」

どっちを先に倒す?
的確な位置に攻撃すれば、一撃で相手を戦闘不能にすることは可能だ。
そして、アキラはその術を知っている。
拳銃を持つ男を先に落とすか、ニューマンの男は無機物を引き寄せられるだけの筈だ。
否、ニューマンの男の元には自分が持っていたポケットモデルがまだある。
流石のアキラも一度目の攻撃から次へと移るには距離も時間もかかる。
その持ち主の存在を認識している二人にとって反撃は少なくとも頭にある筈だ。
拳銃を持っている男を背後から襲うということは、ニューマンの男視界に入ってから、男に攻撃を仕掛けるまでの時間はかなりある。
じゃあ反対にニューマンの男から仕掛けるか。
銃撃されることが分かっていれば、引き金を引く瞬間は目で捉えられる。
最初の一撃を避けることくらいは可能だ。
ニューマンの男を倒し、一発の銃弾を避け、もう一人の男を倒す。
ポケットモデルを手にすることが出来ればもっと早く反撃も可能だ。

「よし、じゃあデカい方から行こうかな」

標的決定。






小さなテーブルの影に身を隠す。
ニューマンの男の巨体のお陰で拳銃を持つ男からもアキラの姿は見えていないようだ。
そして、二人の間には集められた武器になり得るものが積み上げられている。
その中に、アキラはポケットモデルを見つけた。
男たちの視線は窓口の銀行員に向けられている。
上体を屈めたまま男たちとの距離を一気に詰め、ニューマンの男の背後で強く踏切飛び上がった。

「!」

アキラが空中で足を振り上げた瞬間、拳銃を持つ男がアキラの姿に気付いたようだった。
しかし、時すでに遅し、アキラは振り上げた足をまっすぐニューマンの男の首筋に叩きつけた。

「いったっ!」

ニューマンの男はその勢いで窓口に頭をぶつけ、そのまま倒れた。
しかし、アキラも足に走った激痛に顔を歪め、床へと落下した。

「しまっ…」

痛みに意識を奪われ、予想していた銃撃に対する反応に遅れたアキラだったが、
すぐに体の異変にも気付いた。

「体が…」

自らの意思に逆らい、アキラはゆっくりと立ち上がる。
両手両足、そして首や腰など、糸で釣られているような感覚。
体が自由に動かないのだ。

「アンタがその銃の持ち主だな」

さっきまで拳銃を持っていた男が、もう片方の手をアキラに向けている。
そして、その指がわずかに動いたかと思うと、アキラの体が動き出し、武器になり得るものの中からポケットモデルを拾い上げた。

「アンタもニューマンだったって訳」

「あぁ、そうだ。俺の能力はまぁ、操り人形みたいなもんだ。一度に一人しか操れねぇけどな」

「つまり、そこのデカいヤツもアンタの操り人形だったって訳?」

「あぁ、佐久間の野郎は肝っ玉の小っせぇ野郎でよう、しょうがねぇから使ってやったんだよ」

ポケットモデルを手にしたアキラの右手はその意思に逆らいゆっくりと銃口をその頭へと向ける。

「っ…」

「まさかこんな若いお譲ちゃんだとはなぁ、バウンティハンターだろ?アンタ」

「だったら、そんなに余裕で大丈夫なの?」

「銃なんて持ち歩いてるハンターは攻撃系じゃねぇからな」

「お見通しってこと」

男は余裕の笑みを漏らした。

「アンタには見せしめになってもらう」

指がゆっくりと引き金にかけられる。

「あ…」

アキラが口を開く。

「アンタに出来ることは何!!」

「?」

男は疑問を覚え、ふと動きが止まった。

「力のないヤツが!力を持つヤツを倒す方法は!」

「何言ってんだこのガキ…」

男は再びアキラに向けて指を動かそうとしたその時、

「ぬぁっ!」

男の体がくの字に曲がり、そのまま床に倒れこんだ。
牧瀬が男にタックルを喰らわせたのだった。
体の自由を確認したアキラは即座に銃口を男に向け、引き金を引いた。

「痛ってぇ!!」

銃弾は男の左肩に命中し、男は苦痛に呻き苦しむ。
アキラは間髪入れず、男の頭に銃口を向けた。

「マキちゃん、通報」

「わ、分かった」

牧瀬は窓口から身を乗り出して、茫然としている銀行員の手元にあった通報ボタンを押した。






「やれば出来るじゃん」

警察が到着し、二人の男を連行していった。
救急車にて包帯を巻きなおしてもらっていたアキラを見舞いに来た牧瀬にアキラは言葉をかけた。

「僕がすぐ近くに来てたこと分かってたんだね」

「まぁ、そのためにあんなことも言ったんだからさ」

「僕が動いてなかったらどうするつもりだったんだよ」

「いやぁ、動かないことないでしょ。マキちゃんだし」

アキラはけらけらと笑い、そして痛みにわずかに表情を歪めたのだった。
牧瀬は思った。
笑えば普通の女の子なのに、と。

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