ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

‐HOUND‐コミュのハウンド―12―

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
「おはようさん」

「おはよう、蛟」

「珍しく早いな、メグ」

「うん、アキラが早起きだったから」

朝、9時。
この時間で早起きというのは一般常識から些かずれているような気もするが、極端なフレックスタイムよろしく彼らには定時勤務というものが無い為、起床から就寝までは無論自由だ。
と言っても夜眠れば朝に目が覚めるというのが人間の体と言うもので、それなりに人間らしい生活を送っている。

「なんや、アキラもう出かけたんか」

「うん、デートだって」

「ふーん…」

他愛のない会話であり、返答だって特に意味のないものだと蛟は思っていたが、
脳が活性化していくにつれて徐々に回転速度を上げていく。
すると、メグの言葉の意味を正確に理解したと思われるあたりからわなわなと震えだした。

「アキラがデート!?そんなん、お父ちゃん初耳やで!」

「るりちゃんとだって」

再び、蛟の思考回路がフリーズしたのかきょとん、としている。
だが、次の瞬間にはへなり、と眉を垂らして安堵のため息を零した。

「…なんや、瑠璃ちゃんとか」

「うん、うれしそうだったよ。アキラ」

「つーか、いつから蛟は父親になったんだ」

自分たち以外の声に蛟とメグは反応して視線を向ける。

「あ、おはよう、ヒロ」

「おはようさん」

「はよ」







一方、アキラと瑠璃は街中でブランチと洒落こんでいた。

「なんか、アキラちゃんと二人で出掛けるのって久しぶりだね」

「そうだねー。瑠璃ちゃんなんかずっと忙しそうだったからさ」

「そういうアキラちゃんたちだって、いくつも事件解決して、お手柄じゃない」

「別に割の良い仕事なんかじゃないよ、いつ食いっぱぐれてもおかしくないんだからさ。あたしらなんて」

セットのサラダにフォークを突きたてながらアキラはため息を零した。

「でも、アキラちゃんたちが私たちの安全を守ってくれてると思うと、頼もしいよ」

「そう?」

瑠璃はまだ湯気の立つパンケーキを口に運びながら微笑んだ。
アキラは別にそんなつもりがあるわけではない。
バウンティハンターになるしか道がなかったからバウンティハンターになった。
犯罪者を狩らねば生きていけないから彼らを追う。
それだけなのだ。
普段ならばはねのけるそんな言葉も瑠璃の屈託のない笑みには何故かそんな気になれなかった。
アキラが瑠璃に心を許しているのはそんな理由からかもしれない。
瑠璃はまさに純真という言葉が似合う人だった。
少女と呼ぶのは年相応でなく、しかし女性と呼ぶには到底見合わない容姿。
そして知識はあれど世間知らずな無垢な彼女。
仕事にまじめだが、検視官なのに未だ変死体になれない彼女。
見ていて飽きないと言えば失礼だが、驚きと発見の絶えない人だった。

「でさ、最近どうなのよ?瑠璃ちゃん」

「へ?」

意味深な笑みを浮かべて問いかけるアキラに瑠璃はきょとん、としている。

「お、と、こ」

「なっ!そんな藤美先輩みたいな言い方…」

「だって、瑠璃ちゃんに男が出来たみたいだって、フジコちゃんがさ…」









遡ること一週間前。

アキラが事件の情報を求めて検視局に訪れていた時だった。

「最近瑠璃ちゃんの様子がおかしいのよ」

「へ?おかしい?」

「て、言っても、悪い意味じゃないわよ」

「じゃ、何よ?」

「そんなの、決まってるじゃない。男よ男」

「男?瑠璃ちゃんに?まさかぁ」

「あら、あの子だって年頃なんだから。良い人の一人や二人」

「一人や二人って…私はフジコちゃんの遍歴が気になるよ」

「私のことはいいのよ。でもあの子、馬鹿みたいに純だから、ちょっと心配なのよ」

「…確かに。蛟に惚れてた時点で何か間違ってる気がする」

どうみても女遊びの激しそうな蛟に恋心を抱く地点で現実的ではないとアキラは思った。

「悪い男に引っかかってなければいいんだけどね、あの子私には委縮しちゃってあんまりそんな話しないから」

「で、私に聞いて来いと」

「後で報告してね」

うふ、と色っぽい笑みを浮かべた理子にアキラは苦笑いでうなずくしか出来なかった。







「…って」

「藤美先輩ってばまたそんなことを言って…」

「で、どうなのよ?気になる人でもいんの?」

「そそ、そんなこと…」

「あるんでしょ?」

「…っ」

「ねぇ?」

瑠璃は顔を真っ赤にして俯いてしまう。

「み、蛟さんには言わないでもらいたいんだけど…」

「あー、言わない言わない」

言ったところで蛟は丸っきり瑠璃に対して色目というものを持ち合わせていないため、なんら問題はないだろうが、その点は瑠璃には非常に大事らしい。

「実はね、ちょっと不思議なことがあったの」

「不思議なこと?」

「その人は狭山さんって言うんだけどね。先月アパートの隣の部屋に越してきたの」

「うんうん」

「でも、その前の日に私、狭山さんが越してきて、ウチに挨拶に来る夢を見たの」

「夢?」

「うん、そう。それがね、狭山さんが来た時間ももらった物も言葉も、丸っきり夢と同じだったの」

「つまり、正夢?」

「そうなの。でもそれだけじゃなくてね、狭山さんが引っ越してきてから何度か狭山さんの夢を見るようになって…それも全部正夢になるの」

「例えば?」

「エレベーターで一緒になったり、近くのコンビニで鉢合わせしたり、ベランダに出たら偶然洗濯物干してたり、最近はいろいろお話するようになって、その会話の内容も夢で見たのと全部一緒なの」

「…で、ちょっと運命的なものを感じてるって訳?」

「だって、普通ありえないよ。こんなに何回も正夢見るなんて」

「なるほど…」

一昔前の少女漫画の主人公張りに“運命”という言葉に目を輝かせている。
今時本気で白馬の王子様に恋するような人だから、アキラは一抹の不安を覚えた。

「でさ、狭山さんってどんな人なの?」

「とっても優しい人でね、お父さんの仕事のお手伝いをしてるらしいの」

「とっても優しい人、ね」

「アキラちゃん?どうしたの?」

うれしそうに話す瑠璃とは反対にアキラの眉間にはわずかに皺が寄る。

「ねぇ、その人の写真とかないの?なるべく映りの良いヤツ」

「写真?…あ、この間ご飯に連れてってもらったときに撮ったヤツが多分携帯に…」

瑠璃がかばんの中から端末を取り出す。
確かに、偶然映りこんだような画像だったが、カメラの性能のお陰か顔ははっきりと分かった。
アキラの瞳が緑色に光り、その写真を見つめる。

「アキラちゃん?」

「これ、私んとこ送ってくれる?」

「い、いいけど」

「あと、この男が金に困ってるって言われても渡しちゃ駄目だからね。たとえ、どんな夢を見たとしても」

「ねぇ、アキラちゃん、何の話をしてるの?狭山さんが一体…」

「今はまだ、可能性だけだから断言出来ないけど、この男、指名手配犯かもしれない」

「えっ!?」

「帰って手配書と照合してみなきゃ分かんないけどね」

「そんな…」

「気づいたって分かれば向こうは何してくるか分かんないから、瑠璃ちゃん、気をつけてね」

運命の王子様だと思ってた人が指名手配犯である可能性が出たのだ。
瑠璃は顔面蒼白である。
まぁ、蛟のことを気にかけていたくらいだからそこまで落ち込むこともないだろうが。








「ここ、もうちょっと上げてみてくれる?」

「あれ、アキラ何してんの?」

メグと二人でパソコンの前で作業をしているアキラに銀牙が目を止めた。

「ちょっと復元作業中」

「復元?」

「そう。あ、あともうちょっと顎のラインを丸く」

銀牙が画面を覗き込むと一人の男の顔がそこにあった。

「誰これ?」

「指名手配犯、かもしれない。顔をいじった痕がいくつもあったからさ、ちょっと直してるの」

「そんなんまで分かるの?」

「勿論、整形合成どんと来いよ。私の目はごまかせないっての」

広げたり縮めたり、削ったり足したり、そんなこんなをしばらく続けていくうちにアキラがぴたり、と止まった。

「完成?」

「うん、やっぱり間違いないね」

「で、誰なの?」

「瑠璃ちゃんを騙そうとしてる詐欺師だよ。狭山って名乗ってるみたいだけど、本名は仁野悠。結婚詐欺師の常習犯だ。話聞いててもしかして、って思ったんだ」

「結婚詐欺?」

「そ。騙された女たちはみんなソイツに関わる正夢を見る。夢見るレディたちにあるはずのない運命の赤い糸を錯覚させて金を差し出させる。騙されたことに気づかない女たちはたとえ仁野が消えたとしても、騙されたとは思わない」

「じゃあ、なんで手配されてんの?」

「被害者の家族、友達が仁野の存在を怪しんでね、何件か訴えを起こしてる。でも、顔も名前も変えてるし、本人からの訴えも証言も一切ないから捕まらないのが現状なの」

「へぇ…いくら?」

「500」

「500万!詐欺師程度で!?」

「実際の被害額はその何十倍って話だよ」

「結婚詐欺で億…」

「それだけ女の子は“運命”って言葉に弱いってこと」

アキラはため息を零す。

「捕まえんの?」

「当たり前でしょ。瑠璃ちゃんに害を為す男は私が排除する」

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

‐HOUND‐ 更新情報

‐HOUND‐のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング